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[ SF/ファンタジー ]
悪夢の骨牌
中井英夫 出版月: 1973年01月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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平凡社
1973年01月

講談社
1981年12月

講談社
2010年02月

No.2 8点 ALFA 2022/05/29 08:55
「悪夢の骨牌」はマニエリスムを極めた中井英夫の連作短編集四部作「とらんぷ譚」の第二作。四作の中ではミステリー的味わいがあるほうだが本質は「時間」をモチーフにした幻想小説である。

中でもお気に入りは「緑の時間」で、昭和48年の夏、謎めいた優雅な女性が新婚当時の自分に会いに行く話。戦後まもなくと高度成長期、二つの時代の風俗と心理をディテール細かに描くことでタイムトリップのリアリティを出している。
出版からおよそ半世紀たった今、この本を手に取るとテキストの『現在』である昭和48年がはるかな記憶として甦り、主人公のさらに二倍近い年月をタイムトリップする思いにとらわれる。とすれば美しく装丁されたこの一冊は小さなタイムマシンに他ならないのか。

もし愛書趣味をお持ちなら平凡社の初版がおすすめ(たいして高くない)。限定本ならぬ通常出版にもかかわらず、スリップケースに収められたハードカバーはサテンクロス装、箔押し、本文二色刷り。外箱、口絵、トビラ、さらには各短編のタイトルページにも建石修志の挿絵が入るという凝りに凝った装丁で、この時代の出版文化の高さを感じます。
四部作それぞれに黒、深緑、ワイン、赤のクロス装が見事。




No.1 5点 クリスティ再読 2019/08/29 21:46
創元の全集だと「とらんぷ譚」の2番目に当たる作品である。13の短編が奇妙につながりあって出来上がった連作だ。結構最初は幻想ミステリっぽい始まり方をして、4~6番目は乱歩風のファンタジックな理由なき殺人が描かれる。けども7~9は時間旅行を扱ったSFみたいなもので、最後にはそれが「虚無への供物」のテーマのような「反ー戦後史」に収斂する。目も彩なポエジーは溢れているのだが、全体からみると、テーマがずれていったようなもので、前半の稲垣足穂風のファンタジーから後半の猥雑な現実感に流れて、雰囲気も一貫していない。評者は今一つ、と思う。
ミステリとしてはやはり4~6話で、ヒロインの少女藍沢柚香が、自分を崇拝する青年たちをまったく周囲から疑われることなく、死や発狂に追いやる詩的なピカレスク・ロマンの部分だろう。

死よ/香ぐはしき星よ/汝がまたたきの深みに降り/汝が光の臥処に安らはんを/死よ/それまでは青くあれ

と柚香を崇拝する少年が書いた詩を、遺書のように見せかけて殺す話なぞ、ミステリなのか耽美なのかと悩ましい話だったりする(第4話)。同様に

どんな未開の蛮族でも、大昔からミイラの乾し首はりっぱに作ってみせるというのに、現代の科学ときたら、なんてまあ役立たずなんでしょう、美しい生首ひとつ作れないなんて!

とサロメとヨナカ―ンを夢見て慨嘆する柚香は、美青年を首だけ出した牢獄に幽閉する...(第5話)とダーク・ファンタジーなあたりが、評者は好き。けどここらへんが一番この連作だと浮いてる部分だったりする。
魅力があるだけに、困ったものだ。


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中井英夫
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