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弾十六さん
平均点: 6.14点 書評数: 484件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.104 6点 奇商クラブ- G・K・チェスタトン 2018/12/16 10:05
私が読んだ創元文庫の旧版(福田 恆存 訳 1977年)は、チェスタトン初短編小説集The Club of Queer Trades (1905 Harper & Bros.)にThe Man Who Knew Too Much (1922 Cassell)収録の2編を追加。創元新版は追加無しです。
The Club of Queer Trades: 評価6点
FictionMag Indexで調べたのですが、⑴The Tremendous Adventures of Major Brown (Harper’s Weekly 1903-12-19)がチェスタトンの小説デヴュー作のようです。(当時29歳、文壇デヴューは詩人として1900年、評論は1901年?) Harper’s Weeklyは当時16ページ、10セントのheavily politicalな週刊誌らしい。(消費者物価指数基準1903/2018で現在価値2.86ドル、324円)
⑵The Painful Fall of a Great Reputation(単行本初出)
⑶The Awful Reason of the Vicar’s Visit (Harper’s Weekly 1904-5-28&6-4、2回分載)
⑷The Singular Speculation of the House-Agent (Harper’s Weekly 1904-6-11&6-18、2回分載)
⑸The Noticeable Conduct of Professor Chadd (Harper’s Weekly 1904-6-25&7-2、2回分載)
⑹The Eccentric Seclusion of the Old Lady (Harper’s Weekly 1904-7-9&7-16、2回分載)
実は内容不明なClub of Queer Trades(チェスタトン作)というのがHarper’s Weekly 1904-5-21&5-28(2回分載、2回目は⑶と同じ号)に掲載された、という記録があり、もしかすると⑴ブラウン大佐の冒頭部分は連作短篇のイントロとして5-21に掲載されたんじゃないか、と思いました。つまり最初は単発作品(多分もっと短かった)のつもりで、連作の予定はなかったのでは?
さて肝心の内容は、日常スケッチに奇想を交えたいつものチェスタトンです。静かに論理的に狂う男やいきなり動物や鳥や樹木が出てきて寓話タッチになるのもGKCらしいですね。ただ最初にネタ(奇妙な商売)を割っているので驚きの展開にならないのが惜しい。
なんでも商売にしてしまう風潮を皮肉っているのでしょうか。
以下トリビアです。
p15 オ、ロウティ… O Rowty-owty tiddly-owty Tiddly-owty tiddly-owty Highty-ighty tiddly-ighty Tiddly-ighty ow.: 意味はないのだ、と思います。
p27 7ペンス半と3ペンス玉 (There was sevenpence halfpenny in coppers and a threepenny-bit.): 銅貨のペニー7つ&半ペニー1つ、それに銀貨の3ペニー1つ。0.04325ポンド。現在価値は消費者物価指数基準(1904/2013)で4.72ポンド、687円。
p27 きみの拳銃 (your revolver): この時代の拳銃はほぼリボルバーです。
p29 あの男、なんていう名前だったかな?… ほら有名な物語に出てくる… そうそうシャーロック ホームズさ。(what's his name, in those capital stories?—Sher-lock Holmes.): 当然のように批判的です。
p36 料金表 1日のアルバイト料が1ポンド。(多分高額な方) 上述の換算で118ポンド、17172円。
p51 5ポンド賭けてもいい: 思い切った賭け金。上述の換算で84263円ですからね。
p70 21シリング: =1ギニー=1.05ポンド。1日のアルバイト料。(多分高額な方) 上述の換算で124ポンド、17707円。
p77 言うまでもなく、ジェームズ カー氏ではありません (not Mr James Carr, of course): 当時、有名な人? JDC/CDは自分の苗字が出てきて嬉しかろうと思います。
p87「万歳、万歳、英国よ世界に冠たれ、景気をつけろ、やーい」(Hooray! Hooray! Hooray! Rule Britannia! Get your 'air cut. Hoop-la! Boo!): 多分、出鱈目な文句。
p100 1回5ギニー: =5.25ポンド。料金表の中の最高料金。
p142 真に緊急かつ強制的な唯一のもの… 電報 (really urgent and coercive—a telegram): 現代では電話かメールですね。
p153 800ポンド…(中略)… 真面目な事務員4人分の年収: 上述の換算で94400ポンド、1374万円。
p161 半クラウンの賭け… 少額: 2.5シリング=0.125ポンド。上述の換算で14.75ポンド、2147円。
p172 半ペニー 新聞代: 上述の換算で0.245ポンド、36円。当時Timesは3ペンス。Daily Telegraphが安売り新聞のはしり、とのこと。
p176 おお、この黄金のスリッパよ(Oh, dem Golden Slippers): James A. Bland作(1879) ミンストレルショーの歌。

The Tower of Treason (Popular Magazine 1920-2-7): 評価5点
語り口がひねくれてて面白く読ませる話。普通の作家なら「何これ」というネタを上手に料理しています。これをブラウン神父ものにしなかった理由は…
以下トリビアです。(原文未参照)
p201 色黒だが: 好男子の決まり文句tall, dark, handsomeのdarkはdark hair&dark eyeのことらしい。なので「色黒」とか「浅黒い」と訳されてると反射的に実は髪の色?と疑う癖がつきました。swarthyは肌が浅黒いの意味ですが、Web検索で画像を見ると、ちょっと日焼けした感じの肌色なのかなあ。
p210 ラッパ銃: blunderbussの事だろうと思いますが、あくまで接近戦用で長距離狙撃には向かないような… 銃口がラッパのように広がってるのは弾込めしやすいように、というのが一番の理由です。石とか釘とかをぶちこむこともあったらしい。(あまり無茶すると銃身内部がぼろぼろになります)
p212 赤いトルコ帽: fezのことでしょうか。
p222 ユダヤ人がこの付近の諸国に国際的なばかりか反国家的な網を張りめぐらしているということも本当で、さらにユダヤ人というのは、横領することにかけて非人間的で、貧乏人を弾圧するに際しても非人間的なことが多い… 事実ユダヤ人の多くは陰謀家なのです… : この悪質な文章のために、この話が新版から削除されたのかも。日本Wikiにはチェスタトンの偏見について触れられていますが、反ユダヤのことは何故か書いていません。(英語Wikiには記載あり)

The Trees of Pride (英Story-Teller 1918-11; 米Ainslee’s 1918-11 巻頭話The Peacock Trees): 評価7点
充実した力作。この展開及び結末は素晴らしい。でも読後に思うのはこんなひねくれたことを考えるのはひねくれ者だけじゃ無いの?という真っ当な疑問です。チェスタトンはいつもそういう感じですね。そしてそーゆー話を喜ぶのも立派なひねくれ者です。
以下トリビアです。
p252 リーマス叔父(Uncle Remus): 「ウサギどんキツネどん」私は子供の頃よく読みましたが、ポリティカルコレクトの現代では禁書扱い?
p262 2ペンス(twopence): クリスティファンなら誰でも発音を知ってるよね? ここでは最低限の賭け金。消費者物価指数基準1918/2018で現在価値0.5ポンド、71円。
p266 あけがた前のもっとも暗き時刻は… (the darkest hour before the dawn): 二流の詩人(some orher minor poet remark)のものとして引用。古い諺 the darkest hour is just before the dawn (最悪の時でも希望はある)のことだと思うのですが minor poet が出てくるのがちょっと謎。
(米初出を追加2019-8-11)

No.103 7点 木曜の男- G・K・チェスタトン 2018/12/11 05:09
1908年出版。iBook版(光文社文庫 南條訳)で読了。昔々、創元文庫(吉田訳)で読みました。
飲み食いをする美味しそうな場面が多いな、と思って読んでたら、訳者あとがきに「ピクニック譚」とありました。南條訳は難しい冒頭の詩(E.C. ベントリーに捧げたもの、吉田訳は省略)をちゃんと訳していて、その詩の解説も(訳者あとがきに)ついています。
吉田訳は取っ付きにくい感じがありましたが、南條訳はこなれててとても読みやすい仕上がり。
まさに夢を見ているような展開で大好きな物語。もっと圧倒的に恐ろしかった記憶があったのですが、再読してみたら結構軽いファンタジーでした。第8章までは本当に素晴らしいです。
実はスパイスリラーのパロディかもしれません。そうすると時代的にオッペンハイムやルキューなどが元ネタでしょうか?(と言っても、この二人の作品を読んだことはありませんが…)
ではトリビアです。ガードナーのThe Annotated Thursdayは未見。どんな注がついてるのか、とても気になります。なおページ数は創元文庫のもの。
p32 大きなコルトの拳銃 (a large Colt’s revolver): さすがにSAAでは古すぎるのでM1892あたり?正しく「輪胴式拳銃(リヴォルバー)」と訳して欲しいなあ。(気にするのはマニアだけ)
p37 アリー スローパーの半休日(Ally Sloper’s Half-Holiday) 吉田訳では「赤本」: WEB検索で見たら不気味なガリガリの赤鼻おじさんでした。
p52 安物の葉巻(...)ソーホーで2ペンスで買ったやつ: 現在価値は消費者物価指数基準(1908 /2018)で0.966ポンド、141円。英国の安売りシガー(通販)を探したら3ポンド/本くらいが最安値でした。
p70 大英博物館のメムノン像(Memnon in the British Museum): 顔の横幅約1メートルの像。優しい顔だけど…
p75 死人の眼にペニー銅貨を乗せて、云々という物語(ugly tales, of some story about pennies being put on the eyes of the dead): 眼が開かないようにする工夫らしい。
p186 カービン銃(carbines) 吉田訳では「銃」: 騎兵隊(gendarmes、吉田訳:「憲兵」)なので短くて馬上で扱いやすいカービン銃です。

この一節が昔から大好きなんです。「一匹の蠅が、なぜ全宇宙と戦わねばならないのか? 一茎の蒲公英(たんぽぽ)が、なぜ全宇宙と戦わねばならないのか?」(Why does a fly have to fight the whole universe? Why does a dandelion have to fight the whole universe?)
子どもごころに、ハエやタンポポも戦っていたのか? そうか戦っているんだな! という気づきがあったのです…

No.102 5点 読者よ欺かるるなかれ- カーター・ディクスン 2018/12/09 09:53
JDC/CDファン評価★★★☆☆
H.M.卿 第9作。1939年出版。HPBで読了。
魅力的なタイトルの「読欺」(ラノベ短縮風なら「ヨカルナ」か) 1938年4月29日金曜日の事件と明記。題名に違わず、とてもゾクゾクする発端。でもみんなが聴きたい「誰が?」を何故そこで追求しないかな?という疑問が… 今までは一人の女性に忠誠を誓う語り手でしたが、このころから二人の女性に挟まれる状況を登場させてる印象。(「猫と鼠」など)JDC/CDもちょっと大人になったのでしょう。いつものように被害者の書き込みが不足、そして超能力ネタをもっと盛り上げられたのでは?と思います。大ネタはいかにもこの作者らしいヤツですが前フリの小ネタが残念。(読心術を簡単に扱いすぎ) ラストはセリフ過多で消化不良。
「ヒトラーやムッソリーニを殺す」ネタや、終幕のH.M.の憂いが、大戦前の不穏な時代を感じさせる作品でした。もっとブッとんだのが読みたいですね。
以下トリビア。原文入手出来ていません。
p115 ピーター キント(Peter Quint): 「ヘンリー ジェームズの『ねじの回転』に出てくる」今、南條訳を読んでるのでちょっとびっくり。(南條訳ではピーター クウィント)
p117 タットラー誌(Tatler): 週刊誌。1シリング。白黒60ページ。舞踏会、チャリティー、競馬、狩猟、ファッション、ゴシップを掲載。写真が豊富なヴィジュアル誌のようです。1シリングは現在価値3.17ポンド(1939/2018消費者物価指数による) 日本円で462円。
p133 戸棚のなかに、ビールの大瓶が、半分ほど残っていた: 冷やして飲むものではないのでしょうね。
p191 ジョン ビールの唄: ここではアコーディオンで弾かれます。不明。
p192 意気なヘルメット横ちょにかぶり/巡査(ボビイ)ピールは朝から陽気: みんなで歌ってるので有名な歌?不明。
p201 ほぼ5000ポンド: 裁判一件にかかる費用。上述のレートで現在価値4620万円。
本作にはH.M.が扱った過去の事件への言及が結構ありますが、宇野先生は注をつけていません。以下[ ]内は評者。
p93 アンスウェル事件[ユダの窓]、ヘイ事件[五つの箱の死]
p114 30年のダーワース事件[黒死荘]、31年のクリスマスの映画スター事件[白い僧院]、マントリング卿の密室事件[赤後家]
p208 ランカスター ミュウズの事件: これだけ何だかわかりません…

No.101 5点 白いビキニ- カーター・ブラウン 2018/12/06 06:04
原書ペーパーバック(1963年刊行 Signet S2275)の表紙絵はマッギニス。ギター片手にビーチチェアに横たわるブロンド。白ビキニの上部は白ファー?に隠れて見えません…ああブラ外してて右手で軽く握ってる紐だけ見える図なんですね。(WEB検索でwhite bikini carter brown mcginnis)
冒頭2ページだけで美人が四人も出てくるハリウッド探偵リック ホルマンの豪華な活躍物語。女好きなのか女嫌いなのかよくわからないキャラです。白岩義賢のあとがき(「リック・ホルマン無頼な男」)によるとハリウッド美女に慣れていてガッついていないタイプらしい。
さてストーリーはよくわかったようなよくわからない話。まー硬いこと言わないで、なんとなく筋が通っていれば良い感じです。コミさんの軽妙な翻訳で、薄っぺらい軽ハードボイルドの世界を充分楽しめました。
カーター ブラウンはハウスネームじゃなくて一人の作家だった、という事実(小鷹さんの調査結果)には結構驚きました。しかもほとんど米国に足を踏み入れていない?(確認せずに書いています。本がどこかに埋もれてしまった…)
以下トリビアですが、作者は雑誌などで知識を仕入れてたのかなあ。なお原文未入手です。
p7 首吊りジョニイ: Hanging Johnny (Long Drag Shanty) 詳しい解説は本書p47にありますが、船乗りの歌で作業歌のようです。
p21 10ドル: 情報を得るためにモルグの係員に握らせた額。ちょっと多めの感じ? 他にも25000ドルとか3000ドルとか出てきますが、こういう少額がどの程度なのかが気になります。(結局は作者想像上の米国の話なんですが…) 現在価値は食パン基準(1963/2018)で89.82ドル(10167円)
p37 フォークソングの歌手: 「ギターをならして、脱腸になった猫が、てめえの腸で、じわじわ首をしめられて死ぬときみたいな、うすきみのわるい声をだすやつさ」ジョーン バエズのデビューが1960年、PPM結成が1961年。
p41 エスプレッソ: コミさんの注釈で「ビート族のたまり場」となっていて、へーと思い調べてみると、コーヒーハウスは1950年代のビートニック時代から結構フォークシンガーに発表の場を提供していたようです。最近知って驚いたのですが、本場イタリアでは必ず砂糖2杯くらいを入れて甘々で飲むらしい… 日本人は必ずブラックなので呆れられてるようです。(イタリアで修行したシェフによる。私はもちろんブラック派です。糖尿病なので…)
p42 バーバラ アレン: 古謡。このすぐあとに出てくる古いイングランドの歌「ママ、ママ、ぼくのベッドの用意をして」が見つかりませんでした。この文句自体はBarbara Allenにも出てきます。(Oh, Mama, oh Mama, go make my bed)
p61 着てるものなんか 脱いじまえ: これは作者創作の歌かなあ。
p70 1ドル半: 小さな町の安食堂で食べたステーキサンドウィッチ代(コーヒー付き) 先ほどの換算で1525円。結構高め。なお原書PBの値段は35セント。(現在は4ドルくらいか) 1964年刊行のポケミスは160円。(こちらは現在1000円くらい?)
p91 エリオット ネス:「アンタッチャブルの」と訳されています。TVシリーズ1957-1963。
銃はコルト45(間違いなくSAA)、詳細不明の38口径が出てくる程度。銃器には興味のない人のようですね。

初出は米国ではなくシドニー1963年3月?にThe Ballad of Loving Jennyのタイトルで出版されてるようです。(米国Signet版は1963年7月以降?)

No.100 7点 栞と紙魚子の生首事件- 諸星大二郎 2018/12/01 19:11
栞と紙魚子シリーズ第1弾 初出ネムキ1995年〜1996年掲載。kindleで読了。
怪奇っぽいけどほのぼのしてしまう連作。主人公の少女たちのキャラも良く、怪異過ぎず現実過ぎない程よいファンタジーです。ラヴクラフト・ファンもきっと楽しめると思います。

収録作品及び初出(全て隔月刊の少女ホラー雑誌「ネムキ」に発表): 一言とファン評価
「生首事件」1995年 Vol.23: 栞のボケぶり ★★★★☆
「自殺館」(じさつやかた) 1995年 Vol.24: 店主が良い ★★★★★
「桜の花の満開の下」1995年 Vol.25: よくある話 ★★★☆☆
「ためらい坂」1995年 Vol.26: 自転車の二人乗り ★★★☆☆
「殺人者の蔵書印」1995年 Vol.27: よくある話 ★★★☆☆
「ボリスの獲物」1996年 Vol.29: ヨグが良い ★★★☆☆
「それぞれの悪夢」(ナイトメア) 1996年 Vol.30: ボリスが結構アレです ★★★☆☆
「クトルーちゃん」1996年 Vol.31: 段先生の妻が良い ★★★★☆
「ヨグの逆襲」1996年 Vol.32: ネタ的には二番煎じ ★★★☆☆
「ゲッコウカゲムシ」1995年 Vol.28: 最近の子は影踏みなんてやらないのかな ★★★☆☆
巻末には「胃の頭町イラストマップ」付きです。

No.99 6点 猫と鼠の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2018/11/28 22:05
JDC/CDファン評価★★★★☆
フェル博士 第14作。1941年出版。創元文庫で読了。
登場人物が少ないので大丈夫かな?と思うくらいのシンプルな話。特異な性格のキャラが出てくるので良いJDC/CDです。もー少し被害者の描写を多くして、事件前の猫と鼠のいたぶり描写を肉付けしておけば、もっと傑作になったと思います。
奇天烈度がやや低いのと結末に不満(チュートハンパやなー、な感じ)があるので中傑作「弱」という評価になりました。
ところでプールの場(第14-16章)ですが、ずっと「テニスコートの謎」の一場面だと記憶していました。どーゆー狙いの一幕なのか、よくわかりません… 何か隠された深い意味があるのでしょうか?
さてトリヴィアです。原文入手出来ていません。
p8 かつら: 18世紀のコスプレみたいなやつ。まだ続いてるのか、と思ったら、民事裁判では2008年廃止。
p37 年500ポンド: UK消費者物価指数の比較で約54倍(1940/2018)。現在価値は日本円にして393万円ほど。
p54 実話雑誌: 米国では1920年代〜1940年代に流行。英国版Trye Story誌は1922年からHutchinsonが出版。
p146 ナポレオンいわく。男は6時間、女は7時間、愚者は8時間眠るとな。: Six hours for a man, seven for a woman, eight for a fool. 英国の古い諺?歴史上のナポレオンとはあまり関係ないようですが、ナポレオンが引き合いに出されることも多いようです。
p188 公衆電話… 5ペンス… Aボタン: Public telephones in 1940s BritainでWEB検索すれば「A ボタン」が見られます。デザインセンスが実に英国らしいダサさで良い。
p190 水着: 詳しい描写なしです。swimsuit 1940で検索すると、すでにセパレート型が登場しているようですが、ワンピース率が高いかなぁ。
銃は「アイヴス=グラント32口径」リボルバーが登場。「銃身を折ってみると、弾丸は全部装填されて一発だけ撃たれている。」という描写があるのでWebley & Scott .32 Caliber Revolverみたいなトップブレークの拳銃なのでしょう。でもIves Grantというメーカーは全く聞いたことがありません。ニワカマニアなので、存在しない!と断言することも出来ません… この場面で作者が架空のメーカーをでっち上げる必要は無いように思うのですが… (2018-12-14追記: Iver Johnsonにも32口径トップブレークのrevolverがありました。1933年F.D. ローズヴェルト暗殺未遂事件に使われたやつです。この記憶が生々しかったので出版側が難色を示した?のかも。多分JDC/CDは気にしないタイプ。最近入手したかなり網羅的なカタログにもIves又はGrantのいずれも掲載されていなかったので、この名称は架空のものと断言しても良さそうです)
p14 小型の回転拳銃の弾丸: なぜリボルバーの弾と分かるか、というと薬莢にリムがあるからですね。

ここで問題。本書の作中時間は何年でしょうか?
作品中に、4月27日金曜日(p53)、4月30日月曜日(p227)と明示されています。ですから簡単にわかるはず… しかし、この日付は矛盾しているのです。
登場人物がソドベリー クロスの毒殺事件(緑のカプセルの謎)に言及(p84)しており、作中時間はこの事件の後であることが明白です。(震えない男p85にソドベリー クロス事件は1937年10月に発生した、との記述あり)
ところが「4/30月曜」の該当年は原作出版年(1941)に近い範囲(1930-1950)で1934年と1945年だけ。
ああJDC/CDがやらかしたな… 単純ミスだよ… となってしまいますよね。でも日付がもう一つ。p267に「4月30日火曜日」とあり、訳注では「原作の誤り。5月1日火曜日のはず」と指摘しているのですが「4/30火曜」の該当は1940年です。とすると、実はこれが正しく「4/30月曜」が誤りなのか! と結論に飛びついたそこのあなた。あなたは重大な歴史的事実を忘れています。
それは英国では1939年9月1日に始まった灯火管制(blackout)のことです。
この作品中の夜間の光や窓の扱い方は平時のもので、灯火管制下の世界ではありえません。

以下、解決篇です。
多分、作者は1940年「4/30火曜」で初稿を書いたのでしょう。そのあと灯火管制の開始時期を思い出し、1940-1-1は月曜日、1939-1-2は月曜日、というような事実から「日付を一つ後ろ送りすれば1年前にずらせる、それなら灯火管制前になるのでオッケー」と考え1940年「4/29月曜」→(作者のつもりでは)1939年「4/30月曜」などと修正したのだと思います。(1箇所p267は修正漏れ) なのでJDC/CDが執筆中に想定していた事件発生年は1939年だと思うのです。(実際の1939年4月30日は「日曜日」) 作者は閏年のズレ(3月以降は2つズレる)を忘れていた、というのが私の仮説です。Q.E.D.

No.98 7点 ボッコちゃん- 星新一 2018/11/26 05:42
1961年出版『人造美人 ショート・ミステリイ』『ようこそ地球さん』(いずれも新潮社) を中心に自選50篇。文庫オリジナルのようです。私は電子本で読みました。
セリフの感じが60年代です。スマートという形容がふさわしい。
真鍋博のイラストも良いですね。
小学校の教室内にあったように記憶しています。人が読んでると、読みたくなくなるへそ曲がりなので、随分大人になってから読みました。(きっかけは最近のショートアニメだったような気がします)
短い作品は大好きです。そして星さんの作品は読む前から品質に安心感があるのです。(星新一伝、買ってるけどまだ読んでいません…)

No.97 7点 ギャングース- 鈴木大介 2018/11/25 19:26
漫画: 肥谷圭介&ストーリー共同制作: 鈴木大介
ノンフィクションをエンタメにする一つの方法。
現実が、本当にこうなのか、はよくわからないのですが、ただならぬ迫力の若き犯罪者たちの冒険物語です。
現代の悪党パーカーはこれだ!

No.96 7点 連続殺人事件- ジョン・ディクスン・カー 2018/11/25 08:50
JDC/CDファン評価★★★★☆
フェル博士 第13作。1941年出版。創元文庫で読了。
スコットランド愛が溢れた作品。子供時分に読んで、こんなに楽しいスコットランドが大好きになりました。(でも作者のスコットランド知識も登場人物のアランとどっこいどっこいじゃなかったのかな) 最近エマニュエル トッド説を知り、やはりスコットランド万歳です。
前に読んだ、といってもほぼ40年前。話の筋や犯人、トリックなど全部忘れています。呑んだくれて大騒ぎの強烈な印象が残っていただけなので再読がとても楽しみでした。(逆に三つの棺とか火刑法廷はなんだか気が重いんですよ… まだ読めていません。)
constant suicidesの適訳はなんなのでしょう? 連続自殺事件でいいのかな。(A Constant Suicideという小説が出ていました。こっちは単数形なので「常に自殺」?)
冒頭は映画のラブコメ。ビリーワイルダーのセンですな。(いやワイルダーならもう一捻りあるか) ブッキッシュな作者なので歴史トリヴィアからスタートです。(ネタのクリーヴランド公爵夫人は歴史上の実在人物、肖像画を見ると「金髪の小柄」では無いようですね…)
途中の記述でトリックを思い出してしまいました。でもそんなに支障は無いです。
スコットランドヤードをスコットランドに呼ぶ、が一番面白いジョーク。
強烈な登場人物が出てくるとJDC/CDは傑作になる可能性が高いです。奇妙奇天烈な筋だから、それにキャラが釣り合っていなければ。この作品は合格です。
最初の事件に比べて、後の事件が弱いのはいつもの通り。昔読んだときは大傑作!という記憶でしたが、今回読んでみると、破天荒度が高くないので中傑作という評価です。「キャンベル家の宿命」ちょっと飲んでみたいですね。(やめておけ)
さてトリヴィアコーナーですが、原文が入手出来ず、調べが行き届きませんでした。
p8 例のスコッチのダジャレ: よくわかりません。
p30 ぺピース: 現在はピープス(Pepys)でお馴染み。
p34 ロックローモンド: The Bonnie Banks O' Loch Lomond スコットランドの古謡
p38 ネクタイ1ダースで3シリング6ペンス: 0.175ポンド。当時のドル換算で70セント。現在価値は16.751ドル(食パン基準1940/2018) 随分安い…
p45 セドリック ハードウィック(Cedric Hardwicke): 41歳(1934)で卿に叙された英国俳優。シュノッズル デュランテはおなじみ(じゃないかな?)Jimmy 'Schnozzle' Duranteですね。
p80 ショオの“医者のジレンマ”(The Doctor’s Dilemma): G.B.Shaw作、初演1906年。邦訳は『医師のジレンマ -バーナード・ショーの医療論』(中西勉訳、丸善名古屋出版サービスセンター1993)だけ?ショーって相変わらず人気無いですね。(「ウォレン夫人の職業」にミステリ味があったようなおぼろげな記憶が…)
p119 ヒースの美酒の秘密よ/とこしえにわが胸に眠れ: 詩の引用らしいのですが、発見出来ず。
p158 文豪スティヴンソン…(中略)…アレン ブレック(アランじゃないんだから間違えないでもらいたい)… (中略)… 映画になった“誘拐”: Kidnapped(1886)にも出てくる実在のAlan Breck Stewartの発音がアランじゃないらしいです。英Wikiより(Gaelic: Ailean Breac Stiùbhart; c.1711–c.1791) 実はアイリーン?
p220 スコットランドの法律には事後従犯なんて無い: これにはビックリ。調べてみると日本の刑法でも事後従犯は処罰の対象ではないらしい。(犯罪を事前に助けると「従犯(幇助犯)」です。ペリー メイスンの読みすぎで全世界共通の罪だと思いこんでいました…)
p235 いとし娘は、かぼそいおぼこ…: 多分実在の唄。Alan Lomax録音のスコットランド古謡のシリーズ(Jeannie Robertson, Jimmy MacBeathなど)を持ってますが、収録されてるのかなぁ。後でじっくり聴いてみます。
銃は「軽い20口径の猟銃」(p238)が登場。20-bore「20番」ですね。延原先生は正しく訳してるのに… (井上一夫さんは弟子) 「強だま」(p255)はheavy loadのことでしょうね。

(以下2019-6-1追記)
やっと原文を入手出来ました。不明の詩はあっさり判明。
p119 Here dies in my bosom/The secret of heather ale.: Robert Louis Stevenson作のHeather Ale. A Galloway Legend(1890)より。
p235 I love a lassie, a boh-ny, boh-ny las-sie –/ She’s as pure as the li-ly in the dell – ! : ミュージックホールコメディアンHarry Lauderの出世作I Love a Lassie(1905)より。Webに音源あり。
p38の現在価値を、上ではドル換算してますが、英国消費者物価指数基準1940/2019(55.52倍)で計算し直すと1360円。きちんと読むと「一本三シリング六ペンスだに」(They’re three-and-sax-pence each.)となってることに今気づきました。じゃあ普通の値段(やや安いか)ですね。

No.95 8点 虎よ、虎よ!- アルフレッド・ベスター 2018/11/24 19:09
まさか登録されてるとは思いませんでした。ここは懐が深いですね…
1956年英国で初版。ついで米SF雑誌Galaxyに連載。ここら辺の事情は何だったのか?
SFの祭典なら文句なしの10点です。
悪党パーカー的なのが好きな人にも良いのでは?

No.94 8点 夏への扉- ロバート・A・ハインライン 2018/11/24 18:29
夏、といえばこの作品なのですが、ミステリ興味あったっけ?と思い返すと全く内容を覚えていない! ことにたった今気づきました。
小尾さんが改訳、というのも初めて知りました。
早速、アマゾンで新訳版を注文です。届いたら読みます。
手始めに記憶の印象だけでこの評価です。(悪徳なんか…のユーニスは強烈に覚えてるのに…)

No.93 8点 ユービック- フィリップ・K・ディック 2018/11/24 17:39
昔はレムが書いたら傑作になってたのに、と思ってました。今は、正反対の評価です。日常生活の中に、突然、裂け目が出来る感覚を、軽いタッチで見事に表現しています。生きることは、少しずつ死ぬことだ、と言う真理をガキだったわたしに強く印象づけました。レムなら哲学論で台無しにしてたでしょうね… 深読みしたくなるほど、表面上はストレートなSF傑作です。
※ なんかアマゾンを今見たら、翻訳が古いとなっててショック… 浅倉先生ももー古いんだ… 久々に再読してみようかな… (ディックが書いた映画版ユービックの脚本もかつて読みましたが、いまいちピンと来なくて、途中で落ちました)

No.92 8点 母なる夜- カート・ヴォネガット 2018/11/24 14:56
Uブックス版は池澤さんがさらに練った訳、というので買って読まねば! と思いました。情報ありがとうございます。(私は白水社の旧版で読みました)
「チャンピオンたちの朝食」(1973)までは熱心な読者だったのですが、それ以降は読んだり読まなかったりです。
本作はヴォネガットの作品中、もっとも普通の小説でその点の完成度が高いです。確か小鷹さんが引用していた作者の言葉Make love while you can, it’s very good thing.(うろ覚えです)とともにいい思い出として心に残っている作品です。
再読を果たしたら、追記しようと思います…
「デッドアイ・ディック」は殺人が出てくるし、SFっぽくない小説なので追加しようかな…

No.91 7点 一九八四年- ジョージ・オーウェル 2018/11/24 14:00
この作品自体は素晴らしいと思います。(ロンドンの鐘の音と、ネズミが心に深く残っています)
私が気に食わないのは、日本ではザミャーチンの「われら」との関連が抹殺されてることなんです… 事実を無かったことにする、その行為自体が1984的な世界だと思うのです。まあ一度「われら」(岩波文庫で入手可能)を読んでいただければ、私の言いたいことがわかっていただけるのではないか、と思います。
WikiのZamyatin “We”の項目より引用。
Orwell began “Nineteen Eighty-Four”(1949) some eight months after he read Zamyatin's “We”(1921) in a French translation and wrote a review of it.

<誤解を与えそうなので、追記>
パクリ云々の話(全ての芸術はパクリである)ではなく「われらを読んで強い印象を受けたものと思われ、その設定を発展させ1984年を執筆した」と何故素直に書けないのか?ということです。(パクリアレルギーの人っていますよね…)
英Wikiでも上記の文章は1984の項には書かれていません… (日本Wikiの「われら」の項目が特に気持ち悪い。躍起になって1984年を褒め称えています)
オーウェルの書評 E・I・ザミャーチン著「われら」(Tribune 1946-1-4)がWEB上で読めるんですね… 最後の文はオーウェルの犯行予告です。
This is a book to look out for when an English version appears.

No.90 7点 溺れるアヒル- E・S・ガードナー 2018/11/24 08:52
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第20話。1942年5月出版。
冒頭はパームスプリングスのホテルで休暇中のメイスンとデラ。やはり主人公とともに何だかわからない事件に巻き込まれて行くこの感じが好きです。地方新聞に動向が乗るほどの有名弁護士メイスンに持ち込まれた依頼は18年前の殺人事件の調査。今は1942年と明示され、出征間近で結婚を急ぐ青年や、この戦争が若者たちを鍛え上げるだろう、といったセリフが開戦直後の雰囲気を感じさせます。豪邸でドレイクと合流し、乾杯は「犯罪を祝して!」(Here’s to crime.) メイスンの無茶な行動はほとんど無く、デラと乗馬を楽しんだり、猛犬を簡単に手なづけたり、路肩でタイヤを交換したり。(ただし危険な助言は結構あり) 舞台がエル テムプロ(El Templo: 架空地名、多分インディオの近く)なのでトラッグはお休み。
法廷ではメイスンは傍聴人席(シリーズ初)でイライラ、最後は「待ってました」の独壇場で得意の攻撃を繰り出し、事件を解決に導きます。
タイトルに動物が登場するの(吠え犬、門番猫、びっこカナリヤ、偽証オウムなど)には傑作が多く、この作品も切れ味がとても良い秀作。
ではトリヴィアです。(◼︎はPerry Mason Bookからのネタ)
銃はライフル銃(rifles)、六連発銃(six-shooters)、散弾銃(shotguns)が登場。詳細不明。
p102「重装の、あの20ゲージの銃を発射して」(You take one of these twenty-gauge guns with a good heavy load): heavy loadは重い散弾(反対語 light load)のことなので「20ゲージの銃で重装弾を発射して」が正確。20ゲージ(.615インチ)は12ゲージ(.729)より小口径で小型鳥獣猟用。
p34「自分が、劇にでてくる主人公のようだと思ってるだろうな。客は腰を打つし…」(must feel he’s like the host in that play where the man broke a hip): この劇はGeorge S. Kaufman & Moss Hart 作の喜劇The Man Who Came to Dinner(1939初演、1941映画化 日本未公開)とのこと。(某Tubeに楽しそうなトレイラーあり) ◼︎
p36「パリス型石膏」(a plaster of Paris cast): ギプスのこと。
p120「清浄剤」(detergent) :「界面活性剤」が正訳。翻訳時(1958)には普及していなかったのかな? 現在「清浄剤」は界面活性作用ではなく、化学作用や物理作用で汚れを落とす洗剤に使われる。なお米国でも本書出版当時detergentは一般家庭で使用されておらず、ライフ誌1939-2-27号に“Aerosol Makes Even Ducks Sink”という記事が載ったとのこと。◼︎
p125「シカゴのセントラル・サイエンティフィック商会、ニューオルリーンズのナショナル・ケミカル商会、ニューヨークのアメリカン・シアン・ケミカル会社」(Central Scientific Company of Chicago, National Chemical Company of New Orleans, and American Cyanamid and Chemical Corporation in New York): いずれも当時実在の会社です。作者はAmerican Cyanamidの社員(その娘は後年のミステリ作家Sally Wright)に取材したので、ここで一つ宣伝、ということでしょう。◼︎
p181「われわれアメリカ人全部にとっても、このあたりで、ひとつがんと喰らわされるのはよいことかもしれないんだ」(It might be a good thing for all of us to get jolted out of it.): 後段で「(我々は)戦争に一度も負けたことがない」と言っています。当時はまだ日本軍も善戦中。(ミッドウェー海戦は1942年6月)

<ちょっと誤訳>
p31「マーヴィンは、研究所の実験に生き物を使用するには、ちょっと神経質すぎると思うよ。」(I think he’s a bit sensitive about using live things in laboratory experiments.) heの直前に話に出てくる男性はFatherだけなので、内容から言っても「お父さんは随分気にするだろうと思う」ということですね。
p87「昔、毒ガス室で、犯罪者を死刑にしたものと同種のものだ。」(It’s the same kind they use to execute criminals in a gas chamber.): 当時バリバリの新方法(カリフォルニア州では1938年からガス室実施)なので、変だと思いました。used toの見誤り。

No.89 6点 鬼平犯科帳 (コミックス)- さいとう・たかを 2018/11/23 07:19
池波先生には大変申し訳無いのですが、梅安も秋山小兵衛も鬼平も、全部さいとう氏の劇画でしか知りません。でもそれらの劇画のおかげですっかり池波先生の小説のファンみたいな気持ちです。(エッセイは読んでおり大好きです)
さいとう・たかを氏は、リアリティに気を使う主義なので、江戸時代の描写も正確なのでは?と思っています。絵で見ないとわからないものって結構ありますよね。
まー内容は「本格の盗賊」とか、当時はもっと身分制度が窮屈な感じじゃないの?とかフィクション味が多い気がしますが…

No.88 10点 半七捕物帳- 岡本綺堂 2018/11/23 05:53
光文社文庫で全話読了。
1917-1937発表。
他所ではタダで本文が手に入りますが、おすすめは講談社 ≪大衆文学館≫文庫。雑誌掲載時のイラスト付きです!人によっては邪魔に感じるでしょうが、この企画は是非ほかでも実施して欲しいですね。乱歩さんも当時のイラスト付きが見たいと思いますし、パジェット付きのホームズやテニエル付きのアリスは当たり前ですよね。
綺堂先生には本物の江戸時代を感じます。特に、江戸の夜の暗さがイイ。会話の口調も心地良いです。
トリックも雰囲気を壊さないような工夫が見どころ。でも江戸の警察制度のリアルではないとも思われます… (実は謎解き小説より江戸岡っ引き裏話のようなのが読みたいほうです)

No.87 7点 フーディーニ!!!- 伝記・評伝 2018/11/23 05:00
脱出マジック、降霊術、コナンドイルとくればミステリの範疇ですよね!

Kenneth Silverman. Houdini!!! The Career of Ehrich Weiss (New York; Harper Collins 1996) フーディーニ(エーリッヒ・ヴァイス)は科学の時代の子であり、個人の時代の子だったのですね。コナンドイルとの対立について漠然とした知識はありましたが、友情関係が意外でした。1890年代から1920年代、ボードビルなどの興行界、奇術界、手錠抜け(残念ながら謎解きはありません)、脱出(といえば私の時代では初代引田天功ですね。TVで見ていても強烈な体験でした)、黎明期の映画産業、ジャックロンドン(意外な繋がりあり)、降霊術&心霊主義、黎明期の飛行機、などなどに興味があればとても面白いと思います。エネルギッシュで騒々しく挑戦的な人生の記録の後に、姪が書いた短い回想録があり、ほろりときます。この後、世界は大不況・大戦を経て、集団の時代・画一化の時代に移ってゆきます。生フーディーニの手錠抜けや脱出、見たかったですね… (フィルムの記録があるようですが…)

No.86 5点 寝室には窓がある- A・A・フェア 2018/11/23 02:39
クール&ラム第12話。1949年1月出版。ハヤカワ文庫で読了。
ホテルのロビーでブロンドに出会うラム君。作者お気に入りの「犯罪に乾杯」(Here’s to crime)が出てきます。複雑な展開の物語ですが、登場人物の魅力が薄いです。バーサやセラーズ部長刑事も表面をなぞるような描写。銃は32口径の六連発のリボルバーが登場、詳細不明。
小実昌さんのグチだらけの訳者あとがき(翻訳の日本語について)が面白いです。

No.85 5点 空っぽの罐- E・S・ガードナー 2018/11/21 05:39
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第19話。1941年10月出版。HPBで読了。
冒頭は中年主婦の家庭の悩みが語られ、全然ワクワクしません。メイスンは第三章(p23)から登場。舞台はロスアンジェルスとサンフランシスコ。依頼が普段とは全然違うのがユニーク。支那と日本の戦争が遠景にあり、支那人の召使い、名前はガウ ルーン(Gow Loong 広東語「九竜」)で正しい音訳のようです。(作者は中国人と交流あり) メイスンの好みはオルガン曲かハワイアンミュージック。ドレイクはメイスンにスカされおかんむり、酔い覚まし炭酸(Bromo-Seltzer)をガブ飲みします。メイスンとデラはS.F.に飛んで、おふざけから無茶な大冒険に発展、口から出まかせ出たとこ勝負のお芝居で何とか危機を切り抜けます。(個人的にはここが一番の見どころ) トラッグ視点の記述が丸ごと一章分あります(第11章)が、活躍は地味です。
いつもの込み入った筋で、スリリングな展開が楽しめますが、全体的にバラけた印象、上手く絵が仕上がらない感じです。(そもそも罐の謎が、それめんどくさすぎでは?なので…)
ではトリヴィアです。
銃は銀色のピストル(revolver)、短い鈍色の自動拳銃(a grim snub-nosed revolver)、38口径のピストル(.38 caliber revolver)が登場。いずれもメーカー等詳細不明です。リボルバー(回転式拳銃)を自動拳銃(これだとsemi-automatic pistolの意味になってしまいます)とか単にピストルと訳すのはいただけません。
p12 洗濯ものを絞り器(mangle)に…: 圧縮ローラー式のやつです。
p13 Webster's Collegiate Dictionary 5th edition(1936)は当時の最新版。「新聞のクロスワードに必要な言葉はみんなはいっているはずよ」クロスワードは、その発明(1913)以来30年程は辞書の定義をそのままカギに使うという暗黙の了解があり辞書は大変な売れ行きだった(遠山顕2002)
p14 [靴下の]中にカガリ玉(darning egg)を入れて…: 私は初めて知りました。
p53 「本で」メイスンの活躍を読んだ、と訳されていますが、原文では単にread aboutなので、新聞とかで有名なのでしょう。
p71 口述録音機(dictating machine)はディスク式の発明(1945)まで記録メディアは蝋管。(と言うことは「あの作品」も蝋管ですね)ガードナーは1933年ごろから全て口述録音。
p180「やなにーも」(maskee) 支那人の召使いが使うピジン英語。
p220 冷蔵庫は、電気製品だった。(The icebox was electric) 完全には普及していない時代です。
デラが先導したメイスンとの乾杯は「犯罪事件に!」(Here's to crime)
ところで、トラッグの「弟」が出てきますが、原文はa brother、年齢の上下は不明です。

<意味不明なので原文を解釈>
p238のメイスンとデラの会話がちょっと…
単なるアクセサリーになろうとしたら、[秘書は]アマチュア資格を喪失する(becomes an accessory, she loses her amateur status): 試訳「共犯者になっちゃったら、シロではなくなるね」
アクセサリーって?(What's an accessory?): 「共犯者?」
賭場の見張り女のことさ(A moll who cases the joint): 「見張り役の女(スケ)」(p214のことなので隠語っぽく訳すのがいいでしょう)

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弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
平均点: 6.14点   採点数: 484件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(96)
A・A・フェア(29)
ジョン・ディクスン・カー(27)
雑誌、年間ベスト、定期刊行物(19)
アガサ・クリスティー(18)
カーター・ディクスン(18)
アントニイ・バークリー(13)
R・オースティン・フリーマン(12)
G・K・チェスタトン(12)
事典・ガイド(11)