皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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猫サーカスさん |
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平均点: 6.18点 | 書評数: 433件 |
No.213 | 5点 | ママ- 神津凛子 | 2020/05/01 17:35 |
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イヤミスといえば、湊かなえ、真梨幸子、秋吉理香子などが健筆をふるっているが、この作者の場合は、おぞましさが増しているので「オゾミス」と呼ばれるようになった。シングルマザーが男に拉致・監禁される物語で、ぞっとする場面の連続のなか、隠された動機と家族の秘密が明らかになるサスペンス。後半は監禁小説という構造なので前作よりも単純であるが、犯人との対峙、拷問(映画「マラソンマン」を彷彿させるほどの戦慄)などにひねりがあり、動機へとつながる過程に緊張感がある。幼い娘の視点を採用しての背景説明と家族愛への主題収斂も良く、おぞましさの解毒にもなっていて実に巧み。 |
No.212 | 7点 | 悪意- 東野圭吾 | 2020/04/21 17:44 |
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序盤で早々と主人公が犯人を見つけて逮捕し、普通ならこれで終わりの物語。しかしその犯人は頑なに、「動機」を語ろうとしなかった。この物語が教えてくれるのは、人間の悪意のあり方。なぜ犯罪を犯したのか、その本当の理由が語られる時、そこにある人間の欲深さと、溜め込まれた悪意の発露に驚かされた。またこの物語を盛り上げているのは、独特な語り方。他のミステリにはない筆致と構成が、「悪意」という作品の魅力を最大限に高めてくれている。ただ相手の言葉がそのまま記録して描かれたり、一人の人間がワンサイドで語り続けたりと、普通の物語では考えられない構成になっている。そしてこの構成が、終盤に至って大きな意味を持ってくる。信用できない書き手なのではなく、単にそういう「物語」が展開されているだけ。そして犯人のトリックに、まんまと騙される。他のミステリではあり得ないこの構成が「動機」という一点にのみ焦点を当てたこの物語の特異性を強調してくれている。 |
No.211 | 7点 | 道化の死- ナイオ・マーシュ | 2020/04/21 17:43 |
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冬のある日、イングランドの田舎にある領主屋敷の庭で、伝統の「五人息子衆のモリスダンス」が行われることになっていた。クライマックスで、五つの剣の切っ先に頭を突き出した道化が首をはねられ、その後、生き返るという筋書きの、死と再生をテーマにした豊饒祈願のダンス。しかし、道化役の鍛冶屋の主人は本当に首を切り落とされ殺されてしまう。衆人環境下の中の殺人という難事件を解決するためにやって来たのは、スコットランドヤードのアレン警視。警視は綿密な聞き込みによって、ほぼ真相に辿り着くと、それを証明するために、再度ダンスを演じることを提案した。そして驚くべき真相が暴かれる。凍てついた闇にかがり火が焚かれ、哀切なバイオリンの音色が響き、鈴を鳴らして男たちが踊るダンスのシーンは実に幻想的で美しい。演劇畑出身のマーシュの面目躍如樽舞台設定で、この作品の大きな魅力になっている。それに加え、登場人物の造形が実に見事。ことに、かくしゃくとした九十四歳の屋敷の女主人の存在感は素晴らしい。 |
No.210 | 10点 | そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー | 2020/04/06 19:23 |
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孤島の別荘に招かれた十人の客が、マザーグースの「十人のインディアン」の歌詞のとおりの死に方で、次々死んでいき、そして誰もいなくなるというお話。全員を殺そうとしていることが明らかな犯人が十人の中にいるらしくて、次第に残る者が少なくなっていき、生き残った全員が互いを疑心暗鬼の眼で見始める面白さは、当時の推理小説にはないものだった。不可能性の種明かしは最後にあるが、トリックなどはもうどうでもよくなるほど、その展開の面白さに圧倒された。 |
No.209 | 10点 | ブラウン神父の童心- G・K・チェスタトン | 2020/04/06 19:23 |
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推理小説ではテクニックやヒロイズムはどんどん発展してきたけれど、美学というのはブラウン神父に出会った時に強く意識した。夢のような話の中に、幾何学的ロジックとか容赦ない残酷な逆転の発想を加えたトリックとかがあって、推理することに美学を持ち込んでいる。もちろんアイデアだけ抽出してみても、よくこんなトリックを思いつくなというのが山ほどある。ミステリの短編の中で頂点と見ています。 |
No.208 | 7点 | ヴェサリウスの秘密- ジョルディ・ヨブレギャット | 2020/03/26 19:12 |
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十九世紀末、万博開催を目前にしたバルセロナ。父の死の知らせで七年ぶりに帰郷した大学教授のダニエルは、新聞記者のフレーシャから殺された可能性があると知らされる。手記に残された暗号の謎解き、おどろおどろしい挿絵の並ぶ解剖書、サナトリウム、解剖学教室、カーチェイスならぬ馬車の追跡劇、地下でうごめく謎の住人、そして産業革命後の光と影を宿すバルセロナ。ミステリであり、怪奇小説であり、スチームパンクであり、でも何より冒険物語の醍醐味が味わえる。 |
No.207 | 5点 | それ以上でも、それ以下でもない- 折輝真透 | 2020/03/26 19:12 |
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第九回アガサ・クリスティー賞受賞作。ナチス支配下のフランスが舞台。主人公は神父で、無用の混乱をさけるために祖国解放の闘士が殺された事件を隠蔽してしまうのだが、それがかえって苦悩を深めることになる。フランスの聖職者を主人公にした話だが、一人一人の人物像が的確だし、多数の人物の出し入れも巧みで、ナチスとの対峙も緊迫感がある。大きな仕掛けがあるわけではないのに、戦争が引き起こす殺意などが丁寧に捉えられてあり、誰が殺人犯なのかという謎はやや唐突に解かれるきらいはあるけれど、全体的に「懐の深い読ませる作品」といえるでしょう。 |
No.206 | 6点 | 熊の皮- ジェイムズ・A・マクラフリン | 2020/03/13 20:08 |
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アパラチア山脈の一角で、自然保護区の管理人を務めるライスは、組織犯罪と関わっていた過去を隠し、人里離れた山奥でひっそりと暮らしていた。ある日、手足と胆のうを切り取られた熊の死体が発見される。闇市場での取引を企む密猟者の仕業だ。ライスは密猟者を捕えようと調査に乗り出すが、地元民たちは非協力的で中にはあからさまな敵意を示す者もいる。彼の前任者の女性をはじめとするわずかな味方とともに、ライスは密猟者を追う。ストーリー自体は比較的シンプル。ひときわ印象に残るのは、ライスが山奥を歩き、森に溶け込み、自身がそこに同化していくかのような迫力ある情景の描写。獣の臭い、鳥や虫の声、湿った空気。雄大にして過酷な自然の中で、ライスは自身に向き合い、そして自らの過去を振り返る。山の中で密猟者を追う現在の物語に、捨てたはずの過去が絡み合う。荒々しい展開と静かな内省が同居する、じっくり楽しみたい作品。 |
No.205 | 6点 | ころころろ- 畠中恵 | 2020/03/13 20:07 |
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病弱ながら大妖の血を引く大店の若だんな一太郎が、お付きの白沢、犬神を筆頭とする妖たちと難事件を解決する捕物帳の第8弾。ここまでシリーズが続くとマンネリに陥りそうだが、著者は一作ごとに趣向を変えて常に読者を驚かせている。一話完結の短編集なのはいつも通り。ただ今回は、失明した若だんなの光を取り戻すため、目の神様(生目神)の宝石を持っている河童を探すといいう大きな流れがあり、長編小説としても楽しめるのが新機軸。また「ほねぬすびと」「けじあり」といったいわくありげなタイトルの意味が、ラストに明かされる鮮やかな謎解きにも驚かさえるだろう。ユーモアミステリではあるが、生目神を通して日本人の宗教観に迫る重いテーマもさりげなく描いており、硬軟のバランスが絶妙。 |
No.204 | 7点 | 流れは、いつか海へと- ウォルター・モズリイ | 2020/03/03 19:33 |
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私立探偵が活躍するミステリが珍しくなって久しい。だが、この作品は、ニューヨーク市警を追われて私立探偵になった黒人男性が主人公という、今どき貴重な物語。ジョー・キング・オリヴァーは身に覚えのないレイプ容疑で逮捕され、警察を辞めて妻とも別れ、今は私立探偵業を営む。ある日、容疑のきっかけとなった女性から届いた一通の手紙で、彼は自分の逮捕が仕組まれたものだったことを知る。一方、弁護士の女性から、警官殺しで捕まった黒人ジャーナリストの無罪を証明するよう依頼を受ける。過去と現在、二つの冤罪事件を追うジョーが見いだすものは・・・。かつて全てを失い、漫然と日々を過ごしていたジョーが、自らの名誉を取り戻そうと奮闘するストーリーも読ませるが、主人公の娘や、相棒となる元凶悪犯など、彼を取り巻くキャラクターの存在もまた大きな魅力。権力も絡んだ卑劣なたくらみに、屈することなく立ち向かう市井の探偵。真相そのものはシンプルだが、小さなサブプロットがいくつも絡み合って層の厚さを感じさせる。 |
No.203 | 5点 | T.R.Y. 北京詐劇- 井上尚登 | 2020/03/03 19:31 |
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一九一六年、上海で最高の詐欺師と言われていた伊沢修は、ある人物から思わぬ依頼を受けた。袁世凱をだましてほしいというのだ。辛亥革命の後、袁世凱は最高権力者へとのぼりつめたばかりか、皇帝に即位しようとしていた。中国近代史を背景に、巧妙な詐欺をもちかけて大金を奪うコンゲームとしての人を食った展開もさることながら、今回最上の料理人を志す女性・江燕が登場することにより、お粥から満漢全席まで、中華料理に関するエピソードが多いのも読みどころのひとつ。痛快な歴史冒険小説。 |
No.202 | 8点 | 火車- 宮部みゆき | 2020/02/18 19:10 |
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一つの犯罪を巡って熟年刑事である主人公が奔走し、その特異な犯罪を詳らかにしていく物語。真実に向かって一歩ずつ進み続け、そして最後には真実と対面する。ありふれたミステリ作品とは一線を画す、この過程の中にこそ、この物語の魅力があると言えるでしょう。しかしそれだけではありません。この物語が面白いのは、主人公は被害者と犯人の両者のことを最後まで「人伝て」でしか知らないという事。犯人を追う過程において、犯人のことを知る人物や、被害者を知る人物から、いろいろなことを聞いていきます。どういう人物なのか、何があってそうなったのか、それを主人公も読者も、誰かの話の中からしか知ることが出来ません。皆思い思いの言葉で彼女たちのことを語り、本当にそのすべてが正しいかどうかはわからないけれど、しかし確かに多くの人の生活に影響を与えていく。そして、どうしてその人物がそんな風に生きるようになったのかを、主人公と共に知っていきます。その話の中からヒントを見つけて、どんどんその人の核心に迫るような過去を知る誰かに出会えるようになっていく。この物語の結末は、意外に感じられます。真相に肉迫する中、「ここで終わるのか」と感じてしまう。それでも、ラストシーンはあのタイミングでなければならなかったと思う。この作品は、主人公が見知らぬ犯人を追う物語であって、そこに会話は必要ない。犯人が本当は一体どういう人物で、どんなことを思っていたのか、それは闇に葬り去られ、読者の想像に任せてくれてよかった。回答がない方が美しく感じるからです。 |
No.201 | 7点 | 風神雷神 Juppiter, Aeolus- 原田マハ | 2020/02/18 19:09 |
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「風神雷神図屏風」で知られる絵師の俵屋宗達を主人公にした、歴史アート・フィクション。俵屋宗達は、江戸時代の初期に活躍した絵師。ただし生没年不明。経歴にも謎が多い。作者はそうした隙間を最大限に利用し、奔放なストーリーを創り上げた。なんと織田信長に見いだされた天才少年絵師の宗達が、狩野州信(永徳)の「洛中洛外図屏風」の制作を手伝うのだ。さらに信長の命により、その絵をローマ教皇に届けるため、天正遣欧使節の一員になる。とんでもないアイデアだが、内容は重厚。天正遣欧使節の四人の少年と宗達の友情。後にバロック絵画の巨匠となる少年カラバッジョと宗達が出会ったことで生まれる、芸術家同士の魂の共鳴。人間にとって美術とは何かという問いかけ。波乱に富んだストーリーよって、絵師の情熱と絵画の魅力が、堪能できる。休日を丸々使って、物語の世界に遊びたい。そんな贅沢な娯楽を求める人に薦めたい。 |
No.200 | 5点 | 謝罪代行社- ゾラン・ドヴェンカー | 2020/02/07 18:52 |
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奇抜な発想の妙が効いている作品。仕事のない若者4人が「謝罪を代行する」商売を始めた。商売は成功したが、ある日、指定場所に行くと、壁に釘ではりつけにされた女性の死体に出くわす。相手4人を脅迫し、女性への謝罪と死体の始末を強要した。しかたなく指示に従った4人は、恐ろしい事件に巻き込まれていく。「おまえ」「わたし」それに三人称の語り口を駆使し、過去と現在を往復しながら物語は進んで行く。作者の不敵で綿密なたくらみについつい熱くなりページを繰らされた。 |
No.199 | 5点 | 死者は穏やかに微笑んで- 金丸仁 | 2020/02/07 18:52 |
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公園で倒れていた身元不明の老人。担ぎ込まれた病院では息をしていないにもかかわらず、心電図は生きている人間と同じ波形を打っていた。ポケットに収まっていたノートの冒頭には「私が心肺停止、またはそれに近い状態になった時には蘇生術など延命行為を一切行わないでください」と記されていた。定年間近の外科医は父の介護のため静岡から実家のある横浜に勤め先を替えた。介護に励む妻に感謝する日々、老いへの受容や抗いは友人が試みる遺伝子操作に関心が・・・。誰もが望んでやまない不老長寿という課題を現代社会の問題を絡めて描いた小説。最新医療知見からSFの趣も。すべて仮定の上に成り立つ科学万能の日常における生老病死、人間の気持ちはどう揺れ動いていくのか。団塊の世代の先頭を走る著者自身の問答でもあろう、医師として向き合う視線は厳しい。 |
No.198 | 9点 | 容疑者Xの献身- 東野圭吾 | 2020/01/27 18:28 |
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この物語において、その中心にあるのは「愛」であり「献身」。こんなに犯人側に感情移入できる作品は、今まで出会っていません。彼の行動には疑問を挟む余地が何もありません。ただただ愛ゆえの行動であり、誰も否定することのできない犯罪。その犯罪に至る過程と、全てを織り込み済みの計画、この物語の構成するすべてが美しい。そしてなんと言っても一番美しいのは結末。本当に美しいとしか言いようがありません。100%完璧なトリック、絶対に綻ぶことのない完全な計画。それが、たった一つの計算違いによって崩れてしまった。その計算違いは紛れもなく、「愛」が招いてしまったもの。報われなくていいと本気で思っていたからこそ、計算違いが生じてしまった。この物語の読了感は本当に独特であり、また人によって感じ方が違うのだと思います。メリーバッドエンドであり、また誰に感情移入するかも読み手によって全く違ってくる。この本の感想を友人と語り合った時、お互い全く異なる解釈で驚いたのを覚えている。しかし、それほどまでにこの物語は深い。深くてどんな解釈するにせよ、何かを私たちの心に残してくれるのです。 |
No.197 | 9点 | 造花の蜜- 連城三紀彦 | 2020/01/27 18:27 |
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二月末、香奈子のもとに幼稚園から電話が掛かってきた。息子の圭太が蜂に刺されて病院に運ばれたという。ところが、改めて確認すると、そんな事実はなく、しかも迎えに来た母親によって帰宅したという。圭太は何者かに連れ去られたのだ。だが、この誘拐騒ぎは、事件の本の序章にすぎなかった。母親と警察をおちょくる犯人の言動、渋谷の交差点における奇妙な身代金の受け渡し、そして意外な事実の暴露と、驚きのサスペンスが延々と続いていく。真犯人ばかりか、誰が被害者なのかも定かでない。怪しい関係がくるくると入れ替わってしまうのだ。「愉快な誘拐」という本気と洒落の境界が曖昧な要素を過剰に含んでおり、逆転の連続技を強引なほど、徹底させているが、それだけで終わらない。どんでん返しの魔術師による傑作といえる。 |
No.196 | 6点 | スワン- 呉勝浩 | 2020/01/14 19:55 |
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理不尽な悪意や暴力に巻き込まれた時、それにどう向かい合うのか。第162回直木賞にノミネートされた本作では、無差別銃撃事件に巻き込まれ、生き延びた被害者らのその後を描いている。無差別銃撃事件当日、犯人と接触した高校生のいずみは、同じく生き残った同級生・小梢の「(犯人が)次に誰を殺すか、いずみが指名した」という告発により、被害者の立場から一転、非難の的になる。そんないずみの元に、生存者5人を集めた「お茶会」の招待状が届き・・・。お茶会が何の目的で開かれ、被害者たちがなぜ集まったのか、そして徐々に、誰もが何かを隠し、嘘をついていることが明らかになっていく。悲劇の被害者か悪人か。白か黒か。分かりやすい答えを求める他者と、その場にいた人間にしかわかり得ない複雑な感情を抱く当事者たち。重厚な心理劇としてだけでも十分に読ませる内容だが、、エンタメ要素もかなり含まれており、ストイックなまでに娯楽を追求している小説といえるでしょう。 |
No.195 | 9点 | アンドロイドは電気羊の夢を見るか?- フィリップ・K・ディック | 2020/01/14 19:54 |
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人造人間の犯罪集団を追う賞金稼ぎの話。ただし、単なるSFサスペンスではない。相手が人間かアンドロイドかを判定するテスト、宗教や芸術に関わる人間の振る舞い、鍵となる「感情移入」という現象。ここには人間の根本を探求する真剣でまっすぐな志が見られるし、ところどころにユーモアのくすぐりが仕掛けられてもいる。映画「ブレードランナー」の原作として知られるが、ディックの思想の深みに触れるためには、映画だけでは駄目。この本を読む必要アリです。 |
No.194 | 6点 | 11月に去りし者- ルー・バーニー | 2019/12/31 19:39 |
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1963年。ギャングの幹部ギドリーは、ケネディ大統領暗殺の報に身の危険を感じる。彼が命じられて実行した仕事は、どうやら暗殺の下準備だったらしい。証拠隠滅のため自分も消される。そう考えた彼は、縄張りの街を捨てて西へと逃げる。一方、田舎町に暮らすシャーロットは、自堕落な夫との閉塞した日々を捨て、2人の娘を連れて西へと向かう。やがて両者の軌跡は重なり合うが、組織の殺し屋がギドリーを追っていた。今の境遇から逃れようとギドリーとシャーロット。ターゲットを追う殺し屋。それぞれの視点から、三者三様の生き方が語られる。偶然の出会いが予期しない展開を招き、それぞれの境遇を変えてしまう。主役の3人はもちろん、シャーロットの娘たち、殺し屋の運転手を務める黒人少年など、脇役の一人一人も印象に残る。最終章も、語られなかった事柄を想像させて味わい深い余韻を残す。登場人物の存在が忘れがたい作品。 |