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[ 本格 ]
毒蛇
ネロ・ウルフ
レックス・スタウト 出版月: 1958年01月 平均: 5.60点 書評数: 5件

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早川書房
1958年01月

東京創元社
1958年01月

早川書房
1978年09月

No.5 6点 クリスティ再読 2024/04/18 23:01
いうまでもなくネロ・ウルフお目見えのデビュー作。でも一番印象に残ったことは、この処女作からして、ウルフとアーチ―のキャラが最初から完璧に出来上がっていること。キャラが以降のシリーズの展開の中でも全然ブレてないことだったりする。いやこんなシリーズ物、他にないと思う....ミステリとしてはバランスがどうか、と思う部分もあるし、シンプルな話に過ぎるとも感じるから、「ミステリとしての傑作」とは少しも思わないけど、上々吉のシリーズ開始作になっている。
ふと我に帰れば、ウルフの変人キャラなんて「よく考えるよ...」と呆れるくらいなものだと思うんだ。しかも天才。それを嫌味なく説得力をもって描いて、人気を博したわけだ。本作読むとこれを最初から狙って「アテた」としか思えないから、作者のスタウトの「異常な老成」といったものさえ感じる。ファイロ・ヴァンスなんて極めて「厨二」なキャラ(作者が妙に酔ってる)だが、スタウトには計算づくの凄みを感じる。

まあ基本ラインは「ハードボイルドを通過したホームズ譚」ということでいいと思う。このシリーズは確かに「名探偵小説」だから、よく「本格」カテに入れられはするが、パズラーかと言われれば全然違う。犯人が仕掛けるトリックよりも、探偵が仕掛ける犯人への罠が興味の主眼なことも多い。本作だとかなり早く犯人が割れて「犯人とウルフの闘争」が話の軸になるけども、これが成功しているか、というと疑問。
一番好きなシーンはキャディの子供たちを集めてワイワイガヤガヤで重大事実を掘り当てるあたりかなぁ。ウルフの「大人」な冷静さを強く印象付けられた。

No.4 7点 人並由真 2023/07/22 17:05
(ネタバレなし)
 ネロ・ウルフのもとに、外注探偵チームのひとりフレッド・ダーネンが現れた。用件は、彼の妻ファニイの友人であるマリア・マフェイの兄で、金属細工師の青年カルロが行方不明なので、マリアの相談に乗ってほしいという。ウルフはマリアと面談ののち、「ぼく」ことアーチー・グッドウィンをカルロのアパートに調査に行かせる。アーチーはカルロのアパートで、彼がいなくなる直前、電話を受けるのを見たという女中頭で20歳くらいの娘アンナ・フィオレに出逢い、彼女をウルフの事務所に連れてきた。アンナに執拗な質問をしたウルフは、やがてとんでもない事を言い出す。

 1934年のアメリカ作品。スタウトの処女作(初のミステリ?)で、ウルフシリーズの第一弾。評者は、ポケミスの初版の佐倉潤吾訳の方で読了。

 何というか、単一の事件、一本の連続したお話ながら、読み進めるうちに作品の色彩がコロコロ変わる、カラフルなミステリという感じ。
 まったくの直感推理ながら、正に安楽椅子探偵の面目躍如のウルフの描写が前半から心地よく、この辺は確かによく言われるようにわずかな情報から仮説という名の真相を探り当てるホームズの直系。
 途中の主要&サブゲストキャラの物語の上での出し入れにも緩急があり、例によって登場人物表を作りながら読んだが、そういう面でも実に楽しい。
 ホワットダニットの興味、犯人捜しの謎解きものの興味、アーチーを軸にした私立探偵捜査ものの面白さ、そして途中でほぼ犯人が確定したのちは、探偵側と犯人との対決……と、取り揃えて、前述のように多層的な賞味部部が楽しめる。アーチーのぼやきユーモアもこの処女作の時点からすこぶる快調。
 まあ書き連ねていくと、あら? 思った以上にいつものウルフものじゃないの? という気が自分でもしてきたが、まあ本作はいきなり最初っから、その辺の諸要素のかみ合わせを、かなり良いバランスで消化している。そしてその配列というか、順々にいろんな興味を並べていく配材の仕方が絶妙で、つまりはそこが面白さの秘訣であろう。

 ちなみに終盤に関しては、もっと悪と正義の側の対決ものっぽいサスペンス感を演出すればいいのに、と思わないでもないが、まあその辺は同時代の欧米作品にいくつか、かなり強烈なその手の先行作品があるから、あえて差別化を図ったんだと勝手に観測。当たってるかどうかは知らんが。
 そう見ていくと、山場のウルフ一家のかなり狂騒曲的な作戦も、探偵たちの臨戦態勢の緊張感の裏返しという印象で面白かった。

 あとタイトルについて(中略)と予期していたら(後略)。

 雪さんのレビューにある、シリーズのなかでもかなり読みやすい一冊、というのはまったく同感。なんとなく結構ややこしそうで、悪い意味で歯応えのありそうな内容と予見していたら、口当たりの良さに驚いた。
 なんであの登場人物がああいう理屈に合わないことをしたのか、の細部での説明もなかなかいい。ああ、なるほどね、とストンと納得できる。

 良い意味で、8点はあげなくてもいいでしょ、と思うものの、結構な秀作。ウルフシリーズの長編のなかでも個人的に上位にくる一冊で、現状はこれか『ラバー・バンド』『黄金の蜘蛛』あたりかな。

No.3 4点 nukkam 2020/07/14 22:49
(ネタバレなしです) 様々な職業を経験した米国のレックス・スタウト(1886-1975)がネロ・ウルフシリーズ第1作となる本書を発表したのが1934年、決して早咲きの作家ではありませんが晩年まで精力的に書き続け、このシリーズだけでも長編33作に中短編集14作(1作は死後出版)が残されました。私の読んだハヤカワ・ミステリ文庫版の裏表紙の作品紹介では「発表当時、大センセーションを巻き起こし、現在も本格推理小説の古典的傑作と評されるレックス・スタウトの大傑作」、巻末解説でも「訳者の好みからいえば、おそらく彼の最高の作品で、全探偵小説の傑作の一つといえるであろう」とこれ以上は考えられないほどの大絶賛です。読む前の期待はいやがおうにも高まったのですが...。同じ本格派といっても同時代のエラリー・クイーンとは作風がまるで違いますね。推理説明はそれほど論理的でなく、手掛かりもカモフラージュされた伏線でなくストレートに提示されるので謎解きに意外性など全くありません。しかも犯人の正体が明らかになってからの展開も長いです。しかし私が最も失望したのは謎解きの出来栄えではありません。いくら捜査に非協力的だとはいえ、証言を引き出すために大の男が集団で女性相手に暴力的手段をとっていることです(外出しないウルフは直接加担はしませんが共犯も同然です)。米国ではネロ・ウルフは絶大な人気を誇ってるそうですが、個人的にはこんな卑怯者のどこがいいんだ?と聞きたいです。私にとっては(ひどい意味で)センセーショナルな作品でした(笑)。

No.2 7点 2018/07/17 15:46
 49種類の銘柄のビールを吟味している時、ネロ・ウルフはイタリア女マリアの訪問を受けた。失踪した金細工師の兄を探して欲しいというのだ。メイドのアンナが見たという新聞の切抜きの形から、ウルフは大学総長変死事件との関連を嗅ぎ付けるが…。

 ネロ・ウルフ初登場のスタウト処女作。1934年発表で、同年には「オリエント急行の殺人」「チャイナ・オレンジの秘密」「プレーグ・コートの殺人」が発表されています。
 ハメット「マルタの鷹」の発表がわずか4年前の事にすぎず、チャンドラーの本格的活動開始はさらにこの5年後です。新鮮な会話ときびきびした文章に加え、個性的な探偵を登場させたこの作品は当時から大きな反響を呼び、ウルフはアメリカのシャーロック・ホームズ、彼の登場する一連の事件群は古典として、現在に至るまで一般にも専門家の間にも高い評価を得続けました。
 同時代の他作家たちと比較すると、やはり会話が突出してますね。ただ「シーザーの埋葬」を除く初期5作を読みましたが、読み難さはこれが一番。スタウトの文学趣味がもろに出た感じですが、悪くありません。殺されたバーストウ教授の自宅を訪れるシーン。彼の家族、特に教授の妻との会話には緊張感があります。
 ミステリとしてはウルフの探偵テクニックや彼の肖像が読み所。読んだ限りではスタウトには凝ったプロットはあまりなく、真相の究明よりも証言・証拠の入手に重点が置かれます。よってウルフとワトスン役のアーチー・グッドウィンだけでは足りず、証拠固め役のソウル・パンサー以下3人も含めたウルフ・チームを形成しています。アメリカのホームズと言われる所以でしょう。第一次大戦後のアメリカにホームズ物を成立させるために、それが必要だったのです。
 本作でも根本の動機となる、ある人物が二十年間心に秘めてきた出来事をウルフがあっさりと訊き出すシーンがあります。会話の妙と言ってしまえばそれまでですが、凡百の探偵にあの真似はできません。かたくなに口を噤むアンナから証拠を得る方法はまあアレですね。あそこが山といえば山なんでしょうが。
 既読の初期5作中のお勧めは「ラバー・バンド」ですが、ちょっとシンプル過ぎるので一番はやっぱりこれかなあ。未読の「シーザーの埋葬」も、内外共に評判が良いんで楽しみです。

 追記:作品を読み返してみて、導入部の切り抜かれた新聞記事とか、ウルフの生活の詳細なディティールとか、タイトルのアレとか、予想以上にホームズ要素があるのに驚きました。作者はこのへんかなり意図的にやってるんでしょうね。

No.1 4点 mini 2008/10/18 12:45
ウルフもの第1作目
『このシリーズはどれを読んでも同等なレベルだから、どれが代表作でも同じ、だからその作家の1番の作品への投票は「毒蛇」でいい』みたいな意見を他のサイトで見たことがあるが、その意見には全く賛成出来ない
おそらくそいつはそもそもスタウト作品を1冊でも読んでいたのか疑問すら感じさせる
スタウトの代表作あるいは最高作が「毒蛇」って絶対有り得ない、「毒蛇」が知名度が一応有るのはウルフシリーズ第1作だからという理由しか思い付かないな
私は作品ごとに結構バラツキがあると思う
「毒蛇」は1作目なこともあってか、作者がミステリーを書くことにまだ慣れてなかったんじゃないだろうか、犯人をばらすタイミングが実に中途半端である
物語全体の2/3位で犯人を明かしているが、普通の本格のように終盤まで隠そうと思えば隠せたはずで、でなければ逆に半分位の時点でわざと明かしてしまい後半を犯人とウルフとの対決によるサスペンスに持ち込むという手もあったと思う
少なくともスタウト作品としては「料理長」や「シーザー」には明らかに劣る出来だ


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