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ミステリの祭典

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絶叫

作家 葉真中顕
出版日2014年10月
平均点6.60点
書評数5人

No.5 7点 E-BANKER
(2024/09/14 13:03登録)
本作の後、続編が発表されることとなる「女性刑事・奥貫綾乃」シリーズの第一作に当たる。
作者らしい重厚で奥行きの深いミステリーとなっているのか?
単行本は2014年の発表。

~「鈴木陽子」というひとりの女の壮絶な物語。貧困、ジェンダー、無縁社会、ブラック企業・・・。見えざる棄民を抉る社会派小説として、保険金殺人のからくり、孤独死の謎・・・ラストまで息もつけぬ圧巻のミステリーとして、平凡なひとりの女が、社会の暗部に足を踏み入れ生き抜く、凄まじい人生ドラマとして・・・~

やはり、この作者の作品は読者を強く惹きつける「熱量」、「パワー」を感じる。
前回は「凍てつく太陽」という超大作に心を打たれた私なのだが、本作でも作者の「作品世界」の渦に吞み込まれた気にさせられた。

何といっても「鈴木陽子」である。
本作は彼女の半生を綴った大河ドラマといってよい。ただし、彼女の姿、心の内は他者の目線で描かれる(いわゆる二人称)。
高度成長期という時代を過ごした幼年期。企業戦士の父親の姿は家になく、常に母親と接することとなる。しかし、母親は「息子=弟」にしか愛情を注がない、捻じれた性格を持つ女性だった。引き続き起こる弟の死、父親の浮気そして蒸発。
いつの間にか家庭は崩壊し、彼女は大人になり平凡な生活を営むはずだったのだが・・・

本作のもうひとりの主役が刑事・奥貫綾乃。国分寺のマンションで一年間放置された死体として「鈴木陽子」と対面することとなる。それから、綾乃は陽子の人生を遡ることとなる。捜査を行うごとに判明する怪しく、不可解で不穏な事実、出来事の数々・・・
そしてついに明かされる、大事件の構図。

いやいや、本作のストーリーを要約しようと思ったけど、とてもじゃないが書ききれない。
まさに、どこにでもいる、平凡な小市民だったはずである。どこで狂ったのだろうか? 読者は遡りながら考える。なんとも救いのない、不幸な偶然の連鎖もあった。
でも、思う。誰にでも起こりうるのだ。ほんのちょっとした運命のいたずら、ほんのちょっとしたボタンの掛け違え、そんなささいなことで人生はどうにでも動いていく。そんなどうしようもない、人の性(さが)を作者は描き出す。それが読者の心に強く訴えてくる。

いかんいかん。すっかり独白のような書評になってしまった。
そうはいっても作者はミステリー作家である。ラストも間近になって、本作全体に仕掛けられた大きな欺瞞、策略が明かされる。なるほど、これがミステリー作家たる作者の矜持か。
そして、これがここまで「鈴木陽子」というひとりの女性にフィーチャーした大きな理由でもあるのか。いやいや、さすがである。
まあ、正直なところ、既視感はあるし、アノ作品とアノ作品をつなぎあわせたような部分も見え隠れはしているけど、それでも十分に面白いし、堪能させていただいた。もちろん続編も読むだろう。
(ラストシーン。ってことは、当然アノ人が・・・ってことだよね。名前からして・・・)

No.4 7点 HORNET
(2024/06/05 23:27登録)
 生まれた時代に翻弄される中、生き抜く方策として(自然に?)犯罪に手を染めていく女性の姿をモチーフとした魅力的一作。
 とにかくこの作者は、登場人物の生き様を通して、題材とした時代の世相を描くのが非常に得意。それが青春時代(古い?)に重なる読者にとっては、ミステリとしての技巧抜きにして楽しめる作品である。

 どうやら、このあと「Blue」「鼓動」へと続いていく奥貫綾乃を主人公としたシリーズの初作品らしい。
 「孤独死」とも思われるある女性の死の捜査に当たっていた綾乃が、被害女性の身辺や過去を洗っていくうちに、とてつもない大事件へ辿りついていく。この「〇〇金殺人」という題材は、まさに時代を如実に映し出している。連続殺人の犯人はほぼわかっている状態での展開でありつつ、それが明らかになっていくにつれ冒頭の孤独死の真相への謎が高まる。
 読者目線で非常に上手く物語を組み立て、十分にそれを味わわせてくれる快作。堪能した。

No.3 8点 パンやん
(2016/05/08 06:17登録)
降りかかる不幸を自然現象と捉え堕ちていく女の顛末を、二人称、二つの時間軸、証言の数々で立体的に描く手法がお見事。緻密な社会派ミステリーの体から、ピカレスクロマンの様相を呈するうまさもある。このボリューム一気読みの後、第2部◇14に戻りたくなりますぞ…。

No.2 6点 虫暮部
(2015/02/25 15:29登録)
 話題になっている社会問題を幾つか上手に組み合わせただけ、という批判をもはや前提としてこういうものを書ける度胸も立派だと感じる最近の私である。
 紋切型の表現が随所に見られるが、文体のオリジナリティとかは端から求めていないからまぁ良いのか。最後の捻りは、仰天という程ではないが上手くはまって納得出来た。二人称の不自然な語り口も、少々強引ながら種が明かされれば腑に落ちた。何より神代という、妙な魅力を持つ鬼畜キャラが最大の収穫。

No.1 5点 メルカトル
(2015/01/27 22:18登録)
なんだろう、やはりジャンルとしてはイヤミスだろうな。鈴木陽子という平凡な名前の平凡な女性が、少しずつ少しずつ人生の落とし穴にはまり込んでいく過程を描いた、嫌悪感溢れるミステリ。
大作だが、比較的肩の力の抜けた書きっぷりで、サラッと読める。しかし、年間ベストテンに名を連ねるような作品ではないと思う。それなりの面白さで、それなりの内容だが、特別これと言って特筆すべき点もないし、あっと驚くようなトリックもない。よって、帯にあるような驚愕は味わえないだろう。
それと、詳述は避けるがこの犯罪にはかなり無理があると思う。どう考えても、どこかで真相の一端が発覚するはずだ。そこまで警察も○○もボンクラではないだろう。
全体的にやや冗長で、緊張感に欠けるきらいがあるし、もう少しコンパクトにまとめられなかったものかと思う。どれを取っても、いま一歩な感じで、言ってしまえば残念な作品なのだ。

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