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[ 短編集(分類不能) ] 薔薇幻視 |
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中井英夫 | 出版月: 1975年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
平凡社 1975年01月 |
東京創元社 2000年04月 |
No.1 | 7点 | クリスティ再読 | 2019/04/15 22:38 |
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さて書評500点記念は「虚無への供物」祭でした。第3弾が本作。評者高校生の頃、平凡社カラー新書が大好きだった....かなりヒネったポエジーのある企画をヴィジュアルでまとめたマニアックな新書シリーズだった。中井は「薔薇幻視」と「香りへの旅」の2冊を書いているのだが、「実用書」ならぬ「虚用書」だと言っているよ。とくに「薔薇幻視」はというと、「虚無への供物」の必読の副読本だと思う。これを取り上げない手はない。
詩あり、パリ~地中海と薔薇を訪ねた紀行文あり、「虚無への供物」での暗合の軸となった赤(過去)、黄(現在)、青(未来)の三色の薔薇を巡るエッセイあり、中井の義兄で植物学者の前川文夫によるバラ科の解説あり、そして最後に小説「薔薇の罠」を収録している。 薔薇の少女よ/飛び降りてこよ ま昼の月は/樹に青みたり なはとびをせむ/草ゆひほそめ 古き石舗く/館のかげに 薔薇の少女よ/なわとびをせむ 中井にとっての薔薇は、マラルメ同様にコトバを超えた彼方に咲き誇る虚の薔薇の姿だ。紅司が植えた薔薇は光る薔薇「虚無への供物」でもなんてもない、二束三文の薔薇だったのかもしれないが、それでも、というかそれであるがゆえに、反世界でのみ咲く薔薇としてあらかじめ「虚無」へと捧げられていた。 柔らかい紫のしとねに眠るのは誰ですか それは青の胎児・青空の色にひらく夢を 見ながら静かなほほえみを浮かべている 不可能の青いバラは遺伝子組換えによって微妙な青色の花を現在では咲かせているにせよ、それによって中井の不可能の夢は枯れ萎むことはない。それは夢、生まれることを拒んだ永遠の胎児の夢だからだ。 本書は美的な側面での「虚無への供物」の最高のガイドブックである。創元の中井英夫全集でも手にははいるが、ここはぜひ平凡社カラー新書を探していただきたい(タマはあるはずですよ)。昔のカラー写真>グラビア印刷の味わい、である。 |