Tetchyさんの登録情報 | |
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平均点:6.73点 | 書評数:1619件 |
No.559 | 6点 | 水晶の栓 モーリス・ルブラン |
(2009/06/26 23:13登録) 本作ではそれまでの快刀乱麻の華麗な怪盗振りを見せ、読者を魅了したルパンの姿ではなく、泥棒なのに逆に泥棒され、常に敵に出し抜かれるルパンの姿が描かれ、世に蔓延るルパンのイメージを抱いたまま読むと、かなりイメージダウンは免れない。 でも敵に何度もやられながら立ち向かう姿は泥臭いながらも、ルパンも万能な天才ではなかった事を知らされ、人間くさい面が出てて興味深い。 個人的には最後の水晶栓の隠し場所のトリックがよかったので、かろうじて6点とした。 あと宮崎駿監督の名作『カリオストロの城』で登場するヒロインのクラリスはこの作品から採られている事が解ったのも、ちょっとした収穫だった。 |
No.558 | 7点 | 日本庭園の秘密 エラリイ・クイーン |
(2009/06/25 23:08登録) 空さんもおっしゃってますが、日本では邦題が示すように国名シリーズに数えられているが、原題は“The Door Between”と全く別。私見を云わせていただければ、やはりこれは国名シリーズではなく、『中途の家』同様、第2期クイーンへの橋渡し的作品だと考える。 その根拠は『中途の家』と本作では事件の容疑者は既に1人に絞られ、その人物の冤罪を晴らすという構成に変わっていること。これは『スペイン岬の秘密』で最後にエラリーが吐露した、自身が興味本位で行った犯人捜しが果たして傲慢さの現われではなかったか、知られない方がいい真実というのもあるのではないかという疑問に対する当時作者クイーンが考えた1つの解答であるのではないか。即ち部外者が犯行現場に乗り込んで事件の真実を探ること、犯人を捜し出すことの正当性を、無実の罪に問われている人物への救済へ、この時期、クイーンは見出したのではないだろうか。それは最後、真犯人に対してエラリーが行った行為に象徴されているように思う。 また犯罪のプロセスを証拠によって辿るというよりも、犯行に携わった人々の心理を重ね合わせて、状況証拠、物的証拠を繋ぎ合わせ、犯罪を再構築する、プロファイリングのような推理方法になっているのが興味深い。 しかし私は本書を存分には楽しめなかった。なぜならある作品を読んで真相を知っていたからだ。未読の方のために老婆心ながら本書を読む前に、麻耶雄嵩氏の『翼ある闇』を読まないでおく事を勧めておこう。 |
No.557 | 5点 | ルパン対ホームズ モーリス・ルブラン |
(2009/06/24 19:29登録) 識者の話によれば、当時ルブランはドイルに何の断りもなくホームズを自作に出演させ、この作品を発表したとのことで、当然のことながらドイルは抗議を申し出たが、したたかなルブランはSherlock HolmesのスペルをHerlock Sholmes(ヘルロック・ショルムズ)と変え、するりと交わしたそうだ。 そんなルブランが書いたこの作品だから、自身のキャラクターに思いが偏り、ホームズがホームズらしくない。 「金髪の婦人」など、作品としての面白さはあるものの、やはり有名なキャラクターを借りただけに、色眼鏡的読み方をするのは否めない。 しかしルブランも後々日本の大乱歩が同じようにルパンを拝借して長編を書かれているのだから、ドイルもルブランもやはりこれは有名税というべき業だろう。 まあ、ルブラン本人も極東の地でよもや自分のキャラクターが敵役に使われ、なおかつ勝手に子孫を創作されて、日本のアニメ界に幅を利かせているなんて思いも知らなかったんだろうけど。 |
No.556 | 7点 | 怪盗紳士ルパン モーリス・ルブラン |
(2009/06/24 01:32登録) 大人になってきちんと名作を読もうと思い、まずは有名なルパンシリーズからという事で第1作品であるこの短編集から手を付けたところ、いきなりルパンが逮捕される話だったので驚いた。なんとも憎い演出だ。 これが現代にも残る名キャラクター、ルパンの始まり。そして本作に収められた短編はヴァラエティに富んでいる。 特に最初の3編は「逮捕」→「獄中」→「脱獄」と一連の流れがあり、これによってライバルであるガニマール警部との2人の関係が築かれているのだから、実に素晴らしい。 ただやはりこれは大人になって読むよりも、小学生や中高生の頃に読むのが良かっただろう。もしその頃に読んでいたら、私は迷いなく10点をつけていたように思う。 |
No.555 | 7点 | 綱渡りのドロテ モーリス・ルブラン |
(2009/06/22 22:53登録) 古き良き時代の冒険活劇を匂わせ、また主人公を活発で美しい女性に設定したことで、その万能さもあざとく映らず、快い。 また二世紀を隔てて各国から信じ難い遺言を便りに再開するという展開が私の胸を打った。 期待していなかっただけに、思わぬ拾い物だった。 |
No.554 | 7点 | 殺人喜劇の13人 芦辺拓 |
(2009/06/21 19:50登録) みなさんおっしゃるように、作品の大半を占める登場人物の手記の読みにくさには私も参った。 学生時代の、知識ばかり蓄え、社会性に乏しい青臭さを文章で表現しているのだが、悪乗りのように感じてしまってなかなかスムーズに読むことが出来なかった。 でもこの手法がないと、作品に仕掛けられたある企みが成立しなくなりますからね。 でもこの過剰な文体が読者の事件に関する理解度を落としているとも思いますが。 ただ謎解きを終えて感じるのは作者の本格ミステリへの深い愛情である。 古今東西のミステリを読み、さらにその研究を続ける芦辺氏が過去の偉大なる先達の遺産を換骨奪胎し、紡いだ本作からは彼らに対する深い敬意と本格の火を絶やすべきではないという信念が紙面から迸っている。 それが故に筆が走りがちになっているのは否めないものの、この意欲と情熱は買える。 一種納得しかねる解答―特に背中を刺された人物がその後列車に乗って帰省するといった真相―もあるが、その無理を合理に変えるロジックと説得力がある。 個人的には暗号を解けなかったのが悔しかった。 |
No.553 | 7点 | リュパンの冒険 モーリス・ルブラン |
(2009/06/21 01:34登録) これ、多分、私が中学生の頃に読んだら、かなり面白かったのではないだろうか? 連続活劇とも云うべき場面転換の巧みさは、ここ最近読んだリュパン物の中では随一。原題を『アルセーヌ・リュパン』のみで打ち出していることからも、モーリス・ルブランの本作に対する自信の程が窺える。 ただ、やっぱり物語の構成は他の傑作及び凡作と変わらないのが惜しい。 |
No.552 | 3点 | カリオストロの復讐 モーリス・ルブラン |
(2009/06/19 22:32登録) まあ、こんなものかというのが正直な感想。 内容的にはリュパンの息子(らしき男)が出てきていつもよりも好奇心が沸いたが…。 犯人の判明の仕方が実にフランス的だったとだけ書いておこう。 |
No.551 | 2点 | バール・イ・ヴァ荘 モーリス・ルブラン |
(2009/06/18 23:14登録) 錬金術を編み出した老人の死後、その手法を探りに上手く遺族(ここでは孫娘二人と姉の夫)に取り入った犯人たちの周りで起こる数々の事件をラウールことリュパンが見事解き明かすというもの。 しかし、バール・イ・ヴァ荘とその庭園を舞台に物語が繰り広げられるなら、見取図ぐらい必要だぞ! この人物配置や間取りの理解に苦しみ、物語にのめりこめなかったと書きたいところだが、もしそれがあったとしてもあまり印象に残らない凡作だっただろう。 |
No.550 | 4点 | 二つの微笑を持つ女 モーリス・ルブラン |
(2009/06/17 20:18登録) 冒頭の不可能興味溢れる殺人事件の真相に絶句…。 今までの読書体験を全て無にするような脱力感に捉われた。 ただ恋をしている時にフランスミステリの、普通ならば鼻で嗤ってしまうような愛の囁きはけっこうキます。 特に「アントニーヌ、笑って下さい」の台詞は感性に直撃だった。 |
No.549 | 4点 | ジェリコ公爵 モーリス・ルブラン |
(2009/06/02 23:00登録) 日本の翻訳本ではルパンシリーズの1つとして数えられているが、実はルパンが出ていないノンシリーズ物。ルブラン=ルパンという安直な販売方法が気になるが・・・。 それはさておき、ジェリコ公爵なる人物は実は貴族ではなく、無敵の海賊というのが面白く、これは訳の仕方に無理があるだろうと思われる(公爵に当る単語は英語で云うところのPrince)。 で、ふとある若い女が出くわす記憶喪失の男。彼は非常に魅力的な男で、その女性は次第に恋に落ちていく。 まあ、大体、その中身は見える作品で、非常に少女マンガチックな話である。これがフレンチ・ロマンスかと思ったりもする、王道ストーリー。 ある種、ハーレクインの原形かも? |
No.548 | 5点 | 虎の牙 モーリス・ルブラン |
(2009/06/01 21:43登録) ルパンシリーズ最大長編ながら、イマイチ知名度が低い本作。 二億フランという、現在の価値観でも破格の遺産を巡る殺人事件をドン・ルイス・ペレンナことルパンが探るというのが本書のテーマ。 従って話の風呂敷はとてつもなく大きく、敵も凶悪かつ奸智に長けているのに、結末はなんだかあっさり風で、肩透かし気味。 そしてルパンも結婚して物語が閉じられることからも、当時ルブランがルパンシリーズをこの作品で決着を着けようとしたのが解る作品。 とはいえ、世間はそれを許さず、今度は過去に遡り、ルパンの活躍が語られていくのだが、それはまた別のお話。 |
No.547 | 5点 | 金三角 モーリス・ルブラン |
(2009/05/31 20:06登録) ルパンことドン・ルイス・ペレンナが活躍する本作。 偶然遭った女性に纏わる因縁に立ち向かう元兵士の物語。 題名になっている「金三角」という謎は、引っ張るにしてはなんとも正体は腰砕けである。 また人物の入替りが成されているが、普通これはきづくのではないだろうか? 訳もひどく、改訳した方がいいと思う。 |
No.546 | 9点 | 眠れる美女 ロス・マクドナルド |
(2009/05/30 23:36登録) 冒頭、あまりにもロマンティックな展開に面食らった。これはロス・マクではなくてハーレクインかと思ったほどだ。 とはいえ、このような幕開けは嫌いではない。寧ろ従来のハードボイルド探偵小説物の定型を破る斬新な導入部と評価できる。 この、石油が海へ流出するというシーンから始まる本書は従来探偵事務所に依頼人が来て仕事を依頼する定型から脱却し、自らをいきなり事件の渦中に飛び込ませ、依頼人を得るというまったく逆の手法を用いている。これは常に傍観者たる探偵を能動的に動かそうとした作者の意欲の表れではないだろうか? したがって本作ではアーチャーは本作の中心となる女性、ローレルに好意を抱き、家に誘う。さらに珍しいことに事件の関係者の一人と一夜を共にしたりするのだ。 しかしやはり中盤以降は従来の観察者及び質問者のスタンスに回帰し、ある意味、試みは半ばで費えてしまう。物語中、登場人物に「そんなに質問ばかりして嫌にならない?」とアーチャーに尋ねさせている所は非常に興味深い。 しかし今回も登場人物に対して容赦がない。誰一人、どの家族として倖せな者が出てこない。常に何らかの問題を抱えており、陰鬱だ。 チャンドラーは時には非常に印象的な女性を登場し、物語に一服の清涼剤をもたらしたりしたのだが、ロス・マクは常にペシミズムに満ちている。 またモチーフとなる石油の海への流出が物語の進行のメタファーとなっているのも上手い。ただ『地中の男』の山火事と違い、本作の中ではそれは解決しない。これも真相は判明するものの、事件そのものが解決しないことのメタファーなのだろう。 |
No.545 | 6点 | 中途の家 エラリイ・クイーン |
(2009/05/29 23:28登録) 片や美しい妻を持ちつつも行商人として安物の品々を売る生活、一方で名家の婿になりながらも、相手は年増の性格のきつい女性という二重生活を送っていた被害者。しかしこういった設定にありがちな、周囲の人間関係を探る事で浮かび上がるこの被害者像は不思議な事に立ち昇らなく、犯人捜しに終始しているのが実にクイーンらしい。 ただ真相はどうにもアンフェア感が拭えず(以下、思いっきりネタバレ) 被害者が絶命の間際に言い残した「女にやられた」という手掛かりがここでは全く雲散霧消してしまう。 確かにミスリードとは思いもしたが、裁判でも証言者が犯行当時の犯人の行動を裏付けるのに、明らかに冤罪起訴されるルシーが当人だと名指しするほど、女性に見えたのにもかかわらず、呆気なく覆されるところに、無理を感じる。 また被害者のダイイングメッセージは本格ミステリならば重視すべき物であるのに、それが全く活かされないのはいかなるものなのだろうか。 本書の舞台である「中途の家」同様、クイーン作品体系の中休みとも云うべき作品なのかもしれない。 |
No.544 | 9点 | 一瞬の敵 ロス・マクドナルド |
(2009/05/26 23:09登録) 家庭内の悲劇を描く作者の本作も、最後は後味の悪い、重く苦しい結末を迎えた。 よく「エディプス・コンプレックス」を作者の作品のテーマに挙げられることが多いが、今回も同様。 物語は複雑だ。 登場人物の成り代わり、偽名行為の連続で、登場人物の色合いががらりと変わっていき、その二転三転する流れに頭が追いつかず、考え込むことしばしばだった。 物語の核となるデイヴィは実は単なるデコイに過ぎなく、終盤320ページ辺りで迎える彼の幕引きは驚くほど呆気ない。寧ろ本当の悪は被害者だったという裏返しは買える。 しかし、登場人物が多過ぎ、悪趣味なまでにプロットをこねくり回しているのも確かである。ともあれ、不可解だった逃走者の行動が、最後論理的に明かされる手並みは見事の一言。 |
No.543 | 8点 | ブルー・ハンマー ロス・マクドナルド |
(2009/05/25 23:10登録) ロス・マクドナルドの遺作とされる本作はごく一般に駄作だと云われるが、私にしてみれば物語の焦点が常にぶれず、物語の軸が常に明確であったせいか点数的には高いものとなった。また盗まれた絵画を追うという従来の失踪人捜しとは毛色の違う展開が新鮮だったことも物語に魅力を感じた一助になっている。 ともあれ、確かに登場人物構成が二転三転、はたまた四転五転し、プロットが結局破綻していないのか判断が付きかねるが、やはり最後にアーチャーが犯人に呼びかける言葉は物語の終焉にダメを押す。 さらにアーチャーが生まれ故郷に行き、今までストーリーに描かれたことのない結婚生活について触れるのもシリーズ最後の原点回帰の様相を呈しており、著者がまさにアーチャーシリーズに決着を付けようとしていたようにも思える。 何しろアーチャーが恋患いをするのだから面白い。 これは感情を押し殺した傍観者からの脱却を意味し、感情を持った主人公はもはや探偵たる資格を持たないというメタファーでアーチャー御役御免の意味合いを強く感じた。 |
No.542 | 4点 | ホームズ二世のロシア秘録 ブライアン・フリーマントル |
(2009/05/24 19:57登録) 本作も前作同様、第一次大戦開戦の火花がいつ起こるか解らない1913年を舞台に歴史上の人物らとシャーロック、マイクロフト、セバスチャン、ワトスンらが共同し、諜報活動に乗り出す。 前回はアメリカが舞台だったが今回はタイトルにもあるように、ロシア。 しかもまだロマノフ王朝が国を治める時代の話。しかしレーニン、スターリンら、後のロシア革命の立役者たちの暗躍も同時に語られ、ロシアの歴史の大転換期と第一次大戦が起こるか否かの瀬戸際の非常に緊迫した雰囲気の中にセバスチャンは晒されており、前作にも増して状況はスリリング。 しかしそれでもなお、なんだか割り切れないんだな。 ここに描かれているホームズは非常に人間くさく描かれている。 これこそ作者の意図するところなんだろうけど、果たしてこんなホームズを見たかったという人がどれだけいるだろうか? この世界一有名な私立探偵はもはや“スター”であり、“ヒーロー”なのだ。 そんな男がウジウジしているところなんて読みたいと思わないのではないか? 色んな要素が盛り込まれている贅沢な作品だけれども、やっぱり手放しに賞賛できないなぁ。 |
No.541 | 3点 | 兇悪の浜 ロス・マクドナルド |
(2009/05/24 00:57登録) ハードボイルドのプロトタイプの型にかっちり嵌め込んで作られた印象が強く、従って妙に何も残らなかった。 文章は今までの一連のロス・マク作品の中では最も読みやすく、あれよあれよという間に事が進んでいった。 事件の手掛かりが容易に手に入るのも気になったし、登場人物各々があまりに類型的過ぎた(トニー・トーレスは若干異なっていたが)。 |
No.540 | 5点 | 動く標的 ロス・マクドナルド |
(2009/05/23 00:05登録) 探偵リュウ・アーチャー初登場ということで、「質問者」という位置付けはある程度規定されているものの、どうも三文役者に成り下がっている印象が濃い。人の間の渡り方がどうにも不器用で、未熟である。 またプロットが平板で落ち着くであろう場所に落ち着いたという感じ。 う~ん、残念。 |