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ミステリの祭典

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満願

作家 米澤穂信
出版日2014年03月
平均点6.63点
書評数30人

No.10 8点 青い車
(2016/02/20 15:11登録)
警察官の救いようのない腐敗を描いた『夜警』。他人の絶望を前にした人の無力さを痛感する『死人宿』。歪んだ親子間の愛情に恐怖を覚える『柘榴』。信念が引き起こした殺人が意外な形で暴かれる『万灯』。一見無関係な点と点がおぞましい真相で結びつく『関守』。そして、ひとりの女性が守ろうとした物をめぐるホワイダニット『満願』。
いずれも高水準の短篇集です。米澤穂信の端正で読みやすい筆致が冴えた最高の作例で、このミス一位も納得のクオリティ。やはりベストは『満願』かな。次にお気に入りなのは『柘榴』か『関守』。

No.9 6点 風桜青紫
(2015/12/28 20:11登録)
『夜警』は「こんな人間おるかい!」ってな、ふざけた話なんだけど、印象的なエピソードと伏線がよくからんでおり、なかなか良くできた本格ミステリ短編です。この水準の話が続いてくれれば、風桜の米澤嫌いも治るかもしれないと思ったんだが、まあ、話にアクセントがないからか無理矢理毒を押し込んだような『死人宿』に萎えてしまい、世にも奇妙な物語のつまらない回みたいな『関守』でがっくりしてしまい、有栖川有栖の使い捨て短編みたいな『満願』を退屈しながら読み終えたときには「これがこのミス1位……?」と首をかしげてる自分がおるわけです。


別に風桜はそこまで連城が好きなわけでもないけど、これを「連城三紀彦の再来」と呼んでいいものか疑問。リアリズムをアピールしながら到底有り得ないような話を書くのは確かに連城三記彦的なんだが、連城の作品はもう少し説得力があると思うのよ。たとえば親子をあつかった作品でいうと、『能師の妻』や『花衣の客』なんかは、たとえ現実にはありえん話でも、結末にいたるまでの登場人物の心の動きがよく伝わってくるから、なんとなく納得してしまう。けど『柘榴』は明らかに男のせこい妄想で書いたような「女の怖さ」だから、人物に共感が出来なくて、あんなオチを出されても、なんというか、イラついてしまうのです。父への偏愛の根拠が「ごはん食べたあとキッスした」と「声がエロい」だけじゃね……。直木賞の選評で女性作家からの風当たりが強かったのも納得。あと、これは私見だけど、女の子は傷がついてるほうが(乱歩や彬光的な意味で)エロいので、強めにしばいたところで、月子の弱々しいかわいさが倍増するだけじゃないかと思う。このあたりの感情が計算できないようでは、夕子は読書好きといっても、電撃文庫ばかり読んでいたのではないだろうか。なんにしろリアリズムに向いてないであろう作風の米澤を「連城三紀彦の再来」とかいうのは納得がいかんわけです。あえていうなら、『万灯』は米澤の色がよく出てて好感が持てた。やれるところまでやりたいみたいな変な義務感で主人公がつっ走って、どんどんダメな方向に行ってしまうところ。結末はツッコミどころ満載でも、妙に殺伐とした世界観や、主人公の心の動きが妙につたわってきて楽しめた。米澤本人はこういうタイプの人間だからかは知らんが、説得力という点ではこの作品が強かったんじゃないかな。まあ、結末はツッコミどころ満載だが、エンタメ作品だしこれぐらいは許してもいいだろう。


なにやらけっこうな長文になってしまったが、まあ、えてして嫌いな作家というのはこのように言いたいことが増えてしまうわけです。米澤の短編集なら、『儚い羊たちの祝宴』のほうが非現実味を前面に出してるぶん、鼻につかないし、内容も充実していたかな。まあ、話運びは巧みだから読んでる分には退屈しない。『夜警』だけなら7点。総合で6点といったところ。

No.8 7点 白い風
(2015/12/20 23:32登録)
少しダークさがある6編の短編集。
どれもラストが意外性があって楽しめました。
ただ、布石が分かる物とちょっとこれだけの状況でこの展開は読めないな~と思うものもあったけどね。
ミステリー的には「夜警」「関守」「万灯」の順でよかったかな。
少女の中のオンナを描いた「柘榴」はあんまり好きな内容じゃなかったけど、印象には一番残りましたね。

No.7 7点 メルカトル
(2015/01/10 22:11登録)
ミステリと文学の境界線を行ったり来たりしている風合い。捉え方によって、或いは読者によってもそのどちらをより強く感じるかは変わってくるだろう。その意味でも、私は本作を連城三紀彦を彷彿とさせる作風だと強く感じた。無論、個人的な感想で、みなさんが実際どのように受け止めるかは想像の域を出ないが。
本作、敢えて言えば70点台の短編がずらりと並んでいるように思う。だが、それぞれが佳作と呼べるような作品ばかりで、じっくりと味わいながら噛みしめるように読むべきではないだろうか。それでも、各ランキングの1位を独占しているのはいかがかと私は思う。確かにベスト10入りするのは間違いではないが、これを上回る作品が年間を通して出てこなかったというのは淋しい限りだ。
それぞれ横一線の印象を受けるが、好みとしては『関守』が一番かな。『夜警』も良かった。まあしかし、これだけ平均して及第点を超えている作品集も珍しいだろう。それだけは大したものだと思う。

No.6 7点 アイス・コーヒー
(2014/11/19 19:02登録)
山本周五郎賞を受賞したノンシリーズ短編集。強引に共通点を挙げるならば、どの作品も人間の願いと、それに付随する闇が描かれている。
殉職した部下に思いをはせる交番警官を描いた「夜警」は伏線が素晴らしい。部下を死なせた彼も、結局警官に向いていなかったのだろうか。思いのほか警察小説らしい内容でもあった。
「死人宿」はよく出来ていると思ったが、他人の自殺を止めることが正しいか否かという問題に言及していないのが残念。話題が話題なだけにもう少し掘り下げてほしかった。
美人の母親と、その美しい二人の娘。彼らを巻き込み離婚騒動を描いた「柘榴」は著者の持ち味が出ている。特にラストのインパクトは大きい。タイトルの柘榴が何の象徴となっているのか気になるが…。
バングラデシュを舞台にした「万灯」は結末の皮肉が効いている。ただ、舞台設定をもう少し活かしてほしかった。
「関守」は定番の展開ではあったが、著者の技術のかいもあり面白い一作だった。あの「動機」が明かされる戦慄はなんともいえない。
表題作はストーリーの雰囲気と真相のギャップで攻めてくる。ミスディレクションやロジックが見事に機能して、最後まで予測できない内容とだった。
私的には「夜警」と「柘榴」がベスト。安定の完成度を楽しめた。

No.5 7点 名探偵ジャパン
(2014/10/28 11:20登録)
いい感じに(?)後味の悪い作品が多い短編集。

・夜警
端からかなり救われない話を持ってきた。この犯人ならこれはやるな、と納得させる描写がうまい。

・死人宿
主人公が名探偵ぶりを発揮し、丸く収まったと思いきや……

・柘榴
これはちょっとかわいそう。父親のキャラクターといい、よくできた話ではあるけれど、好きじゃない。

・万灯
ミステリ部分もだが、ビジネス編も楽しんで読めた。
本短編集の中では一番好き。

・関守
これもブラックな一編。解剖で死体からあれが検出されてもよさそうなものだが。

・満願
表題作にして、もっとも本格ミステリテイストが溢れた作品。

今時、キャラや叙述トリック、バカミステイスト、アンチミステリに頼らない、クラシカルな本格短編集で、派手さはないが堅実で安心して読める。こういった直球本格作品が上梓され、話題になっているというのはまことに喜ばしい。

No.4 7点 HORNET
(2014/09/14 13:17登録)
 近年めきめき頭角を表してきている著者だが、短編を書いても一流、と思える質の高さ。ハウダニット、ホワイダニットが主体の作品が揃っているが、どれも読者の感心を得るような仕掛けが巧みになされている。
 「夜警」は警察短編の名手・横山秀夫を彷彿とさせるような筆致で警察社会ならではの謎が描かれている。「柘榴」は正直大体の予想はついていたが、「やはり」と思っても怖さは半減しなかった。表題作「満願」は既読だったが、再読しても面白かった。

No.3 9点 虫暮部
(2014/07/22 11:02登録)
非常に粒揃いの短編集。そしてどの作品も後味が悪い、というところが素晴らしい。
 “漢字表記の名詞ひとつ”という形で統一されたタイトルが、ネタを真ん中にドンと出してこれでどうだ! という感じで効果的。収録にあたって改題したものがあるから、この漢字だけの目次は意図されたものだろう。 

 敢て突っ込むなら、「関守」のラストで発生する人違いに根拠というか伏線が欠けているのでは。あそこだけ唐突に感じた。

No.2 7点 まさむね
(2014/07/03 21:22登録)
 ノンシリーズ短編集。バラエティに富んでいますが,ブラックな色彩の作品が多いかな。個人的には「儚い羊たちの祝宴」よりも好印象。
1 夜警
 佐々木譲or横山秀夫と読み間違うような展開。伏線は「いかにも」だったのですが,想定以上の反転でした。
2 死人宿
 1とは異なる意味での「反転」が見事。私は結構怖かった。
3 柘榴
 これも怖い。
4 万灯
 梓崎優の「叫びと祈り」を思い起こさせる雰囲気。犯行の発覚理由が何とも興味深い。
5 関守
 一定想像はつくのだが…やっぱり怖い。
6 満願
 雰囲気作りが巧い。ホワイの部分はやや納得しがたい面も。

 どの作品もハズレはないですが,好みとしては「万灯」「満願」「柘榴」の順でしょうか。

No.1 7点 kanamori
(2014/04/22 18:14登録)
作者の芸達者ぶりが存分に発揮されたノン・シリーズ短編集。先に出た短編集「儚い羊たちの祝宴」と比べると、共通するモチーフによる縛りがないぶん、よりバラエティに富んだ多彩な作風の作品が並んでいると思う。
(以下、ネタバレぎみなので未読の方は注意!)

「夜警」は、佐々木譲を思わせる警察小説だが、交番巡査の殉職事件がチェスタトン風の構図の逆転を見せる。
「死人宿」は、自殺志願者探しというパズラーが最後にアンチ・ミステリ風に変転する。舞台の温泉宿の雰囲気作りも巧い。
「柘榴」は、美人の母親と娘たち、生活能力のない父親という家族関係が離婚調停を機に意外な方向に崩れていく。やはり女は何歳でも怖い。
「万灯」は倒叙ミステリ。殺人を犯した海外勤務商社員がはまる陥穽の意外性で読ませる。
「関守」は、フリーライターが都市伝説の取材で訪れた南伊豆の峠のドライブインを舞台にした一幕劇。これもかなりブラックな味付け。
「満願」は、畳屋の女房が起こした殺人事件を、苦学生時代に助けてもらった過去を持つ弁護士が回想する。達磨の置物など小道具の使い方が巧い。

以上6編、オチがある程度予想できるものがいくつかあるが、いずれも甲乙つけがたい水準以上の出来という評価。好みでいえば「柘榴」と「満願」がいいかな。

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