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ミステリの祭典

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密閉山脈

作家 森村誠一
出版日1971年03月
平均点7.25点
書評数8人

No.8 7点 メルカトル
(2022/03/03 23:18登録)
“K岳山頂から灯火を愛の信号にして送る”山麓で待つ恋人・湯浅貴久子にそう約束して山頂を目指した影山隼人だったが、送られてきたのは遭難信号だった!翌朝、山仲間の真柄慎二と救援隊により影山の遺体が発見された。事故か、他殺か?遺されたヘルメットは何を物語る!?北アルプスの高峰に構築された密室で起きたこととは―。山岳ミステリーの白眉!
『BOOK』データベースより。

森村誠一を最後に読んだのは数十年前の事、作品は『分水嶺』でした。今となっては内容など全く覚えていませんが、読後の余韻は今でも忘れません。それ以来の森村です、これはかなりの完成度と言って良いと思います。ただ、ケチを付ける訳ではありませんが、若干引っ掛かる点もあります。例えば、ヒロイン湯浅貴久子の心の変遷、女心とはかくも繊細で微妙なものなのでしょうか。或いは事件の謎を追う熊耳のヘルメットに対する扱い方などは、とても警察官のそれとは思えないです。あとはメイントリックですかね、壮大な山岳の密室やアリバイの謎と比較して余りにもショボかったですね。

それでも皆さんの評価の高さを見れば一目瞭然、十分良作の範疇に収まるものと思います。兎に角語り口が素晴らしい、まさに一流の作家ならではの筆運びでしょう。又、一つのドラマとしても映える出来栄えですね。意外な動機にも注目されるところですし、悲しい結末が何とも言えない感慨を齎します。

No.7 8点 蟷螂の斧
(2021/04/25 17:30登録)
このトリックは自分にとって初出であり、皆さんと違いポイントは非常に高いです(笑)。山での荼毘のシーンは迫力がありましたねえ。また、殺人ではないかと気付くきっかけもよくできていると思います。ただ、ヒロインの心理(恋心)の変遷は微妙かも?。まあ、総合的に見て大変良くできた力作であると思います。

No.6 7点 人並由真
(2020/12/10 04:14登録)
(ネタバレなし)
 信じていた恋人に捨てられた傷心の美人OL、湯浅貴久子。彼女は南アルプスの冬山で美しい凍死を望むが、登山中のクライマーの青年コンビ、影山隼人と真柄慎二に救われた。下山した若者たちは美しい貴久子を巡って三角関係になるが、彼女はその片方を選んだ。だが三人で向かう計画のK岳への登山行の中で、男性の片方が悪天候の雪山で死亡。地元の山岳パトロール、熊耳敬助警部補は当初その悲劇を通例の遭難死として扱うが、やがてとある事実に気づいた。

 下山困難な荒天の雪山での殺人? その雪山を広域な密室現場として捉える着想は、なかなか魅力的。
 あと、物語中盤の死者を山間で荼毘にふす描写の克明さは強烈な臨場感と迫力で、改めて、70~80年代の「野性時代」のグラビアとかで登山への並々ならぬ思い入れを語っていた作者のポートレートを思い出した。こういう山での特殊なリアリティは、実体験やそれに近い密な取材作業に負うからこそ書けるんだろうしねえ。

 登場人物も描写のポイントを絞った上に、名前のある作中キャラがわずか十人ちょっと。当然、フーダニットの興味なんか放り出してハウダニットとホワイダニットの謎を主眼に置いた作品である。
 ただしメイントリックは当初から予想がつく。というか、作中の人物が事件性に疑問をもった時点で、この発想に考えが至らないのはちょっと不自然じゃないか? と思ったくらい。
(ちなみに誠に恐縮ながら、本サイトのりゅうぐうのつかいさんのレビューは、かなりネタバレになりかかっていますので、本書を未読の方はその旨、ご注意ください。)

 とはいえ<ミステリ要素も組み込んだ小説>としては、これまで読んだ森村作品でも随一といえるくらい面白かった。特に後半のとある状況の急転ぶりには、清張の秀作レベルの勢いを感じたくらいであった。

 ただそれでも最後まで読むと、ああ、やっぱり森村作品だな~という感慨が湧く。
 きっとこの人は1960年代の国産ミステリの系譜をしっかり受け継ぎながら、一方でそれをスナオにトレースするのが本当に気恥ずかしかったんだろうね。だから物語の多くにああいう味付けをしてしまう。森村作品を読むとその大半で<そういう思い>にとらわれちゃうよ。

 そういった森村作品の食感にはもうとっくに慣れたつもりでいたんだけれど、まだまだ甘かった(汗)。まあ、この作品は、かなりの初期作品だし、もっとマジメに森村作品を大系的に読んでいけば、もうちょっとは違うものが見えてくるかもしれない。

No.5 7点 文生
(2020/07/29 09:35登録)
雪の降り積もった山頂で男が殺され、死亡推定時刻以降に雪は降っていないはずなのに犯人の足跡が見当たらないという、いわゆる雪密室ミステリーです。
分かってみれば単純なトリックながらも、ディクスン・カーの『白い僧院の殺人』や『貴婦人として死ぬ』などと全く異なるアプローチに創意工夫の跡が見られ、好感が持てます。

No.4 7点 りゅうぐうのつかい
(2016/10/22 17:47登録)
タイトル通り、密閉された山脈を一つの密室に見立てた、スケールの大きい殺人事件を扱った物語。
北アルプス後立山連峰K岳北峰のバリエーションルートを単独登山中に死亡した影山。当初は事故死と考えられたが、山岳救助隊員の熊耳は遺品のヘルメットに不可解な矛盾点を見つけ、影山のザイルパートナーであった真柄を容疑者として疑う。影山と真柄は、湯浅貴久子という女性を巡って、さや当てをしていたことが判明。しかし、事件当時、K岳北峰は人の出入りが確認されておらず、密閉されており、また、真柄にはアリバイがあった。真柄のアリバイに関して、影山と貴久子の間で交わされていた、山頂と山麓の山荘との間での懐中電灯によるメッセージ交換の時刻が問題となる。「メッセージ交換の時刻」と「真柄が山荘に現れた時刻」とを考えると、真柄には犯行は不可能であった。熊耳が仕組んだ罠によって、犯人は真柄であることが間違いないと思われるが、アリバイが崩せず、真柄が別の女性と婚約したことから、動機の面でも真柄の可能性は少ないと判断されるようになるが……。
事件の舞台を後立山連峰K岳としているが、位置や双耳峰であることから、登山好きな人であれば、鹿島槍ヶ岳のことをすぐに思い浮かべると思う。ただし、添付されている頂上図を見ると、標高が違うし、尾根や小屋などの名称が違うので、架空の山なのだろう。
懐中電灯のメッセージ交換によって作られたアリバイとそのトリック、ヘルメットの異常から他殺を疑う過程、貴久子を取り巻く男性との恋愛、影山と真柄の過去の登山にまつわる出来事、山岳救助隊員熊耳の執念の捜査や容疑者に仕掛けた罠、K₂登山の顛末等々、良く練られたストーリーであり、山岳小説とミステリー小説とが巧く融合した秀作。アリバイトリックの方法に関しては、私はこの方法を可能性の一つとして考えていたので、意外性はなかった。
貴久子を巡る男性はすべて最後に不幸な目に遭っている。男性との交際に関して、ガードが低すぎるし、さげまんな女性。

No.3 8点 斎藤警部
(2015/06/02 12:11登録)
南アルプス山系を舞台に打ち立てた雄大な密室トリック! 山小屋の部屋に閂が掛かってたんじゃないんですよ! お山さん自体が密室になっちゃったんですよ! のみならずそこにはアリバイトリックまで巧妙に組み込まれていたとかいないとか! 過酷な大自然と向き合うは恋愛と友情(どちらも熱い!)のぎりぎりの人間ドラマだ!! それにしても、登山家ホテルマン森村青年の描くお山さんは本当にリアリティがあって、読ませるね!!

No.2 7点
(2009/10/02 20:01登録)
タイトルどおりの山岳ミステリです。大学時代ワンダー・フォーゲル部に所属し、登山が趣味だったという森村誠一だけに、迫真の山の描写が堪能できます。山での火葬シーンもインパクトがありました。このあたりは、同じころ書かれた芸能界や航空業界を舞台にした作品より小説としての迫力が感じられます。
トリック自体は大したことはないのですが、登攀、下山が困難な山頂をスケールの大きな一種の密室と化してみせた発想はお見事。また、疑惑が起こるきっかけや動機の問題など、なかなか巧みに構成されていますし、犯人の殺人計画も細かいところまで練りこまれていて、好印象を与えます。
最後2ページぐらいでもおまけのショッキングな出来事を用意しているという、読みどころの多い作品です。

No.1 7点
(2008/12/21 08:03登録)
山を密室にしてしまうという初期の作品。大掛かりな真実を期待すると多少肩透かしを食らうかもしれんが、なかなかのものだと想う。特に山からの信号の秘密とかは「おお」と想った。

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