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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] シブミ ニコライ・ヘルシリーズ |
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トレヴェニアン | 出版月: 1980年10月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 4件 |
早川書房 1980年10月 |
早川書房 1987年09月 |
早川書房 2006年02月 |
早川書房 2011年03月 |
No.4 | 6点 | tider-tiger | 2018/01/21 12:10 |
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ミュンヘン・オリンピックのテロ事件の犯人に報復するべく、ユダヤ人グループは立ち上がった。だが、その計画は事前に察知され、グループのメンバー二人が虐殺されてしまう。虐殺の首謀者は巨大組織“マザー・カンパニイ”。一人生き残ったハンナは、からくもその惨劇の場から脱出し、バスク地方に隠遁する孤高の男に助けを求めた―“シブミ”を会得した暗殺者ニコライ・ヘルに。~amazonより~
あらすじを書くのが大変そうなのでamazonさまの内容紹介に頼りました。 が、実際に読んでみると多くの人はこの内容紹介に違和感を持つでしょう。 実は本作はこの内容紹介を読んで期待されるような話ではないのです。miniさんがトレヴェニアンは本筋ではなくて道草をこそ書きたかったのだろうと仰っていますが、まったく同感です。 数々の道草、特に上巻が面白かった。 面白いのですが、いくつか問題点を記しておきます。 本作もアイガーサンクションと同様に完成度はあまり高くない趣味に走った作品という印象が強いです。採点は少し抑えて6点とします。 物語が上巻でクライマックスに達してしまう。下巻も面白いが上巻ほどに心が揺さぶられるエピソードがなかった。 個人的にもっとも気になったのは下巻では主人公ニコライ・ヘルがシブミを追究しようとする姿勢がなく、修了証書を貰って満足してしまったような印象がある点。さらに、それが形ばかりのチグハグなシブミ理解のように思えてしまった。真摯にシブミを追究する姿勢を最後まで見せて欲しかった。それから、カーマスートラみたいなエピソードはいらない。ついでに『裸殺(秘密の殺人術)』がとても胡散臭い。 他の方も書いてらっしゃるように日本文化に対する作者の造詣には驚きましたが、それ以上に私は作者の歴史観に驚きました。たとえ日本文化が好きであっても、欧米人の歴史観では第二次大戦時の日本は軍国主義で軍隊は悪魔のような所業を為していたはずです。ところが、トレヴェニアンの歴史観はずいぶんと違うようです。日本は嵌められたと、こういう視点が窺えます。 |
No.3 | 7点 | kanamori | 2011/04/12 18:18 |
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バスク地方の屋敷に隠棲する元凄腕の暗殺者・ニコライ・ヘルのもとにユダヤ人グループの生残り女性が訪ねてきて、本格的に本筋の物語が動き出すのは下巻もだいぶ過ぎてからだから、謀略冒険小説としてはかなりの変化球です。
第一部「フセキ」にて、戦中戦後の日本を舞台にニコライが日本の思想”シブミ”と囲碁の精神を会得する過程に作者の力点が置かれていて、この日本文化に関する作者の造詣の深さには驚かされます。ただ、性交テクニックを囲碁用語で表わす場面(「カケツギ」「フリカワリ」ってどんな体位?)では、どこが”シブミ”なんだと思ってしまいましたが。 終盤の地下洞での冒険活劇がスリリングで、ケイヴァーの相棒でバスク独立運動の元闘士ル・カゴの造形がよかった。彼が最優秀助演男優賞でしょう。 なお、ニコライの殺し屋としての初仕事、中国でのソ連要人暗殺について物語の中で少し触れられていますが、その詳細について書かれているのが、ウィンズロウの「サトリ」らしい。 |
No.2 | 6点 | mini | 2011/03/29 09:57 |
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発売中の早川ミステリマガジン5月号の特集は”トレヴェニアン×ドン・ウィンズロウ”
トレヴェニアン「シブミ」の前日譚を描いたウィンズロウ「サトリ」が4月25日に刊行予定だが、その前宣伝だね ウィンズロウに続いてトレヴェニアンも初めて読んでみた 実は第1作「アイガー・サンクション」も古本屋で入手してあったのだが、今回の事情に鑑みて予定変更、「シブミ」を読むことにした次第である 解説は池上彰、じゃねぇ~よ!池上冬樹、おぉこれぞ池上解説 基本ストーリーだけならメチャ単純 ユダヤ側過激派の生き残りメンバーの女性から助太刀を依頼された刺客ニコライ・ヘルが、アラブ側と結び付いたアメリカCIAを牛耳る母会社(マザー・カンパニー)の妨害を受けながらも逆襲するという、ただそれだけである しかしこの作品は基本ストーリーは実はどうでもいい 1) 主人公ニコライが日本の精神、”渋み”を体得するに至った経緯と生い立ち 2) それに関係して”囲碁”というゲームに潜む哲学 3) 比較文化論と大衆文化批判(ポップアートの旗手アンディ・ウォーホルへの皮肉には笑った) 4) 仏西国境にあるバスク地方の洞窟を舞台にした冒険小説譚 以上の4つの道草こそが描きたかったのだろう 特に作者が日本に住んでた経験もあり終戦後の日本の精緻な描写には驚かされる 道草の方がメインで大河ドラマ向きな作風はウィンズロウと共通する感じもあり、ウィンズロウが「サトリ」を書いたのも肯ける ただ主人公の行動と”シブミ”の精神が上手く融合しておらず違和感は感じた またイスラエル=善、アラブ=悪、みたいな安易な発想に陥ってはいないとは言え、ちょっと選民思想的なクサさを感じるのにはとても好感を覚える事は出来ず、当初は4~5点位の採点だった しかし作者はパロディとして書いているのかもと思い直して点数を少しアップした ※ 余談だがこの作のテーマともなっている囲碁について 私は将棋よりも囲碁の方が好きで、チェスは商人のゲームだが囲碁は哲学者のゲームだという件には同感 でもねぇ、私は頭悪いんで囲碁で勝った事が無いんだよね 対局ソフトでもパソコン側の強さのレベルを最低にしても勝てないんだよなあorz |
No.1 | 9点 | Tetchy | 2009/03/30 22:29 |
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ローマ空港で虐殺されたアラブ過激派を狙うユダヤ人報復グループの生き残り、ハンナから助けを求められたニコライ・ヘルは日本の思想「渋み」を体得したフリーランサーの殺し屋だったというちょっと「?」な設定だが、これを非常に説得力ある筆致で書くこのトレヴェニアンという作家の博識ぶりに舌を巻く。
特に外人にはなかなか理解されない「侘び」「寂び」を斯くも明確に叙述し、しかも日本の囲碁に宇宙を感じるなどといった件を読めば、この作家は外人の振りをした日本人ではないかと勘ぐってしまう。 特に「渋み」の叙述には深いものがあり、その一種、東洋哲学に通ずる理解の深さには逆にこちらが学ばされる思いがした。 ただこのニコライの人と成りを読者に理解させるために彼の過去のパート、特に彼に「渋み」の思想を教えた貴志川将軍との師弟関係の交遊のあたりに冗長さを感じるきらいはある。 しかしこのような作品を外国人が書いたというだけで驚嘆だし、またそれをエンタテインメントに昇華した技量もすごい。もっと注目してほしい作品だ。 |