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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
復讐のダブル・クロス
マイケル・バー=ゾウハー 出版月: 1983年06月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1983年06月

No.1 7点 Tetchy 2014/01/03 21:29
マイケル・バー=ゾウハー6作目の本書では前作『ファントム謀略ルート』に続いてアラブ諸国の問題について扱われている。後に作者自身が共著でノンフィクションとして著すことになるミュンヘン・オリンピックで起きたイスラエル選手団暗殺事件に端を発する復讐の連鎖の物語だ。

本書ではテロリスト、アルフレート・ミューラーが最も強烈に印象強いキャラクターだ。
骸骨のように痩せ、全身黒づくめの服装の酷薄な顔をした男。各国の要注意人物を掌握するモサドのファイルにも登録されていない謎のテロリストである彼はドイツ人でありながらアラファトと親しい関係にある。
友人であろうが自分の目的のためなら完膚なきまでに息の根を止めることも全く厭わない冷酷な性格の持ち主。その容貌が象徴するようにモサドに死をもたらす死神なのだ。

表題の「ダブル・クロス」は“裏切る”とか“騙す”という意味のDoublecrossではなく、Double Crossと二語で「二重の十字架」という意味。これが何を指すのか?物語の終盤で明らかになるミューラーの真意につながるのだが、これは日本人にはなかなか十分に理解できない衝撃。しかしものすごいセンセーションを巻き起こすことは確か。

また本作でもナチスの影は物語に落ちてはいるものの、その色合いはそれまでのバー=ゾウハー作品に比べるとあまり濃くはない。本書の影の主役とも云うべきアルフレート・ミューラーの母親がナチスの婦人将校であったということぐらいだ。これはナチスという過去の戦争の呪縛からオイルマネーで世界を牛耳り始めたアラブ諸国の紛争へとシフトしていったことになるだろう。第二次大戦から80年代当時の問題へと作者の視点が移行したことになるのかもしれない。

解説にもあるが、これまでの作品でCIAとKGBの攻防を、OPECとアメリカ次期大統領候補との丁々発止の駆け引きを、そして本書ではアラブのPLOとイスラエルのモサドとの復讐戦を描いてきた作者が次回どんな題材を見せてくれるのかが非常に楽しみだ。さすがに政治家の経験もあるだけに国際情勢の複雑さを食材に謀略小説にする料理の腕前は一級品だ。そしてまた自身が子供だった70年代から80年代にかけての当時の世界情勢を振り返るのに格好の教材だ。


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