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ミステリの祭典

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ミステリー三昧さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:112件

プロフィール| 書評

No.92 5点 ABC殺人事件
アガサ・クリスティー
(2010/12/05 22:21登録)
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの11作目(長編)です。
ホワイダニットの真相は読む以前から知ってますし、現代では「なぞらえ殺人」の1パターンとして「ABCパターン」とか言われちゃってますしね。正直、大したことないですね。暗示の力ってそんな凄いのか疑問に思いますし、犯人まだ別にいるじゃないかってくらいフーダニットに説得力がないし、今回はミスディレクションが機能しているとも思えなかった。〇〇〇が犯人ではないことぐらい、なんとなくわかるよ!(なんとなくって・・・)。「性格的に無理だ」っていう考え方も論理に欠けますね。心理的な面で説得力を持たせるのはなかなか困難だと思いました。ポアロの推理はエラリー・クイーンを読んでいると、どうも軽く感じます。そもそもアガサ・クリスティ作品って既出感があり過ぎて高得点が付けにくいです。なんか基礎の基礎が分かるテキストみたいな印象でとにかく軽い。
とりあえずは「どう料理するのか?」という部分で解説で法月倫太郎が挙げた『ABC殺人事件』を応用した作品群を余すことなく読んでいく。私にとって『ABC殺人事件』はただの出発点でしかない。後続作品がどう乗り越えるのかに楽しみを見いだしていきたい。


No.91 5点 三幕の殺人
アガサ・クリスティー
(2010/12/05 22:19登録)
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの9作目(長編)です。
単なるネタぼん。斬新なアイデアですけど頭の良い方法とは思えない。次も成功する保証はどこにもないわけだし。そんなわけで私は嫌いです。ホワイダニットの好き嫌いで評価がハッキリ分かれる作品だと思います。別に〇〇のための〇〇が駄目ということではなく、実行するからにはそれなりの理由と説得力が必要ということです。まぁ、某有名作に繋がる作品だったことを最近知ったので、読んで後悔はしていない。ラストの一文を含め、アガサ・クリスティにどっぷりハマった読者は外せない一冊になることでしょう。


No.90 9点 Xの悲劇
エラリイ・クイーン
(2010/11/06 14:23登録)
<創元推理文庫>悲劇シリーズの1作目(長編)です。
これぞまさしく傑作パズラー小説といったところ。期待以上に素晴らしかったです。私が本書で一番素晴らしいと感じた点は、第一の殺人の段階でほとんど犯人の正体が限定できる状況においてもなお、その名を明かそうとしなかったのは何故かという部分です。それにはちゃんと理由がありました。第一の殺人の段階で、読者がある小さな気付きによってそれなりの推理が披露できたとしても作者は痛くも痒くもなかったでしょうね。第一の殺人の解決編では結論に至れなかった些細な部分を、第二の殺人の解決編ではこれでもかと、じっくり分析。このこだわりには恐れ入りました。より結論へと導く確かなロジックです。そして、第三の殺人の解決編もただただ唸るばかり。小さな手掛かりで、飛躍しまくりのロジック。それでも乱れず、鮮やかに犯人像をあぶり出す。すべての解決編が素晴らしかったです。第一、第二、第三それぞれに一つの解決があって(もちろん読者も言い当てることが可能)、さらに全体を通してロジックの整合性がとれている。その他「こいつは怪しいぞ」と匂わせる人物に対しても、手抜かりなく決して犯人ではないと断言できるほどに、ちゃんと論理武装している辺りもエラリー・クイーンらしい徹底ぶり。物語に起伏がないのは残念ですが、現場を章ごとに変化させながら、細かい区切りで物語が展開されるので、割とテンポよく読み進められましたし、総合的に大満足です。ただ一点だけ。ダイイングメッセージはうーん・・・。でも「死の直前の比類のない神々しいような瞬間」かぁ。。。響きの良いナイスな訳ですね。たしか日本のエラリー・クイーンこと有栖川有栖の作品を読んでいた時期にこのフレーズに出会った覚えがあるんですけど。


No.89 6点 盲目の理髪師
ジョン・ディクスン・カー
(2010/10/30 01:07登録)
<創元推理文庫>フェル博士シリーズの4作目(長編)です。
久しぶりのカー読書です。新版刊行となり比較的新しいということで衝動に駆られ購入。本作の最大の特徴としてカー全作品の中でも、とりわけユーモア色が濃く、酒と笑いに包まれドタバタとした展開が魅力であることが挙げられます。ですが私はその部分を無視して、違う観点で感想を述べさせていただく。。。もうひとつの特徴としてフェル博士が「安楽椅子探偵」として扱われていることが挙げられます。安楽椅子探偵といったら、もう本格推理小説が保証されたようなもの。というかそうでなくてはならない。ただ、話を聞くだけで事件が解決できるなら、それを聞いているというか読んでいる読者だって事件を解決することができるはず。それが安楽椅子探偵の面白みだと思っています。その観点で本作を評価すると、とりあえずクリアしているかなと。推理もしないくせに偉そうですが。。。
以前読んだ『孔雀の羽根』と同じ趣向が安楽椅子探偵のクオリティを保証する上で上手く機能していました。フェル博士が話を聞く段階で提示した16個の手掛かり。それで何が掴めるのかを、解決編ではページ索引付きで解説してくれるあたりがとても丁寧。ひとつひとつは弱いですが、これだけ揃えばこの人が犯人でしか有り得ないと盲目的になり得ます。これは安楽椅子探偵小説として成功の部類だと言えます。


No.88 6点 オリエント急行の殺人
アガサ・クリスティー
(2010/10/30 01:06登録)
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの8作目(長編)です。
列車を舞台としたクローズド・サークル状況下で起きた殺人事件をポアロが解き明かすというお話。まず、残念に思ったのが列車を停めてしまったこと。列車内クローズドサークルの醍醐味は「列車が目的地に到着する」までに事件を解決しなければならないというサスペンスフルな展開だと思うのですが。何故停めてしまったのでしょうか?結局、全面雪に覆われているが故のクローズド・サークルということで上記のような展開は皆無。国際性豊かなキャスティング作りが「オリエント急行」を扱った理由としては一番大きいでしょう。そのことについてはだから何?って感じなので特に語ることもありません。そこに楽しみを求めるのなら原作よりも映像を視聴するべきですね。
『アクロイド殺し』と同様にあまりに有名な作品の為、フーダニットの真相は読む前から知っていました。だから「6点」という訳ではなくて、多分知ってなくても高得点にはしなかったと思います。何でもアリになっちゃいますからね。このトリックは嫌いです。「いつもガラガラなのに満員」とか「12か所の刺し傷」など伏線はバッチリ張ってある点は良くできていると思います。


No.87 6点 エジプト十字架の秘密
エラリイ・クイーン
(2010/10/30 01:03登録)
<創元推理文庫>国名シリーズの5作目(長編)です。
この作品の特徴は、首なし死体の晒し上げという猟奇的な連続殺人とエラリーの一人舞台ですね。お父さんが開始早々フェードアウトすることもあり、本格的に息子エラリー・クイーンをメインとした探偵小説となってきました。小説の舞台も「劇場」「デパート」「病院」のように限定することなく、各地を駆け巡る派手な展開がウリ。さすがに前作には劣りますが、リーダビリティーは高いと思います。ただ読み終わりの感想として、欠点が一つ。この猟奇的な連続殺人を解決するに至っての手掛かりが少なすぎるし、提示するタイミングも遅いかなと。私的にはタイトルが『エジプト十字架』ということもあって、「T」を象徴とした見立ての意味に犯人に直結する何かがあると思っていました。しかし、意外にも「読者の挑戦状」の一歩手前で提示された、ある小さな手掛かりがフーダニットを看破する上で9割近くのウェイトを占めていたことに驚きました。言われてみれば「なるほど」です。シンプルで無駄のないロジックです。ですが、小説の長さの割にこれだけだと「読者の挑戦状」を添えている割に不親切だし、フーダニットに面白みも厚みもありません。これだけで勝負させるなら、わざわざ長編で読ませなくても「短編」で十分だったかと思います。まぁ、でも「首なし死体の晒し上げ」がフーダニットに意外性をプラスしているので、これはこれで推理小説としてはまとまったかなと。
余談ですが、国名シリーズの半分を読了したので、少し整理すると『オランダ靴』>『フランス白粉』>『ギリシア棺』>『エジプト十字架』>>『ローマ帽子』といった私的評価になりますね。ここで主張したいのは『フランス白粉』のクオリティの高さです。傑作と言われる『ギリシア棺』『エジプト十字架』にはないロジックの派手さを改めて評価するべく、このような結果としました。とりあえず国名シリーズの私的ベストは『オランダ靴』に決定。国名シリーズには、これ以上の作品はないと判断しました。ですが、これからの国名シリーズにも期待はなくしていませんので、引き続き楽しく読ませていただきます。


No.86 6点 エッジウェア卿の死
アガサ・クリスティー
(2010/10/30 01:01登録)
※ネタばれあり<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの7作目(長編)です。
フーダニットが意外でした。結末だけ知ったら何てことない真相だと思いますが、物語の作り方が巧いので、また騙されてしまいました。このパターンはアガサ・クリスティの中では、いわゆる常套手段なのでしょう。事件は『世界仰天ニュース』や『ザ・ベストハウス』に出てきそうなスキャンダル話です。スター女優が容疑者になって、あーなってこーなって驚くべき結末が明かされる・・・みたいな。よって本作もありふれた物語だと思います。でも、書き手によっては味わい深いミステリに成り得るということをまざまざと見せつけられた感じです。相変らずミスディレクションが巧い。解決部分だけで簡単に評価できる作品ではないでしょう。
ただ、ラストで明かされる動機がどうも納得できません。日本人には分からない理由ですよね、多分。私の教養がないだけかもしれないけど・・・。「代々英国国教会だということを思い出してください」と言われて「あぁ~なるほど」と容易くアハ体験できるのかな。。。








(ここからネタばれ感想)
勝手に名付けようかな、『〇〇〇〇〇荘』パターンと。まさかまさかの「最も疑わしい人物が犯人でした」2回目。アガサ・クリスティってケレン味に思いっきり逆らう趣向が上手いですね。わざとらしくハッキリと殺しの動機があり、さっそく疑われる人物ってのは大体レッドへリングに利用されることが多いと思います。その人が犯人だと分かりやす過ぎるから、普通は犯人にはしない。でも、盛り上げの一部としてとりあえずハッタリをかますというのはミステリでは有りがちな常套手段。だから、読者は作者の狙いにすぐ気付き、ミスリードせぬと思考をめぐらす。がアガサ・クリスティはさらに裏をかき、そのままの真相を突きつけ、読者を唖然とさせます。ミステリに慣れれば慣れるほど騙されてしまう趣向だと思います。これがアガサ・クリスティの作品だから、きっと凄い真相だろうと期待する。でも蓋を開けてみれば実に意外性のない真相。そのことが逆に意外だったという幕切れ。なかなか味わい深い作品だと思いますが、どうでしょう。
また彼女が犯人の場合、物語の最中に殺しの動機が解消される設定上もあって、他にどんな動機があったのか?は注目すべきポイントになります。それだけに日本人が納得できそうもない動機がラストに明かされる点は肩透かしでした。
次に映像の方も視聴したので、相違点を含め感想を(評価には反映しません)。結論として映像の方が出来が良かったと言わざる負えません。映像は原作とかなり相違点があります。それが原作の悪い部分を洗いざらい補っていると思います。これから原作と映像は中身が別物であり、映像を視聴しただけでポアロシリーズを分かった気にはなれないと主張する上でも、4つ相違点を挙げさせて頂く。まず、作品のキモである「5つの疑問」が異なります。5つ中2つ改変され映像版の方が的を得たモノになっています。故に真相もすんなり納得できました。2点目は「アルトンの扱い方」が異なります。原作ではアルトンは失踪するだけで存在感薄めでしたが、映像では失踪の末に転落自殺するという派手な展開がなされています(余談ですが、青いビニールクッションが見えていたことに苦笑)。3点目に「ポアロが真相を掴んだキッカケ」が異なります。原作では「通りすがりの偶然の一言」、映像では「ヘイスティングズの余計な一言」となっています。この場合、どちらが面白いかと聞かれれば後者でしょう。ヘイスティングズが「古畑任三郎の今泉」的な役割を演じていたことに嬉しさを感じました。最後に「手紙に対する気付き」が異なります。原作では「ビリビリ引き裂かれていた点」で、映像では「文字の跡が裏の紙に写っていた点」で手紙はもう一枚あったと察するに至ります。視覚的に後者の方が分かりやすいかなと。まぁ、遺言書やラブレターといった書類はポアロシリーズでは重要な手掛かりになっていることが多いですが、意図が掴めずスルーしているのでどうでもいいかな。余談ですが、ジェラルディン・マーシュがとても美人でした。これからも映像は視聴したいと思います。


No.85 6点 ギリシャ棺の秘密
エラリイ・クイーン
(2010/10/30 00:50登録)
<創元推理文庫>国名シリーズの4作目(長編)です。
特筆すべき点は、前作『ローマ帽子』『フランス白粉』『オランダ靴』に比べて格段に小説として面白くなったことです。以下の3点が前作の相違点(改善点)となり評価すべきポイントとなるでしょう。①一点、二転、三転するプロット②どんでん返しの演出③フーダニットの意外性。これまでの地味な作風に反して、本作はかなり派手な仕上がりになっているので、いよいよピークに差し掛かってきたのかなと感じました。①の末に②があってかなり③だったという贅沢な作りではありますが、それでも「6点」にするに至った最大の要因として「読者への挑戦状」以降のロジックが大変苦しかった点が挙げられます。確かにノックス邸での出来事によって、思いもよらぬ犯人像が浮き彫りになり、それが「たった一人」を指し示しているロジックには唸りましたが、殺人事件を含め全体を通して考えた場合のロジックが緩くなってしまっている嫌いがあります。フーダニットが相当意外なので、緻密なロジックで説得力を与えることが困難で、犯人当てとしては難易度が高い。私的には『オランダ靴』のシンプルイズベストの美しさが際立つ読後感になってしまったことが残念でした。
ただ、本作の若かりし頃のエラリーの奮闘振りは表現おかしいけど、可愛かった。遺言状の有無に対する推理によって導かれる劇的な死体発見シーンを始めとして悪戦苦闘しましたが、良くも悪くも大活躍でした。以前にも増して主人公らしく、そして名探偵としても十分な働きをしたと思います。合計4度にも渡る演繹帰納法推理?による〇〇犯人説の畳み掛けのプロットも大変貴重でしょう。特に15章の〇〇犯人説のロジックは4つの中で一番素晴らしかったです。エラリーの行動は、謎の儀式と皮肉られ全員を困惑させるモノでしたが、エラリーの推理には欠かせない実験だったことが後々分かり、登場人物と同様に私も面食らいました。さらに輝かしいロジックが新たな証言によって粉砕されるというエラリーの初々しさを浮き彫りにする展開も素晴らしいです。注釈によると、エラリーはこの推理ミスがトラウマとなったらしく、基本むやみに推理を披露しないスタイルを後の作品にて確立させたらしい。


No.84 6点 邪悪の家
アガサ・クリスティー
(2010/10/30 00:48登録)
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの6作目(長編)です。
あらすじを辿るだけでおおよそフーダニットがわかります。このプロットにおいて、もし意外性を追求するならこの人が犯人であれば面白いかなと、読み始めから簡単に予想が付いていたので(はい、自慢にはなりませんが。)犯人の名が指摘された瞬間はあまり驚きがなかったです。空気読み過ぎなくらいベタな展開だったと思います。ですが、フーダニットを覆い隠すためのミスディレクションの妙は楽しめたので、その点は評価したいです。とりあえず全員を怪しくさせる言動はもちろんのこと、ポアロの行動があてになっていない。少なくとも本作のポアロは一貫して、犯人に惑わされているので、ミスリードを誘発させる引き金を自ら読者に突きつけていると思います。表面上では読者に対して丁寧な気配りが成されていますが、裏を返せばそれを鵜呑みにするとミスリードを助長させる要因にも成り得ている辺りが巧いです。国内ミステリ(ドラマ、小説、アニメ、マンガを含め)でもありふれたプロットなので作者の狙いに気付きやすいけれども、表現悪いですが味付けがお上手なのでテンプレート的な作品として読む価値がありました。私的には評判通りの佳作止まりですが、国内ミステリを今後評価する上で参考になったので読んで正解でした。


No.83 9点 オランダ靴の秘密
エラリイ・クイーン
(2010/08/12 21:30登録)
<創元推理文庫>国名シリーズの3作目(長編)です。
付け入る隙のないガチムチのフーダニット系として高評価しました。ただピンポイントに犯人の名を指し示すのではなく、すべての可能性を考慮しジワジワと犯人像を特定していく過程が「靴」だけ(正確に言うと違いますが、別に良い)で楽しめるとは。もう、さすがとしか言いようがない。前作の『フランス白粉』に比べ手掛かりが少ないにも拘わらず、クオリティーを落とすどころか、またひときわ上昇しました。ロジックの飛躍っぷりが半端ないです。私的にこのクオリティーの高さは有栖川有栖の『スイス時計の謎』以来でした。
登場人物は20人超と大変多いですし、物語に必要とは思えない人物だってチラホラいます。でも、これは数少ない証拠品から、たった1人に絞り込む過程を大げさにやりたいが為だと思えば許せてしまいます。実際、凄いですから。それに、自信を持って読者の挑戦状を添えられるだけのフェアプレイな精神も窺えましたし、エラリー・クイーン代表作であり傑作であることは間違いないでしょう。期待通りで満足、満足。これぞパズラー小説の名に相応しいです。


No.82 6点 アクロイド殺し
アガサ・クリスティー
(2010/08/12 21:28登録)
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの3作目(長編)です。
ウーン。やっぱ遅かったですね。意外性と衝撃度をこれほどまでに兼ね揃えた、このフーダニット技法を事前に知った状態で読むとなると、あまり評価できません。私は歴史的な意義を配慮してまで高評価する気はなかったので、この点数にしました。本書のメイントリックのキモは「空白の時間を作ること」と「電話を使ったアリバイトリック」だと思います。・・・が、犯人にとっては何てことないですよね。最も疑われにくいポジションに居座り、なおかつ自由に物語を創ることができてしまうのですから。
また、先駆的作品にして最高峰の作品とも思えませんでした。横溝正史の某作品の方が衝撃的(初めて読んだということもありますが)でしたし、さらに東野圭吾の某作品でも二番煎じとは言わせぬ新たな使い道で驚きをもたらしてくれましたし。『アクロイド殺し』を超える作品が国内にはもっとあるでしょう。まぁ、ミステリを語る上で通るべき道はしっかり渡りたいので、読めて良かったです。


No.81 8点 フランス白粉の秘密
エラリイ・クイーン
(2010/08/12 21:25登録)
<創元推理文庫>国名シリーズの2作目(長編)です。
読んでいる間は、前作と殆どプロットが変わらず退屈でした。変わった点は捜査現場が「劇場」から「デパート」になったことぐらいですかね。物語に起伏がないのは小説としては致命的でさすがはパズラー小説といったところ。ただ「読者への挑戦状」以降のクオリティーが凄まじく変化しました。もう二作目にして、イメージに近いガチムチフーダニットを楽しむことができた点は、物語のつまらなさを相殺してでも評価したいです。関係者全員を一か所に集めて、目の前にあるいくつもの手掛かりを披露しながら犯人像を浮き彫りにしていく。そして、その条件をもとに消去法推理でたった一人までに絞り込む過程は、これ以上何も望むことがなく私的には最良のパフォーマンスだと言えます。贅沢を言えば、もうちょっとコンパクトにまとめてほしいかな。犯人の名をすぐには明かさず、結構引っ張ってくるので少しじれったい。最終的にクイーンのやりたかったことが分かるのですが、ラストの消去法推理でテンポが狂った気がします。この作品のキモである「白い粉」からのロジックに対してモヤモヤとするモノがありました。


No.80 6点 スタイルズ荘の怪事件
アガサ・クリスティー
(2010/08/12 21:20登録)
(激しくネタばれ)<ハヤカワ文庫>記念すべきエルキュール・ポアロの1作目です。
アガサ・クリスティ作品は『そして誰もいなくなった』しか読んでいなかったので、シリーズ物は初体験。デビュー作と言うことで過度な期待は抱いていなかったのですが、意外や意外、なかなか質の高いミステリだったので驚きました。。。
一番印象に残ったことは、ポアロがいちいちオーバーリアクションなことですね。だから重要なシーンが分かりやすい。ポアロの表情の変化に気づき、ヘイスティングズが「どうしたのですか?」と問い質すシーンが結構見受けられました。でも、ポアロは基本ダンマリ姿勢。そのプロットがミステリらしくて、良い味を出していました。ポアロ以外でもいろんな登場人物が何かしらの思い詰めた表情を見せ、しかもその表情の変化にはしっかりとした意味が含まれていました。二度読みの際には、表情の変化に着目して読むとさらに楽しめそうですね。
フーダニットに関しては、作者の狙いがハッキリしていたので分かりやすい方なのでしょうか?私的にはアガサ・クリスティにまんまとやられてしまったこともあり、割と楽しめました。殺人犯の正体、毒殺トリックなどは正直、意外性があるだけで納得できる真相ではないですが、読者に向けられた数々のミスディレクションには唸らされました。犯行計画の裏側では犯人すら予期せぬ「ある企み」が遂行されているため真相がややこしくなっていました。よって殺人事件に全く関係のない手掛かりまで多く分散されている点がミソ。もしかしたらダミー側の真相の方が納得できたかもしれませんが、どちらにしても手抜かりのない上質なミステリとして高く評価できます。同じくミステリの名手として肩を並べるディクスン・カーもそうでしたが、読者を翻弄する技量に長けていそう、というのがアガサ・クリスティの第一印象です。
これから全作品から厳選して15作ほど読む予定ですが、充実したミステリ読みができそうです。「アクロイド殺し」「オリエント急行の殺人」「ナイルに死す」「白昼の悪魔」「ABC殺人事件」などなどタイトルを思い浮かべるだけでワクワクします。アガサ・クリスティを精通した読者からしたら『スタイルズ荘の怪事件』はどの程度の評価なのでしょうか?全然期待していなかった作品だけに気になります。デビュー作だから「しょうがない、読んでやろう」って考えだっただけに思わぬ収穫でした。





(ネタばれ感想)
前書きの「『スタイルズ荘の怪事件』によせて」では、フーダニットに関するヒントが最後に添えられています。それを踏まえ、アガサ・クリスティが狙った試みを自己満で考えてみようと思います。結論としてアガサ・クリスティが狙ったことは
①まず、最も疑わしい人物に読者の目を惹きつける
②そして、惹きつけたのも束の間であっさりと嫌疑の枠から外す
③でも、やっぱり最も疑わしい人物が犯人だった
でした。嫌疑の的がアルフレッド・イングルソープに集中するが、ポアロの力で容疑が晴れる。そのプロットがあるために、まんまと「最も疑わしい人物はやっぱり犯人ではない」と読者にミスリードを与えていた点は巧いかと思います。真相編の時点で「最も犯人らしい人物」は「犯人であるはずがない人物」に成り替わっています。そのことが第12章のラスト1行によって覆ってしまうために、驚きの真相と成り得たわけです。また、終始「犯人であるはずがない人物」でしたエヴリン・ハワードが協力していたことも意外です。被害者は二つの裏切りを知った割には冷静すぎる程に意外な展開です。
ですが私的には、意外性はあるけれども説得力に欠ける気がしました。ポアロが見つけた最後の環(決定的な証拠)というのは私には分かりにくい物でした。「あっ」と驚くほどでもなかった気がします。「マントルピースって何だ?」と逆に疑問が浮上してしまって、すんなり納得できる証拠物件でなかったことが大きいです。そもそも、協力プレイも納得できる真相ではないです。アルフレッドとエヴリンが愛で繋がっていたことには驚きましたけど・・・。
トリックに関してですが、法律を逆手に取った犯行計画には唸りました。さらに驚くことにポアロはその計画を早々と見破り、敢えて無罪を主張することで計画をぶち壊していた点も見逃せません。上記の②に関しては(作者による)読者をミスリードさせる狙いと同時に(ポアロによる)犯人を敢えて自由にさせて計画を破綻させる狙いも裏にあった訳です。
またフーダニットと同様、毒に関するトリックも意外性があるけど説得力が弱かったです。難しい知識が必要ですからね。そのことよりも私はコーヒーカップの話題もココアが入った鍋の話題もミスディレクションだったことに驚きました。犯行に全く関与していないメアリ・カヴェンディッシュのせいで、真相が複雑になっていました。事件解決のためにポアロは必死にコーヒーカップやココアの入った鍋を調べていましたからね。それだけに二つとも毒殺トリックには全く関係ない手掛かりだったとは思いもしなかったです。彼の目的は毒物の混入経路を発見することではなく、睡眠薬の混入経路を探すことだったとは、これはもう騙されるのもしょうがない。そもそもポアロの行動そのものがミスディレクションって狡猾な手段ではないか。私は素直に物語を読む方なので、この手法をやられると何回も騙される気がします。


No.79 5点 ローマ帽子の秘密
エラリイ・クイーン
(2010/08/12 21:13登録)
<創元推理文庫>国名シリーズの1作目(長編)です。
正直な感想として、分量の割に解決編が大したことなかったです。推理しながら読むことはしませんでしたが、それでは読む楽しさも半減しますし、刻々と描かれる事件捜査場面も退屈でモチベーション維持が大変だということが分かりました。シリーズ全作読む予定ですが、こんな調子では継続できる気がしません。読んだ限り小賢しい細工(ミスディレクション等)がなく、また手掛かりは探すまでもなく全部与えられる為、伏線の妙も楽しめません。ひたすら読者に推理ゲーム楽しんでもらいたいというフェアプレイに徹したフーダニットがエラリー・クイーンの醍醐味で、悪く言えばそれ以外に特に評価するポイントがありませんでした。結果的に「読者への挑戦状」以降の良し悪しが、得点やランクを左右する要因となり「5点」を付けるに至りました。このサイトでの得点機能は単なるお遊びだという認識ですが、エラリー・クイーンは得点が全てを物語っているような気がします。国名シリーズ物では『オランダ靴』『ギリシヤ棺』『エジプト十字架』、悲劇シリーズでは『Xの悲劇』『Yの悲劇』あたりが「8点」対象になることは間違いなさそう。まぁ読み始めたばっかりだし、どこかで自分なりに楽しみを見いだせればいいけど。。。


No.78 6点 レイクサイド
東野圭吾
(2010/08/10 23:08登録)
<文春文庫>家族の在り方を問う社会派ミステリです。
感想としては、登場人物に共感が得られず読後感が悪い。というか家族をテーマとした物語が苦手だ。解説でも述べられていることですが、この物語には内面描写が少ない。私はそれが大いに不満でした。もっと人間一人ひとりにスポットを当ててほしかった。4組も家族がいたことで夫婦関係とか親子の触れ合いが希薄になってしまっていると思います。中途半端に上っ面だけ家族関係を谷間見たところで、こんな動機を持ってこられても説得力ないだろう。客観的にみれば、家族崩壊丸出し。一生に一度しかない中学受験とは言え、犠牲を払い過ぎですね。子供のことに一生懸命。でも信頼はしていない。そのギャップが異様な読後感を生んでいました。
結局○○が犯人というフーダニットパターンを応用したホワイダニットという発想だけは良かった。でも、作者は本格ミステリに比重を置いていない。なんか惜しい。評価し辛い作品でした。


No.77 7点 片想い
東野圭吾
(2010/08/10 22:59登録)
<文春文庫>性同一性障害を扱った社会派小説です。
今までの東野作品の中で一番テーマが重い。「性同一性障害」がテーマなんですけど、それを知らずにタイトルから恋愛小説かと踏んで読みだすと大きくギャップを感じることでしょう。誰による誰に対しての『片想い』なのかは早々と明かされるのですが、当然としてそこからの展開が予測不可能。さすが東野圭吾。やっぱり人物描写にかけては文句のつけようがない。いくら努力したところで、ワンアイデアからここまで飛躍して物語を描くのは困難だと思う。さすがに才能を感じずにいられない。男に化けた女、女に化けた男、女の心を持った男、と出てくる人物は異型ばかり(と言っては失礼ですが)で非現実この上ない。だけど自分の意思を一番大事にする心とか、現実から目を背けず一生懸命生きようとする姿とかはリアルで人間らしいし、読んでいて気持ちが良かった。
でも反面、自分の未熟さを感じずにはいられない。「親友とは何だろうか?」「男女の境目ってどこだろうか?」「結婚に対する覚悟とは?」など様々な問いかけをぶつけられ深く考えさせられるが、答えが何一つ出てこなかった。それに引き換え登場人物たちは、みんなしっかり自分の意見を持ってて重いメッセージをぶつけてくるのですから、無念です。特に西脇理沙子は強烈だった。もう激しく夫に対抗意識剥きだしで読んでる方もヒヤヒヤ。なんで?と思ってたら、なかなかミステリ的な解答が得られ、ビックリ。冒頭の場面がフラッシュバックしました。余談ですが、この作品を読んで以降、お腹いっぱいでしばらく他の東野作品に手を伸ばせず、期間があいてしまった。またこれから頑張って読もうと思います。なんだかんだで楽しい読書ですから。


No.76 6点 ユダの窓
カーター・ディクスン
(2010/05/15 18:03登録)
<創元推理文庫>H・M卿シリーズ7作目です。
目から鱗の裏技的な密室トリックが有名。「隠し絵」のように最初はなかなか見えてこない。でも、種を明かせば実に単純。見える人には見える。密室のようで、密室でない。そして、かなり実用的なお手軽トリック。その分、反則気味で素直に称賛できない。こんなのは一度だけにしてほしい。まぁ、でも「ユダの窓」かぁ。。。うん、なるほど、巧いタイトルだ。
ディクスン・カーによる法廷ミステリとしても有名。どう考えても有罪としか思えない状況から「無罪」を勝ち取るまでを描いた「逆転裁判」的ストーリーが読み所。H・M郷の推理によって、徐々に事件の裏舞台が見え始め、本当の真相が浮き彫りになる構成は素晴らしい。ただ、「無罪」を勝ち取ったまでは良いが、そのあとのフーダニットが非常に陳腐。やっぱり素直に称賛できない。どうしても名作に対して、ハードルを上げ過ぎる傾向があるらしい。


No.75 6点 九人と死で十人だ
カーター・ディクスン
(2010/05/15 12:27登録)
<世界探偵小説全集26>H・M卿シリーズ11作目です。
これは正直あまりカーっぽくなかったかな。不可能興味なし、怪奇趣味なし、ドタバタ喜劇なしと捉えどころが見つかりません。船上のクローズドサークルというテーマも多分「盲目の理髪師」の方がメジャーだろうし。私的には、舞台背景もイマイチしっくりこない。どうやら戦時中のお話みたいだが、スリリングだったとは言えず中途半端な感じ。やはり注目すべきは「姿なき殺人者」による連続殺人。殺人者が残した血染めの指紋によって不可解な謎が提供されるというあたりはカーらしい。ディクスン・カーといったら怪奇趣味満点の不可能犯罪系ですが、全部というわけではありません。非常にチグハグとした手掛かりをもとにロジック中心で真相を解き明かすというフーダニット系も意外と多い。本作はその類に該当するでしょう。
最後に、少しだけ真相に触れて感想を。私的には残念なことに既出感の高い真相でした。そもそもディクスン・カーを読もうと思ったキッカケが江戸川乱歩(or横溝正史)だったので、読み終えた直後はお二人の作品が頭によぎりました。指紋に関する盲点を突いたトリックは非常に似通った短編を一つ読んだことがあったので、ホント丸分かり状態。もしかしたらこの作品からトリックを借用したのかな。


No.74 9点 皇帝のかぎ煙草入れ
ジョン・ディクスン・カー
(2010/05/15 12:22登録)
<創元推理文庫>
フーダニットの真相は今まで読んできた中でNo.1かもしれません。もう15作近く読んできたけど、意外性と説得力、両方の面で成功している作品には出会えていなかったので、この真相には驚きました。見事に暗示にかかっていました。こんなシンプルなのに気付けなかった。まさか「あの一文」にこんな重要な意味があったとは。辛抱強く読んできた色恋沙汰にもミスディレクションとしての機能がしっかりあったし、最終的には本格ミステリの出来の良さが際立つ読後感に成り得ていたので、安心、安心。
確かにディクスン・カーの最高傑作かもしれません。悪い部分が見つからないので評価もしやすい。悪い部分があったらビシビシ突っ込む気だったけど、なかった(強いて言うなら、動機が微妙)。本当に安心してオススメできる作品。カーの作風には当てはまらないのが懸念材料だけど、カーにしてはトリックよりもロジックに重きを置く珍しいタイプの正統派本格ミステリなので、外せない一冊であることは言うまでもないでしょう。


No.73 8点 読者よ欺かるるなかれ
カーター・ディクスン
(2010/05/15 12:17登録)
<ハヤカワ文庫>H・M卿シリーズ9作目 バカミス覚悟の意欲作
そんなもん、素人に分かるか!と叫びたいほど不可能興味満点のこの作品。原因不明な死を念力のせいにしてなるものかと、奮起して読むが全く糸口が見つからず。信じたくないけど、特別な力を信じるほかない。そんな怪奇な空気感が物語全体を纏っていました。にも拘らず、H・M卿は相変らず自信満々だ。遅れて登場したくせに、何かを知っている風なしゃべりで、たちまち警察たちを手玉に取ってしまいます。頼りになる紳士ですね。彼には解決方法が46通りがあるらしい。それは、はったり?いや、実際にありそうで怖いな。
非常にミスディレクションの巧い作品でした。伏線もかなり利いています。上手く拾えるようにもなっているけど、正直アンフェアな気もします。一つだけ忠告するならこの作品、ガリレオ先生こと湯川学みたいな人種でないと知り得ない知識が事前に必要になる。そこがマイナスポイントになる恐れあり。それでも怖いもの見たさで読んでみたい方はおススメ。あまり有名ではないかもしれませんが、不可能興味・怪奇趣味を存分堪能できる作品となっているのでカー作品を楽しむうえで外せない一冊でしょう。

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