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[ ハードボイルド ]
吸血鬼に手を出すな
私立探偵トビー・ピータース
スチュアート・カミンスキー 出版月: 1999年02月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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文藝春秋
1999年02月

No.1 6点 人並由真 2020/04/13 17:16
(ネタバレなし)
 日本軍の真珠湾攻撃の衝撃に全米が揺れる、1942年1月のロサンジェルス。「俺」こと私立探偵トビー・ピーターズは、ボリス・カーロフの仲介でベラ・ルゴシの依頼を受ける。すでに60歳代の老境に至り、十八番の吸血鬼役を演じる機会も少なくなっていたルゴシだが、それでも吸血鬼ファンの間ではカルト的な支持を集めていた。だがそんなルゴシのもとに蝙蝠の死体が送られ、何者からか嫌がらせを受けているという。ピーターズは、早速、現在のルゴシの周辺の人物に探りを入れるが、そんな矢先、弁護士を通じて、殺人容疑をかけられたウィリアム・フォークナーの潔白を晴らしてほしいとの新たな依頼が入ってきた。

 1980年のアメリカ作品。往年のハリウッド周辺を舞台に、実在のビッグネームの映画関係者と関わり合う私立探偵トビー・ピーターズもののシリーズ第五作。
 先輩格のエド・ヌーンやらシェル・スコットたち1950年代B級ハードボイルドの伝統を、もっとも色濃く1970年代後半~80年代以降に継承した感のある本シリーズだが、今回は正にそんな雰囲気で一冊仕上げられている(ただしお色気やヒロインとのいちゃつきシーンの類は、ほぼ皆無)。
 ちなみに本作は、事件(主にフォークナーの方)の流れの上で物語に関わってくる警官たち=ピーターズの実兄で、愚直かつ冷徹な法の番人であるフィリップ(フィル)・ベウズナー警部、フィルを尊敬する一方でなんとなくピーターズとも仲のいいスティーヴ・セイドマン警部補、さらにヴェニスから転属してきたプライドの高い新米刑事ジョン・コーウェルティなどもそれぞれキャラクター性豊かに描かれ、私立探偵小説のなかでの警官キャラの扱いについてひとつの良いお手本のような感じであった。終盤、そんななかの某キャラに向けたピーターズからの、揶揄するような、あるいは労るようなとある一言も心に響く。

 一方で2つの事件の方もハイテンポに語られ、当然ながらストーリーの比重はフォークナーのからむ殺人事件の方に次第に傾いていくが、物語の半ばで明かされる奇妙な射殺トリックなどちょっと印象的(そんなにうまく行くのかという気もしないでもないが)。
 最終的には意外に事件の裾野が広がらなかった感じもままあるが、まあその辺はぎりぎり合格ラインか。
 メインゲストのルゴシもフォークナーも実にカッコイイ。 

ルゴシは穏やかに言った。
「きみも私も吸血鬼ではないよ。われわれは単に夢を持った男たちというだけで、その夢は実現しない。その事実に耐えて生きていかなくてはいけないのだ」


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