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[ SF/ファンタジー ]
黒鳥譚・青髯公の城
中井英夫 出版月: 1975年05月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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講談社
1975年05月

東京創元社
1998年12月

No.1 6点 クリスティ再読 2019/05/20 08:40
「奇書」というのは、それに感応する読者の人生を歪めることも往々にしてあるのだけど、当然それ以上に作者の人生を強く歪めるものだ。夢野久作は「ドグラ・マグラ」の後すぐに急死しているし、小栗虫太郎は「黒死館」の後はこのような「超本格」路線は止めて冒険ロマン風な作風に転換した。中井英夫はどうか、というと「虚無」が戦後の一時点の精神のありさまの全体像を如実に切り取ってしまったがために、それ以降のどんな作品も「虚無」のバリエーションにしか読めなくなってしまう..という呪いをかけられたのかのようだ。
評者が今回読んだのは昔の講談社文庫で表題の他に「死者の誘い」を収録。それぞれがそれぞれに「虚無」のバリエーションである。「黒鳥譚」はそれが作中作「凶鳥の黒影」であって、蒼司&紅司の兄弟の話であるかのように、「青髯公」は赤と緑の因縁話であるかのように、そして「死者の誘い」は「花亦妖輪廻凶鳥」の一篇、氷沼家(というか中井自身の家)をモデルとし、中井の父を投影して毒草園を育てる

その病院の院長 - って、ポオの小説みたいに、むろん初めから気違いなんだけど、その院長が新種の花を育てているでしょう、だから"花模様"と、植物学の開祖の"リンネ"をひっかけて、こんな外題にしてみたのですが、どうでしょう?

と紅司が温めている作品構想をベースに、「虚無」の第3章と同じく、現実の事件、現実の自殺者の記事をそのまま採用して、「戦後のこの日に」「かくの如く」自殺した自殺者に想いを寄せる「誘い」をテーマにしている。
というわけで、どの作品も「虚無」のバリアントであるかのようだ。作者自身によってさらに砕かれて散乱する「虚無への供物」それ自身の迷宮に、またさらに迷い立ち尽くのは、「虚無への供物」自体がそれ自身「虚無」に対する実体を備えない「虚」の「供物」であるからだろう。


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