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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1567件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.30 3点 ミスター・マーダー- ディーン・クーンツ 2010/01/29 22:15
主人公マーティは作家クーンツをどことなくタブらせる存在で何にせよキングの『ミザリー』に触発されて書いたのは間違いない。キング作品は未だに読んだことがないので比べることは出来ないのだが、世評の高さを鑑みるに軍配はキングに上がったようだ。
サスペンスの盛り上げ方としてクーンツはこの上なく、物語の核心を出し惜しみして最後まで明かさない。この小説作法がずっと残っており、今回もまたそうである。
この手法は読者を最後まで飽きさせない、最後まで付き合わさせる方法としてはかなり有効なのだが、明かされる真相が読者のじれったさを解消するカタルシスを伴うか、もしくは読者の度肝を抜く衝撃の真相でなくてはならない。『ウィスパーズ』然り、『雷鳴の館』然り、最近では『バッド・プレース』がそうであった。
しかし今回は設定が’70年代SFの領域を脱していなく、ある物語の典型を活用にしたに過ぎない。作中やたらと『スタートレック』が出てくるのも作者もそれを知ってのことかもしれない。
物語に絡んできた「ネットワーク」の連中も主人公に降りかかる色々な災厄を連想させつつ、結局何もしなかったというのも肩透かしだし、マーティとアルフィーの最初の対決と最後の対決で何が変わったのかと云えば実は何も無く、子供が攫われそうになった分、初回の時の方がスリルがあった。最初の対決だけで物語は終えるべきだった、そう思わせる駄作でした。

No.29 4点 心の昏き川- ディーン・クーンツ 2010/01/28 22:03
どうにもこうにも陰気な主人公スペンサーがストーカーにほぼ近い事―というよりストーカー行為―をある酒場で出逢った魅力的な女性に対して行う事から始まり、しかも彼が自分の名前、住所、身分証明書の類全てを詐称する究極のパソコンおたく、ハッカーでもあったという非常に好意の持てない所から出発していることもあり、物語が進むにつれ、スペンサーがヴァレリーと再会してから明るくなっていくのでエンターテインメント性が高まり、マイナスからプラスに転じていたのが良かった。
主人公の呪われた血の設定は特筆物だがやはりタイトルが示すように物語のトーンとしては暗い。

しかし今回、クーンツとしては珍しく敵役のロイを殺さずに最後に生き残らせ、しかも将来とんでもない事態をアメリカにもたらそうと暗示させて物語を終えた。
恐らく作者は書いている最中ロイが非常に気に入ってしまったのだろう。ロイとイヴのアメリカにもたらす災厄は非常に大きいものであり、しかも堅固までの確実性で実施されることで物語が終わるということは続編を作る気(だった)なのかもしれない。

しかし「クーンツの小説方程式」になぞらえて今後も作品を作っていくとなると小説家としては二流と云わざるを得ないなぁ。

No.28 6点 コールド・ファイア- ディーン・クーンツ 2010/01/27 22:05
今回の導入部はかつてのクーンツ作品の中でも群を抜く素晴らしさだろう。上巻はその救出劇のオンパレードでもう巻措く能わずといった状態。
しかし、上巻の最後の航空機墜落のエピソードから少し勝手が変わってくる。
主人公ジムが想定していた人物以上の救出が可能とされたからだ。

ここから下巻に至るわけだが、下巻はそもそも何故ジムがこのような特殊能力及び特殊な使命を帯びるに至ったかを探る云わば自分探しがメインであり、上巻であれだけ魅せられたスーパーマンのような救出劇が全く出なくなる。
しかも当初新聞記者としてジムの数ある救出劇に興味を持って近づいたホリーがジムに対して常に敗北のカードを握らされていたのに対し、今度は逆にジムがホリーを頼り、ホリーがその取材力を活かして東奔西走する形に変貌し、正に主客転倒するのだ。

これが最初に不屈の精神力とタフな肉体を供えて登場したジムのキャラクターとに大きなギャップを生むことになり、物語の視点がぶれるように感じた。
正直に云えば、下巻は何とも観念的な話が続くので上巻のエンターテインメント性と比するとかなり落ちるのだ。物語の構成上、このようなプロットにならざるを得ないだろうが、これははっきり云って物語としては致命的だろう。
通常ならば前半大人しく、後半派手派手しく終わるのが読書の醍醐味なのだが、今回は全く逆。
ここにこの作品の弱点がある。
前半盛り上がりすぎ、後半暗くなりすぎである。

No.27 8点 バッド・プレース- ディーン・クーンツ 2010/01/26 22:01
今回もクーンツは非常に魅力的な導入部を演出してくれる。

ふと目が醒めると知らない所にいる男、フランク。
最初は簡単な依頼かと思われたあるコンピュータ会社の仕事で危機一髪の危難に見舞われる夫婦探偵。
このフランクの、見知らぬ場所で目覚めるという設定のオチがテレポートだったとき、『ライトニング』など散々使い古された手の亜流でしかないのかと思われたが、最後に明かされるフランク、キャンディらポラード一族の血縁のおぞましさにはかなりガツンと来た。

これほどの真相はかの名作『ウィスパーズ』に勝るとも劣らない。
これをフランク及びキャンディがテレポート能力を持つに至った事を原因付ける強引さ。これほど畸形遺伝子を並べると納得させられるから怖い。しかし、ここまでやると次はどんな手が残されているのだろうか?

No.26 7点 アイスバウンド- ディーン・クーンツ 2010/01/25 22:18
クーンツ初の本格冒険小説は、やはり他の作品と変わらず、実にクーンツらしかった。
欧米の水不足を北極の氷山の欠片を持ってくることで解消しようという田中芳樹の冒険小説を髣髴とさせる大胆な設定を皮切りに、いきなりの海底地震によって寸断された氷山に取り残されたプロジェクト・チーム、彼らを襲うのは皮肉にも自らが仕掛けた爆弾だった。しかも途轍もない嵐によってあらゆる救助は不可能。そして正体不明の殺人鬼がメンバーの中にいる。
どこまでも読者を飽きさせないこのサービス旺盛さ。あいかわらずメンバーの個性は類型的だが、読んでいる最中は気にならない。
アリステア・マクリーンに敬意を表した作品だというが、私は彼の小説を読んでいないので正当な判断はつかないけれど、どうもその域には達していないように思われる。
この過剰なるサービス精神が名作を残すのを妨げているように思われるのだが、どうだろうか?

No.25 6点 ウィンター・ムーン- ディーン・クーンツ 2010/01/25 00:14
クーンツがベストセラー作家として確立されているだけに、ストーリーが定型化しすぎていると痛感させられた。映画にすれば各々の登場人物の演じる俳優のイメージが固定化される思いもした。
導入部はいつもながら物凄い。いきなりクライマックスを迎える。
それから膨らむ主人公の周囲を取り巻くエピソードも興味深く、これを貫けばある意味、小説の大家としての地位も確立できるであろうと思うのだが、やっぱりクーンツは怪物や宇宙人が好きなんですねぇ~!
得体の知れない怪物の話は今までになく幻想的で想像力膨らむが、無敵度を強くしすぎたせいか、最後の対決は何ともしぼんだ内容になっている。ここがいつもながら作家としての脆弱さを露呈させている。

あと、主人公以外の登場人物の使い捨て癖が顕著だった。
エピソードや人物設定などを取り上げれば面白くなる要素ばかりなのだが、それらを十全に活かしきれないクーンツ。

No.24 4点 ハイダウェイ- ディーン・クーンツ 2010/01/23 00:30
もはや大ベストセラー作家としての地位を確立した後の作品であるのだが、どうも歯切れが良くない。
初期の作品群に顕著に見られる、盛り上げるだけ盛り上げといて結末が何ともあっさり、というか呆気ないという特徴ほどではないにしろ、あれほどヴァサゴとハッチとのシンクロニシティで恐怖感を盛り上げておきながら、対決が単に十字架で殴りつけて終わりとは何とも情けない。最後の最後で裏切られたとはこのことだ。しかも悪い意味で。
作者の狙いは、彼ら2人のシンクロニシティにまずオカルトめいた雰囲気を提示しておいて、ストーリー半ばで地獄から蘇ったヴァサゴがナイバーンが蘇生法で蘇らせた我が息子であることを示し、更にこのことでヴァサゴとハッチのシンクロニシティに一応の根拠を持たせ、これでファンタジーから現実レベルの域にまで引き落としながらも、最後の最後でウリエルとヴァサゴという名前を出すことで、やはりオカルトだったのだという二重三重の構成を持たせたのだろうが、全然効果が出ていない。
はっきりいって、最後のウリエルVSヴァサゴは蛇足だ。こんな真相なんていりません。
なんともまあ、すっきりしない結末でした。

No.23 10点 ウォッチャーズ- ディーン・クーンツ 2010/01/20 23:57
やられた。クーンツがこんな作品を書くなんて。

とにかく<アウトサイダー>にやられた。
クーンツの悪い特徴である素っ気ない結末で締め括られるわけでなく、カチッと最後のピースが当て嵌まるかの如く、素晴らしいエンディングを用意しており、心にずっしりとストーリーが残った。殺し屋ヴィンス、追跡者レミュエル、これら脇役が全てプロットに最後の最後まで機能しているのもクーンツにしては珍しい。

現時点でのクーンツ作品№1。

No.22 7点 ストレンジャーズ- ディーン・クーンツ 2009/12/24 23:49
上下合わせて1000ページ強の超大作でしかもクーンツにしては文字のぎっしり詰まった作品。

とにかくクーンツは冒頭が素晴らしく、今回もその例に漏れない。夢遊病の作家、突然遁走の危機に見舞われる若き女医、神を信じられなくなった神父、暗闇恐怖症のモーテル経営者など、一見何の関係もない彼ら・彼女らがある1つの場所に収斂していく手並みは流石。

冒頭はサイコ・サスペンス、続いて軍事スリラーに、そして最後はSFと、かなり贅沢な作品であるのは間違いなく、当時としてはクーンツの集大成的作品だったのかもしれない。しかし、最後がいやにメルヘンチックな締め括り方をしていたのと、やはりどうにも無駄に長いという感が拭えず、総合的には平均的な佳作だと結論に至った。面白くないわけではないんだけどねぇ…。

No.21 5点 ミッドナイト- ディーン・クーンツ 2009/12/22 23:52
今度のクーンツは人間が野獣に変身するというモチーフを用いたSFホラー物。しかし、内容は意外に浅かった。
物語があまりにも当たり前の方向に進んでいくのが面白くなく、しかもこれだけ当たり前に進むのに、680ページもの分量が必要なのか疑問。

最後の無形体のアメーバが死ぬのは蛇足のような気がする。私としては最後に生き残ったアメーバが闇の中で息づいている終わり方が一番余韻としては残ったと思うのだが。
ローマンという転換者の中にヒーローを設けたのは設定としては良かったが、なぜか魅力が無い。恐らく死ぬ間際まで負け犬根性が残っていたからだろう。
もう少し工夫が欲しかったな。

No.20 7点 ライトニング- ディーン・クーンツ 2009/12/22 00:37
クーンツにしては、という云い方は失礼かもしれないが、複雑なプロットの物語でかなり読むのも苦労をした。タイムトラベル物の一つなのだが、とにかく複雑な構成。
パラドックスに関してかなりの時間を費やして考察を行った節があるのだが、最後の敵クライトマンがクリーゲルのチャーチルとヒトラーに対して行った工作が成功した後にも存在していたのは何故?などという疑問もある。
先に読んだ『奇妙な道』にアイデアは似ていると思う。特に防戦に失敗して主人公が死亡した後に、別の手段でやり直しが効くところは正にそっくりだ。
いつものクーンツ作品と違い、事件解決後の後日談があるのも珍しい。

No.19 7点 マンハッタン魔の北壁- ディーン・クーンツ 2009/12/20 00:13
プロットは及第点だろう。登山中の事故で瀕死の重傷を負って自信を喪失した登山家がある事件を切っ掛けに困難に立ち向かいその自信を取り戻していくというストーリーに加え、連続殺人鬼、事故の際に身につけた千里眼の能力など、クーンツの味付けが溢れているし、殺人鬼が1人ではなく、2人が同一の犯行を行うというアイデアも秀逸だろう。さらにマンハッタンのビルを山に見立て、垂直降下するアイデアも主人公の設定と見事に呼応し、素晴らしい。
しかし、どこか響かない。
有りか無しかといえば有りだが、文庫で十分だというのも事実だ。

No.18 7点 闇へ降りゆく- ディーン・クーンツ 2009/11/10 00:20
クーンツ得意のモダン・ホラーからファンタジー、幻想小説とその趣向は様々。
全7作の内、最も印象的だったのは最初の「フン族のアッチラ女王」と表題作。
特に前者は植物のような宇宙生命体の侵略物語がどう題名に結びつくのかが興味深く、その趣向に1本取られた感じだ(結局、内容的には大したことはないのだが)。
後者は家に現れる地下への階段というモチーフが秀逸。つまりこれこそが主人公の心の闇の深さのメタファーとなっており、人の悪意の底知れなさを仄めかして終わるラストも良い。

その他特殊な両手を備えた男の哀しみを描く「オリーの手」、実験で知能を備えた鼠の恐怖を描いた「罠」、異世界から来た熊の私立探偵とその異世界と現世との比較が面白い「ブルーノ」など前述のようにヴァラエティに富んでいるがずば抜けた物がないのも確か。

No.17 6点 奇妙な道- ディーン・クーンツ 2009/11/04 00:29
「奇妙な道」と「ハロウィーンの訪問者」を収録した作品集。
本書の大半を占める前者は自分の理想とする新たな人生を取り戻そうとするという男の再生譚なのだが、どうもこの設定は受け入れ難い。
失敗したらリセットできるという能力はいくらなんでもやりすぎでしょう。
これじゃハッピーエンドに終わるわけだ。
後者は他愛のない話で恐らくこれは児童向けの説教小説だろう。怪物を出すあたり、クーンツらしいといえばそうだが。
実に小粒な印象。

No.16 5点 ファンハウス- ディーン・クーンツ 2009/11/02 23:46
赤ん坊を妻に殺され、数年後に元妻の子供を必ず嬲り殺しにすると誓うフリーク・ショーのボス。そしてそのカーニバルがついにやって来る―このワクワクする設定によくぞクーンツ、思い付いたなぁと感心した。
また悪しき子供を産み、殺害したトラウマを持つエレンの、実の娘・息子を抱きしめたいほど可愛がりたいのにそれが出来ない葛藤などドラマも用意され、そして一方、サーカスの方では行く街ごとに第2の息子による性欲を爆発させた殺戮ショーが繰り返される模様も描かれている。
単純な設定を魅力的なエピソードを加えて厚みを持たせていく筆達者ぶりに感心した…のに。

最後は、何とも簡単に終わってしまう。
結局母と娘の確執は解消されたのか、それさえも解らずに敵が死ぬことで物語は幕を閉じ、大味な感じが残されるのだ。
ああ、読み捨て小説の典型だな、こりゃ。

No.15 4点 呪われた少女- ディーン・クーンツ 2009/11/01 23:15
クーンツは巷間ではモダン・ホラー界のヒット・メーカーで通っているが、私に云わせれば、モダン・ホラー界のジョン・ディクスン・カーだという方が最も的を射ていると思う。それほど当り外れの激しい作家なのだ。今回はその例に準えれば外れになろう。
冒頭の少女の苦悶のシーンがその後のテーマに繋がっていくのだが、どちらかと云えば展開は凡庸でクーンツならではという特徴がない。キャロルの私生児が実は、という設定も凡百の小説に見られる「意外ではない意外性」の域を脱せず、あざといテクニックを露呈するだけに。
作者自身も書いてて面白くなくなったのだろうか、『邪教集団~』、『雷鳴の館』でこれでもかとばかり見せ付けた主人公を完膚なきまでに追い詰めていく展開が意外にあっさりと片付けられ、しかも唐突に迎えるあのエンディング。
それ以降を書いて唯一無二の結末を提示するよりもその後あの4人がどうなったのかを読者の想像に委ねる手法を敢えてとったのかは定かではないが、正直消化不足ではないだろうか。
邦題もよくよく考えれば的外れでもあり、う~ん、色々含めて凡作だなぁ。

No.14 9点 雷鳴の館- ディーン・クーンツ 2009/10/30 00:27
私的クーンツ裏ベスト。
誰もが胸の奥底に抱いている若き日、もしくは幼き日の恐怖体験を完膚なきまでにこれでもかこれでもかと畳み掛けるように主人公に叩きつけるその様は、もしこれが自分にも身に覚えのある恐怖体験へと擬えさせられ、こちらも仮想体験を余儀なくされた。
しかもとてつもない設定を用いた島田荘司もかくやと云った本格ミステリ的などんでん返し付き。
とにかく恐怖体験に持って行き方が今回はすごかった。今までのクーンツならばじわじわと予兆を畳み掛け、いい加減その物ズバリを出してくれよっ!!といったじれったさがあったのだが、今回は普通に振舞っていた中、ああ、今日は何事もなく過ぎていくのかという安堵感を与えた瞬間、ズドンと主人公を恐怖のどん底に陥れる手際が本当に見事で、背筋がゾクッと来た。
最後の1行はやはりクーンツらしいというべきか。

No.13 9点 邪教集団トワイライトの追撃- ディーン・クーンツ 2009/10/28 00:10
※大いにネタバレ

本書のポイントとなっているのが「黄昏教団」というカルト集団が通常のクーンツ作品に登場する常軌を逸した狂乱の集団に配されているのが最後に裏返りそうになるところ。
つまり正しいのは主人公達なのか「黄昏集団」だったのか、一体どっちなの!?ってところだ。
だから題名の「邪教集団」ってのも実は誤りかもしれなく、しかも最後までそれを明かさなかったところが演出として心憎いのだ。
それがまた何故「黄昏教団」が再三再四に渡って行方を完全にくらましていたかに思えた主人公達を正確無比に追撃できたのかが終盤になって明かされるにおいて実はジョーイが・・・なんていう疑惑が沸々と巻き起こる辺り、演出効果は抜群である。

そして物語はクーンツ特有のハッピー・エンドの情景を呈して終幕となるのだが、果たしてそれは本当にハッピー・エンドなのかという疑問が残るのも従来から逸脱してて○。
結構無視できない作品だぞ、これは。クーンツ、やるなぁ!!

No.12 7点 夜の終りに- ディーン・クーンツ 2009/10/27 00:27
ベトナム戦争帰りで社会人的な普通の生活が出来ない―女も抱けない!!―チェイスが脅迫者を辿る事で魅力的な女性と出会い、自己を再生していくという男の復活劇の要素を含んでおり、正に小説のツボを押さえた構成になっている。
が、故に定型を脱せず、凡百のミステリとなっているのも確か。犯人の正体が判明してからの展開がいかにも呆気ない。

No.11 8点 戦慄のシャドウファイア- ディーン・クーンツ 2009/10/25 20:24
ジェットコースターのような疾走感で今回も物語は駆け抜ける。しかも相手は正真正銘の怪物で自分が想像していたモダン・ホラーかくありきという形と合致しており、非常に小気味よい。

物語はクーンツ特有のなかなか本質を明かさない焦らした駆け引き(本当にじれったい!!)をしながら進み、まず主人公二人は追う立場で始まる。そこでご対面とならずに今度は一路ラスベガスに向かい、主客一転して今度は追われる身になる。この辺りの構成の妙が実に巧い。
また脇役で出てくるフェルゼン・《石》・キール氏の造詣もまた印象的だ。これが結末において、ある人物の行動に必然性を与えている。

ただ、やはり良くも悪くもこのエンターテインメント色の濃さがハリウッド的でいささか軽めに感じるのも事実で、もうちょっとそれぞれの人物・エピソード・文体等、文学的深みがあってもいいのではないかと思われる。

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