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[ SF/ファンタジー ]
奇術師
クリストファー・プリースト 出版月: 2004年02月 平均: 7.67点 書評数: 3件

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早川書房
2004年02月

No.3 9点 斎藤警部 2026/02/24 23:45
“書き出して早々だが、ここでいったん中断する。”

この結末はちょっと … 沸き上がっちゃうよ。。。
瞬間移動、双子、作中作◯◯、隠し事、抜けの多い日記、ニコラ・テスラ、これ見よがしのいやらしさ。 作中作には更にいやらしい注釈まであった。

“重要な情報を省いたのである。 そしていま、あなたは間違った方向を見ている。”

主人公の男はジャーナリスト。 或る日、見知らぬ女から一冊の本が送られた。 女の話では、この本は、ヴィクトリア朝末期から二十世紀初頭にかけて花形奇術師であった、男の先祖が書き記したものという。(幼くして養子にもらわれた彼にはそんな先祖の憶えは全く無い) 更には、その先祖の不倶戴天の敵と言うべきライヴァルだったもう一人の花形奇術師が、女の先祖だという。 男は本を読み始める。 物語は霧の中へと迷い込み、封じ込められる。

“あのようなものを目撃したわたしほど悲惨な人間は滅多にいないだろう。”
“どんな問題であれ、全盛期を迎えている奇術師の能力を超えるものではない!”
“この秘密を守っていくために、わが人生がどれだけゆがんだのか、××には想像もつかないだろう。”

ライヴァル奇術師の二人を縛り付けたものは “瞬間移動” のイリュージョン。 二人の “瞬間移動” は、根本的に異なる原理に則っている(ようである)。
あまりにも余裕を持った、異様に大きく間隔を取った、同一事象の別視点叙述が現れて、ふわっと心を掬われた。
おいおい、この日記はいったい誰が書いているのだね・・
 “われわれは友人であるべきだったのに。”
史実から虚構へのタッチアンドゴー、これが実に巧みで、引き出すエネルギーもやたらと大きい。
幅広い奇術のトリック要諦が絶妙にネタバレを避けて敷衍されている逆説的華やかさも本作の美点だ。

だがしかし、いやいや、それどころではないのだ!! この小説の巧緻な企みの行きつく先は!!
こんな罪作りな小説構造、読了後、少し間をおいて(すぐに、ではない所が重要)、読み返さずにいられないではないか!!

ごく短い最終章の重いこと! 何なんだ、この遠大なる気持ち悪さは・・・・

“空気は驚くほど甘く、表よりもはっきりわかるくらい温かかった。”

叙述ギミックとアレとがこれほどまで強固に深遠に結び付いていたとは!! これはもう、世にはびこる数多の叙述ギミックやアレが甘ったるい戯言に見えてしまいかねないではないか!!
むしろ、あまりに堂々とした小説態度が、アレの方までは気付かせないという線までもありそうだ。 窒息させないでくれ・・
そしてアレもナニも軽々と跳び越える、遥かなる、おぞましい真相。 この小説の決め技はいったい幾つあるのだ。

“わたしは独りで最後へ向かうのだ。”

.. じわじわと .. 打ちのめされました。 SFミステリというより、幻想サスペンスの傑作だと思います。
『世界幻想文学大賞』 1996年受賞作との触れ込みで、確かにそれも納得ですが、サスペンス型ミステリ小説としても最高の出来なのではないでしょうか。

No.2 7点 八二一 2025/04/30 20:19
瞬間移動イリュージョンを持ちネタにする高名なマジシャン二人の確執と虚々実々の駆け引きがメインとなり、主な舞台はヴィクトリア朝英国。
二コラ・テスラも登場する一種の歴史ミステリだが、瞬間移動ネタの仕掛けではアッと驚く奇想が炸裂、ラストの種明かしには、思わず茫然とすること請け合い。

No.1 7点 Tetchy 2013/10/13 00:53
19世紀末から20世紀初頭にかけて一世を風靡した二大奇術師の対決の物語。しかしそこはプリースト、単純な話にはならず、得体のしれない双子の存在が物語の物陰から見え隠れする。それはまたプリースト特有の、自身の存在、そして住まう世界が揺らぐ感覚でもある。

物語の大半を占めるのはこの2人の奇術師アルフレッド・ボーデンが生前遺した自伝とルパート・エンジャの日記という手記だ。その中心にあるのはそれぞれが発案した瞬間移動奇術の正体だ。
それがやがていつの間にか一人の人物の存在というものへの疑問へのと変わっていく。
瞬間移動奇術を通じてアルフレッド・ボーデン、ルパート・エンジャという名前を持つ存在は一人の男だけの物なのかを問う物語、というのは大袈裟な表現だろうか。

そして驚愕の真相が明かされるが、正直この真相は分かりにくい。なぜならこの顛末を語るのは誰なのか解らない「わたし」だからだ。この私はルパートなのか、それともアンドルーなのか最後まで解らないからだ。それまでの物語の流れから推測するのみ。

プリーストの、存在という基盤が揺らぐ書き方はさらに曖昧になってきている。読者もその理解力を試される作家だと云えよう。二度目に読むとき、違和感を覚えた記述の意味が解る、二度愉しめる作品の書き手でもある。しかしこれほど頭を揺さぶられる読書も久しぶりだ。次は読みやすい本でも手にしよう。


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クリストファー・プリースト
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