皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
Tetchyさん |
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平均点: 6.73点 | 書評数: 1601件 |
No.28 | 7点 | 片腕をなくした男- ブライアン・フリーマントル | 2010/02/18 18:39 |
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騙し騙され、嵌め嵌められ。全く諜報活動の世界とは何が真実で何が虚構なのか全く予断を許さない。最後まで読んだ今はそんな思いでいっぱいだ。
しかし本当にこのシリーズは一流のエスピオナージュ小説でありながら世のサラリーマンの共感を得る、中間管理職の苦労を痛感させられる作りになっているのが面白い。 しかしこの大どんでん返しは読了直後ではあまりの急転直下の展開に創りすぎだという感慨が否めず全面的に首肯できない。 訳者あとがきによれば本作は新たな3部作の第1作目であるとのこと。 とにかくフリーマントルのライフワークとも云えるこのシリーズの恐らく掉尾を飾る三部作の最終作が訳出されるのを愉しみに待つことにしよう。 |
No.27 | 9点 | 殺人にうってつけの日- ブライアン・フリーマントル | 2009/08/12 19:59 |
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相手に嵌められ、妻まで奪われて刑務所に入れられた男が出所を機に全てを取り戻すため、復讐を企む。今まで何度も使い古されたプロットであるが、そこはフリーマントル、普通の設定にしない。
なぜなら復讐者ジャック・メイスンこそ、元妻の安定した生活を脅かす悪の存在だからだ。彼はCIA勤務中はロシアに情報を流す売国奴であり、私生活では女を買うのは勿論の事、公然と浮気をし、妻に暴力を振るっていた最低の男なのだ。この通常ならば主人公の宿敵となるべく恐怖の存在を逆に主人公として設定したところにフリーマントルの作家としての一日の長がある。 本書に込められているメッセージとは結局復讐は何も生み出さないということだ。 最近のフリーマントルは英国人特有の皮肉溢れる結末が多く、本書もその例に洩れない。私は読後のカタルシス、特に爽快感を買う方なので、それ故、本書は面白いが、傑作とまでは賞賛できないという結論である。 またアメリカの証人保護プログラムに警鐘を鳴らしている。結局完璧な制度というのはないのだということを痛感させられる。 シンプルながら、色んな内容を包含した作品だし、逆に物語構成がシンプルなだけに彼の本を初めて読む人にはまさに“うってつけの”一冊ではないだろうか。 |
No.26 | 10点 | ネームドロッパー- ブライアン・フリーマントル | 2009/08/12 19:51 |
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旅先での一人旅の女性とのアヴァンチュール。そんな珍しくもない、誰にでも起こりそうな情事が思いもよらぬ災厄をもたらす。そんなありきたりな設定に被害者を身分詐称を生業とする詐欺師に持ってきたところにフリーマントルのストーリーテラーとしての巧さがある。
そして本作ではフリーマントルの手による法廷ミステリの側面を持っているところも読み所だろう。 法廷シーンで繰り広げられる原告側、被告側双方がやり取りする揚げ足の取り合い、トラップの仕掛け合いはものすごくスリリングである。言葉の戦争だとも云えよう。 元々フリーマントル作品には上級官僚が自らの保身、自国の保身のために行う高度なディベートが常に盛り込まれており、すごく定評がある。このフリーマントルのディベート力が裁判という舞台に活かされるのは当然であった。逆に云えばなぜ今までフリーマントルが法廷物を書かなかったのかが不思議なくらいだ。 そして他人の名を借りて身分を偽り、それが偽造パスポートや偽造運転免許証、さらに社会保障番号を知ることで他人に成りすましていたジョーダンが本人であるハーヴェイ・ジョーダンとして訴えられることで、改めて借り物の人生を過ごしてきた自らについてアイデンティティの再認識が成される。だからこそのあの最後のセリフが活きるのであろう。 最近のフリーマントル作品は皮肉な結末が多かったが、本作では非常に胸の空く思いがした。こういう小説を読みたかったのだ。 近年のフリーマントル作品の中でもベストだとここに断言したい。 |
No.25 | 7点 | トリプル・クロス- ブライアン・フリーマントル | 2009/07/16 19:27 |
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フリーマントルが自身のノンフィクションルポルタージュ作品『ユーロマフィア』で述べていた、複数の国に君臨するそれぞれのマフィアによる犯罪ネットワークの構築、これが本書の主題である。
これにダニーロフの愛人ラリサの敵討ちが加わり、更にベルリンでのFBI捜査官の大量虐殺なども起こり、事件は派手さを増す。 米独露三国の共同捜査を敷きながら、常に相手の上を行くロシアマフィアの頭オルロフ。これが最後の最後で決定的な証拠が発覚し、捕まる。 しかしここで私は疑問に思ってしまった。 今までFBI、ロシア民警を嘲笑うかのように悉く出し抜いてきた慎重なマフィアが尻尾を掴まれるにしてはなんともお粗末な証拠である。 物語運び、世界情勢を正確に把握した堅牢たるプロット作り、そして最後にサプライズを決して忘れないフリーマントル。 上手い。確かに上手いが、今回はちょっと脇が甘かったかなぁ。 |
No.24 | 4点 | ホームズ二世のロシア秘録- ブライアン・フリーマントル | 2009/05/24 19:57 |
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本作も前作同様、第一次大戦開戦の火花がいつ起こるか解らない1913年を舞台に歴史上の人物らとシャーロック、マイクロフト、セバスチャン、ワトスンらが共同し、諜報活動に乗り出す。
前回はアメリカが舞台だったが今回はタイトルにもあるように、ロシア。 しかもまだロマノフ王朝が国を治める時代の話。しかしレーニン、スターリンら、後のロシア革命の立役者たちの暗躍も同時に語られ、ロシアの歴史の大転換期と第一次大戦が起こるか否かの瀬戸際の非常に緊迫した雰囲気の中にセバスチャンは晒されており、前作にも増して状況はスリリング。 しかしそれでもなお、なんだか割り切れないんだな。 ここに描かれているホームズは非常に人間くさく描かれている。 これこそ作者の意図するところなんだろうけど、果たしてこんなホームズを見たかったという人がどれだけいるだろうか? この世界一有名な私立探偵はもはや“スター”であり、“ヒーロー”なのだ。 そんな男がウジウジしているところなんて読みたいと思わないのではないか? 色んな要素が盛り込まれている贅沢な作品だけれども、やっぱり手放しに賞賛できないなぁ。 |
No.23 | 7点 | 知りすぎた女- ブライアン・フリーマントル | 2009/05/14 19:38 |
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父親が経営する会社―本書の場合は義理の父親だが―が悪事に加担しており、それを自分が引き継ぐ事になったら・・・という、クーンツ張りの巻き込まれ型サスペンスをフリーマントルが書くと斯くもこのように実に緻密な物語になるといった見本のような作品だ。
ただハイソサエティクラスの人物達の物語であるから、どうしても明日は我が身といった危機感を感じられないのが難点ではある。 しかし最後に抱いた感想は「女は怖いなぁ」ということ。 1人の男性を巡る正妻と愛人が困難を乗越える話だが、2人のやり取りがドロドロしていない分、最後の仕打ちにうすら寒さを覚える。 |
No.22 | 4点 | シャーロック・ホームズの息子- ブライアン・フリーマントル | 2009/05/06 19:32 |
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なんとフリーマントルの手による、ホームズのパスティーシュ小説。しかし、厳密に云えば純然たるホームズのパスティーシュではない。ホームズの登場人物を借りたスパイ小説となっている。主人公はホームズでもワトソンでもなく、フリーマントルが創作した彼の息子セバスチャン。
自然、物語は政治色が濃くなり、シャーロックよりも官職に就いていたその兄マイクロフトの出番の方が多くなっている。実にフリーマントルらしいホームズ譚だ。 しかしこのホームズ譚の登場人物によるスパイ小説という手法が果たしてよかったのかどうか、非常に悩ましいところだ。題名に堂々と『シャーロック・ホームズの息子』と謳っているから―因みに原題は“THE HOLMES INHERITANCE(ホームズの継承者、ホームズの遺伝子)”―、どうしてもホームズ譚のような物語を想像してしまう。 読書を十全に愉しむためにこの手の先入観は極力排して臨むべきだと解っていても、やはりこの手のパスティーシュ小説では難しい。 今回は上の理由により、面食らってしまい、なかなか物語にのめり込むことは出来なかったが、フリーマントルの意図するところが解った今、次作はもっと楽しめるのではないだろうか。 |
No.21 | 7点 | 爆魔- ブライアン・フリーマントル | 2009/05/05 22:51 |
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今回の作品は今までになく派手。ニューヨークの国連事務局タワーにミサイルが着弾するのを皮切りに、ボートの爆破、ワシントン記念塔の階段爆破、ペンタゴンのコンピューター・セキュリティー・システムを破ってのクラッカーの侵入、そして海を越えてモスクワのアメリカ大使館へのミサイル襲撃と、次から次へと事件が発生する。
これはやはり9・11が影響しているように思う。一応作者本人は本作が9・11の前には既に書き上げられていたと言及しているが、事件後、加筆したともあり、少なくとも、いや大いに影響は受けている物と思われる。従ってあの現実を超えるにはもっと派手な事件を設定しないと現実を凌駕できないという焦りがあったのではないだろうか。それが作家の矜持を奮い立たせたように私は感じた。 さてかなり練られたプロットで、意外性のある共犯者と相変わらずの筆功者振りを見せ付けてくれるのだが、どことなくアメリカの大ヒットドラマ『24』の影がちらついてならない。 爆破テロもそうだが、特にペンタゴンの内部スパイの存在、そして次の脅威の萌芽を予兆する終わり方など、すごく既視感を感じた。最後の犯人を捕らえるシーンなどはそっくりだと云える。どちらが先かという問題もあろうが、件のドラマを観た後で読んだがためにちょっと損な受取り方をしてしまった。 |
No.20 | 9点 | 城壁に手をかけた男- ブライアン・フリーマントル | 2009/05/04 22:17 |
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今回はモスクワで起きた米露大統領射殺事件―1つは未遂―の現行犯がなんとイギリスからの亡命者の息子だという設定でチャーリーを事件の渦中に巻き込む。
いやはやよくもまあ斯くも多彩な設定を思いつくものである。 そしてまたもや英米露三国共同捜査グループが敷かれる。 こうやって書くと、このシリーズ、マンネリのような感じを受けるが、断じてそうではない。とにかく多面的・重層的に物語は交錯するので、全く飽きが来ないのだ。 最近私が観た映画にこれと非常に似た映画があった。それは『ヴァニシング・ポイント』という、これまた大統領射殺事件を扱った作品で、本作はあれに非常に似ている。いや逆か。あの映画はこの作品に非常に似ているのだ。 そしてシリーズ十?作にして、こんなサプライズを設けるフリーマントルの筆の若さ!この作家、本当に全く衰えを知らない! ただ本作の終わり方は歯切れが非常によくない。そして本作以降、チャーリー・マフィンシリーズは刊行されていないようだ。 最後の花道を飾る意味でも、フリーマントルには老体に鞭打って、是非とも華々しいシリーズ最終巻を発表してもらいたいものだ。 |
No.19 | 8点 | シャングリラ病原体- ブライアン・フリーマントル | 2009/05/03 20:29 |
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連日TVを賑やかしている豚インフルエンザから派生した新型インフルエンザが世界中に猛威を揮っているが、そんな中、この作品を読む事が正にタイムリーだといえる。
南極の氷が溶け出すことで、古生代に封印された未知のウィルスが動物を媒体にして人から人へと感染する。それは老いを急速に進行させ、死に至らしめるという奇病だったというすごく恐ろしい内容。 しかも本書が刊行されたのは2002年。そして既に昨年来から騒がれていた鳥インフルエンザから変異した新型インフルエンザが将来猛威を揮うであろう事を既に予見されている。 そして今、極寒の地ではあちこちでこの小説で書かれているような奇妙な病気が続発しているというのだ。 単純に興味本位で読むのもいい。今、パンデミック(世界的大流行)の危機にある中、一読するに値する作品だと思う。 単なるパニック小説に陥らず、それを足がかりに各国の政治家が世界的リーダーシップを獲得しようと画策しているところもこの作者ならではの特徴。いやあ、政治家って、ホント、心底理解できんわ。 |
No.18 | 7点 | 待たれていた男- ブライアン・フリーマントル | 2009/05/03 01:17 |
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異常気象によりシベリアの永久凍土が溶けて、その中からイギリス軍人、アメリカ軍人、そしてロシア人女性3人の死体が現れるという、またまた魅力的な発端で幕を明けるこのシリーズ。
そのため、英米露三国の共同調査陣が組まれるが、それはうわべだけで、やはり水面下では他国を出し抜かんとする、激しい駆け引きが繰り広げられる。 それらのやり取りが非常に高度な知的ゲーム、インテリジェンスを扱った駆け引きであるから全く飽きない。 物語が進むにつれて新たな事実が判明するが、それはまた次の謎に繋がり、なかなか先が見通せない。この辺りの手練手管はやはり巧いのだが、今回は冗長すぎると感じた。また三国に跨っているゆえ、関係機関も多く、登場人物も多く登場し、ちょっと整理するのに大変でもあった。 それでもカタルシスは得られるのだから、やはりフリーマントル恐るべし。 |
No.17 | 7点 | 虐待者- ブライアン・フリーマントル | 2009/05/01 21:33 |
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シリーズ3作目は小児性愛者グループによる幼児誘拐を扱っている。そして本作では犯人グループがたまたま誘拐したのが将来の大統領候補とも云われるベルギー駐在アメリカ大使の娘であるところがミソ。あえてその娘をテロ行為として誘拐したのではないところがフリーマントルらしい味付けだ。
今回クローディーン・カーターのライヴァルとなるのがFBIからは“氷人”と称されるFBI人質交渉主任ジョン・ノリス。 しかしその評判に反して、意外と、いやかなり精神的に脆い人物で、早々と退場してしまう。 このシリーズは男勝りながらも身勝手かつ年齢の割には未成熟さを覗かせるクローディーンを読者がどう思うかによって評価が変わってくるかと思う。私はなかなかお近づきになりたいとは思いませんね~。 |
No.16 | 7点 | 流出- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/30 22:40 |
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ロシアの核物質が西側へ流出するという報せを受けたチャーリーがアメリカとロシアと共同戦線でそれを阻止するというのが物語の骨子。
そしてロシア側の代表者がかつて愛したナターリヤというのが心憎い。さらに彼女には既に恋人がいて、その彼がポポフというロシア側の作戦指揮者!う~ん、巧いね。 そして三国間の代表が行う政治的、戦略的駆け引きは最高の頭脳ゲーム!高学歴、高水準のディベートゲームを堪能した! 今回しゅっ直のキャラクターは頭脳明晰でFBI随一の核の専門家でありながら、一流モデル張りのスタイルと美貌、さらに自分の欲望に素直な女性ヒラリー・ジェミソンに尽きる。ぜひ再登場願いたい! ただ彼女が強烈過ぎてチャーリーとナターリヤの関係性が希薄になったのが玉に瑕か。 あと今回は結末が読めてしまったのも点数が低い理由。 |
No.15 | 8点 | フリーマントルの恐怖劇場- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/29 19:58 |
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エスピオナージュ作家フリーマントルが紡いだ怪奇短編集。これが実にヴァラエティーに富んだ短編集となっている。
個人的ベストは「インサイダー取引」と「ゴーストライター」。 前者は投資家夫婦と降霊術という相反する物を結びつけたのがミソ。両者ともタイトルが秀逸。 このようなホラー・ストーリーはもはや出尽くした感があり、確かにここに語られる恐怖譚の中には目新しさは無い物もある。では何が読者の興趣を誘うかというとやはりそれは作者の語り口にあるだろう。 そしてフリーマントルが筆巧者であり、その定型化した恐怖譚をコクのある料理に変身させる腕前を備えていることを再認識させられた。 |
No.14 | 5点 | 暗殺者オファレルの原則- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/28 22:47 |
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当初題名から連想していたのは映画『レオン』のレオンの如く、日々の日課を欠かさず、1つのフォーミュラのように固持して生活する内省的な暗殺者を思い浮かべていたが、さにあらず、家族みんなに頼りにされる模範的な父親・夫という人物だったのが意外だった。
このオファレルという暖かな家庭を持ち、規律正しい生活を信条とし、なおかつ潔癖とまで云える正義感を備えた暗殺者というこの設定がこの作品に厚みを持たせている。通常の小説で語られる精密機械のような感情の持たない暗殺者、人殺しに無上の喜びを感じる歪んだ性格の持ち主ではなく、このような生真面目な人物を設定したところにフリーマントルのアイデアの冴えを感じる。 が、最後の締めくくり方は非常に気分が悪い。 読後、しばらく声がでなかった。 最近読んだ本の中では、最も後味の悪い結末だ。 何を語りたくてあのような結末にしたのか、全く以ってフリーマントルの意図が理解できない。この作品を著した当時、家族間に何か問題があったのか、そう勘ぐってしまうほどの結末だ。 もう少し救いがあっても良かったのではないか、フリーマントルよ! |
No.13 | 7点 | 第五の日に帰って行った男- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/27 22:17 |
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亡命者をテーマにした5つの短編を集めたもの。
亡命者が亡命する際の緊張感、どのような緻密な計画を立てるのか、果たして成功するのか否かというのが亡命物のメインとなるのだが、短編である本作においてはその辺が軽く書かれており、フリーマントル自身、短編である事を意識して最後のどんでん返しに主眼を置いて著したようだ。 しかし彼お得意のどんでん返しも長編の焼き直しのような感じがして、物足りない。 この作者、やはり長編向きだと思う。 |
No.12 | 7点 | クレムリン・キス- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/26 00:03 |
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本作のテーマはCIAとMI-6の諜報員同士のソ連の大物政治家の亡命を巡っての、丁々発止のやり取りなのだが、実は物語が動き出すのは全体の3/4当りに差し掛かった頃で、それまで本作ではモスクワに送られた各国スパイ達の交流とその夫婦生活と奥さん連中の内緒話、三角関係、遠距離恋愛といった、非常に通俗的な内容。
しかしこれが非常に面白い。スパイも家庭問題を抱えるのだね。息子が非行に走り、急遽勤務先から舞い戻ったりと大変なのだ。 実は個人的にはこの作品はこういう普段語られることのないスパイの生活を描くところで終わって欲しかったのだ。というのも本作に仕掛けられた最後のサプライズはあまりに唐突過ぎるからだ。技巧派のフリーマントルにしてはちょっと説明不足といった感じが拭えない。 今回はどんでん返しというよりも辻褄併せのような感じがした。実にフリーマントルらしくない歯切れの悪い結末だ。 |
No.11 | 9点 | 亡命者はモスクワをめざす- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/24 20:05 |
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本作では前作でとうとう捕まってしまったチャーリーの獄中生活から始まるのが興味深い。各国の諜報部員達の裏をかき、自らが生き延びることを信条とするチャーリーだが、刑務所内ではその闊達ぶりは全く見られない。
逆にチャーリーの脱獄の手伝いをするためにわざと投獄された若き情報部員サンプソンに刑務所内で地位が逆転し、助けを請う始末。シリーズを読み続けている者にとっては、あまり面白くない展開だ。 しかし脱獄してからスパイ学校の講師になったチャーリーは彼が真に一流のスパイである事が解るエピソードだ。やっぱ、チャーリーはすごいわ。 そして本作から最新作までチャーリーと運命を共にする女性ナターリヤが登場する。このときは彼女とチャーリーとの恋は一過性のもので、単なるシリーズのアクセントでしか思っていなかったのだが、いやぁ、こんなに関係が続くとは思わなかった。 そして本作では驚愕の結末が待っている。チャーリーの報復には報復を、という性格と、物語全体に仕掛けられたある企みがマッチして、ものすごい効果を挙げている。私は最後、鳥肌が立ったものだ。 いやあ、この作品はシリーズの大きな分岐点だったんだなぁと後になって思った次第。 |
No.10 | 8点 | 罠にかけられた男- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/21 23:12 |
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いやあ、痛快、痛快。やはりこのシリーズでの筆致は一線を画すほどの躍動感がある。
チャーリー・マフィンの常に人を喰ったような策士ぶりは健在。いや、それどころか組織に属していない分、上司に縛られていないので、むしろ更に狡猾さが増した感がした。特にFBIのテリッリ捕縛作戦にロマノフ王朝切手コレクションがダシに使われることを摑んでからのFBIとのやり取りと、その作戦に一役噛んでいる上院議員コズグローブとのやり取りの面白い事、面白い事。 権力ある者に屈せず、むしろその権力を嵩に横暴を貪る者達を嘲笑するように振舞うチャーリーの姿には、上司-部下の上下関係に逆らえないサラリーマンの、こうでありたいという姿であり、溜飲が下がる気持ちがした。 そして今回、チャーリーの敵役のペンドルベリーも、いやはやなかなか面白い人物である。この男は、FBI版チャーリー・マフィンであり、チャーリー自身も自分と同じ匂いを嗅ぎ取る。 この男の水をも漏らさない計画に穴を開けるのが、このチャーリーというのがまた面白い。丁々発止の頭脳戦は似た者同士の騙し合い合戦そのものであり、これが今回の物語のメインディッシュとしてかなり美味しいものだった。 魅力ある登場人物が増え、どんどんシリーズの世界が広がっていく。今後のシリーズの行く末が非常に愉しみだ。 |
No.9 | 8点 | 黄金をつくる男- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/20 22:36 |
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フリーマントルの手による経済小説である本書は、従来、彼の得意とするエスピオナージュの手法を存分に取り入れており、主人公である多国籍企業の会長を縦横無尽に世界中を駆け巡らせ、丁々発止の駆け引きをさせる。
昔、某滋養強壮剤のCMコピーに「24時間戦えますか?」というのがあったが、本書の主人公で南アフリカの鉱山会社会長のコリントンは文字通り、24時間戦う会長だ。 不眠不休で世界中を駆け巡り、情報を収集し、状況を好転させる。 このコリントンのあまりのスーパーマンぶりに失笑を禁じえなかったが、その辺はフリーマントル、危ういところで読者との距離感を埋めている。仕事はすごいが、女性と家庭には不器用な男という肖像をきちんと描いており、なかなかである。 作品が書かれたのは80年代初頭とかなり古いが、それでも世界経済の情勢を知る上でもかなりの情報が詰め込まれており、非常に勉強になった。 |