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[ パスティーシュ/パロディ/ユーモア ]
ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利
別題「ヴァルモンの功績」
ロバート・バー 出版月: 2010年10月 平均: 7.00点 書評数: 7件

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国書刊行会
2010年10月

東京創元社
2020年11月

No.7 7点 ボナンザ 2022/03/06 22:26
放心家組合だけ読んだことがあったが、どれもとぼけたストーリーながら面白く、再版の意義がある一冊だと思う。

No.6 7点 弾十六 2020/12/21 04:56
創元版『ヴァルモンの功績』(2020-11)は実に凝った翻訳、でもルビのおかげで読みにくくない。国書刊行会平山先生の訳も普段の自費出版のと違い読みやすい(編集者の腕の見せ所だね)けど、創元版はさらに良い。しかも全短篇に初出イラストがついている!(小さくてやや見づらいところだけが欠点) これはもう一家に一冊モノですよ!解説も実に行き届いています。
とりあえず初出データ(本書もFictionMags Indexを活用!)のみ示しておきます。今後はトリビア&平山版との比較も予定。
カッコ付き数字は本書の並び順。ここでは初出順に並び替えています。
(9)Detective Stories Gone Wrong: The Adventures of Sherlaw Kombs (初出: The Idler 1892-5 as by Luke Sharp 挿絵George Hutchinson)「シャーロー・コームズの冒険」: 評価7点
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(1)The Mystery of the Five Hundred Diamonds (初出: The Saturday Evening Post 1904-6-4〜6-11 (分載2回) 挿絵Clarence F. Underwood)「<ダイヤの頸飾り>事件」:評価5点
これ犯罪を構成してるのかなあ。誰も損してない気がする…
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(3)The Clew of the Silver Spoons (初出: The Saturday Evening Post 1904-8-27 挿絵Clarence F. Underwood)「手掛かりは銀の匙」
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(10)The Adventure of the Second Swag (初出: The Idler 1904-12 as by Luke Sharp 挿絵Bertram Gilbert)「第二の分け前」
こちらは(9)と違い、シャーロック・ホームズが登場。初出のこの号をFictionMag Indexで眺めてたら、チェスタトン画の挿絵で『奇商クラブ』が6回連載されてる!(1904年6月号から12月号まで) ぜひ見てみたいなあ。(Webに三枚発見。https://www.sciencephoto.com/media/559877/view)
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(4)The Triumphs of Eugene Valmont: Lord Chizelrigg’s Missing Fortune (初出: The Saturday Evening Post 1905-4-29 挿絵Emlen McConnell)「チゼルリッグ卿の遺産」:評価7点
若い貴族の性格描写が翻訳で生きている。
p144 枕許に装填した拳銃を♠️4挺忍ばせ28発打ち尽くす…とあるから7連発の拳銃。話の感じでは少なくとも10年前(1895年)以前の話。当時7連発リボルバーは結構ありS&W Model 1(22口径, 全長178mm, 製造25万挺(1857-1882) 価格$2)とかColt Open Top Pocket Model(22口径, 全長152mm?, 製造11万挺(1871-1877) 価格$8)とかベルギー製Nagant M1895(約32口径, 全長235mm, 製造1895-1945)とか(19世紀後半ベルギー製ルフォーショーにも7連発拳銃があるが詳細不明)。枕の下に四挺も入れていたのなら小型拳銃なのだろう。安くてポピュラーなS&W Model 1を推す。なお当時の$1は米国消費者物価指数基準1871/2020(21.34倍)で2299円。
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(5)The Triumphs of Eugene Valmont: The Absent-Minded Coterie (初出: The Saturday Evening Post 1905-5-13 挿絵Emlen McConnell)「放心家組合」:評価7点
やはりよく出来た話。導入部を楽しめるかどうか。全体のムードと企みが合致して傑作になった。
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(6)The Triumphs of Eugene Valmont: The Ghost with the Clubfoot (初出: The Saturday Evening Post 1905-5-27 挿絵Emlen McConnell)「内反足の幽霊」
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(7)The Triumphs of Eugene Valmont: The Liberation of Wyoming Ed (初出: The Saturday Evening Post 1905-6-10 挿絵Emlen McConnell)「ワイオミング・エドの釈放」
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(2)The Triumphs of Eugene Valmont: The Fate of the Picric Bomb (初出: The Saturday Evening Post 1905-7-1 挿絵Emlen McConnell)「爆弾の運命」
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(8)The Triumphs of Eugene Valmont: Lady Alicia’s Emeralds (初出: The Saturday Evening Post 1905-7-8 挿絵Emlen McConnell)「レディ・アリシアのエメラルド」

No.5 8点 八二一 2020/02/03 21:57
自信過剰な名(迷)探偵が、犯人に、してやられるところが、むしろ愉快。とぼけていながら洞察の利いた秀作が中盤に並ぶ。風刺と軽身で、歴史に残るユーモアあふれる作品。

No.4 5点 nukkam 2016/06/15 11:20
(ネタバレなしです) あのコナン・ドイルと親交があったイギリスのロバート・バー(1849-1912)が創作したフランス人探偵ヴァルモンの活躍を描いた8作の短編を収めて1906年に出版された短編集です。かつてフランス政府の刑事局長を七年間務め、ある理由でフランス政府に首にされたがロンドンで私立探偵として開業して以来パリにいた時よりも商売は繁盛しているというヴァルモンは、アガサ・クリスティーのベルギー人探偵エルキュール・ポアロの先駆者的評価を受けることもあるようですが名探偵らしからぬ失敗もしているところはアントニイ・バークリーのロジャー・シェリンガムの先駆者とも言えそうです。。「チゼルリッグ卿の失われた財産」などはストレートな探偵物語で一般受けしやすいと思いますが、当初の目的とは全く違う空騒ぎに終わったような結末を迎える作品もあり、時に意外と難解な印象を与えます。

No.3 8点 おっさん 2012/07/02 18:56
スコットランド系の作家・ジャーナリストであるロバート・バーが、友人コナン・ドイルのホームズ譚を意識し、プライド高きフランス人探偵を創造して、その回想手記という形式で、英国(捜査法)批判をおりまぜながら展開していく、ユーモア・ミステリ集(1906年刊)です。
創元推理文庫の“隠し玉”として予告されたこともありましたが、最終的には2010年に国書刊行会が出してくれました。
シリーズ・キャラクターもののミステリ短編は、アンソロジーで特定の“代表作”だけ読むより、事件簿を通読することで味わいが深まるので(安定した世界観を楽しめたり、微妙な変化にニヤリとできたり)、遅まきながらこの訳出は嬉しかったですね。

遅まきながら――と書きましたが。
もともと創元推理文庫が<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>に力を入れていた1970年代後半は、クラシック・ミステリでも、トリッキーな路線(フットレルの思考機械とかですね)に需要が多かったと思います。あの時代なんかには、本書はぴったりしなかったかもしれない。
でも90年代末以降、国書刊行会の主導でアントニイ・バークリーやマイクル・イネスの紹介が続いたことで、その豊饒さがマニアのミステリ観のクリーニングを果たしたのではないか。近年は、ウッドハウスの復権もありましたしね。
日本のクラシック・ミステリ・ファンにとっては、さまざまな遊びに慣れたいまが、むしろ本書の読みごろかもしれません。

収録作は、アメリカの週刊誌Saturday Evening Post に、1904年から05年にかけて発表された、以下8篇。

①ダイヤモンドのネックレスの謎 ②シャム双生児の爆弾魔 ③銀のスプーンの手がかり ④チゼルリッグ卿の失われた遺産 ⑤うっかり屋協同組合 ⑥幽霊の足音 ⑦ワイオミング・エドの釈放 ⑧レディ・アリシアのエメラルド

①のみ、刑事局長をつとめていた「我輩」ことヴァルモンが、その職を追われる羽目になった顛末を物語る、フランス時代の失敗譚で、②以下は、ロンドンで私立探偵を開業してからの物語となります。
同時代の<隅の老人>連作(オルツィ男爵夫人)などが、殺人事件の謎解きに特化して、そのパターンのなかで技巧を凝らし黄金時代パズラーへの道をつけた(ぶん、冒険譚としてのホームズものの自由度は失われた)のに対し、こちらはそうした“進化”とは無縁に、宝石や手形の盗難、隠し場所捜しから反政府組織への潜入捜査、はては脱獄の幇助w(⑦です。今回、初訳されたなかではこれがケッサク)まで、探偵活動の豊富なヴァリエーションを包摂したホームズ譚のありかたにならっています。

その古風な物語性が、逆に魅力で、ミステリのテクニカルな興味で突出した作は少ないものの(ロバート・バー版「盗まれた手紙」とも云える、大胆なトリックでアンソロジー・ピースのひとつになった④などは、むしろ例外)、破天荒な、でも人間臭いキャラのヴァルモンがガイドする、ヴィクトリア朝の奇談の数かずは、軽妙な訳文(平山雄一)の力もあって、読み物としての光彩を失っていません。

そうした流れのなかで、従来、江戸川乱歩がその“奇妙な味”を絶賛したという、ひとつ覚え的な評価でなんとなく古典化した感のある⑤(「放心家組合」という旧題でおなじみですが、たしかに「うっかり屋」のほうが意味は通りやすい)の、先見性――時代を超えて残る、真の傑作でした――も確認できます。
あつかわれている詐欺事件の性格も、もちろん面白いのですが、何よりこの時代に、名探偵の“違法捜査”をバッサリ斬っている、その風刺精神が凄い。これに関しては、乱歩の読みを是正する、「訳者解説」の文章も必読。
既訳は、話の枕に相当する一章ぶんがまるまるカットされているので、「放心家」なんかもう読んでますから、という向きも、本書で再読すると、新たな発見があるかもしれませんよ。

No.2 6点 2011/04/02 16:01
著者はコナン・ドイルと同時代作家です。
「ダイヤモンドのネックレスの謎」「シャム双生児の爆弾魔」「銀のスプーンの手がかり」「チゼルリック卿の失われた遺産」「うっかり屋協同組合」「幽霊の足音」「ワイオミング・エドの釈放」「レディ・アリシアのエメラルド」の8編。
「うっかり屋」は名編だそうですが、個人的には「チゼリック」と「ワイオミング」が好み。「レディ・アリシア」もよかったけど、私でもラストを予想できたので筋としては陳腐なのかもしれません。
主人公の迷探偵ウジェーヌ・ヴァルモンはイギリスで活躍するフランス人探偵。この主人公が「我輩」という一人称で8つの事件の顛末を語ります。
ミステリ性は物足らず、ラストにひとひねりあればなぁ、と思うような作品ばかりです。ホームズと同時代の作家ですから、そのへんは致し方なしでしょうか。
主人公の堅苦しくもとぼけた語り口と、迷探偵のキャラクタを楽しめたことが最大の収穫です。依頼人に対してすぐに好き嫌いを表わすところや、ちょっとうっかりな性格は、とても好ましい感じがします。
ミステリ性はともかくも概ね良好な作品ばかりで、いつも書斎の机に置いておき、ときたま息抜きに一編読みたくなるような作品集でした。今回は図書館で借りましたが買ってもよかったような気がします。

No.1 8点 mini 2011/03/07 10:02
久々にホームズのライヴァル達の一つで国書刊行会版
国書とは言っても藤原編集室は絡んでないようで、世界探偵小説全集とは何の関係も無く、国書刊行会の独自企画なようだ
でもこの路線今後も頼みますよ、国書刊行会
「ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利」は、創元文庫がライヴァル達第3期を企画するなら是非入れて欲しかったのだが、遅ればせながらやっと全貌が訳された
この短編シリーズは何と言っても世界短編傑作集など数々のアンソロジーに採用される「うっかり屋協同組合」(世界短編傑作集では「放心家組合」)と、早川文庫ホームズのライヴァルたち収録の「チゼルリッグ卿の失われた遺産」の2大名編だけで知られていた
前者は乱歩が奇妙な味の代表作として高く評価していた事でも有名で、最後はきっちり事件が解決しないと気が済まないような読者には全く合わないが、この作はまさに真相は解明しても事件は解決出来ない事こそが魅力なのである
今で言う奇妙な味とは意味が異なるが、乱歩がこの作を評価していたのは乱歩の嗜好を考えると不思議な感じすらする
後者の「チゼルリッグ卿」は、お宝はどこに隠されていたのかという謎が全ての宝探しの話だが、、物理トリックを駆使している作の中ではトリックだけなら集中最も出来が良い

ロバート・バーは当時一般文学の人気作家で、ミステリーは全著作の一部に過ぎない
ドイルとも同時期で、ミステリーの歴史上ホームズのパロディを最も早い時期に書いた作家の1人でもある
こうしたパロディ精神とユーモア感覚がバーの持ち味で、「ウジェーヌ・ヴァルモン」も英仏両国の文化の差異をシニカルな眼差しで捉えた傑作短篇集だ
英国人が書いたフランス語圏探偵というパターンは、後にフランス人じゃないがポアロなどに受け継がれていく
考えてみたらポーのデュパンもフランス人だし、一種の流行だったのだろうか?
こうなるとルーク・シャープ名義のパロディ長編”From Whose Boume”もどこぞの出版社が訳して欲しいものだ


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ロバート・バー
2010年10月
ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利
平均:7.00 / 書評数:7