皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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弾十六さん |
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平均点: 6.13点 | 書評数: 499件 |
No.8 | 6点 | 死者はよみがえる- ジョン・ディクスン・カー | 2018/11/04 09:36 |
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JDC/CDファン評価★★★★☆
フェル博士第8作。1938年出版。創元文庫(1972)で読了。 HPBちょっと参照。 美食に飽きた金持ちが何か変わったものない?と注文して偏屈なシェフ出が出してくるようゲテモノ料理、それがJDCの諸作品なんだと思います。 結末までは本当に素晴らしいのですが、最後は唖然とさせられました。フェル博士のみっともない言い訳(p344)が作者の後ろめたさを物語っています。 主人公はJDCの分身(南アフリカ=北アメリカ)で、人生の苦労なんて無意味と主張したり、「彼は前から人間を観察していないといわれてきた男だった」とか作家にあるまじき人物像を暴露されています。名言が一つ: beware of people who make you laugh, because they’re usually up to no good.(p140) 橋本訳ではハドリー(ぼく)とフェル(きみ)の関係が近すぎる感じですが、二人の関係性を思えば、これくらいが本当は妥当なのかも。(最初、HPBで読み始めたのですが、何か読みづらくて、創元文庫に切り替え。延原信仰がちょっと揺らぎました。) フェル博士のお気に入り事件は「うつろな男」「ドリスコル殺人」「ヴィクトリア女王号」と自白。 ところでH.M.第3作「赤後家」(1935)に出てくる「ロイヤル スカーレット事件」は本作と関係あり?「ピカデリイのロイヤル スカーレット ホテルで起こった、アメリカの富豪リチャード モーリス ブランドン殺害事件…〇〇(伏字)というトリック…公刊予定…」H.M.が手こずったと明言されています。(ゆるく解釈すれば、〇〇は本作と合致します) さて恒例の歌とトリヴィアのコーナーです。 p10 パターソン夫人「いったいなんの役に立つのよ?」(Mrs. Patterson: ‘What’s the use? It’s all a pack of lies.’): 何かの引用?それとも架空のパターソン夫人? p121 「進め! 牧童」という新しい歌を披露(introduced the novel note of ‘Ride ‘em, cowboy!’): 同名の西部劇映画(1936)あり。 p122 夢中でバラッドを歌っている…(singing a ballad whose drift I need not repeat.): 口をはばかる内容らしいのですが題名が書かれていません。 p262 ジェニーはぼくにキスをした(Jenny kissed me when we met): a poem by the English essayist Leigh Hunt (1838) JDC作かと思ったら丸ごと実在の詩の引用でした。 銃器関係ではp154、12口径の散弾銃(a twelve-bore shotgun): 口径の前の数字は直径の意味となってしまうので12番・12ゲージと訳すのが正解。boreは英国表現で米国のgauge。(延原訳では12番の猟銃) |
No.7 | 6点 | アラビアンナイトの殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2018/11/04 00:45 |
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JDC/CDファン評価★★★★☆
フェル博士第7作 1936年出版。創元文庫(1961)で読みました。 急に思いついたのですが、この作品、荒木飛呂彦先生に描いてもらったらぴったりだな〜と。作者JDCの脳内にはそんなマンガ的イメージが常にあったんじゃないかな?冒頭から異常な設定が次から次に出てくるので、もーどーでもいいや、となってしまうのが欠点。投げ出さずに読めば、段々と解決してパズルのピースがきれいにはまってスッキリ、結構面白い作品です。相変わらず誰が誰だかわかりにくい人物描写下手なJDCで、舞台の位置関係もわかりにくいので図面が必要ですね。(原書にはついてたのかも) さて恒例の歌のコーナーです。(フェル博士には酒と歌がつきもの) 原文が手に入らなかったので調べが行き届いていませんが… p83 ミュージックホールの流行歌≪ミイラは死んでも生きている≫ : 不明 p92 おれたちゃカーノの兵隊さん: Fred Karno’s Army 第一次大戦時に流行。Webに音源あり。 p99 ≪水夫のバーナックル ビル≫: Barnacle Bill the Sailor、p101「きれいな娘のいうことにゃ」がその歌詞。WebにHoagy Carmichael(1930)他あり。 p130 ≪やつは陽気な男だから≫: For He's a Jolly Good Fellowのこと? p133 ≪獣たちは二匹ずつ歩いていったよ≫: The Animals Went In Two By Two(ノアの箱舟の歌)のこと? p136 ≪月明かりの入江≫: Moonlight Bayのこと? 余談: 登場人物のセリフを借りて超有名作品(1934)の悪口が書かれています… |
No.6 | 5点 | 死時計- ジョン・ディクスン・カー | 2018/11/03 08:11 |
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JCD/CDファン評価★★★☆☆
フェル博士第5作。1935年出版 創元文庫(1982)で読了。 三十五年ほど前に一度読んでいるのですが例によって全く内容を忘れていました。「私」の回想で始まりますが、この「私」は誰?本篇の語り手はメルスン博士(魔女の隠れ家にちょっとだけ登場) いつものJDC/CD流で絵が浮かばない描写、込み入りすぎて何がなんだかわからなくなる筋、犯人が目撃されるが偶然顔を見られないので誰だか特定されない、というお気に入りのネタなどで頭が痛くなった頃に、フェル博士(ヘッヘッヘHeh-heh-hehと笑います)が何かを企み、幕が降ります。小細工が満載で意外と楽しめる探偵小説でした。ところで冒頭に示された「亡くなった一重要人物」は誰なんでしょうか… さて恒例の歌の時間です。(フェル博士シリーズには歌と酒がつきもの) p213 ハドリーが歌の一節を口ずさむ。流行歌には疎いメルスンも、その歌は聞き覚えがあった。一風変わった歌詞だった。「最後の狩り込みの鐘が鳴る」(Words stood out: “-din’ for the last round up...”) : Billy Hill作 The Last Round Up(I’m headin’ for the last round up...) 試訳「最後の牛追いに出かけよう…」調べてみるとこの歌の初録音は1933年7月George Olsenで、同年11月のGene Autryなど同じ年に全部で9枚のレコードが発表されるほど流行ったようです。 でも死時計事件の時(1932年9月)には聴けるはずがない… p217 連隊の晩餐会か何かだったのさ。『勇猛果敢な勇者たち』なんて歌ってね。(Regimental dinner or something. ‘Boys of the bulldog breed,’ and all that.) : “Sons of the Sea (Men of the Ocean)” 1914 Navy song? “But you can't beat the boys of the bulldog breed, bobbin' up and down like this.”という歌詞がある。 |
No.5 | 7点 | 盲目の理髪師- ジョン・ディクスン・カー | 2018/11/01 22:28 |
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JDC/CDファン評価★★★★★
フェル博士第4作 1934年出版 創元文庫(1962年)旧訳で読みました。 四十年ほど前に読んだのですが全然覚えていなくて、新訳は手元に無く、井上一夫先生の旧訳で再読。会話が快調で、井上先生なかなかやるな、全然古びていない! 客船が舞台の大騒ぎドタバタ物語です。フェル博士の提示するヒントが漠然とし過ぎていて謎解き要素にドキドキ感が薄いのですが、頭のネジが外れた登場人物たちが歌いまくり暴れまくる無茶苦茶な展開。JDCは酔っ払いが好きですね。探偵小説としてはモーガンに「剣の八」の冴えが見られず、周りのボケ軍団相手にツッコミ役を演じるだけ。夢まぼろしのような事件なので解決もフウンなるほどね!と言った感じです。 沢山出てくる歌を原文から調べてみました。 p52『学生王子』The Student Prince: ミュージカル1924 p112&p129 大海原の波に生き… A Life on the Ocean Wave: 詩 Epes Sargent 1838, 曲Henry Russell p241 『ポール船長はヤンキーの奴隷、あんな野郎はぶっ倒せ』とかいう歌 Captain Ball was a Yankee slaver, blow, blow, blow the man down!: 「ボール」「奴隷商人」ですね… Benetの詩John Brown’s Body 1928から? p250『ロザリオ』を歌う sing ‘The Rosary’: 不明 p255 『サンタクローズの橇鈴』Santa’s Sleigh-Bells: 不明、Jingle bellsのこと? p258『ギルバートとサリバン』やなぎよ、やなぎよ、ちっちゃなやなぎよ Willow, tit-willow: Guilbert & Sullivan作 The Mikadoから p260『ピルセンの王子』The Prince of Pilsen: ミュージカル1903・映画1926 p267 『賣人のむれ、街を去り』When chapman-billies leave the street: Robert Burns作の詩Tam O’ Shanterより p302 協調の手をわかつなく 真理の旗を固守すべし! May the service united ne’er sever, But hold to its colours so true.: “Columbia, the Gem of the Ocean”より p307 『さあ、桑の藪を回ってゆこう』round-the-mulberry-bush: Here We Go Round the Mulberry Bush、English nursery rhyme and singing game. p344 『ラ マデロン』La Madelon: 第一次大戦時のフランスの流行歌 p344 『オール マン リバー』Old Man River: ミュージカルThe Show Boatより p346 『ラ マルセーエズ』La Marseillaise: フランス国歌 荒木飛呂彦先生の作画でミュージカルアニメにしたらピッタリだと思います… |
No.4 | 7点 | 帽子収集狂事件- ジョン・ディクスン・カー | 2018/10/31 20:28 |
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JDC/CDファン評価★★★★★
フェル博士第2作 1933年出版 今回は創元文庫の新訳(2011年)で読みました。 四十年ほど前、創元文庫の旧版(1960年)で読んだのですが、冒頭から全然覚えていなくて、ほぼ初読状態。語り手の存在意義が良くわからないのですが(まーいつもそうです)展開が素晴らしく、ハドリーとフェル博士の漫才も珍しく笑える良い探偵小説でした。納得できる合理性はJDC作品の中でもピカ1だと思います。 でも登場人物に良いネタがたくさん転がってるのに全然生かしてない…(シーラちゃんだけ何故か生き生きと描かれてる…) 物語の全貌が明らかになり、読者が色々想像して補うと立派な「悲劇」です。 「帽子が有るのは何故?」という謎は、絶対EQのローマ帽(1929年)を意識してるはずです。ロンドン塔が舞台ですが、名所を紹介する観光ミステリにはなっていません。新訳は、セリフを上手に処理していて正解ですね。 (今回は歌のコーナー無し。「フェル博士には酒と歌が付き物」という真理に気づく前の読書だったので…) |
No.3 | 5点 | 剣の八- ジョン・ディクスン・カー | 2018/10/30 20:37 |
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JDC/CDファン評価★★★☆☆
フェル博士第2作 1934年出版 ハヤカワ文庫の新訳(2006年)で読了 (HPB1958年も参照) 三十数年前に読んだポケミスを引っ張り出して読んだところ、妹尾訳はセリフがめちゃくちゃ。どーにかならないか、と探したらハヤカワ文庫の新訳がありました。ハドリー退職?フェル博士ももーやらん!と弱音。JDCはシリーズ二作目でキャラをお払い箱にするつもりだったのでしょうか。 探偵作家のモーガンが良い味を出していてもーちょっとキャラ立ちさせれば… (JDCには無理な相談ですが) いつもの通り最初の犯罪は納得出来るのですが、2回目が苦しい感じです。全体的に小粒な印象ですが謎の解明部分はとても素晴らしい。ボタンフック(button hook)というものの存在を初めて知りました。(ググると素敵なのが見られます) さてフェルシリーズ恒例、歌のコーナーです。今回は原文が手に入らず翻訳をもとに調べました。(ページ数は妹尾訳のもの) {★R3/10/16}原文を入手したので若干追記。 p24 讃美歌の≪進め、キリストの兵士たちよ≫(妹尾訳では省略): "Onward, Christian Soldiers" (words: Sabine Baring-Gould 1865 / music: Arthur Sullivan 1871) p170 ≪陽気なしゃれ男≫を口ずさみながら(妹尾訳: 口を閉じて鼻で歌をうたい…): A Gay Caballeroでしょうか。1920年代後半に流行。エノケンも「洒落男」として歌っています。{★R3/10/16追記} 原文and humming, The Gay Caballero p173 私はバーリントン バーティ/朝起きるのは十時半/それから散歩に出かけるのさ、紳士気取りで… : Burlington Bertie from Bow (1915) p175 ≪オールド ジョン ウェズリー≫を歌ってくれよ!(妹尾訳: なつかしのジョン ウェスリーをうたえ!): John Wesleyはメソジストの創始者。メソジストは、当時の流行歌に歌詞をつけ、口語による平易な讃美歌を普及させた。{★R3/10/16追記}原文“Sing 'Old" John Wesley!” p181 「おれのはき古したコーデュロイ」と歌う声(妹尾訳: おれの着古しのコール天の服): 不明。{★R3/10/16追記}原文Somebody, in an unmusical baritone, was singing, "Me Old Corduroys” この歌詞で検索したが調べつかず。19世紀中盤に流行し、ミュージック・ホールでも流行ってたらしい伝承曲Corduroy(Roud 1219)と関係あり? 銃はS&W38口径、オートマティック拳銃(状況から考えるとコルトM1911?)、モーゼル拳銃(状況を考えると大型のC96ではなく、小型で隠し持つのに便利なHSc拳銃…と思ったら年代が合いません。ポケットピストルでしょうか?)が登場。 ところで最後のフェル博士の講釈がですます調なのには違和感ありでした。 |
No.2 | 6点 | 魔女の隠れ家- ジョン・ディクスン・カー | 2018/10/29 20:02 |
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JDC/CDファン評価★★★★☆
フェル博士第1作 1933年出版 創元文庫(1979年)で読みました。 全体的にフレッシュな若々しさが感じられる楽しい探偵小説。米国と英国の間で戸惑う(もちろんイギリス贔屓)記述が多めでJDCの心情を正直に吐露している感じです。でも、肝心のネタはあまり謎めいていないので小盛り上がり。事件が進行中なのに古文書を読んでしまうブッキッシュな態度や、普通の作家ならきっと意気込んで書くであろう井戸調査の場面をコミック仕立てにしてしまうので、怪奇は全然盛り上がりません。 初登場のフェル博士はHe likes band music, melodrama, beer, and slapstick comediesと評されています。 登場人物がやたら歌ったり飲んだりするのがフェルシリーズの特徴。出てくる歌などを原文から調べてみました。 p21「ラウス ヴィ二 エクセルシタス クルシス」(Laus Vini Exercitus Crucis): 1187年の第一回十字軍のさいブイヨンのゴドフリーの部下たちが歌った『酒の歌』で『朝まで家に帰るまい』(We Won't Be Home until Morning)と同じ旋律だと主張しています。Laus Vini... の方は真偽不明。We Won’t Be Home… の方はWebで何件かヒットしました。 p46 古い文句「地には大いなる叫びが満ち…」(There was a great crying in the land): 聖書の引用? And there shall be a great cry throughout all the land of Egypt (Exodus 11:6 KJV)がありますが… p67 ずっと昔に流行った戯れ歌(long-forgotten comic-songs)2曲 『マリーよ、すぎし憩いの日、そなたはどこにおわせしか』(Where Was You, ‘Arry, on the Last Bank 'Oliday?)と 『ブルームズベリー広場のバラ』(The Rose of Bloomsbury Square): いずれも調べがつきませんでした。‘ArryはHarryの略だと思います。 p192『蛍の光』Auld Lang Syne: 英語圏では大晦日のカウントダウンの定番曲。でも、ここのイメージがちょっとわかりません。うら寂しさを表現しているようなのですが… 銃は「旧式のデリンジャー」an old-style derringer revolver が登場。Remington Doubleだと思います。(revolveしませんが…) 他に「銃身の長いピストル」a long-barrelled pistol (後に出てくる「ブラウニング型拳銃」a Browning pistol と多分同じ)も登場。 |
No.1 | 4点 | 黒い塔の恐怖- ジョン・ディクスン・カー | 2018/10/27 09:37 |
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JDC/CDファン評価★★★☆☆
ダグラス グリーン編の埋もれたカー作品集(1980)の翻訳後半(前半はカー短編全集4) 本書の目玉は「史上最高のゲーム」(1946) 探偵小説の理想を述べたエッセイ(幻のアンソロジーの序文)で、これを読むとJDC/CDは「小説なんてどーでも良い」と考えていたことが判ります。あくまでも作者と読者の対決が主眼なんですね。でも「お前が言うな」と言いたくなることも平気で書いてます。まぁ理想論ですから… この中で触れられているキャロライン ウェルズのThe Technique of the Mystery Stories(1913)はGutenbergに無料版あり。JDCのラジオドラマも無料公開のものがあるので、英語が得意ならさぞ面白いんだろうなぁと思います。収録作品には傑作はありません。でも1935年の筆力旺盛な時期に何故パルプマガジン?ある程度売れてきたので昔好きだった雑誌に売り込むか!ということだったのでしょうか。買った当時(1983)は巻末のカー書誌が便利でしたが、今は随分新しい翻訳が出ているので改訂が必要ですね。 なおp43の詩はBartholomew Dowling作The Revel(East India)、使われた銃は1917年の事件なのでM1911でしょうか。 |