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28860. | 英国の離婚制度と探偵小説 弾十六 2020/10/14 14:29 [雑談/足跡] |
皆さま おばんでした。 最近、今更ながら英国の離婚制度の変遷を知って、1920年代までの英国女性の窮屈さとか、1930代になっても結構、窮屈な制度だったとか、色々勝手に納得してるのですが、一つ説を(まあいつもの妄想です)を思いついたので、ここで披露します。ミステリのコア・ファンじゃない方々用としても別サイトでも発表する予定。 まず簡単に英国離婚制度のおさらい。 1 始まりはヘンリー八世(在位1509-1547) まー勝手な奴で、最初、亡兄の妻キャサリンと結婚するために、これ近親婚だが例外的に良いよ、と言う法皇の赦しを得たにも関わらず、後で、やっぱ近親婚だから無効にしてちょ、と無理筋。トマス・モアなど抵抗勢力をやっつけ英国独自の変テコ国教会を成立させちゃった。世俗王が宗教主催者である、という独裁。(ここら辺、日本の天皇制と原因は異なるが共通項がある。結局、君臨すれども統治せず、になったのも、流れは異なるが、結果は同じ。日本の近代性って、こーゆー偶然の賜物では?と最近思う。中共や韓国が遅れていて非近代的なのは、儒教のせいだ、という論が最近強い気がするが、実は日本は歴史的に政教分離(天皇と幕府)が昔から成立しちゃってたので近代の思考法がすんなり理解できたのでは?寄り道失礼) 2 貴族も離婚したい(1552) 上記のとおり、ヘンリー八世は離婚ではなく結婚無効で乗り切った。それ以降は、姦通と近親相姦で死刑、結婚(3度目)、産褥で死亡、結婚(4度目)、結婚不成立(性交未遂)で無効、結婚(5度目)、姦通で死刑、結婚(最後)。つまりヘンリー八世は6回結婚しているが、離婚歴はないのだ。 ここまで無茶苦茶やってるのに… それほど離婚はタブーだった、とも言える。 だが離婚して、好きな女と正式な夫婦に、という要望は強くあり、1552年に国会で、特定個人の離婚を認める特別法を成立させる、という荒技が行われた。議員たちも国王ヘンリー八世が無茶やってたから、それに比べたら可愛いもんだ、しゃあないね、という感じか。1714年までに5例しかなかったが… 莫大な金と面倒臭い手続きが必要だったのだ。それでも1857年までに337件の離婚が成立している。ただし離婚が認められたのは妻の不貞が原因の場合のみ(ごく稀に夫の不貞+酷い行動の例があったと言う)。なお夫婦の別居ですら宗教裁判所の権限だった。 3 裁判による離婚への移行(1857) 流石に個人の離婚を国会で扱うってどうよ、となり、世俗裁判所を新設し、離婚事由も明確にした法律が成立(別居の決定もここに権限が移された)。相変わらず妻の不貞がメイン。夫の場合は、加重不貞(不貞行為に上乗せして近親相姦、重婚、強姦、獣姦、虐待、二年以上の遺棄)を要件とした。統計的には1858年だけで179件の離婚が認められている。離婚件数は年々増え、1890年には年400件、1901年には年601件に達している。第一次大戦時には年1000件程と急増(1913年までは600件程度)。1922年には2588件である。 4 夫の不貞も離婚事由に(1923) 加重要因が無くとも、訴因として認められた。すぐには目立った件数の増加はなかったようだ。1923年2667件、1924年2286件、1925年2605件、1926年2622件、1927年3190件。当時は女性の働く場所は限られており、離婚となれば自立が困難だったろう。 5 離婚事由が大幅に拡大(1937) 以下が1938-1-1以降の離婚訴因。 イ 不貞行為 ロ 3年以上の遺棄 ハ 虐待 ニ 5年以上監護した不治の精神病 ホ 夫の強姦、鶏姦、獣姦 離婚件数は大幅に増えた。1937年4886件、1938年6250件、1939年7955件。 6 米国の状況(1909-1931) 1909年の時点で、ネヴァダ州リノ(Reno)に6箇月滞在すれば市民権が得られ、自由に離婚可能となった。必要な滞在期間は、1927年に三箇月に短縮、1931年には六週間に。 —— さて、ここからは私の妄説。英国の離婚制度は上記のとおり、1857年から1937年まで非常に窮屈だった。不貞が訴因で相手方からの訴えが必要、ということは嫌がらせで離婚を申し立てない配偶者もいたろうし、離婚に同意しても訴えてもらうために好条件を提示しなければならなかっただろう。 でもこの期間って、英国本格探偵小説の勃興から最盛期まで、に見事に一致してるんじゃね? つまり人類にとって最優先問題と言える愛情問題がこじれやすく、こじれたら救いのない制度だったために、いわば圧力鍋でぎゅっと家庭に殺意というマグマを溜め込んでたのではないか、と思うのだ。 だから英国ではドメスティックでクローズドな家庭やお屋敷の犯罪をテーマとした小説にリアリティがあり、一種のガス抜きという意味でも、流行したのでは、ということ。 米国では愛情問題については、ガス抜きが制度として1909年に成立してたし、社会構造が流動的だったから、オープンな犯罪(隣の人が何処の馬の骨か、わからない。ギャツビーみたいなのは実に米国的)が多く見られて、いわゆるハードボイルド派が成立したのだろう。 という粗雑な説ですが、いかがでしょう。 まー私は探偵小説論をほぼ読んでないので(ネタバレ無数なので…)先行の論述があるのか、については、全然知識がないことを予めお断りしておきます… |
28856. | RE:重複です admin 2020/10/12 22:22 [管理人への要望/不具合報告] |
> [ 文生さんのコメント ] > ローリー・レーダー=デイの「最悪の館」の項目が2つできています。 文生さん、ご指摘ありがとうございます。 修正しておきました。 |
28847. | ブラウン神父食べ比べ 弾十六 2020/10/11 08:57 [雑談/足跡] |
シミルボンに現行の翻訳比較を載せました。 チェスタトンって、私も体調が悪いと全然頭に入って来ない時があります。 小難しい哲学書(昔の翻訳はわかんないのが当然、なのがあった。オメーの頭が悪いから理解できないんだろ?みたいな傲慢なヤツ)を読み慣れてると、チェスタトンあたりのひねくれ文章なんてのは全然優しいので、先輩方は全く問題なく理解できるのかも。 ラノベみたいな薄い文章で育つとハードル高いだろう。 でも法律の文章の森って時間をかけて読み解かなきゃいけない現実があるから、そーゆー訓練もたまには如何でしょう。(エンタメで「訓練」するってお門違いだが…) |