皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
YMYさん |
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平均点: 5.86点 | 書評数: 336件 |
No.236 | 6点 | 優しすぎて、怖い- ジョイ・フィールディング | 2023/01/11 23:12 |
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社会的地位があり、世間の信望も厚い夫に記憶を失った妻が、次第に抱き始める疑惑。ジェーンの一人称でストーリーは展開され、記憶を失っている不安が次第に募ってくる夫への不信感として成長し、自分すらも信じられない状況に陥る主人公の心理描写が秀逸である。
主人公の女性が記憶を失わなければならなかった理由は、病んだ現代社会を反映したテーマであり、そこに作者の深い問題意識が読み取れる作品である。 |
No.235 | 6点 | 五番目の女- ヘニング・マンケル | 2023/01/11 23:05 |
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ヴァランダー刑事の粘り強い捜査によって繋がりのなさそうだった二つの事件は、次第に奇妙なシンクロを見せ始める。無残にも串刺しで殺された老人と、姿を消した花屋に共通するものは何か。事件が解決へと向かう精緻な展開と鋭い社会性はお見事。 |
No.234 | 6点 | 緋色の迷宮- トマス・H・クック | 2022/12/27 23:25 |
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写真店を経営しているエリックは、教職につく美しい妻とおとなしい息子との生活に満足していた。だがある日、八歳の少女エイミーが行方不明になり、ベビーシッターの息子キースに疑いがかかる。誘拐して性的暴行に及び殺したのではないかというのだ。
ここでは誰もが弱さを抱え、癒えぬ傷を持ち激しい不安の中で生きていて、ある者は倒れ、ある者は破滅へと突き進む。人々は対峙し交錯し事実を探り合い、奥深く埋め込まれた謎を解き明かしていく。 その巧妙な仕掛け、堅牢なプロットはさすがで、前三作には及ばないものの、それでも小説の醍醐味を十分に味あわせてくれる。読後感は苦く厳しいけれど、それでも随所で語られる諦観は人生の真実を照らしている。 |
No.233 | 4点 | 記憶を消した少女- グロリア・マーフィー | 2022/12/27 23:18 |
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母親の殺人現場を目撃して心に傷を負った少女という設定は珍しくないし、登場人物も限られているから、真犯人の見当もすぐにつく。
シンプルすぎる構成だが、じっくり書き込んであり飽きさせない。静かなサスペンスが持続していくが、途中でもう少し山場があった方がより効果的だっただろう。エミリーの心の深層に潜む謎と、彼女の奇矯な言動はかなり強い印象を与えるが、それだけに後半の彼女の変化はやや唐突。 |
No.232 | 6点 | カルカッタの殺人- アビール・ムカジー | 2022/12/14 23:11 |
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一九一九年の大英帝国植民地下のインド、カルカッタを舞台にした歴史ミステリ。元スコットランド・ヤードの警部を主人公に混沌の地カルカッタでの殺人事件を悪戦苦闘を描いている。
本作で扱われるのはガンジーが不服従運動を開始した時代であり、民族運動の高まりによる緊張感が読みどころ。主人公と現地の人々、同僚のインド人新米刑事や混血の美女アニーとの交流の中で改めて浮き彫りになる当時の人種問題は、ポピュリズムから不寛容な時代となりつつある現代にも通じるものだ。 |
No.231 | 5点 | 七つの墓碑- イーゴル・デ・アミーチス | 2022/12/14 23:06 |
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二十年の服役を終えたばかりの元マフィアの男ミケーレが、ミケーレを含む七人の犯罪者たちに暗殺予告を出した謎の連続殺人犯・墓堀り男と対決するまでを描くロード・ムービー的な怪作。
実質的なデビュー作とあってストーリー・テリングに粗い部分もあるが、登場人物たちの殺伐とした数々の犯罪を描いているにもかかわらず、ミケーレの行動はなぜか謎の爽快感がある。言葉少なで古典小説を好む内省的な主人公像も面白い。 |
No.230 | 5点 | カジノ- ニコラス・ピレッジ | 2022/12/02 23:14 |
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ともにシカゴ時代に暗黒街に身を置いた友人同士でありながら、フランクの妻ジェリをめぐって、仲たがいするフランクとスピトロ。
ギャングとその関係者の人間模様もさることながら、知られざるカジノの舞台裏が詳しく描かれている点でも興味深い。その代表的なものがスキミングと言われる、いわゆる賭博の売り上げのごまかし。 取り締まる側の賭博管理局や州のゲーム委員会も、、監視カメラの設置や抜き打ち検査など、あらゆる手段で対抗。その駆け引きは一流のスパイ小説以上。 |
No.229 | 5点 | わたしの名は紅- オルハン・パムク | 2022/12/02 23:07 |
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十六世紀のコンスタンティノープルを舞台にした、トルコの歴史ミステリ。
フーダニットで、容疑者は二人に限定される。章ごとに語りの視点が変わり、殺人者の章もあれば、容疑者の章もある。容疑者三人は細密画師なのだが、彼らの細密画に対するスタンスの違いを理解することで、殺人者もわかるという作者からの挑戦が感じられる。 |
No.228 | 5点 | 二つの時計の謎 アジア本格リーグ2- チャッタワーラック | 2022/11/18 23:26 |
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マフィアの姿も見え隠れするハードボイルド仕立てながら、クロフツの有名作品をもとにした犯行が描かれる。
クロフツのトリックのような精緻なアリバイを犯人は試みたはずだったが、タイのゆるやかな空気の中、事件は当初の計画とは違う方向に転がってしまった点にとぼけた味がある。 |
No.227 | 6点 | 裏切りの紋章- ドナルド・ジェイムズ | 2022/11/18 23:20 |
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登場人物はいずれも曲者ぞろい。前半は見事なサクセス・ストーリーで、二人の兄弟が懸命にのし上がっていく様がスリリングに描かれ興味をそそる。後半になって、一族の生臭い闘争シーンに突入するや、殺伐というよりドロドロした人間模様が描き出されて、異様な雰囲気を漂わせている。通俗に陥りがちな設定にもかかわらず、風格を感じさせる。 |
No.226 | 6点 | 死んだレモン- フィン・ベル | 2022/11/07 22:32 |
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冒頭、主人公が危機に陥るところから始まるというサスペンスフルな展開で魅せる謎解きミステリ。
謎解きの後、主人公が犯人たちと対決する現在のパートと、その対決までに至る、下半身不随で車椅子生活となった主人公が、心機一転の引っ越し先である一軒家で過去に起きたという誘拐殺人事件の真相を探る、というパートが交互に語られる。 そんなサスペンス中心の物語の合間に読者に全く予想がつかない方向での伏線を紛れ込ませているところも面白い。 |
No.225 | 5点 | 汚れた雪- アントニオ・マンジーニ | 2022/11/07 22:27 |
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ある事件による懲罰人事でローマからアルプス山麓の町に飛ばされた副警察長ロッコがスキー場で重機に轢かれバラバラになった死体の謎を追う。
ミステリとしてトリックが優れているというタイプの作品ではないが、ロッコと彼を取り巻くキャラクターがとても魅力的。一匹狼で口が悪い、酒とマリファナを愛し、容疑者に高圧的な態度をとることも厭わず、金のためには犯罪に手をつけることもあるというロッコだが、刑事としての腕はピカイチの上、倫理観は一本筋が通っておりどこか憎めない。 |
No.224 | 5点 | パシフィック・ビート- T・ジェファーソン・パーカー | 2022/10/23 22:40 |
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主人公ジム・ウィアーは、警察官として十年間務めたあと、メキシコ沖に沈んだ海賊船の宝を引き上げるため旅に出た。六カ月間の探索は実を結ばず、挙句の果てに麻薬に関連したという疑いでメキシコ警察に逮捕されてしまった。
環境保護と有毒廃棄物投棄、警察内部の個々の人物から被害者を巡るさまざまなキャラクターが、謎を秘めて登場し趣向は盛りだくさんだが、奥行きがやや浅い。 |
No.223 | 6点 | ジェイコブを守るため- ウィリアム・ランデイ | 2022/10/23 22:35 |
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ひとり息子が殺人事件の容疑者とされ、苦悩する検事補の姿が描かれる。自身も父親との関係に悩む二重の家族の絆の物語でもあり、愛弟子だった後輩検事補の仕事ぶりを被告側から見つめる異色のリーガルスリラーにもなっている。
息子の無実を信じつつも、忍び寄る疑惑と闘う葛藤のドラマは迫力満点。 |
No.222 | 5点 | バビロンの青き門- ポール・ピカリング | 2022/10/07 22:48 |
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若い外交官のトビーが西ベルリンに赴任し、運命に翻弄された三十年間、幼少時代に焼死した美貌の母との思い出、辛い学生時代、古代ペルシャ時代の王たちとの幻想上の対話、現実の自分などが時代を飛び越えて交差し、幻想、耽美、デカダンを織り交ぜた不思議な作品で現代のアラビア千夜一夜を思わせる作品である。 |
No.221 | 5点 | パーフェクト・キル- A・J・クィネル | 2022/10/07 22:42 |
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クリーシィの爆破犯探索は、ローリングズの策謀もあって、ジブルの知るところとなり、まず上院議員が狙われる。それを防ごうとするクリーシィ一家の活躍。
復讐に燃えるクリーシィの果断な行動力、後継者を育てる厳しさと愛情、緻密な暗殺計画をめぐる敵味方の好守など、情のある冒険小説として独特の味を持っている。 |
No.220 | 5点 | ボヘミアン・ハート- ジェイムズ・ダレッサンドロ | 2022/09/22 22:47 |
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古き良き時代のサンフランシスコに対する愛と郷愁を散りばめながら、アクション、恋愛、法廷劇と作者は盛り上げるため、あらゆる趣向で攻めまくってくる。そして、最後のどんでん返し。
B級アクション映画でも観るようなノリで読めば楽しめるでしょう。 |
No.219 | 5点 | バッド・ラック- アンソニー・ブルーノ | 2022/09/22 22:42 |
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FBI捜査官トッツィとギボンズ・シリーズの第三作。今回トッツィは悪徳不動産業界の大物ナッシュのボディーガードを装ってマフィアの犯罪を追跡する。ユーモアとアクションと、口汚い罵り合いが散りばめられた悪漢小説である。
悪徳サルの憎めない存在感、正義心のひとかけらもないFBI捜査官とのシーソーゲームは秀逸。このジャンルの大御所エルモア・レナードの作風を十分意識した作品だ。テーマも語り口も先人たちの焼き直しの作品のようで、やや新鮮味に欠ける。 |
No.218 | 7点 | 終りなき夜に生れつく- アガサ・クリスティー | 2022/09/05 22:13 |
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本書の世評は、さほど高くないものの、著者の自選ベストテンに含まれている。
前半のロマンティックなラブ・ストーリーが悲劇によって暗転し、結末に至って恐るべき犯罪計画が浮上する構想も見事だが、事件が合理的に説明されるにもかかわらず、結局すべてはジプシーが丘にかけられた呪いのせいだったのかも知れないという含みもあり、犯人像の秀逸さと相俟って、宿命論的な物哀しさがいつまでも心に残る。 サブ・プロットの説明不足が惜しまれるものの、クリスティーの筆力の素晴らしさを示す作品といえる。 |
No.217 | 6点 | マーチ博士の四人の息子- ブリジット・オベール | 2022/09/05 22:05 |
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どんでん返しのあるミステリだが、ラストの仕掛けをはずせば、全編は異様なサスペンスで成り立っている。正体不明の殺人者の日記とそれを盗み見てしまった女性のつづる手記を交互に配する構成が、効果的にサスペンスをあおっている。
奇抜なシチュエーション設定や構成の妙など、極めて技巧的に緊張感を醸造していくあたりは、従来のフランスミステリと一線を画している。 |