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猫サーカスさん
平均点: 6.19点 書評数: 419件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.199 5点 死者は穏やかに微笑んで- 金丸仁 2020/02/07 18:52
公園で倒れていた身元不明の老人。担ぎ込まれた病院では息をしていないにもかかわらず、心電図は生きている人間と同じ波形を打っていた。ポケットに収まっていたノートの冒頭には「私が心肺停止、またはそれに近い状態になった時には蘇生術など延命行為を一切行わないでください」と記されていた。定年間近の外科医は父の介護のため静岡から実家のある横浜に勤め先を替えた。介護に励む妻に感謝する日々、老いへの受容や抗いは友人が試みる遺伝子操作に関心が・・・。誰もが望んでやまない不老長寿という課題を現代社会の問題を絡めて描いた小説。最新医療知見からSFの趣も。すべて仮定の上に成り立つ科学万能の日常における生老病死、人間の気持ちはどう揺れ動いていくのか。団塊の世代の先頭を走る著者自身の問答でもあろう、医師として向き合う視線は厳しい。

No.198 9点 容疑者Xの献身- 東野圭吾 2020/01/27 18:28
この物語において、その中心にあるのは「愛」であり「献身」。こんなに犯人側に感情移入できる作品は、今まで出会っていません。彼の行動には疑問を挟む余地が何もありません。ただただ愛ゆえの行動であり、誰も否定することのできない犯罪。その犯罪に至る過程と、全てを織り込み済みの計画、この物語の構成するすべてが美しい。そしてなんと言っても一番美しいのは結末。本当に美しいとしか言いようがありません。100%完璧なトリック、絶対に綻ぶことのない完全な計画。それが、たった一つの計算違いによって崩れてしまった。その計算違いは紛れもなく、「愛」が招いてしまったもの。報われなくていいと本気で思っていたからこそ、計算違いが生じてしまった。この物語の読了感は本当に独特であり、また人によって感じ方が違うのだと思います。メリーバッドエンドであり、また誰に感情移入するかも読み手によって全く違ってくる。この本の感想を友人と語り合った時、お互い全く異なる解釈で驚いたのを覚えている。しかし、それほどまでにこの物語は深い。深くてどんな解釈するにせよ、何かを私たちの心に残してくれるのです。

No.197 9点 造花の蜜- 連城三紀彦 2020/01/27 18:27
二月末、香奈子のもとに幼稚園から電話が掛かってきた。息子の圭太が蜂に刺されて病院に運ばれたという。ところが、改めて確認すると、そんな事実はなく、しかも迎えに来た母親によって帰宅したという。圭太は何者かに連れ去られたのだ。だが、この誘拐騒ぎは、事件の本の序章にすぎなかった。母親と警察をおちょくる犯人の言動、渋谷の交差点における奇妙な身代金の受け渡し、そして意外な事実の暴露と、驚きのサスペンスが延々と続いていく。真犯人ばかりか、誰が被害者なのかも定かでない。怪しい関係がくるくると入れ替わってしまうのだ。「愉快な誘拐」という本気と洒落の境界が曖昧な要素を過剰に含んでおり、逆転の連続技を強引なほど、徹底させているが、それだけで終わらない。どんでん返しの魔術師による傑作といえる。

No.196 6点 スワン- 呉勝浩 2020/01/14 19:55
理不尽な悪意や暴力に巻き込まれた時、それにどう向かい合うのか。第162回直木賞にノミネートされた本作では、無差別銃撃事件に巻き込まれ、生き延びた被害者らのその後を描いている。無差別銃撃事件当日、犯人と接触した高校生のいずみは、同じく生き残った同級生・小梢の「(犯人が)次に誰を殺すか、いずみが指名した」という告発により、被害者の立場から一転、非難の的になる。そんないずみの元に、生存者5人を集めた「お茶会」の招待状が届き・・・。お茶会が何の目的で開かれ、被害者たちがなぜ集まったのか、そして徐々に、誰もが何かを隠し、嘘をついていることが明らかになっていく。悲劇の被害者か悪人か。白か黒か。分かりやすい答えを求める他者と、その場にいた人間にしかわかり得ない複雑な感情を抱く当事者たち。重厚な心理劇としてだけでも十分に読ませる内容だが、、エンタメ要素もかなり含まれており、ストイックなまでに娯楽を追求している小説といえるでしょう。

No.195 9点 アンドロイドは電気羊の夢を見るか?- フィリップ・K・ディック 2020/01/14 19:54
人造人間の犯罪集団を追う賞金稼ぎの話。ただし、単なるSFサスペンスではない。相手が人間かアンドロイドかを判定するテスト、宗教や芸術に関わる人間の振る舞い、鍵となる「感情移入」という現象。ここには人間の根本を探求する真剣でまっすぐな志が見られるし、ところどころにユーモアのくすぐりが仕掛けられてもいる。映画「ブレードランナー」の原作として知られるが、ディックの思想の深みに触れるためには、映画だけでは駄目。この本を読む必要アリです。

No.194 6点 11月に去りし者- ルー・バーニー 2019/12/31 19:39
1963年。ギャングの幹部ギドリーは、ケネディ大統領暗殺の報に身の危険を感じる。彼が命じられて実行した仕事は、どうやら暗殺の下準備だったらしい。証拠隠滅のため自分も消される。そう考えた彼は、縄張りの街を捨てて西へと逃げる。一方、田舎町に暮らすシャーロットは、自堕落な夫との閉塞した日々を捨て、2人の娘を連れて西へと向かう。やがて両者の軌跡は重なり合うが、組織の殺し屋がギドリーを追っていた。今の境遇から逃れようとギドリーとシャーロット。ターゲットを追う殺し屋。それぞれの視点から、三者三様の生き方が語られる。偶然の出会いが予期しない展開を招き、それぞれの境遇を変えてしまう。主役の3人はもちろん、シャーロットの娘たち、殺し屋の運転手を務める黒人少年など、脇役の一人一人も印象に残る。最終章も、語られなかった事柄を想像させて味わい深い余韻を残す。登場人物の存在が忘れがたい作品。

No.193 7点 死神の精度- 伊坂幸太郎 2019/12/31 19:39
さまざまな趣向を凝らした六つの物語を収めた連作短編集。ある物語の登場人物が、別の物語の中に少しだけ顔をのぞかせるという仕掛けによって、最後に置いた「死神と老女」で、ある大きな感動へと導く構成が見事なので、順番通りに読んでいくのをおすすめします。クールだけど少しずれてるキャラクターが魅力の死神を狂言回しに描かれる悲喜こもごもの人生模様。死を扱いながら、哀しみだけに落とし込まない軽妙な筆致が素晴らしい。

No.192 7点 20 誤判対策室- 石川智健 2019/12/18 18:28
(架空の)誤判対策室(刑事、検事、弁護士からなる冤罪調査組織)の有馬(警視庁元刑事)が、殺人を犯して自首てきた元判事紺野と対決する物語。自白したにもかかわらず一転容疑を否認し、対面した有馬に紺野はゲームをもちかける。「私の犯罪を証明し、起訴できなければ、あなたの娘を殺害します」と。完全犯罪に自信をもつ紺野。紺野と全く接点のない有馬。一体紺野の動機は何で、何が目的なのか。有馬は誤判対策室のメンバーたちとともに調査を開始すると事件は予想外の広がりをもつ。真実と正義が必ずしも一致しない状況の中で行うべきは何なのかを考えながら、秘密の作戦を遂行していく。前作「60 誤判対策室」もけれん味たっぷりで驚きの行動で手玉に取られたけれど、今回も終盤、大胆不敵なゲームを仕掛けてきて圧倒される。単独でも愉しめるが、前作を知っていればより愉しめるし、幕切れには快哉を叫ぶことでしょう。

No.191 6点 定価のない本- 門井慶喜 2019/12/18 18:28
GHQ占領下の東京・神田神保町の古本屋街を舞台にしたミステリで、物語の発端は古書店主の事故死。崩落した古書の山に押しつぶされて亡くなっていたが、友人の古書店主の琴岡庄治が疑問を抱き調査を開始すると、不可解な事実が浮かび上がってくる。琴岡が専門に扱う古本は古典籍、つまり明治維新以前の和装本で、GHQの指令に基づく「金融緊急措置令」により華族たちが貧窮に陥り、これが一斉に放出された。この古典籍をめぐる蘊蓄、戦前から戦後にかけての古書業界の消息、さらに意外な真相をもつ事件の謎解きも面白いし、古典籍の蒐集家だった徳富蘇峰や太宰治などの実在の文士の登場もあって愉しい。随所でなされる日本の歴史観への言及も鋭く、「本を愛し、古典を愛し、そのことで国そのものを立ち直らせよう」とする当時の日本人たちの姿も印象深く見えてくる。古典は残るものではなく残すものだという思いも力強く迫ってくる。

No.190 7点 闇のしもべ- イモジェン・ロバートスン 2019/12/05 19:01
1780年、英国の田舎で一人の男の死体が発見され、発見場所の住人である提督夫人ハリエットが解剖学者クラウザーに死体の検分を依頼してきた。喉を切られた男のコートのポケットには、名家ソーンリー家の紋章つき指輪があった。ソーンリー家は、伯爵の跡取りである長男アレクサンダーが長く酒浸りとなり、当主は美貌の踊り子ジェマイマと再婚直後に倒れ寝たきり、といういわく付き。指輪はアレクサンダーの物なのか?爵位は誰の手に?男子を生んだジェマイマも含め、利害が複雑に交錯する。クラウザーとハリエットが真相究明に奮闘する一方、ロンドンの楽譜店主一家、米国の独立戦争についても並行して描かれ、暗い過去が徐々に明らかになっていく。史実が巧みに織り込まれ、物語に精彩を与えている。何よりも、偏屈なクラウザーと才気煥発なハリエットのやり取りが絶妙。

No.189 6点 モンスーン- ピョン・ヘヨン 2019/12/05 19:00
赤ん坊を失って以来、妻とぎくしゃくした関係にある夫の、知っていたのに目を背けていた真実を徐々に明らかにしていく表題作。出産間近の妻と共に、深い森がそばにある家に住むことになった主人公の、追い詰められていく神経の震えがリアルな「散策」。その他7編を収めた短編集にあるのは、繰り返される日常の倦怠と理不尽、それを踏み越えた者を襲う、悲劇と恐怖。他の誰かと交換可能かもしれない自身の生に対する疑念と諦観。嫌な話ばかりといっていいのだけれど、読むのがやめられない。昏い想像力に惹かれる方にお薦めしたい。

No.188 6点 フーガはユーガ- 伊坂幸太郎 2019/11/26 19:20
決して明るい物語ではない。それでも読み始めるとどんどん引き込まれ、最後に本を閉じた時、この世界が普段よりも少しいとおしく感じられた。主人公の常盤優我と双子の弟風我は、父親から虐待を受けながら育つ。過酷な環境を力を合わせて生き抜く彼らは、やがてある悪に立ち向かっていく。物語を駆動させるのは彼らが抱える秘密。実は2人は毎年の誕生日だけ、2時間おきに瞬間移動し、互いのいる場所が入れ替わる。一見すると突飛な設定に説得力を与える巧みな展開は、世に言う「伊坂マジック」の真骨頂。平凡な優我と、冒険心に満ちた風我。正反対な双子の成長物語は、悲しい過去を持つ兄弟を描いた初期の作品「重力ピエロ」を思い出させる。「僕の弟は僕より結構、元気です」という序盤の優我の言葉が終盤に再び語られる時、2人の深い信頼がひときわ胸を打つ。悪との対決は、繰り返し扱ってきたテーマ。主人公を単純な正義の側面に置かないのも、伊坂作品の持ち味。現実社会の厳しい問題を投影したかのような作品も少なくないが、目指しているのは普遍的で、皆が寄り添えるようなおとぎ話のような気がする。

No.187 6点 レパード 闇にひそむ獣- ジョー・ネスボ 2019/11/26 19:20
シリーズ物の主人公は大きく2種類に分かれる。境遇が安定している者と、激しく変化する者。ジョー・ネスボの描く刑事ハリー・ホーレは、後者の典型でしょう。ノルウェーの刑事という立場こそ変わらないものの、私生活や人間関係は、事件の影響で常に揺れ動いている。この作品でも、ハリーの境遇は大きく変化する。前作「スノーマン」の事件で心身に傷を負ったハリーは、休職して香港で自堕落な日々を過ごしていた。だが、母国で猟奇的な連続殺人事件が起き、帰国することに。捜査に臨むハリーの前には、新たな犠牲者が・・・。物語の中心はもちろん連続殺人犯の追跡。だが、他にもさまざまな苦難がハリーを襲う。父親のがんの進行。捜査の主導権をめぐる警察内部の縄張り争い。幾多の困難が絡み合い、緊張に満ちたドラマが繰り広げられる。舞台の広がりも忘れがたい。香港からノルウェー、さらにはアフリカへ。物語の要所に繰り広げられる、ハリーたちの生死を懸けたアクションシーンも強く印象に残る。重厚だが、激しい展開で一気に読ませる。

No.186 6点 慟哭は聴こえない デフ・ヴォイス- 丸山正樹 2019/11/12 19:26
謎解きの面白さはほとんどないが、すみずみまで神経が行き届いて読ませる。手話通訳士の荒井の視点から描く、ろう者たちの苦悩の物語。妊娠したろう者の妻と夫の困難を捉える表題作、イケメンとして人気を博すろう者のモデルの葛藤「クール・サイレント」、行き倒れたろう者の人生を荒井と刑事がたどる「静かな男」、聴覚障害者の雇用差別をめぐる法廷劇「法廷のさざめき」の4話が収録されている。これほど温かで切ない小説であるとは思わなかった。ひとつひとつの場面がこまやかで、繊細で、複雑で、奥が深い。聴こえない人々の思いがここには凝縮されている。聴こえることと聴こえないことに何と大きな隔たりがあることか。障害を抱える者も抱えない者も互いに歩み寄り、支えあうことの何と難しいことか。聴こえる者が聴こえない子供をもつこと、聴覚障害者の家庭に生まれた者たちの不安と恐れと悲しみと喜びが、どれほど深いか切々と謳いあげる。読む者の心を揺さぶる感動作。

No.185 6点 いけない- 道尾秀介 2019/11/12 19:26
ミステリー作家はネタバレを嫌うものだが、作者はこの作品を発売にあたり、自らネタばらしをするトークイベントを企画した。それほど自信作なのでしょう。4章構成で、交通事故が招く死の連鎖を描く「弓投げの崖を見てはいけない」、孤独な少年が目撃した殺人現場の真偽のあわいをさまよう「その話を聞かせてはいけない」、宗教団体の女性の死の原因を追究する「絵の謎に気づいてはいけない」と続き、終章「街の平和を信じてはいけない」では、前3章に出てきた人物たちが事件の真相を語り尽くす。前作「スケルトン・キー」では、トリッキーな仕掛けを施しながらも、殺人鬼の感覚を多種多様な比喩を使って生々しく描いた文体と鮮烈な主題が見事だったが、今回は原点に返っての謎解きの一点勝負。やや難易度が高く(だからこそネタバレのイベントが企画されたのでしょう)、再読を強いる部分もあるが、逆にどっぷりと謎解きの魅力に浸れる面白さもある。

No.184 7点 さよならの儀式- 宮部みゆき 2019/10/30 18:56
近未来を舞台にした八つの短編からなるが、登場人物はいずれも何らかの欠乏感を抱いている。巻頭の「母の法律」は、児童虐待する親から被害児童を切り離して救済する「マザー法」が制定された世界の話。保護され、善良な養父母の下で育った主人公は、しかし罪を重ねた実母に表現できない心の泡立ちを覚える。また表題作「さよならの儀式」は機械にすぎないロボットに家族のような愛情を抱く人々を冷ややかに眺める技術者の話。前者では虐待する親が、後者では冷淡な技術者が「悪人」になりがちだが、本書は単純ではない。ちょっと視点を変えると、「悪人」にも悩みや悲しみがあり、ハッとさせられる。巻末の「保安官の明日」では熟練した保安官の視線から、事件の真相が描かれている。一見、平和な地域にも住民間のさまざまな愛憎や欲望が潜んでいる。住民の全てを知り尽くしている保安官は、トラブルを芽のうちに摘み取ろうと努めるが、事態は次第に悪い方へと向かっていく。努力しても成功するとは限らない。善良な人間が正しい判断を下せるとも限らない。その事実から作者は目を背けてはいない。しかしやり直そうと努めている間は希望がある。そして努力を続けることそれ自体の中に「幸福」の種があるのだと、優しく語りかけているようだ。

No.183 7点 パリンプセスト- キャサリン・M・バレンテ 2019/10/30 18:56
誰でも「ここではない別のどこかに行きたい」と思ったことが、一度や二度はあるでしょう。この作品は、夢の中に存在する不思議な街「パリンプセスト」に魅了された四人の男女の遍歴の物語。この街に至るには、体のどこかに街の地図を持った相手と体を重ねなければならない。夢の中だけでなく「現実」パートにも魅力的な幻想が溢れ、ちょっと難解だけど、エキゾチックな空想上の日本が舞台の一つであることに加え、井辻さんの名訳により、その甘美で妖しい世界に、案外すんなりと入り込むことができる。別世界を夢見るのは、現実で満たされないからでもあるでしょう。

No.182 6点 リバーサイド・チルドレン- 梓崎優 2019/10/16 19:59
前作と同じく異国の地を舞台にしたミステリながら、初めての長編作となっている。日本人の少年である「僕」は、ストリートチルドレンとしてカンボジアの田舎にある、川べりの小屋に住んでいた。拾ったごみを売って得たわずかな金で生活する過酷な境遇だが、信頼仲間たちとの自由な暮らしに満足していた。だが、ある時を境に状況は一変。仲間が次々と何者かに殺されたのだ。作者は観光客が寄り付かないスラム街の汚れた風景を叙情的な文章でつづりながら、いくつもの謎を織り込んでいく。なぜ語り手の「僕」はストリートチルドレンになったのか。なぜ仲間は殺されなくてはならなかったのか。あまりにもやりきれない現実をつきつけられ、心がゆさぶられる。前作でファンになった方の期待を裏切ることはない一作といえるでしょう。

No.181 5点 緑衣の女- アーナルデュル・インドリダソン 2019/10/16 19:58
「湿地」に続きアイスランドの警察官エーレンデュルが主人公。建設現場で古い人骨が発見され、エーレンデュルたちは捜査を開始する。かたや妊娠中だったエーレンデュルの娘は胎盤剥離による大量出血で入院し、意識が戻らない。エーレンデュルと家族の絶望的にすさんだ関係が語られていく。さらに挿入される、ある一家のすさまじいドメスティックバイオレンス物語は暗く重苦しい。しかし事件の謎が解けたとき、誰もが悲哀とともに一筋の希望を味わうことが出来るでしょう。

No.180 6点 シーソーモンスター- 伊坂幸太郎 2019/10/04 19:19
バブル期の日本を舞台にした表題作と2050年を舞台にした「スピンモンスター」の2編を収録している。前者は嫁が姑の過去に疑惑を抱き、義父の事故死の真相を探る話で、後者は、天才科学者の遺した手紙を配達する男が陰謀劇に巻き込まれる物語。前者は400字詰め原稿用紙だと350枚で、後者は460枚とボリュームがあり(それぞれ長編1作に相当する分量)、前者の人物が後者の物語に出てきて関係するので、一冊の長編としても読める。相変わらず設定が新鮮。嫁姑の話かと思うとこれがスパイ戦の話になる(ありえない展開とキャラクターの出現に目が点になり、笑いが絶えないでしょう)。後者では、悪との対立という伊坂幸太郎的テーマが人工知能対人間という構図に置き換えられて、緊張と活劇に満ちたロードノベル的サスペンスへと昇華される。語りのうまさは述べるまでもないが、家族小説をシニカルなブラックユーモア劇(でも後味はいい)に仕立てる手腕は抜群。ひねりを加えながら近未来社会の細部を繰り上げ、ディストピア風の社会観と、永遠に繰り返される戦争の原因を感得させるのも見事。

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