皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ クライム/倒叙 ] 呪われた者たち |
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ジョン・D・マクドナルド | 出版月: 1965年12月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1965年12月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2022/05/03 15:15 |
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(ネタバレなし)
メキシコのアメリカとの国境の町。アメリカ大使館のパーティに忍び込んだ末、成り行きから殺人を犯したアメリカ人デル・べニックは、逃走の果てに川向こうの母国に逃げ込もうとしていた。だが渡河のためのフェリーは航行不能で、足止めを食う。そして同じフェリーに乗るため、不倫中の石油会社の要職、その愛人、新婚旅行の夫婦とその新郎の母の一行、テキサス牧場主の息子、双子のショーガールとそのパートナーの中年コメディアン、さまざまな立場の人間が集まってきた。 1952年のアメリカ作品。ノンシリーズもの。 メインキャラのひとりべニックが序盤で二件の殺人(ひとつは事故みたいなもの)を行なうが、他にはほとんど犯罪要素もなく、限りなく普通小説に近いような作品である。なんかシムノンのノンシリーズものの感触に、とても似ている。 筋立てそのものは、フェリー場を舞台にした演劇を見ているような趣もあるが、メインキャラといえる5~10人前後の登場人物の内面が順々に語られ、外側のストーリーがゆるやかに進む一方で、トータルとしての小説が進行するような感じ。 地味な作品ではあろうが、そこは筆の立つジョン・Dのこと、すらすらとページをめくらせる。 物語のまとめに関しては、プロローグにも登場したフェリーの下働き乗員マヌエル・フォルノと、その妻ロザリータの芝居が、なんともいえない味を出していた。 本文180ページ弱という短さだが、独特の余韻と腹ごたえを残してページを閉じさせるのもやはりシムノンっぽい。 ちなみにポケミスの巻末には何ら解説もない。もちろんページ数の帳尻の関係でそうなった部分もあろうが、一方でこれは、編集側もこんな作品にモノを言うのにいかにもエネルギーを費やしそうで、こっそり解説の執筆作成をスルーしちゃったんじゃないかな、と勘繰ったりもした。 あれ、もしかしたら、評者がジョン・Dのノンシリーズ長編を読むのはこれが初めてだったかな? 我ながら少し意外。 評点は7点に近い、この点数で。 |