皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
Tetchyさん |
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平均点: 6.73点 | 書評数: 1602件 |
No.642 | 9点 | 殺人プログラミング- ディーン・クーンツ | 2009/10/11 00:57 |
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まさに私をして、これがクーンツなのかと驚嘆させられた一作。
初の「クーンツ体験」としてこの作品を読んだ事を実に幸運に思う。 内容は正にこれぞエンタテインメントとばかりに畳み掛ける活劇のオンパレードである。男やもめの獣医の再婚話と村人に起きたごく小さな災い事という静かな立上り方からソーンズベリの狂気の度合いと呼応するように徐々に加速度を増していく筋運びは職人技の一言に尽きる。 特にサブリミナル効果を77年に主題として扱っているあたりにクーンツの先見性をまざまざと見せ付けられた。 いやはや流石はクーンツである。 |
No.641 | 7点 | すべてがFになる- 森博嗣 | 2009/10/10 00:27 |
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※ちょっとネタバレ。
一応、前知識なしで読んだが、犯行方法は解った。 が、365日24時間記録し続ける監視カメラが見張っている上に、コンピューター制御されたセキュリティシステムで管理された室内で起きた密室殺人、しかもカメラには誰も部屋を出入りした人物が映っていないという堅牢なる密室殺人の謎解きは完璧と思いがちなコンピューターの盲点を突く真相は解らず、この手際は実に鮮やかだった。 また犯人も最初に明かされる人物ではなかった事はある意味救われた。なぜなら天才の子は必ずしも天才ではないからだ。その逆もまた然り。14歳を節目に昆虫が親の肉を喰らって成長するが如く、天才が天才を殺して成長するなど、荒唐無稽なマンガ的設定に過ぎない。それを敢えて踏みとどまったところがこの作品の良識といえよう。 あまりに有名すぎる故、他の作品を読んでからこの作品に入ると犯人は解ってしまうという欠点がある。やっぱりシリーズ物は順番に読むに限るわ。 |
No.640 | 5点 | 郵便配達は二度ベルを鳴らす- ジェームス・ケイン | 2009/10/09 01:23 |
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※ネタバレ含む※
意外にも“顔”の見えない小説だった。ニックとコーラ、そして主人公のフランクの3人で暮らし始める冒頭からニック殺害までは、実に際立っていたのだが、その後の裁判において弁護士や検事が出てくる辺りから、全体像がぼやけて非常に散漫な印象を受けた。 主題が見えないのだ。 結局フランクは捕まり、死刑執行までにも至る。だが、捕まる時の彼は冒頭に現れた時の彼ではなく、女を愛し、共に暮らす事を望む1人の男にしか過ぎない。 そうか、幸福とは掴もうとするとするりと抜けていく皮肉なもの、そう作者は云いたいのか。 もしくは悪行は必ず報いを受けるものだと? もう一度、数年後に読み返す必要があるのかもしれない。 |
No.639 | 7点 | 氷海の嵐- デイヴィッド・ポイヤー | 2009/10/07 23:41 |
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ポイヤーの作風というのは全体的に陰鬱で、ウィットに富んだ会話、スカッとするようなアクションというのは皆無だ。
みな何か心に秘めて、様子を窺っている、そんな表に感情を表さない人物たちばかりだ。 本書は更に舞台が極寒の海で、しかも船の中という閉鎖空間だから、更に拍車が掛かっているようだ。 それでもけっこう読ませるのだよ、これが。 でも疲れた時に読むと、更に疲れるんだよなぁ。 |
No.638 | 7点 | 湾岸の敵- デイヴィッド・ポイヤー | 2009/10/06 23:46 |
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ポイヤーの作品ではこれが一番かも。
上下巻それぞれ400ページくらいの厚さだったけれど、見開き2ページが文字で真っ黒になるほどに書き込まれていたし、しかも事細かに軍用艦の設備やら装備やら操船用語などの専門用語が頻出するわで、かなり読むのに時間が掛かったが、登場人物が格段に増え、彼らに関する叙述も細かくなり、逆に単に熱いだけでなく、物語にも厚みが出たように感じた。 冒険小説好きでも、P.D.ジェイムズなみの書き込みはちょっと躊躇うだろうから、かなり読者を選ぶ作家だな。 ま、この作品に関しては私はけっこう好きだけど。 |
No.637 | 7点 | 二度死んだ男- マイケル・バー=ゾウハー | 2009/10/06 00:00 |
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実に淀みが無いエスピオナージュ作品。正味250ページ強という薄さながら、舞台はイタリア、イギリス、ハイチ、スペイン、フランス、ソ連、オーストリアと目まぐるしく移り変わる。それに加え、次から次へ現れる謎に、それに呼応して判明する諜報工作の数々。しかしどこまでが本当でどこからが虚偽なのか判らない。
明かされる真相は本格ミステリ張りに仕掛けとミスディレクションに溢れた、重層的な内容になっている。 予想以上の面白さだった。 |
No.636 | 6点 | ハッテラス・ブルー- デイヴィッド・ポイヤー | 2009/10/04 21:03 |
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サルベージ業を営む主人公のところに、第二次大戦中に撃沈させられたUボートの回収の依頼が来る。
それにナチスの第二次大戦時の機密事項を交えるという、冒険小説の王道を行く設定。 でも前の雪山の話よりかは断然良かった。こちらの方がこの作家の本領なのだろう。 |
No.635 | 2点 | 冬山の追撃- デイヴィッド・ポイヤー | 2009/10/03 00:21 |
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ボブ・ラングレーの『北壁の死闘』のような作品を創造していたら、全然違った。
なんとも、終始陰鬱で動きに乏しい話だった。銃を持った復讐譚という割には活劇も少なく、いつ面白くなるんだろうと思いながら読んだものだ。 |
No.634 | 7点 | エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン | 2009/09/30 20:56 |
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本作の大きな特徴は2部構成になっていることだ。
前半の「~冒険」という名の付けられた一連の作品は第一短編集からの流れをそのまま受け継ぐ純粋本格推理物だが、後半の「人間が犬をかむ」からの4編はクイーン第2期のハリウッドシリーズに書かれた物でエラリーは『ハートの4』で知り合ったポーラ・パリスとコンビを組む。 つまり本作を読むことで、第1期クイーンと第2期クイーン作品のそれぞれの特色が目に見えて解るのだ。 個人的には純粋本格推理小説に特化した前半の5編よりも、後半のハリウッドシリーズの延長線上にある4編の方が好みである。 例えば「人間が犬をかむ」では野球観戦に夢中になるというエラリーの人間くさい一面が見られるし、何よりも各編でパートナーを務めるポーラ・パリスの存在が物語に彩りを添えている。 よく考えると法月綸太郎の第1短編集『法月綸太郎の冒険』も全く同じ構成だ。あの短編集も前半はロジック一辺倒の作品で後半は沢田穂波とのコンビであるビブリオ・ミステリシリーズだった。 ここにクイーンの意志を継ぐ者の源泉があったのか。ここでまた私は現代本格ミステリに繋がるミステリの系譜を発見したのかと思うと感慨深いものがある。 |
No.633 | 5点 | ソロモン王の絨毯- バーバラ・ヴァイン | 2009/09/30 00:01 |
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何と評したらよいだろうか、主人公不在の『めぞん一刻』とでも云おうか。あれほど明るくはないが…。
当初主人公と思われていたジャーヴィスは物語の舞台となるケンブリッジ学校と地下鉄の提供者、云わばプロデューサー的な存在だ。 物語は中盤、単なるエピソードの脇役と思われていた熊使いのアクセルがケンブリッジ学校に乗り込む辺りからテーマを帯びてくる。アクセルを軸にトム、アリス、ジャスパーの運命が翻弄され悲劇へと向かう。 物語の進行の合間に挿入されるジャーヴィスの地下鉄に関するエピソードが興味深いが物語の方向性が掴みづらく、ノレなかった。 読者は眼の前に繰り広げられる場面展開を成す術なく追っていくのみ。 私はソロモン王の絨毯には乗れなかったようだ。 |
No.632 | 4点 | 長い夜の果てに- バーバラ・ヴァイン | 2009/09/27 20:45 |
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レンデルが、ヴァインとして描く作品はハッピーエンドが多い。しかし、今回は重厚かつ陰鬱で北方の凍てつく寒さのイメージが物語全体を覆っていて、なかなかノレなかった。
正味560ページの長い物語の中で、延々謎として設定されていた諸々の事象が最後に何とも呆気なく明かされる辺り、結局今までの物語は何だったの?と呆れてしまった。 |
No.631 | 7点 | 犯人のいない殺人の夜- 東野圭吾 | 2009/09/27 00:57 |
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東野氏の短編集はこれまでにも『浪花少年探偵団』、『犯行現場は雲の上』、『探偵倶楽部』などが発表されていたが、それらは全て連作短編集で意外にもノンシリーズの短編集はこれが初である。
統一キャラクターで繰り広げられる連作短編集はキャラクター偏重の趣きが強いが、本作ではそれらを排し、トリックよりもロジック、さらに理論よりも理屈では割り切れない感情、人間の心が生み出す動機について焦点を当てているように感じた。 「小さな故意の物語」では嫉妬心から来る悪戯心と与えられる愛情に対する疲労感を、「闇の中の二人」では思春期にありがちな欲望と嫉妬心を、「踊り子」では淡い恋心を、「エンドレス・ナイト」はトラウマを、「白い凶器」は現実逃避から来る狂気を、「さよならコーチ」は人生を捧げたよすがを失った女性の絶望を描く。 唯一表題作が実にトリッキーな作品で動機も今までの東野ミステリにありがちな天才肌の犯罪者による、利己心だ。 個人的良作は「小さな故意の物語」と「さよならコーチ」。 次点で表題作となるが、後日思い起こして話題に出るほどではない。技巧の冴えが目立つ故に軽く感じてしまう諸刃の剣のような短編集だ。 |
No.630 | 10点 | アスタの日記- バーバラ・ヴァイン | 2009/09/26 00:24 |
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ひたすら脱帽である。よくもまあ、ここまで精緻に“歴史”を紡ぎ上げたものだ。
実際の歴史的事実を織り交ぜ―しかも史実を織り交ぜた事が紛失した日記の一部のキーとなっている!―、また実際にそこにあるかのような細かい描写。 強烈な個性を放つアスタを筆頭に一読忘れ難い人々。 そのあまりの詳細さに疲弊し、また睡魔との格闘を幾度となく繰り返したが、今はただ最後まで読み通せ、また素晴らしい幕切れに感無量である。 要した日数15日。読んだ内容86年分。 |
No.629 | 8点 | 二重螺旋の悪魔- 梅原克文 | 2009/09/24 23:57 |
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梅原氏のデビュー作。
瀬名秀明氏の『パラサイト・イヴ』に先駆けること1993年に発表したバイオホラー・エンタテインメント。 とにかく次から次へ読者を愉しませるアイデアを放り込み、読者にページを繰る手を休ませようとはしない。 また『幻魔大戦』や『クトゥルー神話』など、作家の趣味だと思われる物も詰め込み、上下巻1,000ページを駆け抜ける。 最新(1993年当時に構想のみされていたものも含めた)のバイオテクノロジーからダーウィンの進化論、そして恐竜の絶滅から新約聖書、サイバースペースなどなど、多種多様なジャンルを盛り込み、壮大なスケールで描いたスペクタクルホラー。一言で云おうとすると、修飾語が多く付きすぎて収拾が付かなくなるほど、盛り沢山のエンタテインメント作品。 |
No.628 | 4点 | 殺す人形- ルース・レンデル | 2009/09/22 20:10 |
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レンデルにしては珍しく整然さを欠いている。
ストーリー展開は確かに従来の作品群同様、全く読めないのだが、今回はそれが読書の牽引力になっていない。 昔から失語症など些細なハンディキャップを素材にして普段到底あり得ないような事態を丹念に心理描写を重ねることで絶大な説得力を持って読書を引っ張ってきたのだが、今回はあまりに魔術や心霊に寄りかかってしまったため、今一歩説得力に欠け、ノレなかった。 期待というより心配された結末はチープなものだった。 |
No.627 | 7点 | 死が二人を別つまで- ルース・レンデル | 2009/09/21 23:51 |
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ウェクスフォードを外側から描く、ウェクスフォード物の異色作でどちらかと云えばノン・シリーズに近い。しかし、ウェクスフォードが登場人物の目にどのように映っているのかが垣間見れて面白かった。これほど影響力の強い人物だとは思わなかった。
主人公の牧師、アーチェリーをして「あの男は神の権化」とまで云わしめるのは過剰なる賛辞だと思うが。 結局、「事実」はなんら変わらなかった。ただ「真実」が無機質な人間2人を変えた。 レンデル物では珍しい、爽やかな読後感だ。 |
No.626 | 5点 | 指に傷のある女- ルース・レンデル | 2009/09/20 20:14 |
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内容は冗長すぎるきらいがあるとは感じた。全然サスペンスとして盛り上がらないのだ。
だが収穫はあった。そう、G・K・チェスタトンのあの名言が。 |
No.625 | 1点 | 荒野の絞首人- ルース・レンデル | 2009/09/19 23:55 |
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これははっきり云って駄作でしょう。金を出して読むまでの無いミステリだった。
この物語のキーとなるリン殺害の真相とリップの正体は予想通りで、全体的に地味なトーンで興趣をそそられなかった。説得力に全く欠けていた。 さらに、翻訳のぎこちなさ。小泉喜美子の訳とは思えないほどの直訳文体だった。日本語になっていなくて理解に苦しむ文が多々あり、非常に不愉快だった。 |
No.624 | 10点 | ロウフィールド館の惨劇- ルース・レンデル | 2009/09/18 23:17 |
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これが噂の、という期待感で臨んだ本書。
冒頭の有名な一文がこの物語の全てだ。即ち ユーニス・パーチマンがカヴァデイル一家を殺したのは、読み書きができなかったためである。 この一文から始まる物語を聖ヴァレンタイン・デイの惨劇へと収斂させていく手並みは見事。 日常の、本統に何気ないアクシデント、例えばTVの故障などが文盲であるユーニスにとって狂気へ駆り立てる一因となっていく事を実に説得力ある文章で淡々と述べていく。 そして事件後の真相に至る経緯も、事件前に散りばめられた様々な要素が、単純に真相解明に結びつかない所が面白い。 運命を弄ぶレンデル、そして“怪物”を生み出したレンデルに拍手を贈りたい。 |
No.623 | 6点 | わが目の悪魔- ルース・レンデル | 2009/09/17 23:13 |
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もっとストーリーに起伏があるのかと思っていたが期待していたほどではなかった。アーサー・ジョンソンが己の基盤から逸脱し、途轍もない恐怖を纏うのかと思えば、そうでもなく、終始劣等感を抱いた小心者だった。
結末も読者を突き放すように唐突に終わり、カタルシスを得ることがなかった。 そう、題名の“わが目の悪魔”が誰の心にも巣食っているというのは判るのだが、それが暴走しなかったのが物足りなさの根源か。 |