シャーロック・ホームズの災難(上) エラリイ・クイーン編 |
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作家 | アンソロジー(海外編集者) |
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出版日 | 1984年12月 |
平均点 | 4.67点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 5点 | 弾十六 | |
(2018/12/24 06:23登録) 1944年出版。『エラリークイーン推理の芸術』(2013)によると、EQ編集「101年の娯楽」のドイル作品の再録許可ミスによりアドリアンにつけ込まれお蔵入りになったアンソロジー。序文の「クイーンの片割れ」部分が(何故か)マンフレッド リーを怒らせたいわくつき。(コンビ芸人がピンの仕事に注力する相方を快く思わない感じ…) 収録作品は ⑴ペグラムの怪事件(ロバート バー)、⑵遅かりしホルムロック シアーズ(ルブラン)、⑶洗濯ひもの冒険(キャロリン ウェルズ)、⑷稀覯本「ハムレット」(スタリット)、⑸ホームズと翔んでる女(バークリイ)、⑹婦人失踪事件(クリスティー)、⑺高名なペテン師の冒険(バウチャー)、⑻ジェイムズ フィリモア氏の失踪(クイーン)、⑼不思議な虫の事件(パーマー)、⑽二人の共作者事件(バリー)、(11)大はずれ探偵小説(トウェイン)、(12)盗まれた葉巻入れ(ブレット ハート)、(13)シャムロック ジョーンズの冒険(O. ヘンリー) まとめて読むと胃もたれするので少しづつ書評。とりあえず総合5点で。(初出はEQのゆきとどいた解説を元にFictionMags Indexで補正)ここまで2018-12-24記載 ⑴The Great Pegram Mystery by Robert Barr (Idler 1892-5 as ”Detective Stories Gone Wrong: The Adventures of Sherlaw Kombs” by Luke Sharp) 中川 裕朗 訳: 評価7点 おちょくりが心地よい作品。S.H.の見事なカリカチュアになっています。ちゃんとワトスンの立場をわかってるのが良いですね。 p41 自動六連発(his self-cocking six shooter): この時代「自動拳銃」はありません。ボーチャードC-93(1893)が自動拳銃の最初です。(ガンマニアに)誤解のない翻訳は「ダブルアクションの六連発」ですが、(マニア以外には)煩わしいので「六連発」で充分でしょう。1892年の六連発ダブルアクションリボルバーなら有名どころでWebley Mk.I(1887)、S&W .44 DA(1881)、Colt M1889など。なお「自動六連発」でガンマニアが連想するのは、レアなWebley–Fosbery Self-Cocking Automatic Revolver(1901)ですね。シリンダを回してコックするのに引き金を引く力ではなく撃った反動力を使う特異なリボルバーです。 p43 紙幣で300ポンドばかりを引き出して(he drew something like £300 in notes): 消費者物価指数基準1892/2018で123.4倍、現在価値約520万円。 p46 半ソヴリン貨(half a sovereign): 車掌の一働きに対する謝礼。0.5ポンド金貨、現在価値8673円。 (2018-12-24記載) ⑵Holmlock Shears Arrives Too Late by Maurice Leblanc (Transatlantic Tales 1907-10 as “Sherlock Holmes Arrives Too Late”、仏初出Je sais tout 1906-6-15 as “La Vie extraordinaire d'Arsène Lupin : Sherlock Holmes arrive trop tard”)中川 裕朗 訳: 評価4点 懐かし〜!まあ話自体は工夫の足りない、ただのルパンの自慢話なんですけど。 (2018-12-24記載) ⑶The Adventure of the Clothes-Line by Carolyn Wells (Century 1915-5) 中川 裕朗 訳: 評価5点 名探偵協会(The Society of Infallible Detectives)シリーズは他に2作、まーどれもふざけた作品なんですが… この作品ではワトスンが一番良いですね。なお原書にはイラスト2枚付きです。 (2019-1-2記載) ⑷The Unique Hamlet by Vincent Starrett (私家版1920) 中川 裕朗 訳: 評価4点 シャーロックは愛書家の世界に興味を向けるタイプでは無いと思いました。 (2019-1-23記載) ⑸Holmes and the Dasher by Anthony Berkeley (単行本1925) 中川 裕朗 訳: 評価4点 バークリーなので非常に期待してたんですが… 翻訳がふざけ過ぎな感じ。「クソ面白くない」はdashed thick and not a little rotten、dashed rotten and pretty thick、pretty well dashed thick and rottenの三変化です。英語力が無いのでよくわかりません… なぜワトスンがBertieなのかといえば、ジーヴスの(愛すべき間抜けな)御主人の名前だからですね。(ここではホームズがジーヴスの役) ウッドハウスの文体のパロディらしいのですが、翻訳では生かされていないように感じます。 (2019-1-23記載) |
No.2 | 4点 | Tetchy | |
(2010/09/11 23:33登録) 巻頭言によれば本書が世界で初めてのホームズパロディ短編集だそうだ。 全部で4部構成となっており、上巻には第1部探偵小説作家編と第2部著名文学者編が収録されている。 上巻では有名なモーリス・ルブランの「遅かりしホルムロック・シアーズ」と「稀覯本『ハムレット』」が個人的ベスト。クリスティやバークリー、そして編者のクイーン自身の作品もあるが、あまり出来はよくはなく、寧ろ肩の力を抜いて気楽に書き流している感がある。 高名な大家、マーク・トウェイン、O・ヘンリーによる作品はなんだかホームズの人気を妬んでいる節も無きにしも非ず。 。 う~ん、下巻はどうなんだろう? |
No.1 | 5点 | mini | |
(2009/09/19 09:32登録) 近日25日発売予定の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”ドイル生誕150周年” 150周年なんて区切り方があるとは思わなかったよ 便乗企画としてホームズにちなんだ書評を クイーンは編集者・アンソロジストとしての側面も見逃せないが、このホームズ・パロディ集は曰くがあって、ドイルの遺族に反対されたらしい ホームズのパロディはそれこそホームズの第1短編集が刊行された直後から存在したようで、全部集めりゃ膨大な数になるんだろうな その中から編集者クイーンが厳選したわけだが、アンソロジストとしてのクイーンはちょっとメタなものを好むようで、他のクイーン編纂アンソロジーにもその傾向がある 特にこのアンソロジーは嗜好が強く出ており、正統派の物真似パスティーシュっぽいものは少ない パロディ作品中でも有名なヴィンセント・スタリット「稀覯本『ハムレット』」でも正攻法過ぎ位に思えちゃうもんな 例えばキャロリン・ウェルズ、バークリー、スチュアート・パーマーあたりはもう悪ふざけで編者クイーンの好みが出てるなあ キャロリン・ウェルズは古典時代の女流大衆作家で、J・S・フレッチャーやエドガー・ウォーレス同様に多作な大衆作家って翻訳の盲点になっているので、どこかの出版社に頑張って欲しいものだ 意外にがっかりだったのは第ニ部の著名文学者編で、純文学者でホームズのパロディ書いた作家なんてもっと居そうだけどなあ ブレット・ハートはミステリー専門作家じゃなかったんだ、知らなかったな、早川版「ホームズのライヴァルたち」にも収録されてるし、クイーンの定員にも入っていたし |