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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 黄色い恐怖の眼 トラヴィス・マッギー |
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ジョン・D・マクドナルド | 出版月: 1969年04月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1969年04月 |
No.2 | 6点 | 空 | 2019/05/30 18:28 |
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本作を読んでいてふと思ったのが、ジョン・D・マクドナルドって抄訳しやすい作家だなということでした。冒頭の飛行機がシカゴ・オヘア空港に着陸する部分からして、2ページ中1ページ半はカットしても全く問題ありません。特に本作はストーリーや全体テーマとは無関係なことをマッギーが考え、解説する部分が多いように思いました。
今回シカゴにやってきたマッギーが引き受ける財産消失事件の調査で、脅迫という言葉はごく早い段階で出てきますが、どんな脅迫かがなんとなくわかってくるのは半分あたりです。しかし本当にそんな脅迫がうまくいくのだろうかと疑問も感じてしまいました。で、さらに7割を過ぎてから殺人も起こり、タイトルの言葉はこの殺人現場で出てきます。 最後の犯人と対決しに行くシーンは、なぜ呑気な二人ドライブでって感じだったのですが、これはその後の最終章のためには必要だったわけなんですね。 |
No.1 | 6点 | tider-tiger | 2017/07/30 18:38 |
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トラヴィス・マッギーの元へ、旧友グローリーから救いを求める電話が。彼女は金持ちの医者と結婚したのだが、彼の死後、70万ドルはあったはずの財産がほとんど無くなっていることが判明。一族郎党より疑惑の視線を向けられるグローリーは、身の証を立てて欲しいとのことだった。
1966年の作品。原題はOne fearful yellow eye 書き出しからしてうまいよなあ。描写が的確で引き込まれる。描写の順序も申し分なく、頭の中にすんなり入って絵が浮かびやすい。ただ、伏線がしこまれているわけでもなく、無駄といえば無駄な描写なのだが。 地味だがグイグイ読んでいける作品。人物像の変化が面白い。人物の書き分けもいい。色気は出さずに不要と思った人物は思い切って切り捨てる潔さ。男女の会話もいい。 中盤まではあまり動きがないが、動き始めてからの展開はスリリングで、黒幕の隠し方も、きちんと引っ掛かりを与えられていたので良し。ただ、欧米人の好きなあのネタはやや唐突か。自分は嫌いではないけど、ゲンナリする人もいそう。 それからラストはちょっと頂けない。伏線は張ってあったけど弁護する気になれないなあ。 しかしまあ、本当にマッギーはうるさい。特に終盤のスピーディーに話を進めて欲しいところでどうでもいい車の蘊蓄を語りはじめた時には「ちょっと黙っててくれないか、マッギー」と言いたくなった。ところが、困ったことにマッギーの一人称小説なのでそういうわけにもいかないのだった。 精神分析、LSDなど時代を感じさせるネタはやや古びてしまった印象あるも、きちんと調べて書いていると思われる。特にLSDに関して、服用者にただただわけのわからないことを言わせりゃいいと思っているいい加減な書き手が多い中で、統合失調症患者に似た独特の言い回しをうまく表現していると思った。 それにしても、アメリカの作家って精神分析好きな人が多いですな。 ちなみに自分が白眉だと思うのは、シャーリィ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』の中にさりげなく仕込まれた精神分析の手法。 アイデアは並み。 プロットも並み。 しかし、読ませる技術が並みではないので、読者はまるで卓越したストーリーテラー(メイカーというべきか)であるかのように錯覚してしまう。チャンドラーとはまったく違った意味で『なにを書いても読ませてしまう作家』 描写が的確でわかりやすい。特にアクションシーンの書き方が丁寧でうまい。 そして、滑らかな筋運び。無理がないが、無駄(口)は多い。社会風刺、文明批判などの説教が好き。 深みはないが、平均的なアメリカ人を巧みに描く。 ここまで書いて、ふと思う。 先の書評でいささか乱暴な比較をしたが、この人ってジャンルでくくってロスマクやチャンドラーと比べるべき作家ではなくて、近い資質、方向性、小説観を持っているのは実はスティーヴン・キングではないかと。 キングの『ペット・セマタリー』の書評で、ほとんどの作家はキングのような書き方をすると失敗すると書いたが、では、失敗しない作家は誰なのか。ジョン・D・マクドナルドは有力候補の一人ではないかと私は秘かに思っている。ジョン・D・マックの方がキングよりはるかに先輩なので失礼な言い方かもしれませぬが。 |