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ミステリの祭典

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神とさざなみの密室

作家 市川憂人
出版日2019年09月
平均点6.00点
書評数6人

No.6 4点 E-BANKER
(2023/10/09 12:39登録)
「マリア&漣シリーズ」以外では初読みとなる本作。同シリーズでは大掛かりな舞台と丹念なロジックがかなり面白くて、本作にも期待十分!と言いたいところですが、さて・・・
2019年の発表。

~和田政権打倒を標榜する若者の団体「コスモス」で活躍する凛は、気付くと薄暗い部屋にいた。両手首をしばられ動けない。一方、隣の部屋では外国人排斥を謳う「AFPU」のメンバーである大輝が目を覚ましていた。ふたりに直前の記憶はなく、眼前には横たわる死体。誰が、何のために、敵対するふたりを密室に閉じ込めたのか。そして、この身元不明死体の正体は? 真の民主主義とは何か? 人は正しい道を選べるのか? 日本はどこへ向かっているのか?・・・~

以前少し考えてみたことがある。「なぜ政治家たちは70歳や80歳にまでもなって、権力闘争やらワケの分からん答弁やら、意味もない外遊などやってるんだろうか?」
そうは言っても、政治家はシンドイ仕事であるのは間違いない。居眠りするのがたまに話題になるけど、国会だってかなりの時間をかけている。普通の70や80の爺たちにはこたえるだろうに・・・ってことを。
そのとき結論づけたのは、「きっと政治って面白いのだろう」ということ。男も70や80にでもなれば、当然アッチの方は役立たず、近寄る女性だってなんかワケありだろうし、普通は仕事だってとっくに引退・・・
そんな年寄りがですよ。堂々主役になって振舞えるのが政治家の世界。特に「人事」なんて面白いだろうねぇ。金や人脈の力でうまいこと人を操る・・・なんて絶対面白い。だからこそ、あんな爺が必死になって政治家にしがみつく。

すみません。脱線しまくってました。
ただ、本作の政治に関する論議とミステリーとの組み合わせはかなり「違和感」があった。
真犯人がこの犯罪を計画し、準備し、実行するに至る経緯、動機。1960年代や70年代ならまだ分かるが、令和のこの時代に!っていうのがどうにも違和感だった。
本作の主人公となる若き女性「凛」の行動もそう。彼女にシンパシーを感じる人がいるのだろうか?物語のラスト。作者的にはきれいにまとめようとしたのかもしれないが、こんな形で終わっては結局偽善以外のなにものでもないと思わざるを得なかったなぁ。

まぁ政治的な部分は正直どうでもよいというのが本音。読む人それぞれが感じることは異なるでしょうし、それで良い。ただ、結局、死体の顔が焼かれていたことにせよ、真犯人の正体に関する欺瞞にせよ、ミステリーの出来としては薄いなという印象は拭えなかった。
作者については、やっぱり「マリア&漣」シリーズの続編を期待したい!

No.5 6点 mozart
(2023/09/21 11:31登録)
政治色「溢れる」ストーリーの序盤でやや面食らいましたが意味も状況も不明なまま「密室」に閉じ込められた二人の閉塞感がサスペンスを盛り立てていてなかなか読み応えがありました。
密室ができあがった経緯等についてはそれなりの説明がありましたが犯人の動機を含めた伏線の回収の仕方にはちょっと納得がいかないというか不満が残りました。

No.4 7点 みりん
(2023/06/20 12:02登録)
ネトウヨやらパヨクといった俗語が抵抗なく使われ、冒頭からかなり政治色の強い内容で本当にこの作者の作品か?と面食らってしまった。しかしこの内容に対してややミスマッチかと思われるほど本格要素の強い状況設定が出てくる。これは両方楽しめる良い作品でした。

"ひとりひとりが信条や損得を抜きにして、正しい情報を得て議論して考え抜けば、(多数決は)コイン投げより高い確率で『本当の答え』を見つけ出せる"
"神様の答えに一番近づけるのは理想の民主主義"
"気体分子を個々の市民、状態方程式を民主主義に置き換えれば民主主義が完璧に成立する条件とは市民が理想気体であること-『個々の市民が互いに縛られず自由であること』と言っていい"

メッセージというのはシンプルでわかりやすい方が私には響きますね。

No.3 7点 HORNET
(2020/02/11 16:07登録)
 時の政権に異を唱える若者団体「コスモス」で活動する凛は、気付くと薄暗い部屋に縛られ監禁されていた。状況が呑み込めずにいる中、なんと隣の部屋には「敵」ともいえる右翼的団体のメンバーが同じく閉じ込められている。しかも、直前の記憶がない2人の前には、横たわる男の死体が―
 誰が、何のために、敵対する二人を密室に閉じ込めたのか?そして、この身元不明死体の正体は? ―

 いかにも現政権をモチーフにしている内容で、その点をどう感じるかは人それぞれだが、政権打倒を目指す市民団体VS右翼思想の一派という現代的な題材は興味深く、しかもその敵対する2人+男の死体という不可解状況は、謎の提示として非常に魅力的だった。
 社会思想的な内容もふんだんに盛り込まれている本作だが、何を目的に誰が仕組んだことなのか、という謎解きも十分機能しており、両面で堪能できる作品だった。
 監禁中にスマホでつながっていた「ちりめん」の存在とその正体が一番印象的。

No.2 6点 まさむね
(2019/11/30 23:59登録)
 「マリア・ソールズベリー&九条漣」シリーズ以外では、初の作品となりますね。同シリーズとは雰囲気がガラッと変わって、政治色が強い内容。このチョイスは結構意外でした。
 政治的な話題に興味がない方にとっては、内容的にちょっと辛いかも。前半で投げ出す可能性もありそう。中盤から終盤に盛り返してはくれますが、犯人の動機を含めた最終的な違和感は否定できないかな。

No.1 6点 虫暮部
(2019/11/01 11:46登録)
 題材があまり好きなものではないので最初は乗れなかったが、予想したよりは後半で持ち直した。
 本作で問題となるのは、こんな芝居じみた犯行を企てた加害者の心理であり、作中に記された内容では結局なんでもありじゃないかと言う気はするが、なんでもありだという道筋を示しただけでもまぁ良し、と思う。
 この話の題名に“密室”と掲げるのは誇大広告だな~。

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