海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ SF/ファンタジー ]
ラベンダー・ドラゴン
イーデン・フィルポッツ 出版月: 1979年08月 平均: 1.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


早川書房
1979年08月

No.1 1点 Tetchy 2021/08/14 00:06
フィルポッツによるファンタジー小説という非常に珍しい作品である本書はしかしその予想を大きく裏切る内容である。
題名に示すように登場するのはラベンダー・ドラゴンという美しい鱗に覆われた巨大な古竜でラベンダーの香りを放つことからその名がついた。物語は武者修行中の若き騎士ジャスパー卿が最後に出くわしたこの竜との戦いを描くかと思えば、その予想は大きく裏切られる。

辿り着いたのはドラゴンが創った理想郷とも云える村。そしてそこにはドラゴンに食われたと思われた人々が実に愉しく暮らしていた。
そこから繰り広げられるのはその理想郷に暮すようになったジャスパー卿とその従者の結婚とラベンダー・ドラゴン、即ちL・Dの長ったらしい講釈の数々だ。
それは理想的な街づくりの話であったり、理想の生き方や思想、教育論など様々だ。
それはさながら仏教の教えのような様相も呈してくる。即ち万物の命は皆尊いとか謙遜の心が足らない―これは逆に日本人特有の精神だからドラゴンが西洋人に諭すのには思わず苦笑いをしてしまうのだが―、人の非難をする、取り壊すことは容易だが、建設的な話をする方を好む、などなど道徳論や人の道を説くのだ。

巨大で人間以上の知識を持ち、人語も話すが、その気になれば人間などは簡単に殺すほどの力を持ったドラゴン。そんな畏怖すべき存在が穏やかな性格で人間たちの住みよい街を与え、そして人間たちが図りしえない長い年月を生きてきたことで学んだ考えを諭す。これは当時61歳となったフィルポッツ自身を投影した姿ではないだろうか。彼が蓄積した知識と思想をラベンダー・ドラゴンを介して語っているように思える。
しかしその内容は正直長い説教でしかなく、非常に退屈極まりない。そしてエンタテインメントとしての体を成していない。全知全能の存在であるドラゴンをフィルポッツは人間たちが到底敵わないような強大な存在として描かず、人智を超えた経験値を得た、仙人のような存在として描く。

本書はファンタジーの意匠を借りたフィルポッツの理想論を書いた作品だとするのが正しいだろう。そしてそれは物語の姿を借りずにノンフィクションで出してほしい。


キーワードから探す
イーデン・フィルポッツ
2023年11月
孔雀屋敷 フィルポッツ傑作短編集
平均:7.00 / 書評数:1
2016年07月
守銭奴の遺産
平均:6.00 / 書評数:1
2016年03月
極悪人の肖像
平均:7.00 / 書評数:1
1984年02月
溺死人
平均:6.67 / 書評数:3
1979年08月
ラベンダー・ドラゴン
平均:1.00 / 書評数:1
1977年06月
灰色の部屋
平均:6.00 / 書評数:2
1976年11月
狼男卿の秘密
平均:5.00 / 書評数:1
1960年01月
だれがコマドリを殺したのか?
平均:6.42 / 書評数:12
1956年01月
医者よ自分を癒せ
平均:5.00 / 書評数:1
闇からの声
平均:5.64 / 書評数:11
赤毛のレドメイン家
平均:6.38 / 書評数:21