名探偵ジャパンさんの登録情報 | |
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平均点:6.21点 | 書評数:370件 |
No.10 | 7点 | 遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? 詠坂雄二 |
(2014/07/23 09:43登録) まるごと作中作という構成、首切りのホワイダニット、最後の一行まで驚かせる構成と、ミステリとしては楽しめた。しかし、何だか釈然としない、しこりのようなものが残るのはなぜだろう。それは、主役の佐藤誠がシリアルキラーであるにも関わらず、充足した人生を送って死んでいったことへの嫌悪感なのか。 作中のルポで、世間が佐藤誠を英雄視することへの疑問を呈していたが、それを言う本人が佐藤の信奉者で獄中結婚までしてるのだから、説得力ゼロである。あの世界のネットでは、「佐藤誠まで結婚できているというのにお前らときたら」などと書き込まれているのだろうか。 現実でも大量殺人者が英雄視されることへの皮肉や批判が込められているのだろうし、作者もミステリの仕掛けとしてこういった構成を取ったにすぎない。 それでも、佐藤に殺された他の八十人近くの被害者の遺族はどんなことを思っているのか、ということを考えてしまう。 よくできたミステリで、読中は楽しんでいたし、「フィクションにそんなに目くじら立てることもないだろ」と言われるかもしれないが、やはり私はこういう作品は好きじゃないと痛感した。 |
No.9 | 6点 | 貴族探偵 麻耶雄嵩 |
(2014/07/22 00:27登録) 「2014年本格ミステリ・ベスト10 第1位!」 のシリーズ第1弾 という東スポも真っ青な帯の文句に、書店の棚の前でずっこける(心の中で) 内容はかっちりとしたミステリで、この貴族探偵なる人物に対する評価で、作品の好き嫌いがはっきり分かれるだろう。 短編集だが、中でも白眉なのは、なんと言っても「こうもり」だろう。ここまでくると(やられると)清々しい。件の関係者揃っての昼食の場面を読み返してみるが、うん、確かにどこにも嘘は書いてない。 他の叙述トリック(書いちゃうよ)は、「やーい騙された」という悪意のいたずらを受けたような感覚に陥ることが少なくないが、これは、笑って許せてしまうというのか。赤いヘルメットを被った作者が出てきて、「叙述トリック大成功!」と書かれたプラカードを掲げられる。そんな雰囲気。 |
No.8 | 6点 | 館島 東川篤哉 |
(2014/07/21 15:19登録) 屋上(展望室)の形状の説明があった時点で、「もしかして」と思ったが、「いや、それはあまりに荒唐無稽すぎるだろう」と思っていたのだが、実際の仕掛けはこちらが考えていたものと違ったので、まあ、納得した。(私は屋上のネジ穴に実際にクレーンか何かで巨大なドライバーを突き刺して回すのだと思っていた) 最初の段階で、どうも建物の外観を把握しずらかったので、外観図を入れてくれればいいのに、と思ったのだが、それを入れたら一発で見抜かれてしなうからやらなかったのかと、ここでも納得。 あれだけ巨大な物体を動かすのは甘くないと思うが、(福岡ドームの開閉でも20分かかるという。あと動力とか)そういう突っ込みを入れるのは野暮だ。(じゃあ言うなよ) この大胆で豪快なトリックを素直に楽しみたい。 |
No.7 | 4点 | リロ・グラ・シスタ 詠坂雄二 |
(2014/07/20 21:34登録) 有栖川推薦、という触れ文句で購入した。 例のトリックものであった。これが使われた小説を読むのは、私がここ最近読んだ小説7作中これで3作目である。いくら何でも頻度が高すぎないだろうか? 手軽に読者に驚きを与えられる方法ではあるし、流行りがあるから仕方ないのだろうか。それとももうミステリは、(読み手がスレたこともあって)こういった手法でなければ読者を驚かせることはできなくなったのか。そもそも、読者を驚かせるだけがミステリではないと思うのだが。 本作については、まず他の方々もご指摘の通り、非常に読みにくい文体に、まず戸惑った。(お前本当に高校生かよ、と突っ込みも。作者は大人かもしれないが、一人称で語る作中人物が何者であるかを考慮してほしい)事件自体も「早く真相を知りたい」と思わせる引力に欠け、惰性で読み進めたようなところがあった。(それ故に最後のあれが必要だったのかもしれないが) しかしながら、最近の書き手としては、SF、ファンタジー、ホラー的世界を使わない、リアル派路線の作風らしいので、今後に期待したい。 |
No.6 | 5点 | 『クロック城』殺人事件 北山猛邦 |
(2014/07/19 09:04登録) ノベルズ時にはトリック解明ページが袋とじされていたという曰く付きの作品。解説が有栖川ということもあって購入してみた。(解説で有栖川も、『大掛かりな物理トリックがあるので、読中パラパラとページをめくったりしないでほしい』と警告していた) 多くの方が指摘されているように、この作品のキモはその物理トリックではなく、首切りの理由のほうだ。作者は恐らく、このような理由で首を切る人物が登場してもおかしくないようにと、この世界そのものを作ったのだろう。 かつてミステリ作家は、トリック成立のために周辺環境を作ったが、今やトリックのために世界そのものを作るまでになってしまったのかと、感慨深いものがあった。 これも他の方ご指摘の通り、出てくるだけで特に話に絡んでこない謎の組織など、消化不良の感はある。(しかし、アマチュアの応募作は、それ自体で作品が完結される話が求められると思うのだが、こんな思わせぶりな消化不良の作品が受賞したというのは不思議だ) |
No.5 | 7点 | 名探偵に薔薇を 城平京 |
(2014/07/18 10:37登録) 突然書店に平積みされており、帯の文句に釣られてレジへ持って行った次第。 作者は元々ミステリにあまり興味がなく、本作執筆の際に多くのミステリを読破し、内容までまとめて執筆に当たったということだが、確かにそんな感じがする。特に二部に顕著だが、あまりに隙がなさ過ぎ、機械か数式のような印象を受ける。 本作の探偵、瀬川も、ミステリをあまり知らない人が思い描く名探偵(とっつきにくく変人、他人とのコミュニケーションが取れない、横柄な言葉使い)といった風で、好きにはなれなかった。「お前、自分に酔ってるだけだろ」と。瀬川が美人だから許されているが、もし、金田一耕助がこんなキャラだったら、どうだろうか。決してハンサムではない小男が、終始しかめっ面をして、周囲の人間を拒絶し、警察に対してタメ口をきく。かなりイラっとさせられるはずだ。 しかしながら、猟奇的に生み出された毒薬、犯行を予告する怪人、残酷な話に沿った見立て殺人など、本格ミステリ要素をたっぷり含み、楽しめることは確か。もっと別の探偵がこの事件を担当していたら、印象はかなり変わっただろう。あ、でも、もしも金田一耕助がこの事件を担当したら、第二部の事件は起こらなかったね、きっと。 |
No.4 | 5点 | 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 太田紫織 |
(2014/07/17 20:58登録) ライトノベルレーベルでもないのに、キャラの外見設定が成され、シリーズタイトルが統一されているという、珍しいスタイル。 内容も、「日常の謎」と「人が死ぬ事件」のボーダーラインを歩くような話で、ライトノベル以上通常ミステリ未満という印象。 櫻子さんのいかにもなキャラは嫌いじゃないし、警察がいなくとも検屍ができる設定なので、もっと本格ミステリに舵を切ってもよいのではないだろうか。 今後に期待。 |
No.3 | 7点 | 葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午 |
(2014/07/17 20:45登録) 毎度おなじみ例のトリックを使っているのだが、他の驚き一発型と違い、例のトリックと作品テーマを合致させているところが評価の対象なのだろう。 確かに読後色々と考えさせられるが、主人公の正体の人が、ああいった行いや喋り方をするのは、やはり違和感、嫌悪感があるなとも思った。 立場にふさわしい振る舞いをすることが、やはり美しいのだと、古い考え方かもしれないが、そう思う。 気になったのは、最後のネタばらし後、色々な問題が有耶無耶にされたこと。読む側はショックでそこまで頭が回らないし、書く方も、一気にテンションが上がってイケイケになってしまったのかもしれないが、読み終わり冷静になって振り返ってみたら、トリックの大胆さで煙に巻かれた感じ。 あと、最近の帯の煽り文句は、ハードル上げすぎだと思ったが、「そこまで言うなら読んでみよう」と思い購入したのも事実で、痛し痒しといったところ。 |
No.2 | 6点 | ここに死体を捨てないでください! 東川篤哉 |
(2014/07/17 20:36登録) ドラマは観ていたが、作者の実作を読むのはこれが初めて。でも、これはドラマ化難しいだろうな(笑) ギャグとミステリの融合を評価されている作者だが、これを読んだ限りでは、少々、少々なのだが、スベってるような感じを受けた。作品の中では新しいもののため、「こうすりゃ笑うだろ」という計算が透けて見えすぎというか。変に慣れているような印象。 しかし、笑いは好みの問題だから、ミステリのトリックや仕掛けなどと同じに、万人が賞賛する絶対的なものを作ることは無理で、そう考えると作者は困難な道を進んでるなと思った。 |
No.1 | 6点 | 公開処刑人 森のくまさん 堀内公太郎 |
(2014/07/17 20:26登録) 最近の流行りなのか、メルカトル氏も指摘されているように、三人称でありながら一人称のような、特定の人物の内面描写だけがされる文章が気になった。 もうおなじみの例のトリックを使っているのだから、誰の主観視点なのかをはっきりさせて、複数の人物の一人称で構成したほうがよかったのでは。 これがデビュー作ということで、今後に期待。 |