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ミステリの祭典

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ナヴァロンの要塞
キース・マロリー大尉シリーズ

作家 アリステア・マクリーン
出版日1966年01月
平均点5.78点
書評数9人

No.9 6点 クリスティ再読
(2022/02/06 23:04登録)
そういえば評者、高校受験が終わって春休みのボーっとしていい時期に本作を読んだ記憶がある。映画は好きだったね。当時ご贔屓スターがアンソニー・クイン(アンドレア)とデーヴィッド・ニヴン(ミラー)だったし。オヤジ好きだ。としてみると、スティーヴンズって若造だしさあ、怪我した時点で(泣)が見えてるわけだ。評者ガキだったけど、何かそういう(泣)に反発してた...これも「若さ」って、もんだろう。

だから50年近くぶりの再読になるわけだ。としてみると...だけど、今回は「ダメな子」スティーヴンズにハラハラしながら読んでいる自分に気が付く。スティーヴンズの「失敗」も妙に自意識過剰なところもあるし、そういう「若さ」が今にしてみると愛おしい。
「若い」と「若さ」が目に入らないものなんだな(目から青春の汗が..)。

戦争アクションって評者はガラにもない話。けど本作って「様式美」な世界のようにも感じる。それだけ王道ということだろう。

ちなみに原作登場人物は男ばかり。戦争モノだからね。映画はそれじゃ成立しないので、現地合流のレジスタンスが両方女性。マロリーとちょいとイイ場面もある。でスティーヴンスも若僧じゃなくてマロリーの旧友でそっちが指揮官、と改変。しかもこの件を巡ってはヒロイズムな自己犠牲に流さずに、うまい処理をしている。なので、評者的な原作のポイントとはズレるけども、ご贔屓のニヴン(フケツじゃなくて教授だそう)とかクインを楽しめばいいし。いや、映画の脚色は実によく出来ているよ。島民の結婚式パーティとか、うまいな~と感じさせるシーンが続出。

そして最後に、何千トンにものぼる岩石が豪快に港にくずれおちる。腹にひびくような音―何千トンにものぼる岩石と、ナヴァロンの巨砲が。

とあっさりとした文章で記述されるクライマックスよりも、映画の特撮の方がずっと迫力がある(当たり前)。防風メガネかけて皆一斉に耳を塞ぐとか、巨砲発射のデテールもかっこいいしね。映画屋のド根性を見せつけた映画がちょいと出来過ぎなくらいの出来だから、原作の方が旗色悪いや。

(これ有名な話だけど、続編の「ナヴァロンの嵐」は、本作のラストから続くんだけど、脱出者にしれっとヒロインが入っていたりして、小説の続編じゃなくて映画の続編だったりする。そんなものさ)

No.8 6点 ROM大臣
(2021/09/17 13:51登録)
ドイツ軍が占拠する難攻不落の巨砲要塞爆破をミッションとする潜入作戦で、血沸き肉躍る冒険小説の一大金字塔と言って過言ではない。
困難なミッションの設定、作戦遂行チームの結成、過酷なまでに猛威を振るう自然、連続する危機、裏切り者の存在、目的遂行の強烈な意思。これらの要素が渾然一体と織り込まれている。しかも映画化され、そこでもスクリーン効果はいかんなく発揮され、大ヒットを記録した。

No.7 7点
(2020/02/03 17:55登録)
 第二次世界大戦中のトルコ国境沿岸部、北西にギリシャのレラデス諸島を臨み、要塞島と真正面に突き出たデミルチ岬の先端とを結ぶ線上から、ほぼまっすぐに小島ケロスを睨むナヴァロン。そこに据え付けられたナチス・ドイツの巨砲はエーゲ海に猛威を奮っていた。ケロスに取り残されたイギリス将兵を救うために連合軍はあらゆる手段を用いたが、すべての試みはむなしい失敗に終わっていた。
 制空権が完全にナチスに握られた状態で、敵機帆船団と空挺部隊がピレエフスを出てケロスに到着するまであと一週間――それまでに巨砲を沈黙させなければ、千二百の将兵はその全員が戦死するか、負傷するか、捕虜となる運命にある。在カイロ後方攪乱作戦本部主任ジェンセン大佐は、ニュージーランドが生んだ最も偉大なロック・クライマー、イギリス陸軍大尉キース・マロリーほか五名に特命を下した――ナヴァロンの巨砲を破壊せよ! 知力、体力の限りを尽くして不可能に挑む男たちの姿を描く、冒険小説の金字塔。
 1957年発表。処女作「女王陛下のユリシーズ号」に続く第二作で、戦争ものその他に無関心な人でも、なぜか〈ナヴァロン〉という単語だけは知っているという超有名小説。戦時下を舞台にした幾多の冒険小説の原型となった作品で、敵地に潜入を試みるマロリーチームに幾多の苦難が絶え間なく襲い掛かります。
 切れ者ジェンセンの計らいで、爆発物を扱う天才・フケツことミラー伍長、マロリーと一心同体の頼れるギリシャ人巨漢・アンドレアなど優秀メンバーを集めたものの、ドイツ軍工作員により彼らの潜入は筒抜け状態。救援を担当する現地の味方将校も弛みきって、しょっぱなから打ち合わせを立ち聞きされる有様。登攀不可能とされる断崖や嵐の海・豪雨・寒気などの自然の脅威や敵軍に加えて、味方からの嫌がらせや敵スパイによる裏切りの危機が重なり、一瞬も気の休まるヒマがありません。
 天の時・地の利・人の和全てがマイナス。個々のアイデアは正直たいしたことないんですが、この三重苦により入れ替わり立ち代わり訪れる逆境を、その度に不屈の精神で乗り越えるのがこの小説の見所でしょう。シンプルながら時代に左右されぬ面白さがあります。
 原点だけに甘い部分もありますが、そういった所も含めてギリギリ7点。一度は読むべき作品です。

No.6 7点 人並由真
(2017/08/08 17:24登録)
(ネタバレなし)
こんなものもまだ読んでませんでした、の一冊。
思えばマクリーンは初期作を何冊か堪能して、後期作もそれなりに読んだけど、『ユリシーズ』を初めとして未読の大物もまだ何冊も残ってる。
ちなみに映画『ナバロンの要塞』も、基本的に映像化作品は先に原作ミステリを読んでから、のヒトなのでまだ観ていません。

つーわけでかなり新鮮な気分で読み進めましたが、いや、いま読んでも十分に面白かったですな。
まあ正直、島に辿り着くまでの前半3分の1だけでも、描写が濃厚すぎてゲッソリしちゃう部分もあったけど、中盤の山場となる登坂の件からもう食いつくように一気読み。
特に最も若手のメンバー、スティーブンズが己の秘めた恐怖心と懸命に対峙するくだりは他のメディアではなかなか得にくい小説ならではの緊張感と迫力に満ちており、のちの80年代に北上次郎が冒険小説の重要なポイントとした内面の恐怖への克己がここでもきちんと押さえられている。
後半の展開や登場人物の配置も起伏や工夫に富む一方、あくまで焦点を主人公チームから外さない構成もスキがなく、満腹感いっぱいの一冊でした。
あえて不満を言うなら、逆説的に、長編第二作としては成熟しすぎてる感じかな。まあ、序盤から投げた渾身の豪速球的な魅力ともいえるんだけど。

No.5 6点 E-BANKER
(2014/03/15 20:34登録)
1957年発表。「女王陛下のユリシーズ号」と並び、A.マクリーン最大の傑作といえばコレ。
グレゴリー・ペック主演の映画の方が有名なサスペンスアクション巨編。

~エーゲ海にそびえ立つ難攻不落のナチスの要塞、ナヴァロン。その巨砲のために連合軍が払った犠牲は計り知れない。折しも近隣の小島ケロスにとどまる1,200名の連合軍将兵が全滅の危機に瀕していた。だがナヴァロンのある限り、救出は不可能。遂に世界的登山家のマロリー大尉ら精鋭五人に特命が下った。「ナヴァロンの巨砲を破壊せよ!」。知力、体力の限りを尽くして不可能に挑む男たちの姿を描く冒険小説の金字塔!~

これはやはり映像向きだな・・・というのが読後の感想。
マロリー大尉らが、数々の苦難を経てナヴァロンの巨砲を破壊するまでが描かれるわけだが、文字にして読んでると、どこか説明がクドク感じてしまって、スピード感が削がれるように思えた。
作中にナヴァロンの要塞の図なども挿入されているのだが、本来は三次元の広大なスケールだったのが、うまく伝わってこないような感覚なのだ。(訳文のせいかもしれないが・・・)

ただし、さすが読み継がれる名作と思わせるところは随所にある。
序盤から中盤まではちょっとまだるっこしいのだが、マロリーらの進撃が始まる終盤以降は、マロリー軍団VSドイツ軍の一進一退の攻防が描かれ、ページをめくる手が止まらなくなる。
仲間の裏切り、そして忠実な部下の死を経てたどり着く歓喜!
この辺りの面白さはやはり見るべきものがある。

評点としてはこのくらいになるかなぁ・・・
知名度から勘案するとちょっと物足りない感じがしてしまうところがどうしても評価に反映されてしまう。
でもまぁ、十分に一読の価値はあり。
(今回、読了するのにかなりの時間を要してしまった・・・)

No.4 7点 Tetchy
(2014/02/02 01:08登録)
第1作でもそうだったが、マクリーンはとにかく主人公たちにこの上ない負荷をかける。人間の精神と肉体の限界、いやそれ以上の力を試し、もしくは骨の髄まで疲労困憊させ、最後の一滴まで搾り取るかの如く、これでもかこれでもかと危難や難題を突き付ける、いや叩き付ける。
これら主人公一行に襲いかかる敵や障害をいかに乗り越えていくかという機転や卓越した技術へのスーパーヒーローの戦いぶりにあるのではなく、困難な目標に向かって苦闘する人々が織りなす人間ドラマに読みどころがある。
何度も挫折しそうとなりながらも仲間たちを鼓舞するリーダーシップやそれに減らず口を叩きながらも応えていく部下たち、そして島を侵略された住民からの協力者たちが秘める敵への憎しみ、それらが折り重なって極限状態の主人公たちが諦めずに幾度も立上る行動原理を語っているからこそ、ハリウッドが好き好んで描くアクション映画の筋書の典型のようなシンプルな筋書を持つこの作品が今なお冒険小説の金字塔として称賛されるのだろう。

マクリーンは『女王陛下のユリシーズ号』と本書を以て冒険小説の巨匠として名を残し、70年代以降の作品は読むべきものはないと云われているが、正直この作品は私の中では面白いとは思うが歴史に残るほどの作品とは思わなかった。シャーロック・ホームズシリーズでも『バスカヴィル家の犬』よりも『恐怖の谷』を評価する私なので今後の作品に私なりの傑作を見つけていこう。

No.3 5点 mini
(2012/03/29 10:06登録)
発売中の早川ミステリマガジン5月号の特集は、”レジナルド・ヒルと内藤陳よ、もう一度”
追悼特集ってわけだね

昨年暮に亡くなった内藤陳と言えばさぁ、”このミス”で締め切り後(もちろん集計外)の投票で毎年恒例のトリを務めるのが名物だったよなぁ
そして”日本冒険小説協会”の発起人でもあった
しかしねぇ、私は日本冒険小説協会に不満があるんだ
冒険小説と銘打ちながら見識は広く諜報スリラーやハードボイルドなども視野に入れている
間口を広く取る事それ自体は良い、間口だけならね、ちゃんとジャンルの区別をしてるならば
現在では冒険小説とハードボイルドを同列なジャンルと見なす悪しき風潮が有るが、この悪習の元となった一因には内藤先生の存在も有るんですぜ
両方のジャンル共に好きってのは別に良い、しかし両者を混同しちゃいかんだろ
冒険小説とハードボイルドを同じジャンルと考える風潮が私は大嫌いである、両者は歴史的経緯が全く別物だし
日本の読者って、本格に関してはすごく形式的に狭く解釈するくせに、ハードボイルドって言葉をやたら広く解釈する傾向がある
アクションスリラーなども平気でハードボイルドって呼んだりするんだ
ハードボイルド私立探偵小説っていうのはアメリカ独特のジャンルで、つまりアマチュア探偵に対して職業探偵が謎を解く形式の割と狭いジャンルを指すのだ、職業と言っても公務員である警官が主役なのは警察小説として別ジャンルになる
つまりだねハードボイルドって言うのは、冒険小説よりも遥に本格の方に近いジャンルなのだ、事件を解決するって意味では、ただ捜査のアプローチ手法が違うだけ
ありゃ前置きが長くなっちゃった、続きはハードボイルドの書評時にでも

上記で述べたように冒険小説は本格とは異質なジャンルだ、でもだからと言ってミステリーの範疇外なわけじゃない
謎が存在し謎に対する興味で物語を紡ぐのならば広い意味では立派にミステリーの範疇内である、ミステリーの範疇に入る冒険小説作家なんて一杯居る
それと冒険小説は戦争小説じゃない、戦争を背景にする事の多いマクリーンの方がむしろ異色なのであって、多くの冒険小説は民間の問題を背景にしている、マクリーン以前のハモンド・イネスだって民間絡みの話の方が多いし
戦争小説じゃないんだから軍事戦略的にいかに敵に勝つかという総合的な問題は全くもって重要ではない、戦争は単に背景にしか過ぎず、別に民間の調査だったりでも良いのだ
だから敵に勝つのが目的ならミサイルを撃ち込めば済む話だが、それ言ったら本格だって何もトリックを弄さなくても簡単に殺す方法なんていくらでも有るだろ
そこをトリックを読者に考えさせるのが本格の主眼だという御意見もござろうが、それ言うなら冒険小説だって敵国に勝つことを目的にしているわけじゃない

とここまで冒険小説をミステリーの範疇内として擁護していながら採点が5点て低くないかと言われそうだな
だってさ、マクリーンて雰囲気とかがあまり面白くないんだもん

No.2 2点 江守森江
(2010/07/23 13:56登録)
※最初に余談
私的なミステリーの範疇外作品の書評を連発しポリシー通り2点にする事で、自身の平均点が5点ジャストになるように調整中。
映画化(此方のタイトルはナバロンだった)もされた戦争冒険小説。
軍事戦略を論理的にシミュレーションするならミステリー的だとは思うが、戦略過程を壮大に描いた冒険小説は、結末に捻りがあってもミステリーに含めたくない。
そんな事より、要塞攻略なんてまだるっこしい戦法ではなく、今なら敵対国の本土に核ミサイルを撃ち込めば戦争なんて一発終了だと思うのだが・・・・・・(もっとも地球も破滅するだろうが)
しかし、戦争小説の登場人物達って何処の国民でもお国の為に命懸けなのが不思議でしょうがない!
私なんか息子に、万一戦時下になったら安全な国に避難しなさいと(幼少期から英会話と中国語会話を学ばせて)徹底教育している。

No.1 6点 kanamori
(2010/07/22 18:51登録)
「東西ミステリーベスト100」海外編の80位は、戦争冒険小説の金字塔的作品。
おそらく団塊の世代のお父さん方にとって、冒険小説のバイブルでしょう。現在の人気は見る影もありませんが。
世界的登山家マロリー以下5名のミッション・インポシブルは非常にストレートな冒険小説。
最後の展開もマクリーンのお家芸でした。

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