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弾十六さん
平均点: 6.13点 書評数: 514件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.74 6点 万引女の靴- E・S・ガードナー 2018/11/15 06:23
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第13話。1938年9月出版。HPBで読了。
雨宿りしたデパートのレストランで食事をとる二人。メイスンの夢は動く鉄道模型の大きなジオラマセットを事務所に置くこと、助手ジャクスンはゲジゲジ眉毛で子供時代がなかったような感じの男、デラは今112ポンドで109ポンドが理想、などの他愛のない会話から物語の幕が開きます。
誰でも知っている有名弁護士メイスンというのが第2シーズンの設定。メイスンが賭博場のバーで注文したのはオールド・ファッション。ちょい役でシナハラ・イツモという名の日本人コックが顔を出します。
メイスンの無茶は控え目ですが、今回はドレイクが巻き込まれて災難を受けます。地方検事が証人を入念にコーチする場面が興味深い。ホルコムは「捜査課」(homicide squad)在籍10年と証言、いつもの活躍が見られます。法廷でメイスンが最終弁論を行い、陪審の評決が出るのは珍しい。
いつもの込み入った筋でスピーディな冒険物語が楽しめますが、突飛な習慣の叔父さん(計画的な突発性泥酔及び賭博症って…)が変テコで、周りの人物の行動も不自然な感じ、解決もちょっとスッキリしません。
さてトリヴィアです。
デパートでの37ドル83セントの買い物、現在価値は930ドル程度(食パン換算)。
11章の引用「自分の仕掛けた爆発物に吹っ飛ばされた技師を見るのは楽しい」(For 'tis sport to see the engineer, hoist by his own petard. )はハムレットからの有名句。
銃は38口径拳銃が2丁登場。いずれもリヴォルヴァですがメーカー型式不明。銃関係の翻訳は難あり。
p149「いわゆる練習用拳銃」(what they call a service revolver) 練習用ではなく、「官給品の拳銃=軍用拳銃」のこと。「女性には反動が強い、重すぎる」とあるのでM1917(45口径、Colt製・S&W製の二種類あり)だと思われます。
p229「38口径弾といわれる弾丸」(女性に手頃な弾)と訳されているのは原文では「38ショート弾」(a shell known generally as a thirty-eight short) 特に断りなく「38口径弾」といえば、普通は38スペシャル弾(1899年開発、正式名称.38 Smith&Wesson Special)を指します。38 shortは正確には38 Short Colt弾(1874)で「38口径」ファミリーの元祖的な存在。38 S&W弾(1876)[稀に38 S&W short弾と呼ばれる]とは別物。いずれも38スペシャルと比較すれば弱い弾。38スペシャルが撃てる銃なら38ショートも撃てます。なおモロ族との戦闘でストッピングパワー不足が指摘された「38口径」は38 Long Colt弾(1874)のこと…

<大事なところで誤訳>
p254 それは拳銃で撃たれて死んでいたある人物なのです。(That was someone who was a dead shot with a revolver): dead shot=marksman リヴォルヴァを持った射撃の名手、という意味ですね… (これは訳文の前後から明白に変だと気づきましたが、もしかしたら他にも結構誤訳あり?)

No.73 6点 サイロの死体- ロナルド・A・ノックス 2018/11/14 20:37
1933年出版。
冒頭の謎が地味目で、展開はゆったりとしているのですが、解決編は怒涛の勢いがあり楽しめました。探偵ブリードン夫妻(と言っても妻はちゃちゃを入れるだけ?)のシリーズものなんですね。ブリッジ、トートー、モスマンが車の愛称?と註釈され、冒頭に車が6台も出てくる割に具体的な描写が少ないので、どんな自動車なのかイメージしにくかったです。作者は車にあまり興味がなかったような気がします。

No.72 7点 The Perry Mason Book: A Comprehensive Guide to America’s Favorite Defender of Justice- 事典・ガイド 2018/11/14 20:24
Kindle版を購入。
表紙がレイモンド バーですが、小説版のメイスンをきちんとフォローしています。公式には長編82作、中編2作、短編1作のようです。小説版の解説には、名前の判明している全登場人物リスト、あらすじ、翻案(テレビ・バージョンとの関係など)、注釈があり、注釈にはトリヴィア関係がどっさり。地名が架空の場合は明記され、建物やホテルが実在の場合は詳細が記され、版による「次の事件への予告」の違いや、デラにプロポーズした回数や、ドレイクの秘密ノックの変遷なども記載されています。本書によるとシリーズ中に挙げられた判例や書物は大抵実在のもののようで、法律関係に手を抜いていないガードナーの姿勢が伺えます。テレビシリーズの解説は、作品を視聴したことがないのでまだ読んでいません。この本で大抵のペリー メイスン情報は手に入るはずです。(私が書いている銃関係のトリヴィアはレミントン ダブル デリンジャーに触れていることを除いて全く出ていませんでしたが…) 英語ですが平明で読みやすいと思います。Kindle版なので簡単に検索出来るのが非常に便利。紙の本換算で1983ページ。560円。

No.71 6点 掏替えられた顔- E・S・ガードナー 2018/11/14 20:11
ペリー ファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第12話。1938年4月出版。HPBと電子本(グーテンベルク21)で読了。訳はいずれも砧 一郎。
事務所に変わった依頼人が来る…というパターンの第1シーズン(1〜11話)が終わり、第2シーズン(私見ですが27話まで)はいろいろ趣向を変えているのが特徴です。本作は豪華客船、次作はデパートの食堂から話が始まります。第16話では依頼人が誰かわからず、第17話以降は冒頭にメイスンが登場しないことが多くなるのです。
本作はハワイから出航する船上のメイスンとデラから始まります。二人は中国と日本を訪れ法律制度を調査していた(バリ島にも足を伸ばしてた?)らしいのですが、休暇に飽きたメイスンに魅力的な謎が迫ります。
留守を守るジャクスンは鼈甲ぶち眼鏡の真面目タイプ。デラは「せいいっぱいやってる」とやさしいのですが、メイスンは「闘士としては腰抜け」(a rotten fighter)と散々な評価。
今回はメイスンが珍しく焦りまくります。事件自体はパズルが上手く完成するのですが、ちょっとごたついている印象を受けました。
さてトリヴィアです。
銃はメーカー不明の38口径リヴォルヴァが登場。メイスンの拳銃も初登場。ショルダーホルスターを使い、リヴォルヴァであることしか書かれていません。
遂に本作でメイスン事務所がL.A.にあると明言されました。(今まではthe cityなどとボカしていました。内容からはバレバレでしたが… ) p184「君のロスアンジェルスの事務所に、電話をかけてみたらどうだい、ペリイ」とドレイクが言います。原文でもHow about calling your Los Angeles office, Perry?となっているので確定です。この本でロスアンジェルスと訳されている部分は全て原文でもLos Angelesです。結構しつこく出て来るので、どーしたのかな?と思うくらいです。(上の文も無理にL.A.って入れなくても充分通じますよね)
p26 「メイスンの小型カメラで、天然色のスナップを…」アマチュア向けカラーカメラの発売は1936年から。
p222「マーケット ストリートを左に折れ、湾をまたぐ橋に…」(the bridge which crossed the bay) この橋は1936年11月に開通したサンフランシスコのBay Bridge。
(最後のネタ2つはメイスンのトリヴィア本から。ガードナーは新しもの好きです)

No.70 7点 カナリヤの爪- E・S・ガードナー 2018/11/13 22:57
ペリー ファン評価★★★★★
ペリー メイスン第11話。1937年9月出版。Saturday Evening Post連載(1937-05-29〜1937-07-17) ハヤカワ文庫で読了。
ガードナーは本作がLiberty誌から断られガッカリ。もしPost誌が買わなかったらシリーズは、ここで終わっていたかも。
主計さんの文庫あとがきを読めば、訳者が本作に思い入れが強いのがわかりますが、ちょっとくだけすぎの会話文(特にドレイク)は好みが分かれると思います。
物語自体は、スピード感満載の、ちょっと込み入ってるが割とスッキリした筋の話です。メイスンのやんちゃな行動は控え目、ホルコム刑事はちょっとしか活躍しません。なので全体的にパンチには欠けますが、ファンには楽しい幕切れが… (次の事件の予告は前作で終了)
さて、トリヴィアです。
モンタレイ号、ヨハンソン船長という「どもりの主教」関係の名前がちょっとだけ出てきて覚えてる人はニヤリ。
デラの個人情報は、シリーズ中にほとんど出てきませんが、本作では「姉妹はいないので損してた」(I always felt I was short-changed by not having any sisters)と自ら暴露。
訳文では「ロスアンジェルス」(p5、p180)となっていますが、いずれも原文はthe city。
Hawaiian ParadiseはHarry Owens作詞作曲で1935年作。
銃はスミス・アンド・ウェッスン 38口径六連発リボルバーが登場。ミリタリー&ポリス(M10)だと思われます。「台は鋼鉄張りかニッケル張りか」(Was it blued-steel or nickel-plated?)というセリフは、表面がブルースチール(青黒い色)かニッケル仕上げ(銀色)かということ。「握りの台尻に近い部分の真珠のはめ込み」(the pearl handles right near the butt of the gun)とはパールグリップのことですね。

No.69 6点 裁判- ロバート・トレイヴァー 2018/11/11 21:34
1958年出版。創元文庫で読了。
1958年の米国ベストセラー(Publishers Weekly調べ)トップ3は
1 Doctor Zhivago by Boris Pasternak
2 Anatomy of a Murder by Robert Traver (本書)
3 Lolita by Vladimir Nabokov
本書は映画化(1959)され、日本版の題は『或る殺人』(オットー・プレミンジャー監督、ジェームズ・ステュアート主演)
私は映画を最初に見て、納得がいかないところがあったので原作を読むことにしました。
上下巻あわせて800ページの厚さ。でも映画が意外と原作にかなり忠実(もちろん大きく変えた部分あり)なので、イメージが浮かびやすくスラスラ読めます。文章は悠々たるものですが冗長ではありません。映画の疑問点は原作を読んで全て解消しました。ただし原作も純オリジナルとは言えず実録に近いようです。
作者が本職なので法廷シーンは迫力があります。もしかしたらペリー メイスンのTVドラマ(1957年から)の影響がこの作品をベストセラーにのしあげたのかも、と想像してしまいました。

No.68 4点 震えない男- ジョン・ディクスン・カー 2018/11/11 20:47
JDC/CDファン評価★★★★☆
フェル博士 第12作。1940年出版。HPBで読了。
なにせエリオット三部作(曲った蝶番、緑のカプセルの謎)の一つなので、非常に期待して読んでたのですが、事件現場の目撃者の証言(p72)で、あっこれは駄目なJDCだ!とガッカリ。でも意外と持ち直すのが早くて、まともな探偵小説?と思ったら、やっぱり変てこな物語でした。動機も手段も上手くいく可能性も登場人物の心理もかなり無理があります。あまりにヒドいので誰かに読ませたくなりますね!
歌はたった一曲だけ。
p180「浜辺に坐ってみたいのよ」(I Do Like to Sit beside the Seaside): ミュージックホール由来でI do like to be beside the seasideという有名曲があります。作詞作曲John A. Glover-Kind (1907)
銃器関係では古式ピストルのコレクションが登場。
p46 車輪式引金(wheel lock): ホイールロックは回転式発火装置
p46 ナポレオン時代の騎兵用ピストル(Napoleonic cavalry pistol): フリントロック式のもの。Webに画像あり
p47 雷管(percussion cap): パーカッション式は1820年頃の発明なので「ウォータールー」以前のピストルのコレクションならホイールロック式かフリントロック式ですね。
唯一の現代銃は登場人物(英国人だと思います)の所持品のa .45 army revolver(p57): 英国陸軍ならWebley拳銃(正しくは.455口径、JDCは「ウェブリー45口径」と書いたことあり)、可能性は低いが米国陸軍の45口径ならM1917。流石に骨董品のColt Single Action ArmyやRemingtonのNew Model Armyではないと思われます。
p122 毛状引金(hair-trigger): ヘアトリガーは「ほんのちょっと触れたら発射する状態の引金」のことですが「毛状引金」という訳語は初めて見ました。

ところでp146の会話はこんな感じに訳したいと思いました。
“You don’t take many chances, do you?”(運はあてにならないと思ってるんですね)
“My boy, I never take any chances”(私は決して幸運をあてにしないのですよ)

No.67 7点 ルーフォック・オルメスの冒険- カミ 2018/11/11 07:24
1926出版。
蛇足をつけたりで出しゃばりな訳者なんですが、駄洒落も頑張ってるので良いことにしましょう。(駄洒落の原文を教えて欲しかったです)
内容はファンタジーな綺想溢れるほのぼのギャグ。ワトソンが登場しない、ホームズ物語とは全く関係ない名探偵パロディものです。
知らないうちにカミさんが沢山翻訳されていて、ちょっとびっくり。訳者さんに感謝です。

No.66 5点 検事踏みきる- E・S・ガードナー 2018/11/11 06:58
ダグラス セルビイ第8話。1948年10月出版。Saturday Evening Post誌連載(1948-7-31〜9-18)
マディスン シティ誕生90年祭。(11月1日から5日まで) 西部開拓時代のコスプレに興じる市民たち。楽しかりし90年代、という表現。A.B.C.が来てから5、6年ほどたった時期の物語。セルビイは一悶着あったが地方検事に返り咲き、レックスやシルヴィアとともに事件を捜査します。今回アイネズは登場しません。法廷シーンもなし。マディスン シティの危機にセルビイは敢然と立ち向かいます。終幕は愉快ですが、解決に至る手段がちょっと単純すぎて、いただけない感じです。
ところで乾杯の言葉が「犯罪のために」(Here's to crime) メイスンが愛用し、クール&ラムにも出てくるので、ガードナーが実生活で使ってた音頭なのかも。

No.65 5点 斧でもくらえ- A・A・フェア 2018/11/11 05:26
クール&ラム第9話。1944年9月出版。ハヤカワ文庫で読了。
1944年ラム君は南太平洋からマラリアのため帰還(不在期間は18カ月)、一人称で物語は進みます。バーサはラムの帰還が嬉しいのに毒舌を吐くツンデレぶり。でも前作のヨーロッパ休暇の謎やバーサとセラーズ刑事の関係も一切言及がなく、1943年には大した事件が無かったことになっています。
クール&ラム探偵事務所の料金は1日20ドルプラス必要経費。ラム君は新しいアパートを借ります。
物語はお得意の込み入った筋立てです。複雑すぎてちょっと胃もたれするのが欠点ですね。

No.64 4点 テニスコートの謎- ジョン・ディクスン・カー 2018/11/11 05:10
JDC/CDファン評価★★★☆☆
フェル博士第11作。1939年出版。創元新訳(2014)で読みました。
創元旧訳(1982年)文庫出版時に読んで、印象が良くなかったのですが、新訳で再読してみると結構面白い話。被害者をちゃんと描き込んでるのが良いですね。でも冒頭はもっと小説的にスリリングになる(想いを寄せる美人が、好きでもない小生意気な若造と結婚しようとする)のに、そこには興味のないアンチノヴェリストJDCです。小ネタは効いていて中盤までは非常に良いのですが最重要容疑者の態度が変で、いつもの通り2回目の犯行はテキトー路線。そして大ネタは「はぁ」という感じ。p322のタイムラインを冒頭の記述と照らし合わせると完全にアンフェア。手がかりは色々あったよ、と作者が主張しても、効果が薄い伏線では… 思いつきばかり先行して詰めを怠るJDCの悪い面ですね。
では恒例の歌のコーナーです。
p138 <鎮まれ、暴れ馬>ジーパーズ クリーパーズ: Jeepers Creepers 映画Going Places(1938年12月公開)が初出。
p228 彼はらくらくと空を漂う/空中ブランコの勇気ある若者/…: The Daring Young Man on the Flying Trapeze 原曲は1867英国ミュージックホール発祥、Walter O’Keefeが一部改変してヒット。映画「或る夜の出来事」(1934)でも歌われた。ここに出てくる歌詞はO’Keefe版。ところでp269「でも つれない彼女/おれはしがない空中ブランコ乗り…」(But I never could please her one quarter so well/As the man on the flying trapeze!) 厚木訳「しかし彼女はテコでもなびかなかった/空中ブランコの上の人のように」はいずれも間違いで、空中ブランコの男と比べると俺は全然あの娘を喜ばせられなかった、という意味だと思います。
p265 ウィリアム テル 序曲: むしろローンレンジャーのテーマとして有名かも。ラジオドラマは1933年から。
銃は45口径リヴォルヴァー(間違いなくSAA)と正体不明の22口径が登場。

No.63 4点 五つの箱の死- カーター・ディクスン 2018/11/11 04:49
JDC/CDファン評価★★★☆☆
H.M.第8作。1938年出版。HPBで読了。
名門校出だがパッとしないポラード再登場。キャラを書き分ける気がないJDC/CDなので印象に残りません。昔の事件への言及(ファンへの目くばせ)が所々にあり、でもそーゆーのって作家に焼きが回ってる感じで嫌な予感が… やっぱりな結末でした。
発端の異常なシチュエーションは良い、中盤の小ネタも良い。(五つの箱はワクワクしますよね) JDC/CDお馴染みの、偶然にも犯人が特定できない目撃証言とか重要容疑者が残した文書あたりから怪しくなって、全員集合!犯人はお前だ!で「?」、大ネタはズッコケ。(絶対、誰か気づくはず。警察の捜査能力も低すぎです…) これで良し!とする作者の神経って… まー実にJDC/CDらしいんですが。
トリヴィアは原文なしなので不発。
p51『船頭さん、岸辺へ着けて』p180『船頭、船を岸に着けよ』: 同じ歌だと思うのですが、何故違う訳に?(2018-11-19 追記) Pull for the Shore, Sailor (Philip Paul Bliss作 1873)でしょうか。タイタニック号の沈没時に歌われたらしいです…
p146 クルーガー空気拳銃: Kluger, Kruger, Krugelで調べましたがヒットせず。
翻訳もセリフが古臭くて微妙な感じですが、作品自体がダメなので新訳は望めません。駄作でも全然オッケー!というコアなJDC/CDファン向け。

<ネタバレになるかも?>
家庭用のアレが普及したのは1930年代らしいです。1922年だとT型フォードの1.5倍の値段でした…

No.62 7点 都筑道夫 ポケミス全解説- 事典・ガイド 2018/11/10 07:56
2009年出版。
都筑道夫がハヤカワ ミステリ(HPB)に書いた全ての巻末解説を収録したマニア本。都筑センセの書いた最初期のハヤカワSFシリーズの解説及び日本語版EQMM誌連載の<ぺいぱあ・ないふ>も併録。
校訂(小森収)が異常に行き届いていて、解説中に著作リストなどで書名が言及されているものをいちいち確認して明らかな誤りを訂正しています。(全く気の遠くなるような作業ですね!)
もちろん巻末の解説なので物足りないところはたくさんあって(多分本人もこのフォーマットでは自由に書きづらいと思います)でも都筑節はいつでも健在なので、楽しめる作品・作者案内になっています。校訂者のマニアックでクレイジーな努力のおかげで資料価値も充分。1950年代の日本ミステリ界と海外の状況を知るには必携の書物です。

No.61 7点 ハコヅメ ~交番女子の逆襲~- 泰三子 2018/11/10 06:45
とてもリアルな警察ギャグ漫画。女性ならでは、元職ならではの感覚が素晴らしい。続巻も好調です。絵は好き嫌いがあるかも。

No.60 7点 ユダの窓- カーター・ディクスン 2018/11/10 06:21
JDC/CDファン評価★★★★☆
H.M.第7作。1938年出版。ハヤカワ文庫で読了。
メモのへんな合いの手「ガブリ ガブリ わあい」(Gobble gobble. Phooey.) 一体なんですかね?
まともな人がこんな殺害方法や密室トリックを思いつくかな?というのが最大の難点ですが、作中に引用される「犯人はどうでもいい、どうやった?」というセリフに共感してしまうのがJDC/CDファン気質。
強烈な状況設定から始まり、中盤の小ネタが素晴らしい。大ネタは何故か皆さんクイズで知ってて(私もそうなんですが)その妙なポピュラリティが面白いと思います。
英語をよく知らないのですがjudas windowは普通に使われる言葉なのでは?「(独房の戸などの)覗き穴」という通常の意味を、ジムはユダの窓が大嫌い、のくだりで割注などを使って示すべきだと思いました。(ジムの発言がイミフになっちゃいます)
銃は(私の大好きな)ウェブリー&スコット自動拳銃38口径が登場、M1910ですね。ポケットに気軽に入れて持ち運ぶには、ちょっと大きめです。(大きさ203x173mm、重さ1kg)

No.59 8点 緑のカプセルの謎- ジョン・ディクスン・カー 2018/11/10 04:00
JDC/CDファン評価★★★★★
フェル博士第10作。1939年出版。新訳(2016)で再読。
記憶に残ってたのは、実験で何か書いてるシーンがあって凄い傑作だった、という印象のみ。今回、新訳で再読(といっても40年ぶり)してみたら、それ以外はすっかり忘れていて、冒頭などは今回の新訳で初めて翻訳されたんじゃないのか?と疑う始末。犯人もトリックも全く覚えていませんでした。
強烈で異常なキャラが異常な状況を作り出すJDC/CDの独壇場。実験は素晴らしいの一言。(錯覚や錯視やロフタスが大好きです) 罠の連続が実にいやらしく探偵小説としては非常に上出来、なんですが、この話、エリオットの視点だけで主観全開で語ったらもっと盛り上がると思うんですよ。小説的に良いネタをぶつ切りにしてぶん投げるアンチノヴェリストJDCらしさですね…
ところで宇野先生の訳が悪いはずがない、と思って昔の文庫を見たら… セリフがとても古臭くて新訳は大正解ですね。
(これもフェル博士に歌と酒が付き物、という真理の発見前だったのでトリヴィアの記録はありません。歌が出てきた記憶もないのですが…)

No.58 6点 アデスタを吹く冷たい風- トマス・フラナガン 2018/11/10 03:36
テナントものだけなら7点。ハヤカワ文庫で読了。
なぜテナントものが発表順に並べられていないのか、よくわからないのですが… 是非、発表順に読んでいただきたいと思いました。(アデスタ-良心-獅子-しきたりの順)
テナントものも「玉」も異常な状況が効果的、でもファンタジーとして楽しむべき作品群だと思います。いずれもバクチ要素が強く、現実世界では成立し難いのではと感じました。(なので現代ものは精彩を欠いている感じです)
「玉」p272であっさり間違いと切り捨てられている「14世紀」は架空のイタリア語原文のクァトロチェント(1400年代)を英訳したらうっかり間違えたテイで…という作者のお遊びかも。「陪審員」p209「高性能のライフル猟銃」は本当は「高速の狩猟用ライフル弾」かな?とちょっと疑っています。(原文未参照。宇野先生で銃器関係の怪訳を見たことがあります…)

No.57 5点 猫は夜中に散歩する- A・A・フェア 2018/11/09 05:02
クール&ラム第8話。1943年8月出版。ハヤカワ文庫で読了。
実は第7話や第9話と繋がりが悪い本作。ラム君は「休暇でヨーロッパ(He's in Europe, on vacation)」で不在、バーサはラムが帰って来るまで頑張ろう、と殊勝なんですが、第7話と第9話では明確に「軍務で不在だった」となっています… そしてセラーズ刑事が再び登場しますが、バーサとの関係性も変なんです。(第9話以降、本作が無かったような感じになっています)
バーサひとりの探偵家業が前作に引き続き始まります。コウモリ事件への言及があり、すぐあとの事件であることがわかります。日付は「19--年4月8日」とボカされてますが… (この日は木曜日と書かれてるので該当は1943年なんですけどね) 「8:45って表示してるけど実際は7:45のくせに」とぼやくバーサのセリフを翻訳ではUSA標準時が4つあるためのジョーク?として注釈していますが、これは戦時時間(1942年2月から実施、時計を1時間早める省エネ策)のことだと思います。筋立てはいつものように起伏が多く、解決は結構複雑です。(大ネタを割っているのでコミさんの訳者解説は先に読まない方が良いですね)

No.56 7点 検事封を切る- E・S・ガードナー 2018/11/09 04:41
ダグラス セルビイ第7話。1946年2月出版。Saturday Evening Post誌連載(1945-12-1〜1946-1-12)
招集され陸軍少佐となり検事を辞職したセルビイ、休暇を利用して久しぶりにマディスン シティに帰還。白いくちなしの花が事件を呼びます。A.B.C.の大型セダンは防弾仕様。戦時色はタクシー不足、不要不急の旅行制限。マディスン ホテルのマネージャーはノーウォークで、第1話のカッシングと違う人物。警察署長ラーキンは最近協力的、保安官レックスは後任の検事に困り顔。法廷シーンは民事訴訟。アイネズがA.B.C.と争いますが、昔風の田舎弁護士が邪魔をします。セルビイは飛び入りで見事な尋問。時間が切迫し、たった二つの質問しか許されない状況で、パズルのピースがぴたりと嵌る解決が鮮やかです。

No.55 8点 危険な未亡人- E・S・ガードナー 2018/11/09 04:14
ペリーファン評価★★★★★
ペリー メイスン第10話。1937年4月出版
吠える犬の法廷を見て気に入ったという葉巻をふかす老婦人。このキャラが良い。わたし的に依頼人中ナンバーワンです。メイスンは賭博場のバーでトム・アンド・ジェリーを注文。事務所の入口ドアの文字はPERRY MASON (改行) ATTORNEY AT LAW (改行) Entrance。ドレイク探偵社の探偵システムの裏話(1日8ドルの日当)が興味深い。
騙しやハッタリに満ちた物語で、メイスンの大胆な行動とぬけぬけと押し通す鉄面皮がイキイキと描かれた傑作。
銃は38口径オートマチック(メーカー不明)と45口径オートマチック(多分Colt M1911)と謎の32口径スミス・アンド・ウェッソン・スペシャルが登場。最後の32口径S&W「スペシャル」というのは発言者が嘘をついている、ということを強調してるのでは?と最近気づきました。(38スペシャルはあるけど32スペシャルは存在しません)

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弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
平均点: 6.13点   採点数: 514件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(96)
ジョン・ディクスン・カー(29)
A・A・フェア(29)
カーター・ディクスン(19)
雑誌、年間ベスト、定期刊行物(19)
アガサ・クリスティー(18)
アントニイ・バークリー(13)
ダシール・ハメット(12)
R・オースティン・フリーマン(12)
アンソロジー(国内編集者)(12)