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[ 本格/新本格 ]
化身
愛川晶 出版月: 1994年09月 平均: 6.00点 書評数: 5件

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東京創元社
1994年09月

幻冬舎
1999年06月

東京創元社
2010年09月

No.5 6点 nukkam 2023/09/11 22:38
(ネタバレなしです) 谷原秋桜子(たにはらしょうこ)名義でも作品を発表している男性作家の愛川昌(1957年生まれ)の1994年発表のデビュー作の本格派推理小説です。同じ年にはあの京極夏彦もデビューしていますね。ヒロインの女子大生に次々と謎の写真が送られ、調べていくと保育園の誘拐事件が浮かび上がります。自分は誘拐された児童なのか、誘拐犯は両親なのか、展開は非常に地味なのですがヒロインの混乱と疑惑が丁寧に描かれていて退屈しませんでした。ただ苦悩のあまり思考停止までしてしまうので、謎解きも時に停滞気味になるのは諸刃の剣ですね。戸籍に関する謎解きは非常に珍しく、複雑に考え抜かれていますがここは本格派というより社会派推理小説風に感じられました。終盤のどんでん返しが鮮やかで、アレが(ネタバレ防止のため詳細は書きませんけど)1つでなく2つだったのには驚かされました。

No.4 4点 虫暮部 2022/03/10 11:31
 過去の経緯は面白い。両親に対する疑惑を覆せるとは思わなかったので感服。
 一方、現在の怪しい出来事について。あまりに上手く運び過ぎで、まるで操の動向や心情を犯人が読者視点で見ているような印象を覚えた。
 そして、坂崎先輩が “最大のヒント” として示した “宗教画の三枚目” はおかしい。犯人は操に誤解をさせたいのだから二枚目まででいい。三枚目を送ると真実を暗示してしまう。

 ミスがもう一つ。第二章、保育園にて。“そのなも、いだいなカメハメハ”。違う、その歌は「南の島のハメハメハ大王」。

No.3 7点 人並由真 2021/06/07 04:02
(ネタバレなし)
 平成5年の夏。「聖都大学」文学部1年の女子・人見操(みさお)は、自宅のアパートで、何度も奇妙な封書を受け取る。中に同封されていた内容物のひとつは、いずこかの保育園らしき施設の写真だった。操の親友・星野秋子の仲介で、彼女たちのサークル「アウトドア同好会」の先輩・坂崎英雄が事態に介入。ミステリマニアの坂崎は、写真内の手がかりから該当の施設を探り当てるが、やがて、そこでは19年前に幼児の誘拐事件が起きていたことが判明する。もしや自分は誘拐された子供だったのか? すでに両親が他界している操は、坂崎の協力を受けながら、自分の出生の謎を追うが。

 第5回(1994年度)鮎川哲也賞受賞作品。
 評者は愛川作品は初読みで、鮎川哲也賞の本作でデビューということも今回初めて知った。創元文庫版で読了。

 広義の密室状況からの幼児誘拐の謎が、なかなか魅力的。真相そのものはやや弱いが、実態が暴かれていくプロセスの見せ方で、けっこう工夫を感じさせるものになっている。
 しかし特筆&評価すべきは、やはり、主人公と読者を振り回す戸籍関係の謎と真相であろう。いささか専門知識に類するものとはいえ、よく調べてよくミステリとして組み立てたものだと、感嘆することしきり。
 
 創元文庫版で440ページ以上とやや厚めの作品だが、登場人物はリアルタイムでの故人を含めて20人ほどと、かなり少ない(実際のミステリ部にからむのは10人もいないか)。しかしその分、キャラクターは丁寧に書き分けられ、特に身長170cm、体重100kg以上の巨漢ながら終盤まで主人公ヒロイン・操のナイトとして彼女を支える坂崎の造形は実に精神的、人間的な意味でイケメン。そのほかのサブキャラ連中も総じてくっきりと、よく書けている。
 
 スリリングかつシリアス要素も強い、誘拐もの&自分探しミステリではあるが、逆境にくじけない操とそれを応援する坂崎やほかの脇役たちの描写はまさに正統派の青春ミステリの味わいで、クロージングまで心地よく楽しめる。

 kanamoriさんのおっしゃるように、物語&事件のモチーフとして採用されたインド神話にあまり必要性が無いように思えるのは弱点だが、十分に秀作~優秀作。
 あえていえば、過去の事態の真相がちょっとギリギリ……かな。まあフィクション劇中のリアルとしては、これもアリ、ということで。

No.2 6点 kanamori 2010/06/29 20:03
天涯孤独の身の女子大生の自分探しを描く鮎川哲也賞作品。
密室状況からの園児誘拐とか、叙述による誤誘導など本格趣向があふれた良作で、特に戸籍制度の盲点はちょっと感心。
しかし、インド知識に関するウンチクはあまり物語に溶け込んでいないように思います。

No.1 7点 makomako 2008/08/30 17:51
戸籍を使ったトリックでなかなか考えられていると思う。戸籍ってこんなことがあるのかと改めて驚かされる。読後感も悪くない。この本を読んだのは10年以上前で今回再読したのだが十分楽しめた(ストーリーを大分忘れてしまっていたせいでもあるが)。ただ深刻な内容のわりになんとなく薄味な感じは否めない。愛川晶の作品では根津愛シリーズより好きなテイストだ。


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