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ミステリの祭典

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YMYさんの登録情報
平均点:5.91点 書評数:386件

プロフィール| 書評

No.166 5点 トウシューズはピンクだけ
レスリー・メイヤー
(2021/08/16 22:57登録)
主婦探偵ルーシーが活躍するシリーズ二作目。
年老いた元バレエダンサーが突然、姿を消した。さらに、ルーシーは金物屋の主人の死体を発見することに。四人目の子供を妊娠中のルーシーだが、生来の好奇心の強さから、二つの事件に首を突っ込むことになる。
大工の夫と十歳を頭に三人の子供をもつルーシーの毎日は忙しい。息子は野球の練習があり、娘たちはバレエの発表会を控えている。つい夕食を冷凍食品で手抜きすると、夫に文句を言われてしまう。そんなこまごました日常の描写が精彩に富む。
テーマは意外に重いが、保守的な小さな町を舞台にした、人情と勇気にあふれるルーシーの活躍ぶりに、ほのぼのとした気持ちになれる作品。


No.165 6点 殺人七不思議
ポール・アルテ
(2021/08/10 23:22登録)
古代世界の七不思議をモチーフにした予告連続殺人事件を相手に名探偵オーウェン・バーンズと相棒のアキレスが奮闘する謎解きミステリ。
次々と起こる不可能犯罪、警察に送られてくる暗号付きの予告状と、J・D・カーの後継者と自任する作者らしい作品といえる。冒頭に語られる「愛」にまつわる一文が作品に通底するテーマになっており、その一文があるゆえ謎解きが終わった後に、読者に提示される情景は残酷なれど美しい。


No.164 5点 ミスティック・リバー
デニス・ルヘイン
(2021/08/10 23:11登録)
三人の男の人生が微妙に交錯する物語で、テーマは子供時代の性的虐待。それが人を狂わせ、悲劇へと導く過程をエモーショナルに捉えている。
作者らしい繊細で心温まる作品(決してハッピーエンドとは言えないが)。全編に漂う、やるせない哀しみとそ、そこはかとない孤独感がとりわけ印象的。


No.163 5点 ユダヤ警官同盟
マイケル・シェイボン
(2021/07/26 23:09登録)
第二次大戦後、流浪のユダヤ人がアラスカに自治区を築いたという設定の物語で、デビュー作にも色濃くあった自らのユダヤ人という出目や同性愛に対するこだわりが、強烈に反映している。
最初のうち展開がもったりする感はあるが、メンデルの正体が明らかになって以降は面白くなってくる。警察小説にして改変歴史SF小説。


No.162 6点 子供の眼
リチャード・ノース・パタースン
(2021/07/16 23:02登録)
「罪の段階」に続く弁護士パジェット・シリーズの第二作。上院議員選挙に出馬するパジェットが殺人の容疑で逮捕されるという設定がショッキング。部下の弁護士テリーザの夫リッチーが殺され、目撃証言から犯人とされたのだ。
緊迫感に満ちた法廷劇もさることながら、政治と家族と恋愛をめぐるドラマも物語の進展とともに白熱化してくるなど読み応えあり。


No.161 6点 鼠たちの戦争
デイヴィッド・L・ロビンズ
(2021/07/09 22:35登録)
スターリングラードの戦いで、敵と味方に分かれて戦った、ドイツとロシア双方の天才スナイパーを描く冒険小説。
二人の狙撃手のスリリングな駆け引きが最大の読みどころなのだが、登場人物たちが織りなしていく人間ドラマのふくらみもそれに負けていない。戦争文学とエンターテインメントのクロスオーバーといえるでしょう。


No.160 8点 孤島の鬼
江戸川乱歩
(2021/06/30 21:54登録)
独特の愉悦に満ちた一大浪漫絵巻の世界が繰り広げられ、幻惑される。
前半は、密室殺人と衆人環境の中での殺人という二つの不可能犯罪を軸とする。主人公の友人である医学者がこの謎解きをするが、密室の謎解きは当時の日本家屋の構造についての知識が必要と思われる。
話が進むにつれ、せむしや小人が登場し、怪しさが増してきてミステリというより、秘境冒険小説というノリになっている。


No.159 8点 法月綸太郎の功績
法月綸太郎
(2021/06/21 23:36登録)
作者と同じ名前の名探偵、法月綸太郎が難事件を解決するシリーズ。推理作家でもある探偵の父親は警視庁のお偉方という設定。
端正で爽快な謎解き狙いで固めた一冊。その意味で、インターネットに流れる都市伝説と見立て殺人を組み合わせた「都市伝説パズル」は堅い守りを見せる。「ABC包囲網」はクリスティーの「ABC殺人事件」の本歌取りのようで、しかし何だか煙に巻かれたような解決がおかしい。


No.158 5点 ロックダウン
ピーター・メイ
(2021/06/12 23:37登録)
死亡率80%の新型ウイルスが猛威を振るうロンドンで、事件の真相を追う。2005年に書かれた作品だが、今日の状況にも重なり合う風景が生々しく描かれている。仮説病院の建設現場で発見された子供の骨。辞職間近の刑事マクニールがその身元を探る。一方で、彼の身近なところにも感染者が。
事件の真相はある意味では凡庸。だが、本書の魅力は結末ではなく、その過程にある。マスクを着け、他者と距離を取るという、今ではおなじみの光景に加え、高い致死率という過酷さに苦しむロンドンの様子。その中で、絶望を抱えながらも真相を追うマクニールの姿。灰色の中の微かな光明が心に残る。


No.157 5点 マイ・シスター、シリアルキラー
オインカン・ブレイスウェイト
(2021/06/12 23:30登録)
またしても彼を殺してしまった。アヨオラは姉のコレデに助けを求め、コレデは死体を処分する。警察の捜査も何とかやり過ごしたものの、新たな難題が。
共存をこじらせた姉妹の関係の歪みが印象に残るが、不条理な展開と軽快な語りのおかげで、ユーモラスな雰囲気に包まれている。
典型的な犯罪小説の枠から外れていく展開とその結末は、いっそ小気味よい。


No.156 8点 消失の惑星
ジュリア・フィリップス
(2021/06/04 23:14登録)
ロシア極東で起きた幼い姉妹の失踪事件を中心に、カムチャッカ半島に生きる多くの女性たちの心象を克明に描出する小説。
難航する捜査の裏で、先住民の遊牧民と白人の定住者、中央と辺境、女性と男性などさまざまな力学の不均衡をはらんで、噂は膨らむ。日常生活に根を下ろした不安感は、女たちに愛と実存の問題を突き付ける。共感力を呼ぶ、細かな心理描写が見事な一冊。


No.155 9点 カーテン ポアロ最後の事件
アガサ・クリスティー
(2021/05/28 22:41登録)
完全にネタバレ




読者を騙すためなら何でもやる作者は、ヘイスティングスという愛すべきワトスン役も騙しの道具として利用することさえもためらわなかった。
名探偵=犯人というパターンの作例として話題に上ることが多いけれど、実はワトスンがある人物を死に至らしめたことに自分では全く気付いていないという、普通だったらあり得ないようなとんでもない離れ業を成就させた作品として評価したい。


No.154 9点 皇帝のかぎ煙草入れ
ジョン・ディクスン・カー
(2021/05/28 22:36登録)
完全にネタバレ




証人が暗示に弱いことを知悉している犯人が、先に自分が殺しておいた被害者がまだ生きている光景を窓から見たと証人に語ってこれを信じさせ、証人自身が目撃したかのごとく思い込ませてアリバイを成立させる。
目撃証人の記憶力の確実性という本格ミステリの不文律を逆手に取った作品。


No.153 8点 火刑法廷
ジョン・ディクスン・カー
(2021/05/16 23:55登録)
中世フランスの毒殺魔で、火刑に処せられた侯爵夫人、その生まれ変わりと思われる不死の女性、死体の消失、壁を抜ける女性、謎を秘めた老探偵ゴーダン・クロスなど、怪奇趣味、不可能興味とトリックが融合しており、合理的に解決しておいて、それをまたホラーの世界へとひっくり返すところが憎い。


No.152 8点 踊り子の死
ジル・マゴーン
(2021/05/07 23:16登録)
舞台は、翌年から共学になる予定の全寮制パブリックスクール。交通事故で記憶の一部を失い、杖が必要となったフィリップが英語教師として赴任してくる場面で幕が上がる。教師間の人間関係は、あまり良好とは言えず、盗難事件が頻発するなど、学内には不穏な空気が漂っていた。
舞台と登場人物を限定した上で展開する犯人探しは起伏に富んでダレ場が無く、ラストの推理の切れ味も良い。一読の後、読み返して伏線を確認する楽しみもある。


No.151 8点 死の接吻
アイラ・レヴィン
(2021/05/07 23:10登録)
ドライザーの「アメリカの悲劇」を下敷きにして、アイリッシュ風のムードで味つけし、現代的なサスペンスに仕上がっている。
貧しい大学生が出世のために恋人の女子学生を殺害し、金持ちの令嬢と結婚しようと画策するが失敗、身を滅ぼす。
よくあるストーリーだが、その構成とトリックの目新しさ、サスペンスを盛り上げる技巧、結末の意外性は買う。


No.150 6点 ロンドン・ブールヴァード
ケン・ブルーウン
(2021/04/26 23:28登録)
ビリー・ワイルダー監督の傑作「サンセット大通り」を下敷きにしている。年を取った大女優リリアン、屋敷を取り仕切る執事、そこに転がり込む貧乏な青年、と道具立ても途中のエピソードなども映画そっくり。
だが、小説の青年ミッチェルはシナリオライターではなくギャングで刑務所を出所してきたばかり。ロンドンのすさんだ町の雰囲気や底辺の人間たちの暮らしが生々しく描かれ、作者らしいノワールの世界が味わえる。


No.149 5点 レンブラントをとり返せ
ジェフリー・アーチャー
(2021/04/17 21:44登録)
2020年で80歳を迎えた作者だが、その創作意欲は相変わらず活発。この作品で新米警察官を主人公にした新シリーズの幕開けだ。
ウィリアム・ウォーウィックは、跡を継いで弁護士にという父の勧めを断って警官になった。見習いとして教育係と共に街を巡回し、やがて刑事としての捜査班の一員となり、小さな事件を担当しと、前半は成長小説を得意とする作者らしく、ウィリアムを中心に描く。後半になると詐欺師のフォークナーとの対決を中心に捉えつつ、ウィリアムの身近な人々が関わるサイドストーリーも絡み合い、油断ならない展開を楽しめる。


No.148 6点 グルーム
ジャン・ヴォートラン
(2021/04/11 23:28登録)
現実社会と引きこもり青年の妄想世界が交錯し、やがて互いに侵食し合うさまを怜悧に描いた場面が秀逸で、背筋が震えるほど寒くなる恐怖を感じる。
人間が抱える心の暗黒を、ここまでカリカチュアライズして描いた作品も珍しい。


No.147 5点 中国・アメリカ 謎SF
柴田元幸
(2021/04/11 23:23登録)
今や中国は新作SFでも米国と覇権を競うほどだが、本書は両国の作品を合わせたアンソロジーで、中国側3人4編、米国側3人3編が交互に並んでいる。
2作を紹介すると、中国側「焼肉プラネット」は灼熱の惑星に不時着して飢えている主人公が、焼肉生物を目の前にしながら宇宙服が脱げないというバカSF。一方、米国側の「深海巨大症」は、伝説の生物シー・マンク(海修道士)に教皇大勅書を届けるべく原子力潜水艦で深海に赴いた主人公の苦悩を描いた不条理SF。収録作品は相互に響き合う一方、両国の違いを浮き彫りにする面もあり、選択と配列の巧みさも魅力。

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