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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.73点 書評数:1631件

プロフィール| 書評

No.851 7点 歓喜の島
ドン・ウィンズロウ
(2010/09/20 22:18登録)
1950年代の夜霧の雰囲気漂うハードボイルド調と、またしてもウィンズロウの新たな一面に触れられる作品である。古き良きアメリカ。まだ夢が夢として存在し、誰もが成功する可能性を秘めていた時代がセピア色の文体で語られる。行間には常にジャズが流れ、男と女は本心を揺蕩わせながらその日を生きるムードが漂っている。

そんなウィンズロウの新境地を切り開く作品だが、それでもやはり今までの作品と同様に政治家のスキャンダルが物語の要素だというのもそろそろ飽きてきた。思えば第1作の『ストリート・キッズ』もこの次期大統領候補と目される上院議員の、スキャンダルを未然に防ぐだめに不肖の娘を確保するという内容だった。この政治的スキャンダルはウィンズロウ作品にはけっこう取り扱われているテーマであり、純粋にスラップスティック・アクションに徹した『砂漠で溺れるわけにはいかない』からウィンズロウの新境地への幕開けと思っていただけに本書のプロットは期待とは違ってしまった。


No.850 8点 ニューウェイヴ・ミステリ読本
事典・ガイド
(2010/09/18 00:29登録)
新本格だけを焦点にしたミステリガイドブック。
だが新本格そのもの自体がマニアックな領域であるためか内容もマニアックなものとなっており、本来初心者のための案内書という意味でのガイドブックとしては不合格と云わざるを得ない。
その最たる一因は掲載されている評論が難し過ぎる。もっと平易に判りやすく出来ないものか。恐らく編者にしてみれば十分満足のいく一冊だろうが、それは編者の自己満足に過ぎない。


No.849 5点 これがミステリガイドだ!
事典・ガイド
(2010/09/16 21:40登録)
『ミステリマガジン』誌上での連載評論を読んだときに著者に興味を持ち、半ばその反動に後押しされながら購入したのだが、やや期待外れの感が…。
確かに論客であるのは認めよう。だがあまりにも己の知に走り過ぎていやしまいか?抽象的表現が多くて要旨が掴みにくいのだ。それは過去に自分が読んだ本の書評に関してもそうだった。あとやたらと“世紀末”を煽るのもいささか気疲れがした。


No.848 5点 創元推理17
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/09/14 12:10登録)
副題になっている『ぼくらの愛した二十面相』の脚本が想像を巡らせるだけで愉しいものだったが、しかし評論はもう少し解り易くならないもんかなぁ。ああいう堅苦しい評論を読むと、推理小説が如何に排他的で閉塞されたジャンルなのかをまざまざと見せつけられる。理解できる者だけついて来なって、それじゃあ余りにも冷たいでしょう。


No.847 8点 このミステリーがすごい! 傑作選
事典・ガイド
(2010/09/14 00:34登録)
「傑作選」と銘打ちながらも、内容は「覆面座談会集」に過ぎなかったことは残念。
それなのに8点を与えたのは、やっぱりそれでも面白かったから。
作者・出版社が丹精に仕上げた作品群を捏ね繰り回して、時には一笑に附すような傲慢さ、不遜さが顕著だが、それはそれ、人間の心の深い部分で誰しもが持っている負の部分をストレートに表現しているという点で、評価できるし、羨望すら感じる。


No.846 4点 シャーロック・ホームズの災難(下)
アンソロジー(海外編集者)
(2010/09/12 21:40登録)
下巻はユーモア作家たちと研究家諸氏によるパスティーシュが収録されているが、正直長編で「これは!」と思うものはなく、スティーヴン・リーコックの「名探偵危機一髪」、正体不明の作家A・E・Pの「シャーロック・ホームズの破滅」、医学博士ローガン・クレンデニングの「消えたご先祖」など一発オチのショートショートに光るものがあった。

このアンソロジーは歴史に埋もれそうになりつつあったホームズのパスティーシュを残すための文学的功績以外、その価値はないだろう。


No.845 4点 シャーロック・ホームズの災難(上)
アンソロジー(海外編集者)
(2010/09/11 23:33登録)
巻頭言によれば本書が世界で初めてのホームズパロディ短編集だそうだ。

全部で4部構成となっており、上巻には第1部探偵小説作家編と第2部著名文学者編が収録されている。

上巻では有名なモーリス・ルブランの「遅かりしホルムロック・シアーズ」と「稀覯本『ハムレット』」が個人的ベスト。クリスティやバークリー、そして編者のクイーン自身の作品もあるが、あまり出来はよくはなく、寧ろ肩の力を抜いて気楽に書き流している感がある。
高名な大家、マーク・トウェイン、O・ヘンリーによる作品はなんだかホームズの人気を妬んでいる節も無きにしも非ず。

う~ん、下巻はどうなんだろう?


No.844 7点 東西ミステリーベスト100
事典・ガイド
(2010/09/09 21:43登録)
こうさんに云われるまで気付かなかったが、確かに新本格以前の、しかも東野圭吾登場以前のミステリシーンで、何がベスト100だったのかを知るのに貴重な1冊。
個人的には新本格を読んだ以後に手に取ったため、掲載されている作品に古さを感じたことが先に立ったので、この評価になってしまうが、今埋もれつつ名作を知る上でもずっと手元においていたい1冊。


No.843 3点 創元推理16
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/09/08 21:17登録)
巻を重ねるごとに内容が乏しくなっていき、単なるマニアの会報になってきた。休刊になるのもむべなるかなといった感じだ。
本巻で定期購読は打ち止め。その後の内容は知らない。


No.842 4点 ミステリー&エンターテインメント700
事典・ガイド
(2010/09/07 21:49登録)
非常に薄味なガイドブック。作品に対する“愛”が感じられないなあ。その後創元推理誌上で増補されていたが、何の意味があるのやら。


No.841 3点 創元推理15
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/09/06 21:21登録)
セイヤーズの評論が抜群によかったのだが、クリスティの『アクロイド殺し』のネタバレが何の注釈もなく、されていたのがorz


No.840 7点 創元推理14
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/09/05 21:53登録)
久坂恭氏(森英俊氏)の「謎ときの王国」が毎度面白いが、この巻も鉄板。
また名作館の佐藤春夫に拍手を贈りたい。


No.839 7点 同級生
東野圭吾
(2010/09/02 21:45登録)
てっきり学園青春ミステリとは縁を切ったと思っていた東野圭吾が久々に学生、しかも高校生を主人公にして書いたミステリ。
ただ非常に危うい設定の作品であると云わざるを得ない。主人公の行動に矛盾がありすぎる。
しかしこれらは推理小説として捉えればの話であり、青春小説として捉えれば、この主人公の行動も理解が出来る。
しかし毎回思うがこの作者の筆致の淀みの無さはいったい何なんだろう?全く退屈を感じさせること無く最後まで読ませる。しかも巧みに物語に謎を溶け込ませ、読者に推理を容易にさせない。推理するためにページを繰る手を止めるよりもストーリーが気になって先に進めることを選択せざるを得ないのだ。そして最後の一行のカッコ良さ。青臭さを感じる生意気な高校球児である主人公西原荘一のお株をグンと挙げるキメ台詞だ。
成熟の域に達した東野が久々に放った青春学園ミステリは、やはり上手さの光る逸品であった。


No.838 5点 創元推理13
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/09/01 21:18登録)
探偵小説名作館は好企画。時々こういう面白企画があるから止められなかった。
河田陸村の論文がけっこう面白かった。


No.837 5点 本格ミステリー・ワールド2010
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/08/31 22:26登録)
相変わらず島田荘司監修と銘打たれているが、島田は冒頭に巻頭言を捧げるだけで、象徴的存在に過ぎない。今まで二階堂黎人の俺ミスと云われるほど、独裁的な内容で、むかつくことばかりだったが、今回は独裁的発言がなくなったことは喜ばしいものの、逆に毒気が無くなってしまった。まあ、非常に贅沢な感想ではあるが。

しかしこのムックはもう少し一般人に門戸を開いてもいいのではないか?コラムが学術的に富んでてとっつきにくい。装丁も特集の作家以外は一色刷りでなんとも味気ない。
よくこれで商売が成り立つなと余計な心配をしてしまうほど、硬派なムックだ。


No.836 7点 ボビーZの気怠く優雅な人生
ドン・ウィンズロウ
(2010/08/29 21:20登録)
いやあ、すごいね、これは。題名は「気怠く優雅な人生」だが、中身は全く正反対。ニール・ケアリーシリーズと違って死体が出るわ出るわ。たった310ページ強の作品なのに、今までの作品よりも出てくる死人の数が多い。

しかしやはりニール・ケアリーシリーズを比べるとくいくい読めるものの、心に何かを残すのには軽すぎたように思う。
だがこの作者の作品が面白くないわけでは決してない。寧ろ何も考えずに面白い話を読みたいという人や時には最適の一作だろう。


No.835 6点 最後の一球
島田荘司
(2010/08/28 21:28登録)
この頃の島田は物語の復興を唱えていた。ミステリはトリック、ロジックも大事だが、まず小説でなければならない、コナン・ドイルの時代から描かれてきた物語がなければならない、確かそのようなことを提唱していたと記憶している。

ミステリとしてどうかと云われるとその出来映えについてはやはり首を傾げざるを得ない。御手洗が登場するのは全277ページの物語のうち、たった76ページぐらいで、その後はある野球選手の半生と事件に至るまでの経緯が手記の形で語られるのである。したがって御手洗の推理らしきものはほとんどない。まあ、確かに御手洗は超人型探偵で事件に遭遇しただけで全て見極めてしまうのだが。

しかしそんな構成上の不満はあるものの、やはり島田のストーリーテラーぶりは素晴らしい物がある。少しの才能でプロ野球選手を目指した貧しき男と、天性の才能で見る見るうちに球界を代表する選手にまでなった全てを手に入れた男の友情物語は、はっきり云ってオーソドックスな浪花節以外何ものでもないが、くいくいと読まされる。作者の揺ぎ無い創作姿勢とも云える弱者への優しい眼差しも一貫されている。つくづくこの作家は物語を語るのが上手いと感じた。

ただ現代本格ミステリ界の巨人としてはやはり上記の理由から凡作といわざるを得まい。100ページ足らずの短編をエピソードで無理矢理引き伸ばした長編、もはやテクニックだけで書いている作品だなぁと一抹の寂しさを感じてしまった。


No.834 7点 砂漠で溺れるわけにはいかない
ドン・ウィンズロウ
(2010/08/27 23:02登録)
毎回このシリーズには印象的なキャラクターが登場するが今回は何といってもニールが家へ連れ戻す老人、元コメディアン、ナッティ・シルヴァーことネイサン・シルヴァースタインのキャラが秀逸。
今までの作品でのウィンズロウのウィットに富んだ文体で彼のユーモアのセンスは解っていたつもりだが、コメディアンをメインに据えた本書ではそれが全開。今まで我慢していたギャグを大放出しているかのようだ。そしてそれがほとんど面白い。それがまたナッティのキャラクターの造形を色濃くしている。そしてその飄々とした好々爺の風格が古き良き時代のアメリカン・コメディアンそのものであり、眼前にナッティがしたり顔でジョークを連発するのが目に浮かぶくらいの存在感を放っている。


No.833 3点 大富豪殺人事件
エラリイ・クイーン
(2010/08/20 22:11登録)
※ネタバレあり
表題作は大富豪の被害妄想が現実になって殺人事件に発展するという趣向を取ったのだろうが、非常にオーソドックスな内容になっている。明かされる犯人は実は怪しいと思っていた人物だが、その動機―遺言執行人報酬として得られる1000万ドルのうち1%の10万ドルを狙ったもの―は確かに今までにないものだろうが、犯人の背景にお金に困っているという叙述が全くないだけに唐突な感じを受ける。辛辣になるが単純に法律の知識を活かした作者の自己満足に終わっていると云えない訳もない。

もう1編の「ペントハウスの謎」は創元推理文庫の『エラリー・クイーンの事件簿Ⅰ』で既読。

元々この作品は買う予定ではなかった。表題作は創元推理文庫の『エラリー・クイーンの事件簿Ⅱ』に収録されているが長らく絶版状態だったので手に入れた次第。
内容的には薄味だったので本書がクイーンファンにとってマスト・バイであるとは正直お勧めできない。とはいえ、ここはこの作品を絶版にせずに今なお目録にその名を留め、書店の棚に収めている早川書房の志を敢えて褒めるべきだろう。


No.832 6点 創元推理12
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/08/19 20:59登録)
「1万円で選ぶベストミステリ」の企画は面白い!
これは今やってもいいくらい。本書が発行された96年に比べ、本の値段は高騰しているから挙げられる冊数も減ってくるだろう。それがゆえに呻吟して選びそうな気がする。
あと戦前・戦後の本格推理小説の紹介には疑問を覚える。埋もれさせてはいけないという小説史的に価値はあるかもしれないが、現在読む価値があるかというとはなはだ疑問。
まさにマニアの為の雑誌だな、こりゃ。

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