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ミステリの祭典

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海を見る人

作家 小林泰三
出版日2002年05月
平均点7.50点
書評数6人

No.6 7点 八二一
(2024/01/27 20:16登録)
時の進み方が異なる浜の村と山の村に住む少年と少女のすれ違いを美しく残酷に描いた表題作など、人間の歴史認識やコミュニケーションのずれを論理性と叙情性に富んだ文体で書いた問題作ばかり。

No.5 7点 糸色女少
(2023/04/14 22:22登録)
場所によって時間の進行の異なる世界での悲しい恋の物語を描き、SFマガジン読者賞を受賞した表題作を中心とする短編集。
いずれも、物語は表面上のストーリーと舞台となる世界の構造が見えてくる過程との二重構造になっていて、一見奇妙に見える世界の裏にも物理的に確かな論理が隠されている。物語の過程で主人公は大切な何かを失い、それと引き換えに世界の像を手に入れる。世界を知った歓びと喪失感とがないまぜになった読後感はほろ苦い。

No.4 7点 虫暮部
(2020/12/11 12:08登録)
 本書は小林泰三のブライト・サイドだと思っていたけど、決してリリカルなだけの作品集ではないし、視覚的な想像を膨らませるとなかなかシュールかつグロテスクだし、こりゃあ表紙を飾る鶴田謙二のイラストに騙されていたわ(いいじゃないの幸せならば)。
 どれも面白いが、以前読んだ時と比べると結構“普通”な印象。変な世界の話はいっぱい読んだからね。

No.3 7点 kanamori
(2011/10/31 17:56登録)
冒険ファンタジー&恋愛小説作品集。ただし、それぞれの作品世界は、物理的数学的裏付けがある不思議な異世界で、ハードSF短編集でもあります。

このSF作品集がミステリの書評サイトに登録されている意義は、唯一つ、編中の「独裁者の掟」にあって、物語全体に凝らされたミステリ的な技巧が実に鮮やかで強烈。他の作品の”ワンダー”に対してコレは”サプライズ”狙いです。
あと、ハードSFとしては「門」が印象に残った。相対性原理と量子力学に折り合いをつける”量子テレポート”の設定など、時事ネタの”ニュー・トリノの光速超え”を思い起こさせる(笑)。
「時計の中のレンズ」や「天獄と地国」など、その作品世界をイメージすること自体が難しいものもありますが、理系脳の方にはかなり楽しめると思います。

No.2 7点 レイ・ブラッドベリへ
(2011/04/24 10:53登録)
 この短編集では不思議な物理世界を設定し、その中で生きる人間像を描いている。

 「門」は3章・60ページからなる短編。
地球から1000光年の距離にある「コロニー」と呼ばれる宇宙基地での話。

 第1章ではこの時代の人類が手にしている「宇宙航行の技術」について語られる。
もしこれがショートショートなら、「24世紀の半ば、人類は10光年の距離を数時間で移動する技術を獲得していた」と一言で片づけて本題のストーリーに入るものを、さすがはハードSF、「私にはそんな結論だけお伝えするという安易なことはできません。人類が400年かけて発展させてきた宇宙航行に関する理論と技術の歴史を3世代に分類し、キッチリ語らせてもらいます」とばかり丸々1章、14ページをかけて書いている。読む方が、「あの、そこの所はもう結構です……あとはひとつ穏便に」と泣きを入れても、「いや、ここまでは未だ量子テレポートの基礎概念しかお話していません。次は運動量問題の解決となった負性質量について説明しましょう」と赦してくれない。真面目なのだ。硬いのだ。ハードSFとはそういうものなのだ。(ホントか?)

 それでようやく第2章からストーリーが始まる。
1年ほど前に地球から宇宙戦艦がやってきた。コロニーに住む主人公の少年は、この若く勇敢な女性艦長の顔から目を離せない。
それからいろいろあって、章の終わりで艦長と別れることになる。
「どっちが先についても、あの席で待ってることにしない? そのとき、苺ミルフィーユぐらいは奢ってよね」

 第3章では再び現在のシーンに戻る。
少年はコロニーの女性リーダーと一年前の事件について久し振りに話をする。
「(救命艇に)僕が乗るのも決まっていたのですか?」「ええ」
「何のために?」「彼女(女性艦長)への餞(はなむけ)です」
(いくら人類のためとはいえ、一人の女性が1000光年の距離と200年の時間を旅するのはあまりにも苛酷だ)
 そして少年と一緒に、僕らはポカンと口をあけたままフィナーレを迎える。
これはハッピーエンドなのか、そうではないのか。よく判らないまま、変てこな感動を残しつつ物語は完結する。
「……そうそう。苺ミルフィーユをここのメニューに付け加えてもらわないといけないわね」

 「独裁者の掟」は「宇宙空間を亜光速で移動しながら確実に滅亡へと向かっている世界」での話。ちなみにtoukoさんがいう「ミステリにはよくある手法」とは、シーマスターさんがある海外作品について「『〇〇』型の〇ットバック」と評されたものだ。(『〇〇』は国内ミステリのタイトル。「〇ットバック」はビートルズの曲名ではない)。
この手法を使うと少し読み難くなるため物語の世界に入り込むまで時間が掛かるのだが、最後に読者へ与える効果は強烈なものとなる。
……ということに気がついたので、次回は『イニシエーション・ラブ』の感想を書きます。(いつになるかは自分でも分からないけど)。

No.1 10点 touko
(2009/08/19 21:34登録)
悪夢のようなグロテスクなホラーをメインに、SFやミステリと多彩なジャンルの本を出している作家の、この本はハードSFの短編集です。
ですが、この作家のミステリとして出された本は、私には全部つまらなかったので; 大好きなこの本を登録してみました。

この中に収められている「独裁者の掟」がミステリにはよくある手法、そしてSFにもよくあるアイディアを使っているのですが、これが素晴らしい出来栄えで、その手のミステリの手法なり、SF的アイディアは、この作品を世に誕生させるために創案されたのだ……と思ったくらい!?(大袈裟)
ミステリとして書かれているわけではないので、フェアではないかもしれませんが、この感動や切なさは、あるトリックがなければ、成立しなかったと思うと、いやもうミステリに感謝です!?

その他の作品もいつものグロさもなく、むしろ泣ける話までありますし、数式だけで成立するというフェアな作品(?)もあったりして、ロジカルなものが好きな人には、SFですが、読みやすいんじゃないかと思います。

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