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[ 短編集(分類不能) ]
二壜の調味料
リンリー&スメザーズ ほか
ロード・ダンセイニ 出版月: 2009年03月 平均: 5.60点 書評数: 5件

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早川書房
2009年03月

早川書房
2016年11月

No.5 5点 E-BANKER 2019/10/23 21:57
E.クイーンと江戸川乱歩が絶賛した(!)表題作をはじめ、探偵リンリーが活躍するシリーズ短編9編を含む全26編を収録。忘れがたい印象を残す傑作ミステリ短編集・・・とのことです。
1952年の発表。

①「二壜の調味料」=紹介文のとおり絶賛かというと?なのだが、忘れがたい味わいは確かにある。この結末って、〇〇を食べたということ?
②「スラッガー巡査の射殺」=最後の最後で肩透かし・・・ドリフのコントみたい
③「スコットランド・ヤードの敵」=3人の警官を宣言のうえ殺していく殺人鬼。小男スメザーズは勇躍犯人の潜伏するアジトに向かうのだが・・・。最後はなぜああなった?
④「第二戦線」=時代が少し進んで第二次大戦中。兵役に服することとなったふたりがドイツからのスパイ探しに奔走。
⑤「二人の暗殺者」=大勢の候補から二人の暗殺者を特定する・・・のだが。
⑥「クリーク・ブルートの変装」=変装の名人のスパイが見つからないとリンリーに助け舟を求める警察。リンリーが指摘したスパイの隠れ方は・・・これって「森は森に」「スパイはスパイに」ということ?
⑦「賭博場のカモ」=うーん。こんなことで民間人に助けを求めるスコットランドヤードって・・・
⑧「手がかり」=犯人が残した解きかけのクロスワードパズルから犯人像をズバズバ指摘。まるでホームズ。それであっさりと真犯人を捕獲! 簡単!
⑨「一度でたくさん」=駅にやって来るまで待つ! それがリンリーの出した答え。本当に待つことに・・・
ここまでがリンリー探偵の事件簿。最初に書いたとおり、何とも言えない味わいはある。ただし、いわゆるミステリー的な捻りや逆説を期待すると肩透かしを食うので注意してください。以下はノンシリーズで、印象に残ったものを抜粋。
・「ラウンドポンドの海賊」=で、オチは?と期待するのは罪でしょうか?
・「新しい名人」=今で言うAIを先取りしてる? 最後は結構皮肉が効いてる。
・「新しい殺人法」=新しいか? 
・「死番虫」=死番虫とは家の中の木材などを食い荒らす虫のこと。死を予言し恐喝しようとした男がこの虫を見て・・・
・「ネザビー・ガーデンズの殺人」=このオチって・・・それを言ったらおしまいでしょう!

全26編。なかなかのボリュームで堪能(?)させていただきました。
巻末解説では本作をユーモア・ミステリーと評してますが、まぁ確かに。田園風景の似合うほのぼのしたミステリーっていう感じです。
かのE.クイーンが激賞したとのことですが、どのあたりをもって激賞したのかはよく分かりません。
でも、奇妙かほのぼのか、はたまた甘口かは別にして「味わい」深いことは確か・・・かな。

No.4 5点 弾十六 2018/12/31 17:17
1952年出版。翻訳2016年。
ダンセイニ卿は「団 精二」こと荒俣 宏さんの力の入った紹介で好きな作家になりました。でも内容がいつも軽くてふわふわしてるのが不満かも。チェスタトンとほぼ同時代(こちらが4歳年下)なのですね。
暫定評価5点としてボチボチと読んでゆきます。初出はFictionMags IndexとJoshi&Schweitzer編のLord Dunsany: A Comprehensive Bibliography (2nd ed. 2014)を参照しました。初出を見ると1950年あたりの発表作を中心に未発表作を加えた感じ。当時、作者74歳。老大家に敬意を評して、という感じの短篇集なのでしょう。
(2018-12-31記載)

⑴The Two Bottles of Relish (Time and Tide 1932-11-12 & 11-19の2週分載): 評価5点
リンリー初登場。語り口だけで成立している作品。語り手の卑下が窮屈な感じ。小男(a small man)を連発するのは何かのフリでしょうか。ところでアレをどう始末したの、という当然の疑問に答えてないように見えるんですが…(掲載した週刊誌Time and Tideはフェミニスト文学雑誌らしいです。どーしてこんなのを載せたんでしょうね。初出時の前篇と後篇の区切りはp19とp20の間あたりかな)
p15 200ポンド: 消費者物価指数基準(1932/2018)で68.48倍、現在価値193万円。
(2018-12-31記載)

⑵The Shooting of Constable Slugger (Barrier Minor [Broken Hill, Australia] 1939-7-29): 評価4点
リンリー第3作。初出は豪州の新聞。ネタは単純で、あっさり終わります。
登場する8番径の大型散弾銃(a big shot-gun .... an eight-bore)は、0.835インチ(21.2 mm)の超大口径。現在においては非常に稀な銃。送り蓋(ワッズ)は散弾と火薬の間の蓋のこと。
(2018-12-31記載)

⑶An Enemy of Scotland Yard (Windsor Magazine 1937-12): 評価5点
リンリー第2作。結構スリリングな話ですが推理要素はほとんどありません。
(2018-12-31記載)

⑷The Second Front (EQMM 1951-7, as “The Most Dangerous Man in the World”): 評価5点
リンリー第6作。作中時間は1943年6月末。スパイ大作戦風味。シンプルなネタですが、面白く読ませます。
(2018-12-31記載)

⑸The Two Assassins (Evening News [London] 1946-1-1): 評価4点
リンリー第4作。戦争の少し前の話。パーティに紛れた暗殺者を見つける方法とは?ちょっと逆説風。でも軽いネタです。当時の50ポンドは消費者物価指数基準1938/2018で66.04倍、現在価値46万円。
(2018-12-31記載)

⑹Kriegblut’s Disguise (単行本1952初出?): 評価4点
リンリーもの。戦争の始まる少し前の話。誰も思いもつかない変装とは? 残念ながらあまり良いアイディアとは思えません。
(2019-8-11記載)

⑺The Mug in the Gambling Hell (単行本1952初出?): 評価4点
リンリーもの。大戦前の話。ギャンブルに関する事件。納得する話ですが意外性はあまり…
千ポンド: 1938年と仮定すると66.04倍、現在価値849万円。全て1ポンド札って結構かさばるのでは?(当時の1ポンド紙幣は151x85mm、緑色のBritannia series(1928-1948))
(2019-8-13記載)

⑻The Clue (EQMM 1951-12, as “A Simple Matter of Deduction”): 評価4点
リンリー第7作。新聞のインタビューを受けるスメザーズ、戦前の話を語る。クロスワードが出てきます。読者に手がかりは提示されません。
(2019-8-13記載)

⑼Once Too Often (Evening News [London] 1947-3-25): 評価5点
リンリー第5作。戦争直後の話。変装を見分ける確実な方法とは。確かにそうですね。
(2019-8-13記載)

⑽An Alleged Murder (初出未確認 1950頃?): 評価4点
何かメッセージが隠されてるのでは?と思ったけど… (原文も見ましたが…) 中途半端すぎる。
(2019-8-13記載)

(11)The Waiter’s Story (単行本1952初出?): 評価6点
ホテルの給仕が語る恐ろしい物語。二つの大戦の前のこと。チップ5ポンドは1910年と仮定すると英国消費者物価指数基準(1910/2019)で116.81倍、現在価値7万5千円。
(2019-8-13記載)

(12)A Trade Dispute (Evening News [London] 1947-11-11): 評価5点
ジョーゲンスものみたいなクラブでの虚実不明な話。昔のインド国境が舞台。軽いネタですがなんか好き。
(2019-8-14記載)

(13)The Pirate of the Round Pond (単行本1952初出?)
(14)The Victim of Bad Luck (Evening News [London] 1949-8-29)
(15)The New Master (単行本1952初出?)
(16)A New Murder (初出未確認 1950頃?)
(17)A Tale of Revenge (初出不明 1950-12)
(18)The Speech (Collier’s 1950-11-25)
(19)The Lost Scientist (London Evening Standard 1950-9-12)
(20)The Unwritten Thriller (Courier 1951-11)
(21)In Ravancore (単行本1952初出?)
(22)Among the Bean Rows (単行本1952初出?)
(23)The Death-Watch Beetle (単行本1952初出?)
(24)Murder by Lightning (単行本1952初出?)
(25)The Murder in Netherby Gardens (EQMM 1952-5)
(26)The Shield of Athene (単行本1952初出?)

No.3 7点 mini 2016/11/23 09:58
昨日22日に早川文庫からロード・ダンセイニ『二壜の調味料』が刊行された
元々はポケミスだったものの単純な文庫化だと思う

アンソロジー中に断片的に掲載されて昔から超有名な短編でありながら、それが収録されたオリジナルの個人短編集自体は翻訳されずに実態が謎に包まれていた短編集というのはよくある
まぁそれはそれでいいのだが、その断片的な短編に尖ったトリックなどが含まれていると、従来から誤解を招き易いというはこれもよくある話である
でね、そういうのってトリックにしか興味の無い連中が出版社に要望する訳ですよ、やれこの短編が元々収録されていた原著準拠の短編集を出せってね
ところがさ、いざそれが翻訳されてみると、”何だこれ、イメージしてたものと全然違う”、みたいな論評するわけですよ
こういう場合はね、最初からトリックにしか注目しない読者側の姿勢に問題が有るわけだよね
例えばさ有名な所ではトマス・W・ハンシューの「ライオンの微笑」(短編集『四十面相クリーク』所収)とか
その手のって従来からトリックネタ本などでトリックだけは超有名だったのだだけれど、問題は該当する短編が収録された短編集全体の中でどういう位置付けだったのかというのが結構重要なわけ
中には連作短編集の一部だったなんて場合は、断片的に特定の短編だけを抜き出して論じてもあまり適切じゃないし

さて「二壜の調味料」などは上で述べたパターンに当て嵌まる代表的短編の1つだった
私は大昔にこの短編を読んだ時、これはそもそも一般的意味でのトリックという概念とは違うのではないかという印象を持っていて、もし収録の短編集を読んでみるとトリック中心の短編集では無いのではと思っていた
その予想は半分当たり半分外れといったところかな

作者ロード・ダンセイニのロードというのはもちろん名前ではない
ピーター・ウィムジイ卿などと呼ぶ場合の”卿”に相当する敬称で、つまりはダンセイニ卿という意味である
作者は基本的にファンタジー作家であり、純粋なミステリー専門作家ではない
この『二壜の調味料』収録の諸短編は書かれたのは年月をかけてで中には古い短編も含まれているのではという予想は、作者が戦前から活躍している作家である事を考えると可能性は有ると思う
しかしながら、短編集として纏められたのは1950年代と意外に遅く、出版された年代を考えても、また作者の本領がファンタジーである事を鑑みても、要するに一種のパロディーなのではないかと思われる
実際に読んでみると、意外とトリッキーな短編も多いのである
ところがそのトリックというのがもうパロディー的なトリックで、マジなトリックものを期待していた読者にはいささか肩透かしだったんじゃないだろうか
やはりこれパロディー気分の短編集でしょ
そう考えるとさ、断片的に「二壜の調味料」を短編単独で読んだ印象と、短編集全体とがそう大きく遊離してはいないと思う

No.2 6点 風桜青紫 2016/08/05 11:07
さすがに内容は手垢のついてものばかりになってしまったが、作品世界が生み出す、この殺伐とした雰囲気は、近年の作品ではお目にかかることができないものだろう。「ナムヌモ」の文字にどことない嫌悪感を覚えるのは、それが「理不尽な死」を、肌で感じさせる材料だからなのかもしれない。

No.1 5点 蟷螂の斧 2016/04/01 09:34
乱歩氏が「奇妙な味」の代表作として絶賛とのことで拝読。当時(1952年の作品)としては、そのような評価が妥当だったのかもしれません。今では判り易い内容ですね。表題作以外は「奇妙な味」とは言えないのでは?と思います。リドル・ストーリー的な作品が多かったです。26作品のうち数点だけ内容紹介。
①二壜の調味料・・・男と同棲の女が行方不明に。男はひたすら薪を作っている。しかし薪を使う様子はない。
②手がかり・・・犯人によって残された解き賭けのクロスワード・パズルから犯人をどうやって絞り込むのか。
③一度でたくさん・・・犯人は整形、身長も変えている。見つける方法は駅で待ち続けるだけ。その方法は?
④演説・・・首相候補の演説を中止するよう要求があった。警察は本人を警固するも、その父親が殺害された。その理由は?。
⑤稲妻の殺人・・・何年も稲妻の落ちるのを待ち続ける男がいたという。
⑥ネザビー・ガーデンズの殺人・・・殺害現場を目撃、犯人に追われ戸棚に隠れた。やがて警察がやって来て思いもよらないことに。


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ロード・ダンセイニ
2009年03月
二壜の調味料
平均:5.60 / 書評数:5