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YMYさん
平均点: 5.87点 書評数: 302件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.182 9点 13・67- 陳浩基 2021/12/17 23:30
物語の時間軸が現在から過去へと遡っていく逆年代記という手法を用いて描かれている。
プロットの組み立て方、物語の見せ方は緻密で、読んでいるうちに何度もミスリードされてしまう。六つの事件のどれもが当時の香港の世相や人間模様を反映して複雑な様相を呈するが、対立する構図はいたってシンプル。徹頭徹尾、勧善懲悪なのだ。難しいことは何もしていない。夢中で推理し、爽快にしてやられた。

No.181 4点 快楽の館- アーヴィング・ウォーレス 2021/11/30 23:09
ミステリ的要素は極めて少ないが、娼婦の館を隠そうとする側と暴こうとする側が入り乱れ、虚々実々のスリルを醸し、変質的な殺人鬼も加わって娯楽性は豊か。

No.180 5点 マンアライヴ- G・K・チェスタトン 2021/11/30 22:53
いわゆる本格ミステリというより、観念小説とでもいうべき作品だが、私設法廷で裁かれる悪人イノセント・スミスの行動をめぐる謎解きは、生きるとはどういうことか、という永遠の命題を我々に突きつけてくる。

No.179 8点 わらの女- カトリーヌ・アルレー 2021/11/15 23:03
莫大な遺産の奪取という完全犯罪の成功を描いた作品。
しかし、その計画はコン・ゲームものの傑作に登場するような爽快なものではないし、緻密なプランでもない。どちらかと言えば、迂闊によって成立した完全犯罪であったといえる。しかし、ヒロインをじわじわと着実に破滅に向かって押し進めていく描写は迫力満点。

No.178 8点 刑罰- フェルディナント・フォン・シーラッハ 2021/11/15 22:58
罰をめぐる短編が十二作。ベッドで発見した見知らぬ女の真珠が引き起こす未必の故意「テニス」、犯罪組織のボスを弁護する女性新人弁護士の苦悩「奉仕活動」、危険な方法で自慰に耽る夫への侮蔑「ダイバー」などが特にいい。
どれも静かで異様に狂おしく、それでいて驚くほど澄み渡り、張り詰めている。喚起力に富んだ世界は生々しく、時にひねくれたユーモアで運命の皮肉をのぞかせる。深遠で複雑な人生の諸相には心が震える。

No.177 5点 誕生日パーティー- ユーディト・W・タシュラー 2021/11/01 23:27
過去の出来事が現在の色彩を決定づける物語。50歳の父の誕生日に息子が呼んだゲストが、父の過去を掘り起こすサスペンス仕立て。
幼少期、残忍なポル・ポト政権下のカンボジアを脱出し、長じて受け入れ先の娘と結婚したキム。オーストリアでの平穏な暮らしは、かつてともに逃げ、妹同然だったテヴィとの再会で一変する。
本作は苛酷な記憶との折り合い方がテーマとなる。70年代カンボジアと現在とが並行的に描かれ、キムが封印した出来事があぶり出される。復讐による裁きとは何か考えさせられる一冊。

No.176 5点 地中のディナー- ネイサン・イングランダー 2021/11/01 23:21
イスラエルの砂漠に設けられた秘密の施設。そこには、たった一人の囚人Zが長年にわたって収監されている。彼は米国生まれだったが、かつてイスラエルの諜報員だった。Zの監禁を命じた将軍は、何年も昏睡したまま病院のベッドに。将軍が夢見る過去の出来事や、Zの過去、パレスチナ難民の青年の物語、さらにはZを見張る看守と、将軍が眠る病院に勤める看守の母の日々。いくつもの物語が重なり合い、複雑に絡み合う。
入り組んだ語りが展開される複雑さゆえに、序盤はとっつきにくく戸惑ってしまうものの、この迷路のような構造こそがこの作品の魅力。いくつもの断片をつなぎ合わせて浮かび上がるのは、イスラエルとパレスチナの紛争の構図と、スパイとなった男のたどる数奇な運命だ。結末近くになってようやく分かる、題名の指し示す事柄も忘れがたい。

No.175 5点 検死審問ふたたび- パーシヴァル・ワイルド 2021/10/18 23:20
前作の風俗小説的な渋さが好みだったので、ユーモア色が濃くなった本作は好みから外れている。あとメタフィクション的な趣向が目についた。

No.174 7点 服用禁止- アントニイ・バークリー 2021/10/18 23:18
カントリーハウスで起きた毒殺事件をめぐる謎解きの試行錯誤をシリアスなタッチで描いている。
とはいえ、そこはけれん味に長けた作者のこと、ミステリ的な面白さを演出することに怠りはなく、読者への挑戦も用意する念の入れよう。本格ファンも満足できると思うが。

No.173 6点 デス・コレクターズ- ジャック・カーリイ 2021/10/03 23:08
作品全体を貫く大ネタからそれを支える小ネタまで余すことなく、神経を配り周到に伏線を張り巡らせた上ですべてを回収し着想外の結末まで度肝を抜く。
しかもキャラの立たせ方も巧妙で、物語としても面白い。

No.172 7点 暗い鏡の中に- ヘレン・マクロイ 2021/10/03 23:04
一人の人間が同時に二つの場所に出現するという不可能現象を扱っており、合理的に解決するにもかかわらず、幻想的でもある特異な結末に驚かされる。
エレガントな文章が紡ぐ繊細極まる恐怖の世界に魅了された。

No.171 6点 六人目の少女- ドナート・カッリージ 2021/09/21 23:11
異なった少女のものと思しき六本の左腕が森の中で見つかり、未だ明らかになっていない犯罪の捜査が始まる発端、そして意外な人物の事件とのかかわりが浮上する終盤、さらには騒動が終焉した後のエピソードを含めて読者を惹きつける力は並ではない。

No.170 4点 眠れる森の惨劇- ルース・レンデル 2021/09/11 23:23
全体的なプロットは悪くないが、中盤で捜査が停滞するのと一緒に、物語も停滞して、ウェクスフォードが何回も同じような話を聞きに行く。そして悩むの繰り返し...退屈。

No.169 5点 大聖堂の悪霊- チャールズ・パリサー 2021/09/11 23:20
トリックはかなり陳腐なものだけど、現在と過去の相互関係や、歴史学者が出てきて中世の伝説的な王様に関する解釈が二転三転するところは、探偵小説的興味とと繋がっており、本格っぽい雰囲気も好み。

No.168 4点 闇に抱かれた子供たち- ジョン・ソール 2021/08/28 23:22
ヴィレジャンという小さな沼地の中の町を舞台にしている。沼地から町を支配している闇の主という存在の正体が明らかになっていく過程と、主人公のケリーとマイクがその支配に対して立ち向かっていく姿が描かれている。
だが闇の主の正体が早いうちに分かってしまうために、少女たちが感じる恐怖が伝わってこない。老いていく人間の若さに抱く妄執の醜さを描くには、もうひと工夫必要に思われる。

No.167 4点 ゴースト・レイクの秘密- ケイト・ウィルヘルム 2021/08/28 23:16
殺人事件のみならず、子供たちの問題までも解決しなければならない女性判事の心の葛藤は、少々くどいきらいはあるが、なかなかよく描かれている。
ただ、作中に使われているトリックの実効性については、多少首をかしげざるを得ない。

No.166 5点 トウシューズはピンクだけ- レスリー・メイヤー 2021/08/16 22:57
主婦探偵ルーシーが活躍するシリーズ二作目。
年老いた元バレエダンサーが突然、姿を消した。さらに、ルーシーは金物屋の主人の死体を発見することに。四人目の子供を妊娠中のルーシーだが、生来の好奇心の強さから、二つの事件に首を突っ込むことになる。
大工の夫と十歳を頭に三人の子供をもつルーシーの毎日は忙しい。息子は野球の練習があり、娘たちはバレエの発表会を控えている。つい夕食を冷凍食品で手抜きすると、夫に文句を言われてしまう。そんなこまごました日常の描写が精彩に富む。
テーマは意外に重いが、保守的な小さな町を舞台にした、人情と勇気にあふれるルーシーの活躍ぶりに、ほのぼのとした気持ちになれる作品。

No.165 6点 殺人七不思議- ポール・アルテ 2021/08/10 23:22
古代世界の七不思議をモチーフにした予告連続殺人事件を相手に名探偵オーウェン・バーンズと相棒のアキレスが奮闘する謎解きミステリ。
次々と起こる不可能犯罪、警察に送られてくる暗号付きの予告状と、J・D・カーの後継者と自任する作者らしい作品といえる。冒頭に語られる「愛」にまつわる一文が作品に通底するテーマになっており、その一文があるゆえ謎解きが終わった後に、読者に提示される情景は残酷なれど美しい。

No.164 5点 ミスティック・リバー- デニス・ルヘイン 2021/08/10 23:11
三人の男の人生が微妙に交錯する物語で、テーマは子供時代の性的虐待。それが人を狂わせ、悲劇へと導く過程をエモーショナルに捉えている。
作者らしい繊細で心温まる作品(決してハッピーエンドとは言えないが)。全編に漂う、やるせない哀しみとそ、そこはかとない孤独感がとりわけ印象的。

No.163 5点 ユダヤ警官同盟- マイケル・シェイボン 2021/07/26 23:09
第二次大戦後、流浪のユダヤ人がアラスカに自治区を築いたという設定の物語で、デビュー作にも色濃くあった自らのユダヤ人という出目や同性愛に対するこだわりが、強烈に反映している。
最初のうち展開がもったりする感はあるが、メンデルの正体が明らかになって以降は面白くなってくる。警察小説にして改変歴史SF小説。

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