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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
桃色の悪夢
トラヴィス・マッギー
ジョン・D・マクドナルド 出版月: 1966年01月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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早川書房
1966年01月

No.2 7点 人並由真 2022/09/18 17:23
(ネタバレなし)
 トラブルシューター(もめごと処理人)のトラヴィス・マッギーは、旧友で朝鮮戦争時代の戦傷ゆえの盲人、そして今は病気で重篤の身であるマイク・ギブソンから相談を受ける。それはマイクの妹で、20代半ばの商業デザイナー、ナイナのトラブルに関するものだった。ナイナにはハワード(ハウイー)・ブラマーという投資信託銀行に勤務の婚約者がいたが、そのブラマーが先日、夜間の強盗にあったらしく惨死。だが彼はナイナのもとに、素性不明のヤバそうな? 大金を残していったという。早速、自分もかつて面識のあるナイナに再会し、さらに調査を進めるマッギーだが。

 1964年のアメリカ作品。マッギーシリーズの第二弾。
 本サイトでは、先行する空さんの御評価が低めで、それではどんなものかな? と思って読み始めてみる。ちなみに評者はこの前後のシリーズ一冊目と三冊目はすでに既読。

 ……そうしたら、個人的にはかなり面白かった。
 物語前半は、物取り強盗に襲われて死んだらしいブラマー青年の件、謎の大金の件以外さしたる事件性も認められず、正直、地味目な展開を作者持ち前の筆力で読ませている印象。
 ちなみに主人公マッギーについて、実は今は死んだ兄がいたが、彼は兄弟で起業しようと考えていたところ、悪人に騙されて金(または会社)を奪われて苦難の末に自殺した、というあまり聞いたことのない逸話もはじめて知った(前後の作品ではこの件、語ってなかったよな?)。マッギーはその後、どうしたんだろう。兄の仇に対して、何らかの形で復讐とかしたんだろうか。

 で、後半3分の1くらいになって大きな展開があり、ようやくポケミス裏表紙の場面になる(公平に言うなら、今回のポケミスのあらすじは、後半、かなり話が進んでからのシーンを語った事実そのものはよろしくないにせよ、割とネタバレしないように気を使って書いてある?)。
 こんな方向に話が行くのか!? という意味で評者が個人的に想起したのは、スティーブン・キングやクーンツあたりの作品。具体的にどの実作に似てるとかの話ではなく、良い意味で大げさになる話の弾ませ方に近いものを感じた。
 以前に本サイトでもtider-tigerさんが、『黄色い恐怖の眼』のレビューでジョン・Dはのちのキングに似た作法である旨のお説を書かれているが、今回は自分も正に近い感慨を得た。
 本作の作中でマッギーの年上の友人である社交界の女性コニーがやや軽佻浮薄かつ不謹慎に面白がって語る「まるでフー・マンチューもの世界だわ(主旨)」というのが実にしっくり来た。
 怒涛の展開の回収ぶりは、マッギー奮闘のヤマ場を過ぎたら良くも悪くもスムーズにまとめられる感じだが、大事件を終えたあとのエピローグ。その情感たっぷりの余韻がよい。まあ、そうなるんだろうね。でも個人的には(中略)に行く方向も見たかった気もする。

 最後にまとめて言うなら、改めて留意しておきたいのは、本作が1960年代半ば、欧米のミステリ界全体がスパイ小説のブームに巻き込まれた時期で、あの私立探偵のシェル・スコットやエド・ヌーンあたりの連中まで、似たようなエスピオナージめいた事件に関わっていたらしい時代の一冊だということ。
 本作の内容や事件は国際的な陰謀とかその手のことにはまったく関係ない(これは書いてもいいだろう)が、重要なポイントでちょっとそういう作品がはやった時代らしいものを思わせる要素があり、この長編もそういう時の波のなかで書かれた一作だったという感触がある。
 最終的にはしばらくずっと市井の事件屋で過ごしたと思う? マッギーだが、作者ジョン・Dは時代のなかで読者や編集者に向けて、この主人公の活躍はけっこう自由度があるよとシリーズ2冊目で軽く? アピールしたのではないか。そんな風にもちょっと考えたりした。
 明らかにシリーズ上の早すぎる変化球だとは思うが、妙に印象に残りそうな佳作~秀作。

 あーあと、これマッギーシリーズの日本紹介一冊目だったんだよね(笑)。この事件の派手さは、人目を惹くのには良かったような、シリーズの軸からやや外れたという意味でよろしくなかったような。

No.1 4点 2017/05/01 23:23
このトラヴィス・マッギーのシリーズ第2作は、タイトルの意味が明確です。実際にマッギーが桃色の悪夢を見る羽目に陥るという話ですから。
巻末解説では、A・バウチャーのシリーズに対する「プロットがずば抜けていいし、充分にサスペンスフルであって、しかも現代社会やそのほか諸々のことをわれわれの心に描いてみせてくれるし、批判もしている」という言葉を引用していますが、今までに読んだ後年の2作や、本作以前のシリーズ外作品と比べると、少々がっかりな出来栄えでした。もちろん作品によって出来不出来はあるでしょうし、実際本作のプロットは長編としてはちょっと単純すぎるでしょうが、それだけではないような気もします。マッギーの一人称形式で、接した様々な人物や物に対する寸評が書かれているのですが、一貫したテーマ性が感じられず鬱陶しいのです。会話の調子も、多少翻訳のせいもあるかもしれませんが、独りよがりに思えます。


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