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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1546件

プロフィール| 書評

No.106 6点 殺す
J・G・バラード
(2009/02/23 21:38登録)
世界の破滅3部作SFやスピルバーグが映画化した『太陽の帝国』などで知られる作者の中篇と言ってもよい短めの作品ですが、ミステリとしても読むことができるでしょう。
とは言ってもそこはバラードのこと、まともな謎解きは期待できません。舞台設定はほとんど外界から隔離されたコミュニティーという未来的な感じですし、小説の狙いも通常のミステリとは違い、異常な大量殺人事件を引き起こす原因となる社会通念や、その犯罪の持つ現代-近未来社会的な意味を問うというもので、やはりむしろSF的な視点を持っています。犯人像は、通常のミステリには超有名作を初め前例がいくつもありますが、そこが社会病理的テーマ自体になっているというところが、後味の悪さを引き出す佳作だと思います。


No.105 5点 魔術の殺人
アガサ・クリスティー
(2009/02/22 09:18登録)
クリスティーらしいちょっとしたアイディアをうまく使った殺人トリックも悪くありませんが、それよりミスディレクションがさすがに巧みです。ただ、ミスディレクションに関して、ご都合主義的な偶然が1箇所あるのですが、そのシーン自体なくてもよかったと思います。専門的検査が行われればすぐにばれてしまうはずだという点も気になります。
また、よくある証人殺しパターンの第2の事件(二重殺人)はどう見ても不要でしょう。小説が9割ぐらい終わった時点、既にミス・マープルが事件の真相に気づいた後に起こり、事件状況の基本的な調査も全く描かれないまま、謎解きの推理が始まってしまうのですから。登場人物が多くて人間関係が複雑な作品なので、この被害者2人は最初から登場させない方がすっきりしていたのではないかとも思います。


No.104 8点 ブラウン神父の知恵
G・K・チェスタトン
(2009/02/21 14:47登録)
なんとブラウン神父がアクションまで見せてくれるファンタスティックな味が強い『ペンドラゴン一族の滅亡』が、作者らしい無茶なアイディアを巧みに小説として仕上げていて、特に好きです。傑作と言われている『通路の人影』は、個人的にはそれほどと思えませんでしたが(むしろ『-秘密』の収録作の方が好き)、ホームズ的捜査法をからかいながらの爆笑ダジャレ解決『グラス氏の失踪』、相違点の論理が冴える『ヒルシュ博士の決闘』等、やはり傑作ぞろいの第2集です。


No.103 5点
エラリイ・クイーン
(2009/02/20 21:43登録)
クイーンと言えばダイイング・メッセージというイメージが強いですが、ほとんどはショート・ショートであり、長編で使っているのはたぶん5冊だけです。さらにメッセージの重要度が高いものとなると、数はさらに少なくなります。
本作はその少数のうちの1冊なのですが、書き残された"face"という文字の謎は途中で解決されてしまい、それでも犯人を特定することができないという展開になります。真相は大したことはないのですが、すっきりとまとまっていて悪くありません。ただ、メッセージは死に際のとっさの思い付きではなかったとは言え、ちょっと凝りすぎかな。


No.102 7点 危険な童話
土屋隆夫
(2009/02/19 20:49登録)
作中作のファンタジーで始まり、各章の始めには詩のようなお月様の童話が挿入されていながら、中心になるストーリーそのものは松本清張以後のリアリズム重視謎解きタイプという、奇妙なギャップ感覚が味わえました。事件終結後、最終章で明かされる動機が感傷的な余韻を残し、その2つの隙間を埋めてくれます。
細かい実用的な(と個人的には思います)トリックをふんだんに取り入れていて、それらを少しずつ解明していくあたり、飽きさせない構造になっています。ただ、いかにも怪しい人物とはいえ、必ずしもその場で取調べを受けるために警察署に連れて行かれ、さらにそのまま逮捕されるかどうか、そこが犯人のトリック成立要件の根本であるだけに、少々疑問は残ります。逮捕をより確実にしながら、それが他人による偽装工作でないとは証明することもできない別の手はなかったのでしょうか。


No.101 8点 プレーグ・コートの殺人
カーター・ディクスン
(2009/02/18 13:52登録)
カー名義の『連続殺人事件』みたいな明らかな科学的勘違いではありませんが、この傑作の誉れ高い作品のトリックも、科学的には無理があります。実際には、この現象は特にあまり動かさない場合は、そう簡単には起こりません(ネタばれしないよう妙な書き方になってしまっていますが)。まあ、科学的厳密性にこだわらなければかまわないのでしょうが。
なお、このトリックについては翌年の『三つの棺』の密室講義の中でも、作品名を挙げずに言及されていますが、たとえ『三つの棺』の直後に本作を読んでも気づかないだろうと思われるほど、使い方が巧妙に隠されています。
さらに怪奇趣味との融合、犯人の意外性も充分で、いかにもこの作者らしい代表作の一つと言えるでしょう。


No.100 9点 ブラウン神父の童心
G・K・チェスタトン
(2009/02/17 22:20登録)
クリスティー、クイーン、カーみんな長編でこのヴァリエーションを使ったことがあると言えば、有名な『見えない男』。これについては、いくらなんでもあり得ないところが一箇所ありますが、トリックの基本は注意をはらわないということよりむしろ、聞き方によっては答が違うということ(ブラウン神父もその例を出しています)でしょう。
他に、首切断パターンで犯人も意外な(第2作でこう来るとは!)『秘密の庭』、短編の中で偽解決を立て続けに出して見せた上、さらに意外な真相を明らかにする全然犯罪ではない『イズレイル・ガウの誉れ』、A・C・クラークのSFにまでつながる『神の鉄槌』等、文章によって嘘っぱちな奇想を可能に思わせるそのスタイルは、やはり今なお新鮮です。


No.99 8点 紺碧海岸のメグレ
ジョルジュ・シムノン
(2009/02/16 22:25登録)
偽善性や息苦しさに満ちたセレブな生活からの逃避という主題を、シムノンは純文学系の作品の中でも何度か取り入れていますが、この作品では二重生活を送っていた男の死という形で描かれています。
陽気でまぶしい南仏のしゃれた住宅地で起こった殺人事件。この優雅な雰囲気と、被害者の二重生活のもう一方、暗く薄汚れた「自由酒場」との強烈な対比が、感動を深めます。
文豪アンドレ・ジイドも『サン・フォリアン寺院の首吊り人』と並べて好きなメグレものとして挙げていたという本作の翻訳がたぶん60年以上もほとんど入手不可能なままというのは、残念なことです。長島良三さん、新訳お願いしますよ。

2015/03/23 追記
以上は、原書を読んで書いたものだったのですが、シムノン翻訳の第一人者長島さんが亡くなってからわずか1年ちょっとで新訳が出版されたのには、驚きました。その長島さんは原文の持ち味を重視する翻訳者でしたが、新訳の佐藤絵里さんは、原文と比較してみると、むしろ日本語らしさを心掛けているようで、たとえば過去形の原文を現在形にしているところもかなりありました。


No.98 6点 クイーン検察局
エラリイ・クイーン
(2009/02/16 00:04登録)
収録18編中ほとんどが10ページ程度のショート・ショート集ですが、1つだけ長い『ライツヴィルの盗賊』が、小説としてのおもしろさではやはり一番ですし、推理も鮮やかです。
本当に単なる言葉遊びパズルでしかないようなものもありますが、一般的評価の高い『三人の寡婦』(トリックは様々な推理パズルで借用されているくらい有名)、『七月の雪つぶて』(ごく一時的に奇跡を起こして見せればよい設定と見せ方がうまい)の他、『あなたのお金を倍に』(最近も似た大事件がありました)、『賭博クラブ』(人数計算には納得)、『消えた子供』(例の名作と似た論理で、ラストはほのぼの)なども好きな作品です。


No.97 7点 怪盗紳士ルパン
モーリス・ルブラン
(2009/02/15 23:49登録)
これは子ども向けのリライト版を読んだ人が多いでしょうが、角川文庫版で再読した時には驚きました。ルパン・シリーズ短編第1作『アルセーヌ・ルパンの逮捕』で使われているアイディアは、あの叙述トリックの古典的名作と同じではありませんか。これほど早い時期(1905年作)に既にあったとは。ただしルパンですから、フェアかどうかなんて問題になりませんが。
ルパンらしい盗みの手口『獄中のアルセーヌ・ルパン』、偽脱獄計画の顛末が笑える『アルセーヌ・ルパンの脱獄』と楽しい作品が続きます。
出版社の版により、後半の収録作が若干異なったりもしますが、最後はやはり『遅かりしシャーロック・ホームズ』で締めているようです。原書ではHerlock Sholmes(エルロック・ショルメス)とスプーナリズム(『クイーン検察局』中の『変わり者の学部長』参照)にしているそうですが。


No.96 8点 花嫁のさけび
泡坂妻夫
(2009/02/12 22:02登録)
2/3ぐらい読んだところで、犯人はこの人物だろうと見当はつけたのですが、見当がつくと同時によくもここまでやるもんだと感嘆して、前の方を何箇所か軽く読み返してしまいました。といっても、毒殺方法等は全くわかりませんでしたが。
『しあわせの書』が顕著な例ですが、この人は長編小説まるごと1冊になんらかの趣向を凝らすことがあり、この作品の徹底ぶりも相当なものです(本書では小説そのものの内部での趣向です)。適当にこの手を試みようとする作家は多いでしょうが、それもほとんどはこの作品発表(1980年)以後でしょうし、この手を不自然に思わせないよう状況設定にこだわり、伏線を張り巡らせた上でとことん極めるのは、まさにこの作者ならではです。
しかし、この作品がテレビ・ドラマ化されたことがあるというのには、疑問を感じてしまいます。『レベッカ』日本版だから映像化しやすいぐらいに思うのかもしれませんが、まあ、あの名作にも戯曲版があるということですし…


No.95 7点 読者よ欺かるるなかれ
カーター・ディクスン
(2009/02/11 17:39登録)
怪奇趣味を取り入れた作品が多いカーの中でも、実際にはっきりと超自然的な方法(念力)による殺人だと見せかけたものは、本作だけではないでしょうか。密室等ではなく原因不明の死という謎なのですが、特に不気味な雰囲気が濃厚というわけでもありません。
途中、読者に警告しておく(原題の直訳)、と注釈を何度か入れてフェア・プレイを強調する作者のはったりが楽しい作品です。邦題は、この原題を実にうまく意訳しています。
殺害方法はほぼ同時期に同じアイディアを利用したマイナー作家の作品もありますが、本作では巧みな工夫によって、そのような方法は使い得なかったはずという状況を設定しているところ、本当にそんな現象が起こるのかという気もしますが、さすがに不可能犯罪の巨匠のやることは違います。


No.94 7点 三幕の殺人
アガサ・クリスティー
(2009/02/10 20:40登録)
次作『雲をつかむ死』の中でもちょっと言及されている瞬間を利用した毒殺証拠隠滅方法や、第2の事件のネタも悪くないのですが、本書の最大のポイントは第1の事件の動機と、その動機だからこその大胆な計画でしょう。その動機を持つ人物としての犯人設定も、ちゃんと考えられています。ポアロも、この動機に気づいた時には感嘆しているほどですが、一方でこの動機を好きになれない読者がいても、確かにおかしくはないと思えます。個人的には率直に驚けましたが。
ただ、それらが組み合わさって大きな驚きを生み出すところまで行っていないと思いますので、傑作とまでは言えないかな、というところです。『謎のクィン氏』でも活躍するサタスウェイト氏をポアロもので再登場させた意味も、いまいちピンときません。


No.93 7点 グリーン家殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2009/02/09 22:24登録)
最初の事件のトリックを先に知っていたので、当然事件が起こった時点で、犯人もわかってしまった上で読み進むことになったのですが…
これは最近の凝ったミステリを読んでいなくても、犯人の見当がつくでしょう。ヴァン・ダインは、1人の人が書けるすぐれたミステリは6冊ぐらいのものだと言っていて、一般的な評価も後期の6作は低いですけれども、むしろ最初期の作品の方が真相を簡単に見破れるようなところがあります。しかし、難解さの度合い=評価点と決まったものでもないところが、ミステリの小説たるゆえんでしょう。本作も、すぐに犯人が指摘されてしまっては、全体を覆う暗い雰囲気やサスペンスが楽しめなくなってしまいます。


No.92 7点 スペイン岬の秘密
エラリイ・クイーン
(2009/02/08 20:49登録)
いかにも不可解な謎の提出ということでは前作『チャイナ橙の謎』と同じパターンですが、こちらの方が小説としてのまとまりがよく、気持ちよく読んでいけました。被害者を素っ裸にまでする必要はないのではないかという考え方もあるとは思いますが、前作と似た隠匿の原理を犯人が考えたとすれば、理由は一応納得できます。ただ、ミステリを読みなれた人なら、論理はさておき、犯人の見当だけなら直感的に早い段階でつくでしょうね。
国名シリーズのまえがき担当者ということになっているJ・J・マックがあとがきで再登場するという構成で、一方クイーン警視が初めて全く登場しない作品でもあります。


No.91 7点 片眼の証人
E・S・ガードナー
(2009/02/07 21:31登録)
まさかガードナーにこんな手を使われるとは全く予想していなかったので、不意をつかれて驚かされました。そのトリックも、法廷での、裁判進行の規則をほとんど無視しまくった真犯人指摘より前に明かされます。
最後に、匿名者からの依頼の経緯などすべての出来事を関連付けてみせるあたりは、ちょっとあざとい感じもしましたが、いかにもベストセラー作家らしいストーリー・テリングの法則に則ったまとめ方です。


No.90 5点 北の夕鶴2/3の殺人
島田荘司
(2009/02/06 23:59登録)
まず、写真の件に関して疑問があります。たとえば十万分の1の確率の出来事が2回続けて起こると、確率は百億分の1に激減します。2回起こることで効果が倍増すれば、それでもいいと思うのですが、実際には効果の差はほとんどないでしょう。無駄に偶然発生確率を下げているとしか思えません。
だいたい、こんな大げさなトリックを使わなくても、死体発見現場に待機していた共犯者が殺人までやってしまえば、それで犯人の本来の目的は充分達せられたのではないでしょうか。この共犯者にはアリバイが全くないのです。
トリックそのものは豪快で素晴らしいのですが、後半ストーリー(それ自体はなかなかおもしろい)との融合も含め、詰めが甘すぎると言わざるを得ません。


No.89 7点 ゼロ時間へ
アガサ・クリスティー
(2009/02/06 20:23登録)
タイトルからしても、また最初の方に挿入された謎の犯人が計画を立案しているシーンからしても、殺人に至るサスペンス系の作品かと思っていたら、意外にもかなり早い段階(といっても半ば過ぎですが)で殺人が起こります。さて、どうなることやらと首をひねっていたら、最後になってタイトルの意味が明かされるあたり、驚きはさほど大きくありませんが、やはり作者らしい企みです。
アナロジーによる伏線といえば、先日亡くなった泡坂妻夫がよく使っていた手ですが、クリスティーとしては、少なくともこれほどあからさまな形での使用は珍しいのではないかと思います。その伏線によって、バトル警視は犯人の本当の狙いに気づくわけですが、それでも犯人が誰かは、タイミングよく登場した他人の助けを借りないとわかりません。この人、有能な警察官なのに、どうしても単独では事件解決ができないように設定されているのでしょうか。


No.88 6点 緋文字
エラリイ・クイーン
(2009/02/02 22:18登録)
ほとんど最後近くにならないと殺人が起こらない点は、『十日間の不思議』をも思わせますが、作品の雰囲気は全く違います。ホーソーンを引用した、書き方によっては当然深刻になるモチーフであるにもかかわらず、ライツヴィル・シリーズのような重さはむしろわざと避けている感じがします。逆にバーナビー・ロスの名前を出してきたりするような遊び心は、やはりニッキー・ポーターが登場する『靴に棲む老婆』(ニッキーが同一人物かどうか不明ですが)に通じるようにも思えます。さすがにダイイング・メッセージにかけて「XYの悲劇」という遊びはありませんが。
クイーンによるニューヨーク・ガイドといった趣もあり、かなり楽しめました。


No.87 8点 白い僧院の殺人
カーター・ディクスン
(2009/02/02 20:41登録)
密室講義と言えばまず『三つの棺』ですが、その前年に発表された本書でも密室(不可能)殺人一般についての講義が行われます。ただしH・M卿による分類は方法面ではなく、密室にする「理由」に注目したものです。本書の事件について、さまざまな理由をすべて否定した後、最後の理由として「偶然」を挙げますが、足跡をつけないということに、どんな偶然が考えられると言うのか? と疑問をつきつけ、不可能・不可解興味を盛り上げてくれます。
方法面でも途中で嘘の解決を2通り示すなど、謎と推理でがちがちに構成された作品で、解決の意外性も申し分ありません。これは確かに、初心者にも、読み残していた上級者にも安心して薦められる謎解きミステリです。

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