皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 山猫の夏 南米三部作 |
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船戸与一 | 出版月: 1984年08月 | 平均: 8.40点 | 書評数: 5件 |
講談社 1984年08月 |
講談社 1987年08月 |
講談社 1995年11月 |
小学館 2014年08月 |
No.5 | 9点 | ROM大臣 | 2022/01/20 15:44 |
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ブラジル東北部の憎しみの町エクルウを舞台に、山猫と呼ばれる日本人が、対立するビーステルフェルト家とアンドラーデ家の確執をかきまわすこの壮大な物語は作者の集大成といっていいだろう。対立する両家の長女と長男が駆け落ちし、その捜索を依頼されたのが山猫とサーハン・バブーフで、つまりこの作品は「ロミオとジュリエット」であり、日本人青年の成長物語である。
この小説が開放感と躍動感に満ちているのは、男たちが退屈な日常からはみ出し、自由に呼吸しているからで、力強さに溢れているのは、はみ出したことをだれもが自らの意思で選び取っているからである。そこにはダンディズムという言葉でこぼれ落ちてしまう根源的な汗の匂いと、決してふらつかない強固の意思の響きがある。 作者の凄さは、国境を越えたそういうはぐれた男たちの肖像を、気張らずに淡々と描いているところだろう。 |
No.4 | 8点 | 蟷螂の斧 | 2020/01/19 21:51 |
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「東西ミステリーベスト100」第46位
「赤い収穫」(ダシール・ハメット)~「用心棒」「椿三十郎」(黒澤明監督)~「荒野の用心棒」(マカロニウェスタン)~「山猫の夏」というような系譜になるのでしょうか。山猫のキャラクターが際立っていますね。ニッと笑うというところなどは、用心棒のラストシーンの三船敏郎さんとダブってしまいました。「いつのまにか砲撃の音が消えている。聴こえるのはヴェトナム老人の槌の音とソフィア・ジェルミの足音だけであった。」何故か、この文章が気に入りました。音響効果?(笑) なお、ロミオとジュリエット張りの駆け落ちの結果は残念なところ。何とかならなかったのでしょうか?・・・。 余談。「東西ミステリーベスト100」の中でも、ハードボイルド系やスパイ冒険もの系が未読でかなり残っているのが現状です。本サイトで取り上げられると刺激を受け、読まねばという気持ちになるのでありがたいです。 |
No.3 | 8点 | あびびび | 2020/01/06 21:16 |
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実は、冒険小説とSF小説は苦手。それでも読みたいのは船戸さんの作品だ。だいたいが上下巻の分厚さで、読みきるには覚悟がいる。面白いのは分かっているのだけど、仕事をしている今、なかなか手が出せない。「猛き箱舟」、「夜のオディッセイア」と、すごくおもしろかった。おもしろかった?そう、読みだすと止まらない中毒性があるのだ。
この作品も舞台は外国(ブラジル)で、主人公は日本人。山猫と呼ばれる完全無敵な男が繰り広げる冒険物語である(語り手も日本人)。改めて作者の作品を検索してみると、この作品以上の評価を受けている本が多数ある。特に、このミステリーがすごい!で、年間1位の「砂のクロニクル」は早急に読まなければならない。 |
No.2 | 9点 | クリスティ再読 | 2019/08/14 09:15 |
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夏だ!舞台では11月だけど、夏である。ブラジルだからね。
80年代というと、日本でも冒険小説が流行った時代なんだが、評者の好みじゃ本作が頂点。ブラジル北東部の片田舎を舞台の「血の収穫」ベースの一大バイオレンス絵巻である。 ビースフェルテルト、アンドラーデの二名家が抗争を繰り返す町、エクルウ。この町で小さな酒場を営む「おれ」のもとに、「山猫」が現れた。山猫はおれを強引に助手にして、山猫の仕事に連れまわすことになる。「山猫」は日系人の弓削一徳、皇道派将校を父に持ち、都市ゲリラに身を投じたのち、一転して裏社会で悪名を馳せるようになった「プロ」である。「おれ」は日本から脛に傷をもって逃れてきた元過激派だった。周囲にわからないように日本語で会話できるのを見込んでの採用である。手始めはビースフェルテルトの令嬢が、アンドラーデの若様と手をとって駆け落ちしたのを追跡する仕事だった。荒涼とした砂漠での追跡、カンガセイロ(山賊)との交戦、バッタの大群との遭遇、そして、山猫とは因縁の敵手であるアラブ人バブーフとのさや当て。さらに山猫は両家の抗争をあおりつつ、この抗争を利用して漁夫の利を得ていた駐屯軍と警察の介入を策謀する。山猫の狙いはこの両家の資産を分捕ることだった!山猫の計略に踊らされて、死体の山が築かれていく.... とまあ、とにかく、熱い。ブラジルの片田舎、で風土風習があまりなじみのない地域なのだが、マカロニ・ウェスタンみたいに感じればいいのだろう。日本人にとって西部劇というものが、なかなか消化しづらいエンタメだったのを、戦前の時代伝奇や剣豪ものなんかで、間接的にアダプトしていたことを思うと、本作は真正面の「日本人によるウェスタン」という画期的なものである。本場の西部劇だといろいろ突っ込まれかもしれないから、ブラジルにもっていったあたりの着眼点がいい。「血の収穫」だって、実質ウェスタンみたいなものだからねえ。 あというと、この世界はグラウベル・ローシャの「アントニオ・ダス・モルテス」に影響を受けているんだと思う。土俗的で時代劇みたいに思っていると、実はこれが「今」の話だ、という奇妙にタイムスリップしたような時代がごちゃまぜになったようなマジック・リアリズム的な感覚は、ブラジルが抱える多種多様な民族と生活のクレオールなリアリティだ、ということにあるんだろうけどね。本作だと「ロメオとジュリエット」風の前半の話と、山猫が財産を分捕るのにヘリコプターで弁護士を呼ぶ今、さらに呼ぶ手段が伝書鳩...など時間軸が奇妙にねじれた面白さがある。 まあエンタメとしては、読者の視点人物になる「おれ」が山猫の影響を受けてハードボイルドに変貌していくのが、常套手段とはいえ、よろしい。その昔やくざ映画を見終わって出てくる観客が、みんな肩怒らせて....って、あれ。 本サイトは冒険小説弱めだけどね、本作とかぜひぜひのおすすめ。暑い夏の読書にいかが。 |
No.1 | 8点 | kanamori | 2010/05/14 21:00 |
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<南米三部作>の第1作。
二つの旧家が対立するブラジル辺境の町を舞台にしたハード活劇小説。 突如現れた謎の日本人・山猫<オセロット>が触媒となって血と汗が迸る壮絶な戦いが勃発するという大筋のプロットは「赤い収穫」へのオマージュだと思いますが、山猫の助手を務めさせられる語り手の日本人バーテンダーの再生の物語でもあります。 山猫の隠された目的なども面白く、エンタテイメントに徹した傑作冒険小説でした。 |