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[ サスペンス ] 無名戦士の神話 |
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マイケル・バー=ゾウハー | 出版月: 1988年10月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1988年10月 |
No.1 | 8点 | Tetchy | 2014/06/05 21:45 |
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1984年5月28日、アーリントン国立墓地にヴェトナム戦争無名戦士の葬儀が当時のレーガン大統領の弔辞を伴って行われた。マイケル・バー=ゾウハーが選んだ本書の題材はこの史実に基づく無名戦士の身元を探る物語である。
しかしそこはバー=ゾウハー、単に身元不明の遺体の正体を探るだけの話にはしない。その遺体に残された弾丸と手榴弾がアメリカ製であるという仕掛けを施す。つまりこの兵士が味方に殺されたのではないかというスキャンダラスな謎を放り込む。 謎の解明に当たるウォルト・メレディスの前に立ち塞がるのが無名戦士が所属していた元第37連隊々員だったスティーヴ・レイニー。ある時は先回りして同士に連絡して協力しないように手を回し、中には既に自らの手でその命を奪った同胞もいる。それほどまでにして隠す無名戦士の死とは一体どんなスキャンダルなのかと俄然興味が増してくる。 しかしこの真相は実に微妙だ。何が正義で何が悪なのか?敵と味方に別れて大量の殺戮を行う戦争という特殊状況の中では我々が日常的に持っている倫理観は通用しないのだ。 今なおヴェトナム戦争については語られることが多い。特にデミルはライフワークとしているようにも感じられる。そのどれもが異口同音に語るのが初めてアメリカが正義ではなくなった戦争だということだ。そんな無益な戦争で犠牲になった兵士たちが人間性を喪い、狂気に駆られてもはや普通の生活さえも送れなくなった戦争の惨たらしさが本書でも書かれているが、それは本当に人間のやることなのかと背筋に寒気が起きるようなことばかりだ。そんな戦争だったからこそ無名で死ぬようなことはあってはならない。無名戦士の名を明らかにすることはすなわち兵士を一人の人間として尊厳を取り戻すことに繋がるのだ。 しかし、だ。本書を読んだ後では事はそう簡単ではないことに気付かされた。無名戦士を葬ることでまだ還らぬ夫や息子、父親の入れ子として弔うことが出来るのも確かだ。そして何よりももはや人間であることさえも喪失してしまったあの戦争の真実を晴らすことは場合によっては残された遺族の尊厳をも汚辱にまみれさせることをバー=ゾウハーは本書の結末で痛烈に突き付けた。 本書には戦争が決して英雄的行為ではなく、人間が生んだこの世で一番愚かな行為であることを示してくれた。従って英雄などいないのだ。そこにあるのは戦争を美化するための神話や伝説があるだけだ。真実は常にそんな美談とは対極の位置にある、バー=ゾウハーは静かに我々に教えてくれた。 ミステリ以上の味わいをまたもやもたらしてくれた。しかし今回は殊の外、考えさせられ、苦かった。 |