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猫サーカスさん
平均点: 6.19点 書評数: 405件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.185 6点 いけない- 道尾秀介 2019/11/12 19:26
ミステリー作家はネタバレを嫌うものだが、作者はこの作品を発売にあたり、自らネタばらしをするトークイベントを企画した。それほど自信作なのでしょう。4章構成で、交通事故が招く死の連鎖を描く「弓投げの崖を見てはいけない」、孤独な少年が目撃した殺人現場の真偽のあわいをさまよう「その話を聞かせてはいけない」、宗教団体の女性の死の原因を追究する「絵の謎に気づいてはいけない」と続き、終章「街の平和を信じてはいけない」では、前3章に出てきた人物たちが事件の真相を語り尽くす。前作「スケルトン・キー」では、トリッキーな仕掛けを施しながらも、殺人鬼の感覚を多種多様な比喩を使って生々しく描いた文体と鮮烈な主題が見事だったが、今回は原点に返っての謎解きの一点勝負。やや難易度が高く(だからこそネタバレのイベントが企画されたのでしょう)、再読を強いる部分もあるが、逆にどっぷりと謎解きの魅力に浸れる面白さもある。

No.184 7点 さよならの儀式- 宮部みゆき 2019/10/30 18:56
近未来を舞台にした八つの短編からなるが、登場人物はいずれも何らかの欠乏感を抱いている。巻頭の「母の法律」は、児童虐待する親から被害児童を切り離して救済する「マザー法」が制定された世界の話。保護され、善良な養父母の下で育った主人公は、しかし罪を重ねた実母に表現できない心の泡立ちを覚える。また表題作「さよならの儀式」は機械にすぎないロボットに家族のような愛情を抱く人々を冷ややかに眺める技術者の話。前者では虐待する親が、後者では冷淡な技術者が「悪人」になりがちだが、本書は単純ではない。ちょっと視点を変えると、「悪人」にも悩みや悲しみがあり、ハッとさせられる。巻末の「保安官の明日」では熟練した保安官の視線から、事件の真相が描かれている。一見、平和な地域にも住民間のさまざまな愛憎や欲望が潜んでいる。住民の全てを知り尽くしている保安官は、トラブルを芽のうちに摘み取ろうと努めるが、事態は次第に悪い方へと向かっていく。努力しても成功するとは限らない。善良な人間が正しい判断を下せるとも限らない。その事実から作者は目を背けてはいない。しかしやり直そうと努めている間は希望がある。そして努力を続けることそれ自体の中に「幸福」の種があるのだと、優しく語りかけているようだ。

No.183 7点 パリンプセスト- キャサリン・M・バレンテ 2019/10/30 18:56
誰でも「ここではない別のどこかに行きたい」と思ったことが、一度や二度はあるでしょう。この作品は、夢の中に存在する不思議な街「パリンプセスト」に魅了された四人の男女の遍歴の物語。この街に至るには、体のどこかに街の地図を持った相手と体を重ねなければならない。夢の中だけでなく「現実」パートにも魅力的な幻想が溢れ、ちょっと難解だけど、エキゾチックな空想上の日本が舞台の一つであることに加え、井辻さんの名訳により、その甘美で妖しい世界に、案外すんなりと入り込むことができる。別世界を夢見るのは、現実で満たされないからでもあるでしょう。

No.182 6点 リバーサイド・チルドレン- 梓崎優 2019/10/16 19:59
前作と同じく異国の地を舞台にしたミステリながら、初めての長編作となっている。日本人の少年である「僕」は、ストリートチルドレンとしてカンボジアの田舎にある、川べりの小屋に住んでいた。拾ったごみを売って得たわずかな金で生活する過酷な境遇だが、信頼仲間たちとの自由な暮らしに満足していた。だが、ある時を境に状況は一変。仲間が次々と何者かに殺されたのだ。作者は観光客が寄り付かないスラム街の汚れた風景を叙情的な文章でつづりながら、いくつもの謎を織り込んでいく。なぜ語り手の「僕」はストリートチルドレンになったのか。なぜ仲間は殺されなくてはならなかったのか。あまりにもやりきれない現実をつきつけられ、心がゆさぶられる。前作でファンになった方の期待を裏切ることはない一作といえるでしょう。

No.181 5点 緑衣の女- アーナルデュル・インドリダソン 2019/10/16 19:58
「湿地」に続きアイスランドの警察官エーレンデュルが主人公。建設現場で古い人骨が発見され、エーレンデュルたちは捜査を開始する。かたや妊娠中だったエーレンデュルの娘は胎盤剥離による大量出血で入院し、意識が戻らない。エーレンデュルと家族の絶望的にすさんだ関係が語られていく。さらに挿入される、ある一家のすさまじいドメスティックバイオレンス物語は暗く重苦しい。しかし事件の謎が解けたとき、誰もが悲哀とともに一筋の希望を味わうことが出来るでしょう。

No.180 6点 シーソーモンスター- 伊坂幸太郎 2019/10/04 19:19
バブル期の日本を舞台にした表題作と2050年を舞台にした「スピンモンスター」の2編を収録している。前者は嫁が姑の過去に疑惑を抱き、義父の事故死の真相を探る話で、後者は、天才科学者の遺した手紙を配達する男が陰謀劇に巻き込まれる物語。前者は400字詰め原稿用紙だと350枚で、後者は460枚とボリュームがあり(それぞれ長編1作に相当する分量)、前者の人物が後者の物語に出てきて関係するので、一冊の長編としても読める。相変わらず設定が新鮮。嫁姑の話かと思うとこれがスパイ戦の話になる(ありえない展開とキャラクターの出現に目が点になり、笑いが絶えないでしょう)。後者では、悪との対立という伊坂幸太郎的テーマが人工知能対人間という構図に置き換えられて、緊張と活劇に満ちたロードノベル的サスペンスへと昇華される。語りのうまさは述べるまでもないが、家族小説をシニカルなブラックユーモア劇(でも後味はいい)に仕立てる手腕は抜群。ひねりを加えながら近未来社会の細部を繰り上げ、ディストピア風の社会観と、永遠に繰り返される戦争の原因を感得させるのも見事。

No.179 6点 おまえの罪を自白しろ- 真保裕一 2019/10/04 19:18
午後4時すぎに衆議院議員の3歳の孫娘が誘拐され、犯人側から要求が届く。身代金ではなく、記者会見での罪の自白だった。タイムリミットは翌日の午後5時。折しも総理がらみの疑惑を追及されていた中での出来事。議員一族と総理官邸と警察組織がぶつかり、軋みをあげていくことになる。インターネットを介した犯人側の要求と罪の自白の強要など、誘拐ものとして全く斬新。さらに家庭内のすさまじい葛藤、政治家同士の激しい駆け引き、限られた時間内での警察による懸命な捜査活動など唸りをあげていく複数の脇役にも手に汗握る。犯人に至る終盤の意外な展開と動機も考え抜かれているが、何よりも事業に失敗したさえない秘書(議員の次男)が危機管理の才能を発揮していく過程がすこぶる面白い。

No.178 6点 ネクロスコープ- ブライアン・ラムレイ 2019/09/20 19:24
冷戦下の英ソ諜報戦を背景に、死者の霊と話す能力を持った主人公の死闘を描く物語。ソ連側の同じような能力の持ち主との対決はもちろん、死者の霊、超能力、吸血鬼・・・と、雑多な要素を詰め込みながらも、特異な能力を持った主人公の成長のストーリーにまとめ上げている。スパイたちの影の戦争を土台に据えた伝奇ホラーで、長編だけで16巻に及ぶ長大なシリーズの第一巻。今後の展開に注目したい。

No.177 6点 赤の女- ダニエル・シルヴァ 2019/09/20 19:24
ロシア諜報機関の工作員が、英国への亡命直前に暗殺された。英国とイスラエルによる共同作戦の秘密が漏れていたのだ。誰がロシアに内通しているのか?イスラエル諜報機関を率いるガブリエル・アロンは、裏切り者の正体を探るうちに、ロシア側の隠された思惑に気付く・・・。いくつかの事件が起きる序盤から、裏切り者の正体を探る中盤、最後の対決と着地に至る終盤へと、読者をつかんで離さない。特に中盤に語られる裏切り者の数奇な生い立ちは、本書最大の読みどころでしょう。国家に翻弄された者の運命とその思いが、忘れがたい感慨をもたらす。

No.176 6点 はぶらし- 近藤史恵 2019/09/06 19:45
近年、一つの家で赤の他人と共同生活をする模様を描く小説やドラマに秀作が生まれている。幾多の困難があっても、最後は心温まる話へと落ち着くのが定番でしょう。しかし、流行のシェアハウスも実際には予想できないトラブルが起こるはず。ましてや、さほど親しくもなかった昔の学友と同居すると、どうなってしまうのか。この作品は、そんな状況をリアルに描き、さらに恐ろしい現実を突き付ける。脚本家の鈴音は、高校で一緒だった水絵と10年ぶりに会うことになった。待ち合わせの店に行くと、水絵は7歳の息子を連れていたばかりか、離婚したうえに職がなく、住むところもない。そんな水絵に「一週間、鈴音の家に泊めてほしい」と頼まれる。一緒に暮らし始めたものの、生活習慣の違いだけではなく、さまざまな出来事が鈴音を苦しめ、事態は悪くなる一方だった。タイトルの「はぶらし」にまつわるエピソードが秀逸。こちらの常識が相手に通じない。しまいには、相手が人の好意や優しさにつけこんでいるように思えたり、逆に自分の心が狭いと感じ、罪悪感を抱いたりする。作者は、ヒロインのそんな細やかな感情の揺れをじっくりと物語るとともに、水絵に隠された過去があることをにおわせる。先を追わずにいられない心理サスペンス。

No.175 5点 ゴッサムの神々- リンジー・フェイ 2019/09/06 19:44
バーテンダーのティムは火事で店も金の失い、兄ヴァルの強引な勧めで市警に入る。ある晩、血まみれの少女バードを保護したあと、胴体を十字に切り裂かれた少年の無残な死体が発見される。バーテンダーとして培った観察力を武器に奮闘する27歳のティムは、初々しくまっすぐで好感が持てる。ある女性への恋情や兄との確執、心を閉ざしたバードとの関係が事件の捜査と並行して丹念に描かれ、ティムの一種の成長物語にもなっている。ラストのティムの独白は胸を打った。

No.174 6点 The500- マシュー・クワーク 2019/08/22 18:50
謀略の舞台裏を描くノンストップの犯罪小説。マイケルはハーバード大学の優秀な学生だが、詐欺師の父は服役中で、がんで亡くした母の医療費を賄う借金支払いに追われて、授業料も滞りがち。そんな時、ワシントンの伝統的な戦略コンサルティング会社から声がかかる。経営者ヘンリーに目をかけられたマイケルは政界の大物たちと交流し、高報酬を手に入れ、夢の恋人までできた。しかし、ある案件に疑惑を抱いたことから、明るみに出してはならない秘密に近づきすぎてしまう。相手の弱点を探り出し自分が優位に立つために、マイケルは父親仕込みの詐欺テクニックを駆使する。その人間心理を操る手際は実に鮮やか。反目していない父子が交わす情愛が胸を打ち、聡明で伸びやかな恋人アニーも魅力的。海軍で培ったマイケルのサバイバル能力も飛び抜けていて、中盤からはアクションに次ぐアクション。手に汗握る痛快サスペンス。

No.173 6点 蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ他十七篇- 芥川龍之介 2019/08/22 18:50
蜘蛛を助けたことがある男を地獄から救い出そうと、お釈迦さまが蜘蛛の糸を垂らす「蜘蛛の糸」。仙人になるには何があっても口をきいてはならないのに、苦しむ母を見捨てられなくなる「杜子春」。トロッコを夢中でおして遠くまで来てしまい、不安でたまらなくなる少年を描いた「トロッコ」。芥川龍之介の珠玉の短編20作が収められている。「桃太郎」は有名な昔話を下敷きに、人間社会の心理を鋭く突く。昔話の方は桃から生まれた桃太郎が犬と猿、キジを連れて「鬼が島」へ鬼退治に行く話で、桃太郎はヒーローだ。だが、鬼からはどう見えるか。桃太郎が鬼退治を思い立ったのは「山だの川だの畑だのへ仕事に出るのが嫌だった」から。鬼が島は「美しい天然の楽土」。鬼たちは平和を愛し安穏に暮らしていた。桃太郎は「鬼という鬼は見つけ次第、一匹残らず殺してしまえ!」と犬、猿、キジに号令し、最後に、鬼の首長の子供を「人質」に取って帰って行った。その子は一人前になると、見張りのキジを殺して鬼が島へ逃げた。島に生き残った鬼は時々、海を渡って来ては桃太郎の家に火をつけたり、寝首をかこうとしたり。桃太郎はため息をつく。「鬼というものの執念の深いのには困ったものだ」視点が変われば、風景は一変する。土地を追われた先住民や植民地支配された国の人々にとって、ここに描かれた桃太郎は自分たちを支配する者の姿そのものだろう。侵略された側の憎しみや恨みは簡単には消えない。1924年に書かれた芥川の「桃太郎」は、今の国際社会の闇と病理をも言い当てている。

No.172 6点 座席ナンバー7Aの恐怖- セバスチャン・フィツェック 2019/08/04 18:48
精神科医のマッツは、出産を控えた娘ネレのいるベルリンへと向かう旅客機に乗り込んだ。機中でマッツの携帯電話が鳴る。相手は、娘を誘拐したと告げ、その解放と引き換えにこの旅客機を墜落させろと命じる。指示された手段は、かつてマッツの患者だった同機のチーフパーサーの心の弱点を突いて、事故を引き起こす事だった。一方、ネレは若い男に誘拐され、廃墟に監禁されていた。出産直前の彼女は、必死に脱出を図る・・・。謎に満ちた極限状況を突き付けて、読者の心をつかんで離さない。物語は空と地上で並行して進み、その中で登場人物たちの過去と、そのつながりが徐々に明かされる。目まぐるしい場面転換の中に伏線を仕掛け、クライマックスで鮮やかに回収してみせる。極めて精緻な構造で、作り込みすぎるところはあるものの、とがったアイデアで楽しませる作品に仕上がっている。

No.171 5点 凸凹サバンナ- 玖村まゆみ 2019/08/04 18:48
主人公の田中貞夫は、法律事務所を開業したものの、まともな客は1人として訪れて来ない。まずは、30年間連れ添った妻から離婚を申し渡された会社社長の依頼を受けることになった。代理人として夫婦の間を行き来するうちに、最初に聞いた話からでは到底分からなかった事実が浮かび上がってくる。そして社長の最愛の愛娘ボニータの扱いに、てんやわんやさせられる。その後もアイドル志望の小学生やキャバクラで働くロシア人の女性たちなど、ほとんど商売にならない相談ばかり受け続けた。果たして田中はまともに仕事をこなしていけるのか。ユーモアの形をまとった法律ミステリーながら、最後は予想外の展開へと流れ込む。周到な伏線がラストで効いており、軽妙なドタバタ劇だけに終わっていない痛快リーガルミステリー。

No.170 8点 去年の冬、きみと別れ- 中村文則 2019/07/18 19:09
物語は、女性2人を殺害したとして死刑判決を受けた写真家の男に、「僕」が面会する場面から始まる。目的は男を題材にした本を書くこと。取材者であるはずの「僕」はやがて、男やその周辺の人々の暗部に引きずり込まれていく。事件の真相が明かされる時、登場人物たちの隠された内面も浮かび上がってくる。謎解きを軸とした、複雑でスリリングな展開をみせる一方で、純文学作家としてこれまで追求してきた「欲望」というテーマも深めている。「しばらくは純文学の中にミステリー性をまぜる試みをしてきましたが、今回は明確にミステリーを書くと決めていた。その代わり、自分にしか書けない大人の知的な作品にしたかった」と作者は後日談で語っている。まさにその通りの作品と言っていいと思う。

No.169 5点 失踪者たちの画家- ポール・ラファージ 2019/07/18 19:08
物語の世界そのものが謎、というユニークな作品。主人公の青年は、辿り着いた街で、殺人事件の現場撮影を仕事にしている女性カメラマンに恋をする。そこでは失踪事件が多発。やがて彼の恋人も姿を消す。青年は恋人の肖像画入りのポスターを作り「失踪者たちの画家」として有名になる。しかしある日、妙な理由で逮捕され監獄に入れられてしまう。これにいくつもの奇妙な寓話が差し挟まれる。青年は恋人の失踪の謎を追っていくのだが、謎は深まるばかり。謎を解こうと苦戦する主人公と、主人公の目論見や意図をはぐらかし、突き放すような短い物語とのずれ具合が実に巧妙。

No.168 6点 復讐- タナダユキ 2019/07/02 19:54
マスコミを大きく賑わせた事件は、当事者ばかりでなく、その家族をも巻き込んでしまう。この作品は、事件によってそれぞれの人生を狂わされた者たちの「復讐」をテーマにした犯罪小説。数学教師の中井舞子は、北九州市の戸畑第一中学校へ赴任した。舞子は始業式の朝、校長から「ちょっと複雑な子」と耳打ちされた生徒、橋本晃希と偶然出会い、その暗く沈んだ瞳を目にする。ところが教室での晃希は、明るい優等生の態度を崩さなかった。やがて、ふたりの隠された過去と、それぞれが巻き込まれた殺人事件の秘密が徐々に明らかになっていく。忌まわしい過去がどこまでも追いかけてきて、逃げ場はどこにもないという点で、ふたりは似た者同士だった。だが、決定的に異なるのは「復讐」に対する思いだった。映画監督でもある作者は、地方都市の風景を丹念に描写するとともに、追い詰められた者たちの歪んだ感情を生々しく書き込んでいる。読んでいると息苦しくなるほど。また、その地方の伝統的な祭り、戸畑祇園の盛りあがりと歩調をあわせるかのようにクライマックスへと向かう展開も見事。胸に迫るサスペンスともいえる。

No.167 5点 ゴーン・ガール- ギリアン・フリン 2019/07/02 19:54
嫌な気分になるミステリー(イヤミス)の全米ヒット作で印象は強烈。失業したニックは美貌の妻エイミーと故郷ミズリー州の田舎町に移り住んで2年。結婚5周年の日にエイミーが失踪し、妻殺害の容疑をかけられる。ニックの独白とエイミーの日記が交互に登場する物語から、結婚生活ではよくある行き違い、倦怠、失望がくっきり浮かび上がる。「本物の愛とは、ありのままの自分でいることを許してくれるものであるはずだ」と自分のいたらなさを正当化するダメ夫ニックに、舌打ちしたくなる人もいるかもしれない。しかし、途中からストーリーは意外な展開に。作者の用意したラストは痛烈な皮肉なのか、愛と人生の苦い真実なのか。読者一人一人が結婚の意味について、しばし思いを巡らすに違いない。

No.166 7点 無垢なる者たちの煉獄- カリーヌ・ジエベル 2019/06/17 19:43
極めて凄惨であると同時に、ぐいぐい読ませるサスペンス。強盗と殺人鬼という二つの「悪」が対決する物語。ラファエルと弟は、2人の仲間と共に宝飾店を襲撃。宝石を奪って警察の追跡を逃れたものの、弟は警官に撃たれて重傷を負ってしまった。4人が逃げ込んだのは、村のはずれにある屋敷。ラファエルは、1人で夫の帰りを待つ女性を脅して弟の看護をさせる。一行はこの屋敷をしばらく隠れ家にしようと考えるが、やがて夫が帰ってくる。その正体は少女を狙う連続殺人鬼だった。物語の大部分は屋敷の敷地内で展開する。閉ざされた空間での、限られた人物たちの緊張がじっくりと描かれる。陰惨な暴力描写に目を背けたくなるかもしれないが、単なる過激さが売りの作品ではない。過酷な極限状態に置かれた人々の心理と、その変化を丁寧に描き出している。特に連続殺人鬼の妻の人物造形は印象に残る。上下巻を一気に読ませる、戦慄に満ちた物語。

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