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ミステリの祭典

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おっさんさんの登録情報
平均点:6.35点 書評数:226件

プロフィール| 書評

No.6 6点 地獄の花嫁 人形佐七捕物帳
横溝正史
(2010/12/16 20:44登録)
春陽文庫の<全集3>です。収録作は――1.恩愛の凧 2.ふたり市子 3.神隠しにあった女 4.春色眉かくし 5.幽霊の見せ物 6.地獄の花嫁 7.怪談閨の鴛鴦 8.八つ目鰻 9.七人比丘尼 10.女易者 11.狸の長兵衛 12・敵討ち人形噺
海で釣られた魚の腹の中から、紙入れにしまわれた不審な(殺人を暗示する)手紙が見つかった!? という表題作6が典型的なのですが、今回は、導入部の無類の面白さにくらべて、ミステリ的にはやや尻つぼみ、という話が目につきます。
そんななか、怪談めいた出来事が繰り返される趣向と、婚礼を終えた新郎新婦が離れ座敷で死骸になり加害者が消失する、『本陣殺人事件』の試作的シチュエーションが印象的なのが7。
しかしこの巻の白眉は、人情噺の系列で、入り組んだ人間模様の決着に作者のストーリー・テリングの才が発揮された、3でしょうね。
刀屋の手代が、ある夜、真っ暗な舟の中で“買った”女は、悪人にかどわかされた、主人の姪だったのか?
舟の中に忘れられた刀、という小道具が最後に意味を持ってくる、そのへんの巧さは、さすが正史。ときにサービス過剰になる“濡れ場”も、きちんとストーリーに即しています。これを表題作にして欲しかったなあ。


No.5 7点 遠眼鏡の殿様 人形佐七捕物帳
横溝正史
(2010/12/14 19:45登録)
春陽文庫の<人形佐七捕物帳全集 2>です。
<全集>と銘打っていますが、編年体の構成ではなく、どの巻も、正月・春・夏・秋・冬と、事件の背景が一年を通して移り変わっていくように、歳時記ふうに編集されていますから、巻数に関係なく手にとっても、問題はありません。
収録作は――1.屠蘇機嫌女夫捕物 2.福笑いの夜 3.雛の呪い 4.すっぽん政談 5.五つめの鐘馗 6.遠眼鏡の殿様 7.白羽の矢 8.猫姫様 9.たぬき汁 10.冠婚葬祭 11.どもり和尚 12.雪女郎
表題作の6は、逢引きの現場に射かけられた矢がのちに凶器に使われる話で、金田一ものの短編「猟奇の始末書」の原型なのですが・・・設定のわりにミステリ的工夫が乏しいのを補う、作者のサービス精神(愛欲シーンw)が裏目に出て、どうも後味が良くありません。
大人の“お色気”は、シリーズの特色のひとつですが、親分とあねさんのお約束の喧嘩から、意外すぎる展開を見せる5のように、ユーモアと一体になっているとき、もっとも効果をあげていると思います。
集中の傑作は、これまた佐七ものの特色のひとつである怪奇趣味(死者の復讐、人間ばなれした凶行)と、余韻を残す人情噺のバランスが良い、12でしょう。
シリーズ自体のベスト10にも入れたい、この「雪女郎」がトリをつとめていることで、点数も一点アップ。


No.4 5点 夜の冒険
S・A・ドゥーセ
(2010/12/12 20:17登録)
埋もれた作家発掘シリーズw 、S・A・ドゥーセ第二弾。実際に、1914年に刊行された作者の第二長編です。
『スミルノ博士の日記』には、戦前(抄訳)の小酒井不木訳と、戦後の宇野利泰訳がありますが、こちらは(複数のテクストが存在するにせよ)小酒井訳のみです。
『スミルノ』は、ひとまずプロットの工夫で記憶に残りますが、あれだけを読んでも、名探偵レオ・カリングの人となりや、ドゥーセという作家の芸風は、つかみにくい。
その意味で、軍事機密をめぐって売国奴が蠢き、複数の人物の思惑が交錯するストーリーを、愛国主義の権化カリングがさばく本編を読むと、ああ、ドゥーセってこんな作家だったのね、と実感できます。
時代がかったスパイものの要素はあっても、いちおう、本格ものとして(英米の“黄金時代”以前のレヴェルではありますが・・・)収束するのはマル。しかし、なんだか人物整理の悪いアガサ・クリスティー、みたいな感じ。
個人的に興味深いのは、椅子に縛り付けられ放置された男が、(別人に)殴り殺され、おまけに刺されて発見される、謎の提示。横溝正史の『犬神家の一族』の“あの”シチュエーションの発想源はこれか、と思いました。
ひとまず横溝ファンなら、話のタネに一読の価値あり、です。


No.3 6点 ほおずき大尽 人形佐七捕物帳
横溝正史
(2010/12/10 14:42登録)
横溝正史ファンに、もっともっと読んで欲しいのが、人形佐七のシリーズ。岡本綺堂の半七ものが、捕物帳の“正装”だとすれば、こちらは“着流し”の親しみやすさがあります。
全180編と結構な数ですが、春陽文庫版14冊と、出版芸術社の<横溝正史時代小説コレクション 捕物篇>2冊を合わせれば、完全制覇も可能。
春陽の一冊目から(不定期ではありますが)順番にとりあげていきます。
『ほおずき大尽』の収録作は―― 1.羽子板娘 2.開かずの間3.嘆きの遊女 4.音羽の猫 5.蛍屋敷 6.佐七の青春 7.ほおずき大尽 8.鳥追い人形 9.稚児地蔵 10.石見銀山 11.双葉将棋 12.うかれ坊主
レギュラーキャラクター(佐七ファミリー)が揃っていく過程を楽しめる、入門編ですね。
過去、アンソロジーに採られることが多かった1は、トリッキーな趣向はあるものの、シリーズの基本が定まる前の話なので、けして代表作ではありません。
同じく海外ミステリの応用として知られる、表題作の7は、後半の展開に難がありますが、前半の緊張感はマル。
個人的なお気に入りは、夫婦喧嘩ものw の代表作といっていい6ですね。
でも、佐七の傑作、秀作が出てくるのは、まだまだこのあとです。


No.2 7点 狩場の悲劇
アントン・チェーホフ
(2010/12/09 14:51登録)
2010年、生誕百五十周年を迎えた、ロシアの大作家チェーホフの、唯一の長編にして、なんと探偵小説。
でも別に、かしこまることはないんです。チェーホフが“文豪”になるまえ、まだA・チェホンテなんてペンネームでユーモア短編を量産していた頃、新聞に連載(1884-85)した、いわば探偵小説パロディなんですから。
と書いたそばから、こんなことを言うのもなんですが、ストーリー自体は、退廃的な貴族の領地を舞台に、美しい森番の娘をめぐって繰り広げられる、愛と憎しみのドラマ――情景描写の鮮やかさと心理描写の深さは、さすが後年あるの筆力を思わせ、事件発生までの長丁場を飽かせません。ところが・・・
じつはこの作品、探偵小説として、かなり大きなトリックを用意しているのですが、作者自身が、終盤、本文におびただしい註釈をつけ(翻訳によっては、この註をバッサリ削ってしまったものもあるのですが)、ある登場人物の言動が怪しいことをほのめかし、意外性の効果を減殺してしまうのです。パロディの毒で、探偵小説を解体するかのような、それはシュールな試みなのですが・・・
それまでのシリアスなストーリーと、パロディ的趣向が水と油なんだよなあ。
結果として、一個の小説としては、虻蜂取らず。しかし、成功作とは言えなくても、何人かのキャラクターは、読後も長く残像を残し、忘れ難い作品ではあります。

(付記)「パスティーシュ/パロディ/ユーモア」とするには、シリアス展開が強すぎるため、恋愛サスペンスといった側面から、ジャンル登録しました(2012・11・13)。


No.1 5点 スミルノ博士の日記
S・A・ドゥーセ
(2010/12/09 12:01登録)
スウェーデンのコナン・ドイルと称され、1913年から29年にかけて、14本の長編ミステリを書いたS・A・ドゥーセの、四番目の作品にあたり、1917年に刊行されています。
実際に読んだ人は少なくても、ちょっとしたミステリ・ファンならタイトルは知っている、という一品。
ミステリ史上に残る、ある有名作品のトリックの前例だと言われているんですね。でも実際に読んでみると、その有名作品より、日本作家の別な長編に趣向が似ていたりします。
トリックのフェアな扱い方は特筆ものですが、残念ながら解決の仕方が下手。後半のストーリーがグダグダなんですよ。
マニアなら押さえておきたいタイトルですが、復刊が望まれる、とまでは言えないのが辛いところ。

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