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ミステリの祭典

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殺人は広告する
ピーター卿シリーズ

作家 ドロシー・L・セイヤーズ
出版日1997年09月
平均点5.22点
書評数9人

No.9 4点 レッドキング
(2023/12/26 23:04登録)
ドロシー・セイヤーズ「貴族探偵」シリーズ第八弾。広告代理店で進行する秘密を探るべく秘匿捜査を行う「貴族探偵」。作者、広告代理店でコピーライターをやってたことがあるとかで、ネタが実にわらける。各章独立した短編としても楽しめて、章によっては「くたばれ健康法」やメリヴェール卿物なみの爆笑譚。が、長編ミステリとしては・・・(~_~;) ま、ユーモア小説として面白かったんで、点数オマケ。 ※ところで、あのオックスフォード出の女コピーライター、あれ、作者の自虐戯画なんだろなぁ・・
浅羽英子て訳者の、常套句慣用句や古典引用の簡潔な補助解説(「毛虫の長靴=最高」!)が分かりやすい。たーだ、ローティーン口調訳の「だもんで」「すんげぇ」「おらっち」は・・ゼッタイ違うなあ。

No.8 7点 クリスティ再読
(2023/07/29 14:47登録)
本作嫌い、という人の声もわかるんだよ。
実際、これパズラーじゃなくて、スリラーだしね。広告業界の内幕話をふんだんにちりばめて、時代の花形で浮ついた(評者ならホイチョイとかね)ギョーカイのギョーカイ人の生態を、軽妙でブンガク的な引用過多の洒落(過ぎた)会話で綴りつつも、麻薬取引と殺人を絡めて描いた大作...
まあ今回、階段から落ちて亡くなった社員の死の真相と裏で起きている事件を探るために、「デス・ブリードン」という仮名で広告会社に潜入したピーター卿がねえ、何というかな、とってもカッコイイんだな。「働いてお金を稼ぐのが初めて」な貴族の次男でも、しっかりコピーライターとして仕事をしつつ、怪しげなパーティに出席して、謎の人物「ハーレクイン」として暗躍する、とかね。ファンタジーといえばそうなんだけども、やはり今から振り返れば、ホイチョイ全盛期のバブル期って、ファンタジーみたいなものって言えばまさにそうだった。
ファイロ・ヴァンスもそうだけど、そんなバブルな名探偵ヒーロー像というのは、やはり戦間期の経済的繁栄の産物だったようにも感じるんだよ。でもさ、ピーター卿の衒わない品の良さがイイんだな。ウォシャウスキーの「白馬の王子様」がピーター卿ってのも、素直に同意できるところもあるさ。
で、だけど、この作品のメッセージ(笑)って、「広告って麻薬みたいなもの」ってあたりにあるんだと思うんだ。そんな悪徳に手を染めながらも正義のミカタであり続けるピーター卿のヒーロー性が極めて興味深い。

No.7 6点 tider-tiger
(2022/09/22 20:37登録)
ウィムジイ卿は潜入する。だが、潜入にしてはちょっと目立ち過ぎだろう。広告業界へ高飛び込みといった風である。

1933年英国。みなさん仰るように内容に比してちょっと長すぎる。最初の100頁くらいは楽しい。中盤で少したるくなるところあり。終盤の謎解きは面白いアイデアが一つあるくらいで、ミステリとしては見るべきものがほとんどない。
当時の広告業界の内幕は興味深く、業界の人たちやウィムジイ卿のキャラの立ち具合はシリーズ最強レベルの楽しさではあるが、業界ものとミステリの融合がうまくいっていないし、各部のまとまりも弱い。
伝統的な地域社会とミステリがうまく融合して荘厳で神話的なスケールのあった『ナインテイラーズ』、さまざまな対比を駆使し、小説論までも織り込みながら、それらが有機的に結合した学園ミステリの変種にして傑作『学寮祭の夜』などと比較するとかなり見劣りしてしまうというのが正直なところ。

セイヤーズ作品というよりはウィムジイ卿を愛する人向けの作品だろう。キャラが立っているのとキャラ造型が深いのとでは意味がまったく異なる。本作はちょっとやり過ぎ感があり、ウィムジイ卿の超人ぶりに鼻白む方もいるのではないだろうか。
言葉遊びも楽しいし自分は本作を楽しく読めるのだが、最初に読むセイヤーズとしては不向き。

完成度が高い小説と面白い小説もまた別だと思っている。完成度は低くとも面白い小説は世の中にいくらでもある。
某ドストFスキーや某チャンドラーの作品なんかそんなんばっかりである。本作は私にとってそういう作品である。
それにしても1933年出版か、うーん。

※あの少年をもっと活躍させて欲しかった。あの少年をうまく使ってウィムジイ卿と少年探偵団的な話に持っていくのもまた一興であったろうと思う。

No.6 5点 弾十六
(2018/10/28 00:39登録)
1933年出版 翻訳1997年
探偵小説というより超人ヒーローものですね。麻薬の売人と渡り合ったり、クリケットの試合では大活躍をしたり… (クリケットって日本の会社の野球みたいな位置なのでしょうか) セイヤーズさん自身が身を置いていた広告業界の内情が生き生きと(楽しげに)描かれているのが良い。探偵ものとしてはネタが小さくて展開も控えめです。
男目線で見るとピーター卿のヒーローぶりはちょっとやり過ぎという感じですね。
ところでパブリック・スクールとは、イートンとハロウに限られるらしい…(あくまでピーター卿の意見です)

No.5 5点 ボナンザ
(2018/09/07 20:39登録)
ピーター卿の潜入捜査が楽しめる一遍。ただ、内容に比べて長すぎるか。

No.4 5点 Akeru
(2017/11/12 02:20登録)
一言で感想を言い表すのなら、"しんどい本"である。


まず、褒めるべき点から。
セイヤーズ流の魅力的なキャラクターと豊富な引用の数々は本作においても健在である。 キャラクターは各々キャラクター固有の特徴や性格を持っており、作中で生き生きとしている。 誰かが誰かに恋したり、誰かが誰かと喧嘩したり、その喧嘩に加担して作中で対立図を作るようにギスギスしてみたり… とにかく、人間模様の表現がこの作家は非常に上手い。 読み進めるだけで実在の人間と対話してるかのような気分にさせられ、あたかも自分が作中空間でキャラクターの輪の一部に入っているかのごとくに錯覚してしまう。
また、この作品は主人公たるウィムジィが貴族の身分を隠し潜入調査する、という点で、これは少年心をくすぐられるというか、妙にワクワクするところがある。 実は高貴な身分なんだけどそれを隠そうとしてるのだが、結局ひょんなところから身分に気づく人も出てきて… というシチュエーションが好きな人は一定数いるのではないか? ライトノベル調である気もするが、その手の韜晦が好きな人にはシリーズの中でも随一だろう。
そして登場人物はみなコミカルで皮肉や洒落好きで、いわゆる"気の利いた"会話というものが大好物な人間には是非セイヤーズ物を全部食してみてはいかがでしょうか、と勧めたくなってくる。


さて、否定的な点だ。
否定的な点は大まかに二つで、(1)ボリュームが多すぎる (2)内容が憂鬱だ の2点に分けられる。 以下に詳細を書く。

(1)ボリュームが多すぎる
キャラクターは20人以上いて、犯人の可能性が大いにある人物だけでも10人はくだらない。 これらがそれぞれの自己主張を持って作中を東奔西走するので、横溢どころか氾濫しまっている。 例示すれば、「Aというキャラクターは飴が大好きで妻子持ちでD氏の派閥に属していて経理課でK氏のことが嫌いである」という設定を持ちながら動いているとする。 このキャラクター描写を20人ばかり続けられたところで誰が理解しながら物語を追い続けられるのか? という話である。 情報量で頭がパンパンにさせられ、あたかも地面に埋め込まれて食べ物を喉に流し込まれるフォアグラ用ガチョウの気分が味わえる。 そして、そのうち情報が混じり合ってキャラクターAとキャラクターBの区別がつかなくなってくる。 同作者「学寮祭の夜」もそういう気分にさせられたが、こちらのほうがよりひどい。


(2)内容が憂鬱だ
以下、多少ネタバレ有。
途中から殺人の話ではなく、薬物がらみの話になる。 ピーター卿は殺人の話を追っていたのに、背後に薬物の大量取引の絡みが… という筋書きになる。 それは別にいい。 問題点は、犯人に落ち度も悪意もあまりないという点だ。
要するに『探偵が犯人を指摘して「ババーン! 悪いやつはコイツです!」とやることで作中世界が幸せになる』というのが探偵小説の中のある種のスタイルとして存在していると思う。 勿論、それじゃなければヤだ!と言い張るつもりは毛頭ない。
ただ、この作品ではその周りの展開において納得できない点が多い。 以下拙いながら説明するので空気だけでも理解していただければ幸いである。
説明していけば、「薬物取引団体と、知らず知らずのうちに薬物取引の下働きをさせられてる悪人」がいる。 探偵は薬物取引の下働きを見つけるのだが、しょせん手足にすぎないのである程度泳がせる。 問題は、次に取引する地点を伝える伝達方法だ。
これが本作の綱領と言ってもいい。 何が言いたいのか? 今私は"薬物取引団体"というふわっとした"団体名"を伝えてるわけだが、本作でもこいつらは中身のない組織で、薬物を売り払ってなんやかんやで英国に多大な被害を齎してることことまではわかるのだが、こっちとしては"どうでもいい"くらいの感想でしかない。この謎の薬物取引団体が作中世界で薬物を売ろうが人を殺そうが、薬物で破綻した人間の描写は皆無と言っていいし、殺されてるのは売人という名の悪人なので、この組織に対して「うおーこいつらクソみたいな悪党だな! 是非とも主人公にはこの悪党らをとっちめてもらわなきゃ!」という気分には本当に一切ならない。 2017年現在、EUは中東系難民移民の犯罪でクソみたいな気分を味わってるとの声が強いが、私は日本にいて中東系難民に嫌悪感など感じないのと同様に、人間、自分の目の届かないところにいる悪党に別に何の恨みも感じないのである。 そして本作の黒幕は主人公からしても目の届かないところにいる悪党であるので、読んでいて何とかしてくれとも思わない。
が、主人公の目の届くところにいる"薬物団体の下働き"は悲惨な目に合う。 しかも、コイツ自身は特に悪党でもないし、状況から考えればまあ人間の動きとしては心情に妥当性を感じてしまう。
その上記二つの、真の悪党はどうでもよくて、その被害者ばかり悲惨な目を合ってる、といわんばかりの本作の内容にはどうにも疲れさせられた。 やりきれない、と言おうか。勿論やりきれない探偵小説で、さらに傑作であるものはいくらでもあるんだけれど、それはそれでもっと犯人の出生の悲壮さとかに重点を置かれていて、火サスめいた人間ドラマが… まぁ、これ以上は良そう。 ともかく、私の感想は以上である。

No.3 5点 kanamori
(2010/08/09 18:47登録)
ピーター・ウィムジイ卿シリーズの第8作です(ネタバレになるのかな)。
シリーズ作の初期数冊は読んでいないのですが、本書はコージー風というか通俗ミステリ臭を前面に出した異色作でした。都会的で軽めの作風はOKですが、ミステリ趣向の面であまり読みどころがない作品という印象です。

No.2 2点 Tetchy
(2009/03/01 01:18登録)
今回のセイヤーズはつらかった。
これはミステリというよりも殺人を織り込ませた大衆小説である。広告業界内幕小説である。とにかく物語の進行が破天荒で登場人物たちが広告業界人であるがために一筋縄とはいかず、台詞がとにかく多い。
それゆえ、いつもより増して引用文が多く、これは私に云わせれば小説のリズムを崩しているようにしか取れなかった。
つまり今回は全くノレなかったのだ。

前評判から評価が二分化するのは解っていたが私が賛否の“否”になるとは思わなかった。
元々事件に派手さはないセイヤーズだが、それでもその緻密さとあっと驚くワンアイデアで最高の悦楽を与えてくれていたのに今回はそれもなかった。

しかも最後にピーター卿が犯人に自殺を要求するのはどうか?恵まれた人物が貧者の気持ちを解さずに「なら、死ねば?」と突き放しているようにしか思えなかったのだが。
またピーター卿が広告会社で活躍するのもスーパーマン過ぎて食傷気味。

No.1 8点 mini
(2008/10/30 10:29登録)
「ナイン・テイラーズ」だけが読まれてる風潮だが、「ナイン」の重厚さはセイヤーズの片方の側面でしかなく、軽妙さという側面も合わせてこそ両輪と言えるのである
重厚さの最右翼が「ナイン」なら、軽妙さの最左翼とでも言うべき作が「殺人は広告する」だろう
セイヤーズの作品を挙げろと言われて一番に「広告」の名前を出すと、おっ!こいつセイヤーズ通だなと思われるような、「広告」はそんな作品なのである
作者の傑作群の中では特異な作品だから、「ナイン」同様にセイヤーズ入門には適してはいないので、他作品を二~三作は読んでからの方が良いだろう
謎解きネタは小粒だが、そんな事はどうでいいと思わせてしまうような話で、これほど業界内部の風俗描写が活き活きと描かれたミステリーはセイヤーズでなければ書き得ないだろう
強いて弱点を言えば、あまりにカリカチュアされたピーター卿の言動に読んでて気恥ずかしくなるが、それもご愛嬌か

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