皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格/新本格 ] メビウスの時の刻 |
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船戸与一 | 出版月: 1989年10月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
中央公論社 1989年10月 |
中央公論社 1993年09月 |
集英社 2015年08月 |
No.1 | 7点 | 雪 | 2018/07/13 16:06 |
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展開してゆく物語自体はいつもの船戸節なのですが、これは読み所がどこかを一切書けないタイプの小説ですねえ。こうやって身構えさせるだけでも感興の何分の一かを削いでいるような気がします。が、とにかく紹介しないと一生出会わずに終わってしまう人もいると考えればまあいいか。という事で勘弁してください。
他はともかく文章自体はかなりストレートですので、何も考えずに読み進んだ方が良いです。こう話してもたぶん何を言っているかわからないと思いますが。 一応、そこそこの隠し玉の部類には入るんでしょうかね。 【警告】 これで投げるのもちょっと不親切過ぎるような...。やっぱり不親切ですかね。 読解力無いのバレバレだけど、やっぱりしとかないといけないのかなあ。 【再度警告】 次は本当にバラしますからね。読む方は後悔しないように。 【ネタバレ】 という訳で一応やってみます。自信無いですけど。 語り手は順に「おれ」「わたし」「おいら」「あたし」「わし」の5人。一見、この5人が同時にニューヨーク四十二番街のステーキ・ハウス《ダイミョウ》で食事しているようにセンテンスが並べられていますが、実はそれぞれ場所も年代も異なっています。 ①「おれ」=タンバ・アキオ(過激派崩れの日本人) 場所:ニューヨーク ↓ それから十七年後~ ②「わたし」=十七年後の「おれ」偽名:英系中国人サミュエル・チェン 場所:ジブラルタル (アントニオ・モレアーノと誤認するよう誘導してあります) ③「おいら」=チャーリィ・ボーイ 元ボクサー、日本人と黒人のハーフ 場所:ジブラルタル ↓ さらに四年後以降~ ④「あたし」=アキオの妻アンナ イタリア系アメリカ人と日本人のハーフ 場所:ニューヨーク (アンナの娘アイリーンではありません) ⑤「わし」=ロベルト・マンシーニ(黒幕、ニューヨークの統轄者) イタリア系アメリカ人 場所:ニューヨーク これに登場人物の血縁関係が絡みます。 ●「おれ」アキオが射殺したアントニオ・モレアーノは将来妻となる「あたし」アンナの実父ですから、彼は未来の義父を殺した事になります。 ●「おいら」チャーリィ・ボーイは「おれ」アキオが「ママ」シルビィ・ローバックを犯して生ませた子ですから、チャーリィによるアキオ射殺は当然実父殺しで、最初のアキオの行為に重なります(第一のメビウス) ●チャーリィによるアンナの娘アイリーンのレイプは兄による妹の近親相姦で、これもアキオの行為に重なります(第二のメビウス) ●エブラハム・リンカーンはモレアーノの息子。チャーリィは前述の通り「おれ」アキオの息子。よってリンカーンによるチャーリィの射殺は、モレアーノによるアキオへの次世代での復讐です(第三のメビウス)。 ●同時にリンカーンは「あたし」アンナの兄。リンカーンによるアンナ殺しは兄による妹殺しで、これはチャーリィのレイプに重なります(第四のメビウス) これで円環は一旦完結します。無秩序に見える暴力の連鎖が、ほとんど運命的な必然をもって進行しているのが解ります。 |