迷宮百年の睡魔 百年シリーズ |
---|
作家 | 森博嗣 |
---|---|
出版日 | 2003年06月 |
平均点 | 7.38点 |
書評数 | 13人 |
No.13 | 7点 | メルカトル | |
(2019/12/02 22:24登録) 百年の間、外部に様子が伝えられたことのない宮殿より取材許可を得て、伝説の島を訪れたミチルとウォーカロンのロイディ。一夜にして海に囲まれたと言い伝えられる島には、座標システムも機能しない迷宮の街が広がり、かつて会った女性に酷似した女王がいた。あらゆる前提を覆す、至高の百年シリーズ第二作! 『BOOK』データベースより。 順番間違えたかなあ。でもまあ、前作を読んでいなくても十分楽しめました。 しかし、首なし死体を二つ転がしておいてSFはないだろうとも思いますが、本格じゃない訳で。その辺り、ミステリと勘違いして読んだ人はそれは違うだろうと、憤慨した方もおられるかもしれませんね。そもそもおよそ百年後の物語なので、色々齟齬は起きます。例えばウォーカロンって何?ってなりませんか。ロボットなのかアンドロイドなのか、詳細は明らかになっていませんし。 途中ドタバタがあったり、なんとなくどうでも良いような描写があり、冗長さは感じます。そして、残り僅かになってもなかなか事件の様相が見えて来なくて、大丈夫かと不安になる私。勿論そんな心配は無用ですが、真相はあらぬ方向へ向かいます。それは現代においてはとても通用しない解法、だからこそのSFだったんですね。 多産作家に見られるような「書き慣れ過ぎて深みが感じられない」傾向がないとは言えないです、私だけかもしれませんし、偏見かもしれませんが。でも、これだけの作品を短期間で書き上げられるだけでも凄い才能だとは思いますね。 |
No.12 | 7点 | Tetchy | |
(2018/02/27 23:40登録) エンジニアリング・ライタのサエバ・ミチルと相棒のウォーカロン、ロイディの2人がルナティック・シティに続いて訪れるのは周囲を海に囲まれた巨大な建造物からなる島イル・サン・ジャック。そう、もうお分かりであろう、フランスのモン・サン・ミシェルをモデルにした島が物語の舞台である。 本書の時代設定は2114年。前作は2113年だったからルナティック・シティの事件から1年後の話となる。既にクロン技術も確立され、ウォーカロンというアンドロイドが一般的に導入され、労働力にもなっている森氏による近未来ファンタジー小説の意匠を纏ったミステリである本書はその世界そのものに謎が多く散りばめられている。 以下大いにネタバレ! 永遠の生を与えることが最大の奉仕と思っていた女王。しかし与えられたものは感じたのは永遠の命を持っていることの恐ろしさ。その恐怖が彼を死を魅力的だと思うようになった。従って彼は死を選び、その瞬間、なんとも云い難い爽快感を得た。それは永遠の命という鎖から解き放たれた解放感と云えるだろう。人は押しなべて永遠に生きることを選ぶとは限らないのだ。 この生き方、死に様から本書はサルトルの「実存主義」について語ったミステリであると云えるだろう。作り物の躰を借りて頭脳だけの存在になった物は果たして存在していると云えるのだろうか?本来人間は実存が先にあり、そして本質を自分の手で選び取っていかなければならないとされていたのに、実存さえもないのに、本質を自分の手で選び取っていくのは果たしてどこに存在があるというのか? 存在しながらも非在であるというジレンマがここにはある。 それは既に人間というデータであり存在ではない。しかしウォーカロンという器で現実世界に存在している。それは今や貨幣からウェブ上での数字でやり取りされる金銭と同じような感覚である。お金として存在はするのに実存せずとも数字というデータで取引が出来、そして実際に現物が手に入る。この電脳空間で実物性がない中で実物が手元に入る感覚の不思議さを森氏はこのシリーズで投げ掛けているように思える。 金銭でさえもはや数字というデータでやり取りされ、成立するならばもはや人間も頭脳さえ維持されれば個人の意識というデータで生き、そして躰はウォーカロンという器でいくらでも取り換えが利くようになる。それは人間が手に入れた永遠だ。しかしそこに存在はあるのか。その人は実在しているのか?そのジレンマを象徴しているのがサエバ・ミチルであり、そして本書の登場したイル・サン・ジャックの人々なのだ。 2018年現在、人工知能の開発はかなりの進展をしており、かつては人間が勝っていた人工知能と将棋の対戦も人間側が勝てなくなっている。そして人間型ロボットの開発もかなり進歩しており、見た目には人間と変わらない物も出てきている。更に人工知能の発達により今後10~20年で人間の仕事の約半分は機械に取って代わられると予見されている。 2003年に発表された本書は既に15年後の未来を見据えた内容、描写が見受けられ、読みながらハッとするところが多々あった。特に本書に登場する警察は人間の警官はカイリス1人であり、その他の部下はウォーカロンである。このようにいつもながら森氏の先見性には驚かされる。 そしてこの世界ではもはや人間は働く必要はないほどエネルギーは充足している。つまりもはや人間の存在意義や価値はないといっていいだろう。永遠なる退屈と虚無を手に入れた人間は果たしてどこに向かうのか?ユートピアを描きながらもその実ディストピアである未来の空虚さをこのシリーズでは語っている。 森氏の著作に『夢・出逢い・魔性』というのがある。これは即ち「夢で逢いましょう」を文字ったタイトルでもある。また日本の歌にはこのような歌詞のあるものもある。 “夢でもし逢えたら素敵なことね。貴方に逢えるまで眠りに就きたい” メグツシュカが作り出したイル・サン・ジャックに住まう人々は永い夢の中で生きる人々なのかもしれない。彼らはそんな夢の中で永遠の安息と変わりない日々、つまりは安定を得て、日々を暮らし、そこに充足を感じている。それがメグツシュカが描いた理想のコミュニティであれば、なんと平和とは退屈なものなのだろうか。 無敵と化した人間の実存性を手に入れた代償が永遠なる退屈と虚無であり、そしてそのことを悟った人間の選択が自殺であったという実に皮肉な真相だった。 |
No.11 | 8点 | ∠渉 | |
(2015/05/31 23:16登録) ある意味ダークファンタジィ。この世界でこそ成立するミステリィでありながらも、普遍的。 |
No.10 | 5点 | yoneppi | |
(2014/07/07 21:06登録) 評価が高いですね。多分自分が理解出来ていないから。将来の理解への予感もない不思議。 |
No.9 | 7点 | ムラ | |
(2011/10/02 23:48登録) もはや完全にSFとなったこの作品。 四季のSFだったけどこの作品の殺人のトリックはちょっと思いつかなかった。 民がウォーカロンまでは読めたんだが、まさかそれとは別のパターンは予想外。 ミステリではないが、S&Mから続く世界観の到達点としては面白い作品だと思う。 ところでメグツシュカ=真賀田博士なのだろうか。 |
No.8 | 5点 | touko | |
(2011/04/08 20:52登録) 前作に比べると、ネタが割れている分、インパクトはなかったです。 世界観が好きなら楽しめるかと。 |
No.7 | 8点 | vivi | |
(2008/04/16 01:27登録) 百年も未来に、森ワールドは広がっていたんだ!と感動。 ネタバレになるので多くは語れませんが、 最初の作品に垣間見られるテーマが、この百年後の世界を作っているわけで。 3部作になるということなので、次の3作目が楽しみです。 こうして、みんな彼女のトリコになっていくんだな~と実感。 |
No.6 | 10点 | 樽井 | |
(2008/03/22 22:51登録) 森さんの作品群の中でも、一番面白かったと思います。近未来らしいトリックや、感情の移入が可能な主人公。森博嗣以外だったら当たり前のものでも、森テイストでそれが加われば圧倒的に破壊力があるの目の当たりにできました。 ミステリとしても、この世界の前提の中ならアンフェアでなし。 |
No.5 | 10点 | jj | |
(2004/10/25 01:33登録) ついに「彼女」が姿を見せましたね。 次回作があるなら、本当に楽しみです。 |
No.4 | 10点 | なりね | |
(2004/07/11 00:11登録) どれだけ真実に近付けたかで評価が分かれるところ。 多分何も分からなかったら7、8点がせいぜい。 自分は森本(宝島社)を先に読んでいたからどういう世界で、ミチルは誰なのか、おおよそ予想がついて、鳥肌立ちまくりでした。 読むに当たって『女王の百年密室』は必読ですね。最低でもこれは読まないと面白くない。できればS&M、Vシリーズも読むといいかも。 森先生は天才だなぁ〜。 |
No.3 | 6点 | Nai | |
(2004/04/13 23:32登録) 女王ってあの人ですよね?名前の母音を変えるとそうなるので間違いないかと。相変わらずミステリとは呼べない作品かもしれませんが、ミチルとロイディのやり取りや世界観だけでも楽しめました。 |
No.2 | 4点 | りえ | |
(2004/03/10 22:26登録) 初めて読んだ森作品。コレから入ったのは失敗か??世界観は魅力的だが、ミチルの心理描写が分かりにくいし、間延びしていて入り込めなかった。 |
No.1 | 9点 | ディラン | |
(2003/07/27 12:16登録) S&Mシリーズ以外では初めて読んだ作品でした。とても面白かったです。ミステリィのような、ファンタジーのような、アドベンチャのような素敵な映画を見たような感じでした。 特に、昨年あたり話題になったミシェル・ウェルベックの「素粒子」を読んだ後だったからか、とても残留感があり、人間って何だろうみたいな不思議な浮遊感を味わえて気持ちよかったです。 作者のトリックと対決して頭脳をぶん回したい向きにはお勧めはしないですが、大好きです。 |