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ミステリの祭典

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銀座幽霊

作家 大阪圭吉
出版日2001年10月
平均点6.86点
書評数7人

No.7 7点 斎藤警部
(2020/05/06 22:00登録)
三狂人 7.3点
奇想熱波の予見の果ては、あらぬ小さな結末へ。だがその奇想の幻こそ、心に刻む。

銀座幽霊 6.2点
濃密な文章の旨みと、してやられるチョィと浅い物理トリック。ドラマチックな種明かしと小癪なオチが連なるエンドはなかなかいい。

寒の夜晴れ 7.6点
足跡トリックは物理心理の両面からなかなか興味津々。そしてこの人情悲劇! 後付けだろうと心を揺さぶる。

燈台鬼 7.1点
この人の海や港の話はいいなあ。アマリア・ロドリゲスが聴きたくなる。創元文庫、初出雑誌の挿絵も良し。大味な大型物理トリックと、深く刺さる人情物語。この二つが恐ろしく噛み合ってないが … 同名の南條範夫人気短篇とは、表題の意味方向からして全く異なる内容です。

動かぬ鯨群 6.5点
湊町の殺人(コロシ)で始まるサスペンス展開が魅力。事の真相、半分は意外豪快だがもう半分は当たり前過ぎるかな。。でもいいさ。

花束の虫 7.8点
ホゥムズ風犯罪暴露譚。乱闘の形跡らしき足跡に秘められた経緯が興味深い。眼前に浮かびあがる岸壁の風景も素晴らしい。やはり圭吉っつぁんは海浜地域の話がいいねえ。圭吉っつぁんにしてはチョィとハッタリ効かせた部分が天晴レなんだが、このハッタリスピリットが物語全体に沁み渡ってたらそれこそ準ホゥムズ級の傑作になってかもなあ。惜しい!

闖入者 5.6点
大胆な心理的物理大トリックが登場するが、物理のほうの大胆な壮大さに比べて心理のほうがちょっと、、イリュージョンでチャンチャカチャンか。色々とバランス悪くてこけるわア。ミステリ要素とは別に、物語風景の美しい部分は心に残る。

白妖 5.8点
ミステリの根幹はチャンチャンもいいとこのズッコケいじわるクイズ(おゝ死語)だが、暗闇情緒と、最後唐突に姿を顕す(申し訳程度の伏線あり)人情余韻はなかなか。

大百貨注文者 3.5点
ずっこけバカミス。この底の浅い真相はほとんど意外な結末の域。物語の締めだけは、多少いい感じ。

人間燈台 8.8点
これほどに胸熱な物理トリックがありますか!! 人情と残酷と物理が奇蹟の三つ巴を形成。 表題が絶妙に際どい半ネタばらしなのも納得。 人情派事件の迸(ほとばし)りを受けてみよ! 最後の台詞も最高に清冽です!

幽霊妻 6.0点
何やら不可能犯罪めいた謎めきのナニは、そこのそれか?! 怪しからんのは自死、ではなくそこに追い込んだ素朴故に厄介な疑いだ!! ずいぶんとギャフンな結末だが、不似合な義憤が溢れ出て仕方無し。

No.6 6点 クリスティ再読
(2019/01/28 00:09登録)
大坂圭吉である。創元の2冊でもこっちのほうが軽量級、という感じだろうか。評者思うんだが、この人、型にハマったホームズ風短編だとどうも堅苦しくなりがちで、「ミステリらしさ」にこだわらずに書いた作品のほうが魅力的だと思う。「銀座幽霊」のベストは評者は「動かぬ鯨群」、次点は表題作。
「動かぬ鯨群」は、「坑鬼」が「社会主義探偵小説」なんて言ってたののプロトタイプみたいなものだろうか。まあ「坑鬼」は「とむらい機関車」でちゃんと扱うけども、プロレタリア文学のテイストをミステリに応用した..という面で、レアな作品で面白いと思うんだが、本作もそういう路線のものだろう。モダニズム、ってのもさ、結構幅が広いものだからね。
だから大坂圭吉って、名探偵を描かせると全然魅力的じゃなくて、ヒーロー性みたいなものがカケラも出ないのだけども、逆に「銀座幽霊」の女給たちとかバーテンに精彩があって、「モダン・ボーイだねえ」という印象を強く受ける。だから「リアルな街の出来事」の雰囲気があって、何か、いい。もちろん「ワザとの仕掛け」で不可能興味が出たのではないのがいいところ。結果的に「街の怪談」といった洒落た話になっている。
まあ、何ていうのかな、この人いわゆるミステリ・ライターの稚気みたいなものが薄い人のように感じる。だから魅力的な謎を設定しても、その謎の「魅力を押し売りするようなハッタリ感」みたいなものが弱くて損しているようにも思うんだよ。
だから「燈台鬼」が今ひとつな出来なのは、仕掛けがワザとらしいのに、ハッタリなほどのロマンがないあたりなのかもしれない。もう少し余裕をもって、膨らませれば....

No.5 7点 人並由真
(2018/10/24 02:33登録)
(ネタバレなし)
 短編傑作集として本書の姉妹編といえる、創元推理文庫版『とむらい機関車』と並べると、評点の方は同じ7点。ただし本書は総括して6.8点くらいで切り上げて7点。『とむらい~』は同じく、実質7.5点を7点に……という感じである。『とむらい~』が、腹応えが良い長さの中短編がまとまりよく集成された印象に対し、こちらは向こうに比べてやや短めな作品ばかりが並んだところがちょっと弱い。長さに幾分バラツキのある『とむらい~』の方が、一冊の本としての快い緩急があった。

 それで本書を手にする前、WEBなどの評判で『燈台鬼』の評価が高いように聞こえていたので楽しみにしていたが、実際にはそれほどでもなかった。もちろんフツー以上には面白かったが。
 個人的には『銀座幽霊』『動かぬ鯨群』『闖入者』『白妖』あたりがベストというかお気に入り。特にあとの2つは提出された謎の求心力が高く、そこが魅力的。それぞれで語られる最後の真相もなかなか良い。
 反面、名作と評価の高い『三狂人』は、21世紀の現在はもちろん、当時の目で見てもちょっと看過できない無理があるような気も……。作品の雰囲気は良かったけれど。

 大阪圭吉が戦後も健勝で、その後も本書と創元版『とむらい~』に所収されたような短編作品を描き続けていたら、二十年早く登場した日本のE・D・ホックみたいなポジションに就いたのではないかと思う。
 巻末の山前譲さんの解説にある、出征前に甲賀三郎に預けたまま世に出なかった長編作品というのが気になるなあ。故人への不敬にならないことを願いつつ思うのだが、こういう<幻の作品の逸話>は、いつ聞いてもある種の切なさを伴うロマンを感じてしまう。

No.4 7点 ボナンザ
(2014/04/07 22:39登録)
とむらい機関車に比べると本格さは薄れたが、多彩な作風という点で価値ある短編集だ。

No.3 7点 まさむね
(2013/05/31 23:38登録)
 創元推理文庫として復刊された2冊(本書と「とむらい機関車」)を比較すれば,正直後者の方が粒揃いとの印象は否めません。
 とは言え,本書にも多種多彩な作品が並んでいます。その中で最も印象に残ったのは「大百貨注文者」。暗号云々はともかくとして,ユーモアが効いています。ラストの洒落っ気も好み。 他の作品も,多少差はあるものの,引き締まった本格短編として楽しめます。
 しかし,若くして戦地に散ってしまわれたことが,本当に惜しい。もし戦争で無事であったならば,その後どのような活躍をなさったのであろうか…。

No.2 8点 E-BANKER
(2013/04/20 20:24登録)
東京創元社の復刊フェアで出版された二冊の作品集が「とむらい機関車」と「銀座幽霊」。
「とむらい機関車」は既読&書評済のため今回は「銀座幽霊」を読了。

①「三狂人」=とある精神病院に入院している三人の患者。ある日、精神科医が殺害される事件が発生し、三人の患者が病院から消える・・・。作者お得意の○れ○○りトリックが見事に決まっている。これは好き。
②「銀座幽霊」=何となく乱歩の「D坂の殺人事件」を思い起こさせる作品。殺人現場から容疑者の姿が消えてしまうという謎なのだが、これもうまさを感じる作品。タイトルを絡めたオチも効いている。
③「寒の夜晴れ」=いわゆる「雪密室」が本編のテーマ。雪に残された足跡は当然読者をミスリードさせるダミーなのだが、非常に切ないオチが後を引く。
④「燈台鬼」=これは・・・結構強引なプロット。特に、現場に残された“ドロドロしたもの”の正体がまさかアレとは・・・。
⑤「動かぬ鯨群」=舞台は北海道は根室沖。行方不明になった捕鯨船の謎がメインなのだが、トリックとしては小粒というか、想定内。
⑥「花束の虫」=ある劇作家の殺人事件を描く作品なのだが、事件現場に残された物証や特徴のある足跡が解決の鍵となる。そういう意味で、ホームズものっぽい作品。なお、本作より登場するのが大月弁護士で、以降の作品では探偵役として活躍する。
⑦「闖入者」=これはミステリーとして“筋のいい”作品だろう。殺害された画家の残した富士山の絵が“事件の鍵”になるのだが、非常に絵になるトリックが光る。
⑧「白妖」=これも広義の密室を扱った作品で、入口と出口を完全に押さえられた有料道路から一台の自動車が消えてしまうという謎。書き方が整理されてないのがやや残念。謎の提示は魅力的なのだが・・・
⑨「大百貨注文者」=頼んでもいないのに、次から次へと注文したという品物が届けられる・・・というのが本編の謎。真相は大月弁護士により割とあっさり解決させられてしまうのだが、プロットは面白いし、オチもなかなか洒落てる。
⑩「人間燈台」=ある嵐の夜、灯台守の若き男性が忽然と消えてしまうのだが・・・オチは途中で読める。
⑪「幽霊妻」=この真相は何? これって、いわゆる“バカミス”なのだろうか・・・?

以上11編。
「とむらい機関車」の書評でも触れたが、実にロジカルかつ端正な「本格ミステリー」というのが、本作に対しても当てはまる。
作品の多くは、読者をミスリードさせラストには騙し絵のようにひっくり返してみせるというタイプで、その切れ味もなかなかに鋭い。
巻末解説によると、大阪圭吉という作家は、同時期に活躍した乱歩をはじめ批評家のウケはどうもよくなかったようだが、個人的にはストライクな作家。

本作の収録作については、レベルにややバラツキはあるが、それでも十分評価に値すると思うので、一度手に取られることをお勧めします。
(個人的ベストは①かな。あとは②と⑥⑦当たり。⑨も面白い)

No.1 6点 江守森江
(2010/04/07 22:47登録)
東京創元社版では「とむらい機関車」と「銀座幽霊」に分冊された。
此方は随想が無いので全12編収録。
先に「とむらい機関車」で「坑鬼」を読んでしまうと、収録作品に見劣りを感じる。
しかし、戦前でもユーモア作品があった事に驚く「大百貨~」や坦々と描かれたバカミス「燈台鬼」更には、作者お得意なトリックの「白妖」等々読み応えある作品が並んでいる。
戦前の表現に戸惑わなければ、どれも水準レベルはクリアしている。
本格探偵‘長編’が無い事も含めて、作者の早逝が惜しまれる。

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