海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

人並由真さん
平均点: 6.34点 書評数: 2199件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1879 6点 沈黙部隊- ドナルド・ハミルトン 2023/09/17 18:09
(ネタバレなし)
「私」ことM機関の諜報部員マシュー(マット)・ヘルムは、上司であるマックの指示で、以前に同じ任務についた縁もある女性スパイ、メアリー・ジェーン・スプリンガー(リラ・マルティネス)との接触をはかる。彼女の現在の表の仕事は、ナイトクラブ「チワワ」でのセミヌードダンサーだ。だがヘルムがクラブの客席につき、その後、彼女とのコンタクトを取ろうとした間際、何者かの投げたナイフがメアリーの身に刺さった。ヘルムより先に重傷のメアリーに近づいたのは、よく似た顔の美女ゲイルで、メアリーの実の姉だった。ゲイルは、こと切れる寸前のメアリーから何かひとことふたことダイイングメッセージを受け取ったようで、ヘルムとマックはゲイルの素性を手早く調査し、ゲイルに何らかのキナ臭い背後関係はないものと判断。ヘルムはゲイルを半ば強引に車に押し込み、メアリーの遺した言葉に関係ありそうな場所に向かうが、それは同時にメアリーが探っていた謎の敵組織をおびき出す陽動作戦でもあった。

 1962年のアメリカ作品。マット・ヘルムシリーズの第四弾。

 今回の大筋はあらすじに書いた通り、ヘルムとメインゲストヒロイン、ゲイルと二人での、謎の敵を引き寄せながらの道中行。その過程で敵の陰謀の実体(殺されたメアリーが探ろうとしていた機密)の真相などが浮かび上がってくる。思わぬ登場人物の意外な運用などもあり、その辺の工夫もまずまず。

 全体の感想としては、曲のないシンプルなプロットのなかで、一応は退屈させずに最後までよく、細部の面白さで引っ張るというか、その辺は職人作家。よくいえば本シリーズというか、作者ハミルトンの資質である、ドライなハードボイルド感は割と出ていると思う(特に、寒さが応える中、不満をいうゲイルへのヘルムの対応の辺り、事態の中で生じた犠牲者をめぐってのその後とか)。

 とはいえ一方で、ときに妙なほどにトンガった面を見せて「おお!」と思わせる本シリーズとしては、良くも悪くもまとまりがよく、地味な印象の一冊。シリーズのなかでは、決して代表作にはならない? 佳作どまりではあろう。
 見方によっては、本シリーズのふり幅の広さを、ちょっと再確認させる一本かもしれない。

 ちなみに本作が、この題名からわかるとおり、ディーン・マーティン主演の映画版マット・ヘルムもの「サイレンサー」シリーズの一本目となった。
 原作とまったく違うコメディ調のスパイ活劇映画として有名な同作であり同シリーズだが、その映画のあらすじ(評者は大昔にテレビで一回だけ観たような観なかったような……)をネットで再確認すると、陰謀の大ネタそのものは実は映画と共通で(あんまり書かない方がいいか)、その上でキャラクターの味付けと演出を大幅に変えたようなのであった。
 原作をちびちび読み進めているいまのところ、映画シリーズはわざわざ観る気はないが、いつかそのうちタイミングを見て、半ば別もの? と思いながら、楽しんでもいいかもしれない。

No.1878 7点 ブルーフィルム殺人事件- 石沢英太郎 2023/09/17 04:40
(ネタバレなし)
 評者は今回、講談社文庫版で読んだが、元版は1978年に立風書房から同じ表題作の書名『ブルーフィルム殺人事件』で刊行(現時点でAmazonにデータ登録なし)。
 内容は以下の7編を集めた、ノンシリーズものの中短編集である。

「都府楼殺人事件」(元題・天満宮殺人事件)
「浮かされた男」
「ブルー・フィルム殺人事件」
「ちゃんちきおけさ」
「秘境殺人事件」
「噂」
「縁切り地蔵殺人事件」
 
 各編はノンシリーズ編ながら、テーマはほぼサラリーマンものの社会の周辺で起きる殺人事件または事件という趣向で共通している。さらに7編のうちの6本が九州を舞台にしたものだ。

 なお文庫巻末の解説によると旧版の「天満宮殺人事件」は、単行本が出て文庫版が出るまでのあいだに九州の放送局でラジオドラマ化され、その際に物語の舞台である博多出身の声優さんが、原作の方も方言のチェックを行った。
 要は方言としてより正確に、ということでその声優氏協力のもとに改訂を敢行。文章全体が推敲され、作品名も改題されて「都府楼殺人事件」として改めて文庫に収録された。こういう別メディアがからんだ改訂の経緯などは当方には寡聞な事態で、なかなか興味深い。

 以下、簡単にメモ&寸評。

「都府楼殺人事件」
……会社中堅職の巻き込まれ型サスペンスの形でストーリーが途中まで進行するが、意外な事件の奥行きが掘り下げられていき、最後は無常観の漂う人間ドラマとして落着。純粋な謎解きものではないが、伏線の張り方や人物の配置など、かなり味わい深い。巻頭からこのレベルということで、本全体の期待値も高くなった。

「浮かされた男」
……丸の内を舞台にした、本書内で唯一の非・九州作品。日本版EQMM時代のミステリマガジンか日本版ヒッチコックマガジンに載る海外短編のような感触で、これもなかなか。

「ブルー・フィルム殺人事件」
……表題作。<ブルーフィルム(エロ映画)>という呼称の由来がグレアム・グリーンの短編によるものだということを、恥ずかしながらこれで初めて知る。人間関係の綾が絡み合う、苦みのある一編。

「ちゃんちきおけさ」
……これもクライムストーリー的な雰囲気の一本だが、まるでスレッサーかジャック・リッチーの佳作~秀作のよう。本書のなかでは、特にある種の振り切った持ち味を感じさせた。

「秘境殺人事件」
……九州の、そしてある分野へのトリヴィアがやや過剰で、本書のなかではいちばんミステリとしての切れ味は鈍いかもしれない。人間関係の反転(というべきか)など、面白げな要素もあるが。

「噂」
……会社内のとある人物(実質的な主人公)の立場の変遷を、語り役の一人称の視座から眺めて綴っていく物語。ミステリ味はやや希薄で、もっとも普通小説に近い味わいだが、最後まで読んで残るものは重い。しかし、否定的、揶揄的なニュアンスで語られているとはいえ、ある人物のセリフ「男は、やはり強姦してでも女を征服すべき」というのは、今じゃ絶対に印刷できんわな。

「縁切り地蔵殺人事件」
……玉ねぎの皮が少しずつ剥けていくように、事件の実相と外からの展望が変移していく密度感のある内容。最後の決着のつけ方も、よくできた倒叙ものミステリののクライマックスのようで(本作は倒叙ものではないが)、なかなか鮮烈。

 石沢英太郎は短編の名手、という評価をどこかで目にしたようなうっすらとした記憶があるが、ああ、なるほどと一冊読んで実感。とび外れた傑作はなかったが、佳作~秀作が集まった感触は確かにある。またそのうち、別の中短編集も手にとってみよう。

No.1877 7点 ホワイトバグ 生存不能- 安生正 2023/09/16 05:36
(ネタバレなし)
 2026年1月。南極海の洋上で、潜水調査船支援母船「なんよう」が、不測の海難事故に遭う。そしてアフガニスタンと中国を繋ぐワフジール峠では、国境警備隊が謎の敵の攻撃を受けて全滅した。さらにそのアフガニスタンの山地では、日本の気象観測隊も猛烈な寒波のなかで何かの襲撃を受けた。日本政府は、国際的な登山家である41歳の甲斐准一に救助隊への参加を依頼。識者である研究者とともに現地に向かうが、そこで彼らが遭遇したのは、全人類が対面する未曽有の脅威であった。

 文庫版で読了。
 壮大な科学ビジョンあり、活劇の要素あり、(中略)ホラーまたはショッカーの興味あり、パニックものの趣向もあり、そしてエコロジーテーマやポリティカルフィクションの成分あり、なにより人間ドラマが豊富……という、良い意味で定食的な、ニューエンターテインメント。その意味、フツーに面白い。

 よかったら、映画企画用に映像化権を買ってくれ、という映画業界に向けた作者の欲目も見える気もするが、実際に特撮大作映画として観たら、さぞ楽しめるだろう(ある種の……という面はあるが)。
 
 まあ、まとまり具合があまりにソツがなく読ませるので、少年誌か青年誌に連載されたSF漫画みたいな感じもあるが、これは悪口ではない。
 伏線の回収など、王道的にちゃんとやっているし。

 面白かったけれど、読み終えてみると、実はあまり新しいものがないのにも気づく。まあ、いいけど。
 こういう作品もたまに読むのが楽しいのは、間違いないし。

No.1876 7点 不実在探偵(アリス・シュレディンガー)の推理- 井上悠宇 2023/09/15 05:19
(ネタバレなし)
 捜査一課のベテラン刑事・百鬼広海(なきり ひろみ)を伯父に持つ、男子大学生の菊理現(きくり うつつ)。彼には現当人にしか見えない、若い女性の姿をした、声を出さないイマジナリーフレンドがいた。そのイマジナリーフレンドは、現実世界のダイス(サイコロ)の目を自在に操作(?)。1の目ならイエス、2の目ならノー、3の目ならわからない……などとの約束事にて現との意思の交換が可能で、そしてそのダイスでの表意は、常に的確な回答を用意していた(?)。百鬼自身は、その姿を見る事も声を聞くこともできないままに、甥のイマジナリーフレンドの「存在」をたしかに認め、そしてその「名探偵ぶり」を理解する。かくして、相棒の若手美人刑事・烏丸可南子とともに、未解決の事件を現とイマジナリーフレンドのもとに持ち込む百鬼。「アリス」と名付けられたイマジナリーフレンドは、ダイスでのイエスノーの会話を介して、現や百鬼たちに事件の真実(?)を導くが。

 評者は、井上悠宇の著作は「誰も死なないミステリーを君に」を買うだけ買ってまだツンドクなので、作品は今回が初読み。本作は、反響の良さげなあちこちのネットでの世評と、本サイトでの文生さんのレビューに背中を押されて、手にとってみた。

 着想の勝利という感じはかなり大きいが、同時に、王道の連作短編謎解きミステリっぽい形式を採用しながら、その連作の流れに独特な緩急をつけてある全体の構成など、さらなる送り手の工夫も効いている。
 意地悪な見方をするなら、この紙幅に比して、謎解きミステリ要素はやや希薄だ、ともいえるのだが。

 一方で良い意味で、思わぬ方向へと話が広がっていく驚きと手ごたえもあり、そんな物語世界の流れの先の着地点は、まだまだ見えない。
 確実にシリーズ化はされるであろう。

 ラノベ系の叢書の文庫ではなく、一般向けの全書の文芸本として出したのは、企画的に正解だった。ラノベミステリの形で出されていたら、なんか「ミステリというよりは、ミステリっぽい変化球のラノベ小説」という認識を世間から受けて、注目度ももっと下がっていた気もする。
(しかし、現在形の一線のミステリ作家たちの絶賛の声がひしめく帯がスゴイ!)

 評点は0.25点くらいオマケ。

No.1875 6点 殺人配線図- 仁木悦子 2023/09/14 03:07
(ネタバレなし)
 昭和30年代の東京。胸の病気(結核らしい)で一年以上も入院・療養生活を送った27歳の青年・吉村駿作は、退院後の暮らしにも慣れて、そろそろ職場に復帰しようと考えていた。そんななか、大学時代の学友で3歳年下の塩入哲夫が現れ、ある相談をする。それは哲夫の従姉妹である若い娘・塩入みどりが現在、哲夫の家に同居しているが、実はみどりの父で発明家としてかなりの資産家だった卓之助が一年前に自宅で事故死した。しかしその事故の原因の一端がみどりにあるらしいことから、彼女はいまだに父の死に責任を感じ、心を痛めている。それゆえ哲夫は吉村に、嘘でもいいから、みどりが心の枷から逃れられる「事故の真相の説明」を授けてほしいというものだった。事情を聞いて、ジャーナリストとしてできることを、と塩入一族の輪の中に入っていく吉村だが、事態はさらに深い奥行きを秘めていた。

 仁木悦子の長編第三作。角川文庫版で読了。

 なんか大昔の少年時代に読んだか読まなかったか、記憶があいまいな一冊で、そういう感じだから当然、大筋も犯人もトリックも忘れてる。ただし都内のそれなりの規模の館が舞台になることと、作中に出て来る図面などはうっすら覚えていた。途中まで読んで、なんらかの考えか事情かで中断して、何十年もそのままだったのかもしれない。

 というわけで改めて? 読んでみた一作だが、なんともつまらないような面白いような、そんな読後感だった。これが面白いようなつまらないような、ではないところがちょっとミソ。

 仁木ミステリ版「館もの」なのは、後年の新本格的な系譜に繋がる味わいがあるし、しかしそれが昭和35年の作品ということで、レトロな味にもモダンな感じにもなってないところも作品の個性。図面のガジェットや、舞台のある種の設定、さらには宝探しの興味など、手数はそれなりに多いのだが、みんなどこか書き割りの背景みたいな手ごたえの薄さを感じる。

 ただしそれが悪いというのではなく、メニューの盛り合わせの豊富さと、良かれ悪しかれも薄味さがこれはこれでバランス感を獲得し、いい雰囲気の佳作を築いた、というべきか。

 角川文庫版の中島河太郎の解説を読むと、作者自身は本作を評して、本当はもっとゾクゾクする謎解きスリラーめいたものを書きたかったのに、まるでそうはならなかった、という主旨の慨嘆をしていたようだが、ああ、その辺は本当によくわかる。でもだからこそ、この作品、妙な肌触り感で面白い面もあるんだよ。

 なお、後半、吉村がヒロインのひとりに健康な若い青年として肉欲を感じるあたりの描写は、妙に作者の屈折を感じたりもした。
 先の二冊、仁木兄妹ものを、当時の読者たちの一部に、明るい健康的な作風だとか「それって必ずしもそうでないんでない?」と言いたくなるような受け止められ方をした分、生々しい部分をきちんと押さえておきたかったんだろうね。
 世の中の趨勢が、明るい健康的な作風だとマンセーしていても、実は作者はもっと清も濁も書きたがっている。その辺の乖離は、一時期までの手塚治虫作品みたいだ。

 7点あげてもいいけど、なんかそうしちゃうと自分にとってウソになる作品。評者なりのそれなりの愛情をこめて6点。

No.1874 7点 名探偵のままでいて- 小西マサテル 2023/09/12 10:50
(ネタバレなし)
 ここまでのレビューで、誰もな~んもおっしゃいませんが
<主人公(のうちの一人)の老アマチュア探偵(小学校の元校長)、
  実はその彼は、あの瀬戸川猛資と、ワセダミステリクラブで同門で友人だった>
 ……この趣向を読んだときには、歓喜&感涙の絶叫を上げてしまいましたよ! いや、マジで。
 この設定だけで、瀬戸川ファンとしては、ご飯五杯はいけます(笑)。

 謎解きミステリの連作としては、なるほど直観推理に頼りすぎた気配のもののようなものが多く、第2話や第4話も大筋で先読み可能。
 とはいえ愛すべきメインキャラたちの動向は、なかなか好ましい。

 終盤でヒロインの過去設定がいきなり明かされ、いきなり決着したきらいはあるが、しかしこのパートでようやく老探偵の大設定がしっかり活きたという感もあり、お話としてはこれで良かったのであろう。

 最後に、フイニィの『クイーン・メリー号』からの引用のくだりは、もしかしたら、作品そのものからの出典というより、先日亡くなったばかりの石川喬司の書評「極楽の鬼」の同作のレビューの方に影響を受けてないですか? 白状してください(笑)。

No.1873 6点 ゴルゴタの呪いの教会- フランク・デ・フェリータ 2023/09/10 17:22
(ネタバレなし)
 19世紀の末にマサチューセッツ州の辺鄙な土地「ゴルゴダ・フォールズ」に建てられた教会。だがそこは20世紀の初めに初代の神父バーナード・K・ラヴェルが猟奇的な事件を引き起こしたのち、狂乱~自殺して以来、荒れ果てたままであった。そして1980年代前半、70年代の世界的規模のオカルトブームも終焉し、各国の学界での超心理学研究も冷え込むなか、ハーヴァード大学では同分野を探求する女性心理学者アニタ・ワグナーと、その恋人で(1980年代当時の)電子機器の専門家かつ超心理学者であるマリオ・ギルバートも不遇を強いられていた。そんな二人は明確な研究成果を出そうと、怪異な風聞のあるゴルゴダ・フォールズの無人の教会に研究記録用の機材を抱えて乗り込むが、そこにもう一人の来訪者としてイエズス会の青年神父エイモン・ジェームズ・マルコムが登場する。マルコム神父の目的は、ずばりこの呪われた古教会のエクソシズムで、実はゴルゴダの教会はマルコム神父の伯父だった老神父が70年代に悪魔祓いをしようと挑みながら返り討ちにあった場でもあった。マリオとアニタはマルコム神父に協力する一方、貴重な学術上の主題としてエクソシズムの記録をとらせてもらおうとする。そんな三人を、そして……を待つものは。

 1984年のアメリカ作品。
 同じ作者デ・フェリータの『オードリー・ローズ』が予想以上に面白かったし、さらに本サイトではROM大臣さんが、続く邦訳の『カリブの悪夢』もレビューくださった。
 となるとデ・フェリータの翻訳されてる作品はあとはこれだけだし(未訳の原書はまだまだあるようだが)、どんなかな、と思って古書(角川文庫の上下巻セット)を入手して読み始めてみる。

 大筋というか大設定は王道の「幽霊屋敷もの」の変種。
 登場人物は長さ(二冊あわせて600ページ強)の割にはそんなに多くなく、特に上巻などは主人公トリオの教会での描写だけで紙幅が費やされる。
 とはいえ屋内での怪異は意外に小出しで、本当にゾクリときたのは中盤で、実は教会の外の周囲の町で起きていた異常な現象が語られるあたりから。その辺から物語は、登場人物を追うカメラアイの面でもさらに、ハーヴァード大学側やバチカンの方へと広がっていくが、この辺はあまりここで言わない方がいいだろう。
 ゾクゾクワクワク感はその辺からヒートアップしていく。

 とはいえ最後まで読むと、後半「え! そっち!?」と予想外の方向に大きく切り返した『オードリー・ローズ』に比して、良くも悪くも全体的に真っ当かつ直球のオカルト・スリラーで、その辺がいささか物足りなくもあり。
 いや、全体としてはフツーに面白いし、クライマックスにはショッキングで印象的なヴィジュアルイメージのシーンも登場するけれど。

 トータルとしては、良い意味でも逆の意味でも、定食感の強い一編。
 この手のものを久々に楽しんでみたいと思い、近くに本作があったら、それなり以上には十分に楽しめる。佳作の上。

No.1872 6点 聞かなかった場所- 松本清張 2023/09/09 17:04
(ネタバレなし)
 昭和40年代の半ば。その年の3月。出世のために腐心する、農林省食糧課の係長で42歳の浅井恒雄は、最近赴任したばかりの上司・白石局長とともに神戸に出張し、土地の食品会社の接待を受けていた。そんな宴のさなか、妻・英子の妹の美弥子から突然の電話があり、その英子が急死したという。あわてて東京に戻った浅井が事情を探ると、英子は代々木の一角にある化粧品店の店舗内で心筋梗塞で死亡らしい。だが代々木の該当の町は生前の英子との接点もなく、話題になったこともない場所で、浅井はさらに細かい情報の積み重ねから、妻の死の状況に不審を募らせていく。

 「週刊朝日」に昭和45年12月~翌年4月にかけて連載された長編で、「黒の図説」シリーズの第7話。評者は今回、角川文庫版で読了。

 タイトルの含意はまさに文字通りのもので、そこから浅井は普通に愛し合っていたはずのやや年の離れた妻・英子(享年34歳)が秘密の逢瀬の場に通い、密通を働いていたのではと観測。するとその仮説を支えるように、細かい事実の数々が、予想以上の情報をはらむようになってくる。ホームズの推理を思わせるような、些事から伏在する真実をひとつひとつ探り当てる浅井の思考はなかなか面白い。まあいわゆる官僚イメージの役人にしては、あまりに柔軟に自在に浅井の頭が回りすぎる感覚はあるが。

 物語の前半は亡き妻の不倫事実の確認といるのならその相手の探索でページが費やされ、狭義での謎解きミステリの要素は薄い(それでも前述のような、主人公の推理的な思索と事実の調査の経緯の叙述で、その意味ではちゃんとミステリらしいが)。
 
 どの辺でどう、もっとミステリっぽくなるのかな? と思っていたら、やがて中盤以降で大きく舵が切られた。なるほど、こういう構造の作品だったのね。
 俯瞰して見れば、確かに清張っぽい一編である。

 後半~終盤の展開はなかなかスリリングだが、話の方向を露見させてしまいそうなので、ここでは詳しいことはカット。とはいえ、さすがにグイグイは読ませる。
 清張の長編カテゴリーの作品としては比較的薄目で、読みやすいこともあってリーダビリティは吉。佳作~秀作の中。

No.1871 6点 切り裂く手- ピエール・サルヴァ 2023/09/08 08:15
(ネタバレなし)
 結婚して22年目になる、若々しい美貌の人妻で、同年代の友人シモーヌとともにランジェリーショップを経営する、エレーヌ・クーチュリエ。彼女は夫ジョルジュを愛し、21歳の息子ダニエルと20歳の娘ナディーヌの良き母でありながら、一方でひそかに25歳の若い愛人フィリップ・マルヴィエと不倫の情事を楽しんでいた。そんなフィリップは医学生ダニエルの学友でもある。その日も秘密の情事を楽しむため先方のアパートに赴いたエレーヌだが、彼女がそこで見たのは何者かに惨殺されたフィリップの死体だった。被害者との秘密の関係の証拠を消し、黙ってその場を去るエレーヌだが、フィリップの殺害事件は、さらに思わぬ形でクーチェリエ家に関わっていく。

 1970年のフランス作品。
 
 美貌の人妻の秘密のアバンチュールに端を発し、主要人物の周囲にじわじわとサスペンスが高まっていくコテコテのフランス・ミステリ。

 本国では本書が翻訳(ポケミス)された時点でそこそこの著作数がある作者らしいが、結局のところ2020年代の現代でも邦訳はこれ一冊きりのようである。

 全体の物語はほぼ全編が主人公ヒロインのエレーヌを軸とした三人称一視点で綴られ、内面描写がされるのも彼女のみ。
 ごくシンプルな直球サスペンス(殺人の嫌疑がかからないことよりも、不倫が発覚して家庭が崩壊する方を恐れるが)で、物語の開幕から終焉までわずか4日の出来事である。

 特に衒い(てらい)もない作りの小品だが、こまめに小規模・中規模のイベントは間断なく繰り出されるので、それなりには楽しめる。
 真犯人の設定などスーダラだし、その上で先読みもできるが、それよりはクライマックスの寸前、エレーヌの内面に湧く疑念の方が面白かったかも。そっちをそのまま(以下略)。
 ブックオフで100円棚にあったら、買って読んでみてもいいかとも思います。

※登場人物の一覧表で、エレーヌの旦那ジョルジュの仕事が「工場のボイラーマン」とあるが、たぶんこれは訳者か編集の勘違い。ジョルジュの職業は明確に本文に出てこないし、一方でクーチェリエ家の若い女中ビエダットの主人がボイラーマンだと書かれているので、たぶん情報がごっちゃになったものと思われる。
 妙な種類のミスだ。

No.1870 6点 人生の阿呆- 木々高太郎 2023/09/07 21:37
(ネタバレなし)
 昭和10年前後の東京。その年の10月、製菓を主とした食品産業で莫大な財を成した大実業家・比良良三の屋敷では、とある騒ぎが起きていた。良三の26歳の三男で、祖母に大事に可愛がられて成長した遊民・良吉が、住み込みの女中・敏や(としや)を妊娠させたのではないかとの疑いが生じていたのだ。実は良吉には身のおぼえなどないことだったが、半ばこんな事態を愉快がった彼は、成り行きから家を離れて海外に向かうことになる。だが良吉が家を出るのと前後して、市井では比良ブランドの、毒入りの菓子を食べた市民が死んだらしい事件が起きる。そしてさらに今度は、比良家の屋敷の周辺で死体が見つかった。

 こんなもんもまだ読んでませんでした、シリーズ。

 言わずとしれた木々高太郎の処女長編だが、なかなか手頃な版に出会う機会がなく、昨日の古書市で「現代推理小説大系」の3巻(小栗の『黒死館』などとの混載)を安く入手。自宅に帰ってその日のうちに読む。

 ……なんつーか、犯人当てミステリもやりたい、社会派ものもやりたい、外地のエキゾチシズムも語りたい、暗号もやりたい、十八番の医療トリビアも語りたい、あげくの果ては読者への挑戦までやりたい! という正にキメラみたいな作品。

 なるほど、事実上、存在を忘れ去られる被害者とか(某・乱歩賞受賞作品みたいだ)、暗号になってない暗号とか、まとまったものの仕上がりは、決して褒められたもんじゃない。だけど、このおもちゃ箱をひっくり返して、ちらばった玩具を慌てて集めて詰め込んだ中身はなかなかイケる。

 しかも犯人の正体はかなりトンデモで(ちょっと口がムズムズするが)、かなりウケた。
 高い評点はあげられないが、楽しめたという意味では十分すぎるほど。
 7点はむずかしいけど、6点ならオッケーということね。

 なお探偵役コンビの小山田博士と志賀博士、特に後者の方はすでに短編でお会いしているが、長編ではこれが初。
 くだんの志賀博士はマジメで地味の印象の学者探偵だと思っていたら、途中で、かなり天然なブラックジョークを披露し、えー、あなたこんなキャラだったんですか、といささか面食らわせられた。

 いろいろとキライではないです。この作品。

No.1869 6点 冬の朝、そっと担任を突き落とす- 白河三兎 2023/09/05 19:01
(ネタバレなし)
 その年の一月。共学高校の2年7組の担任である青年教師・穴井直人が校舎の階上から墜落死した。7組は理系クラスで女子が少なく、穴井はそのなかのひとりと関係を持ったことが露見し、自殺を選んだと噂されていた。そして二月の末に、7組は広島からひとりの転校生の女子・中西美紀を迎える。

 あらら……白河先生は2018年の『無事に返してほしければ』以降、もう青春ミステリ路線を見限ったのかと、なんとなく勝手に勘違いしていたら、2020年にこんなガチガチの学園青春ものミステリを書いていた(汗)。

 存在に気づいて購入したのは、数か月前。読んだのは昨夜。
 しかもあの『田嶋春にはなりたくない』の主人公「タージ」こと、田嶋春のイヤーワンの物語でもある(序盤のウン十ページ目から出て来る)。

 これは読まねばならぬ、もっと早く手にすべきだったと、おのれの情弱さを軽く噛み締めながら、ページをめくったが、冒頭のプロローグは、正直、観念的すぎてよくわからない(実際、読み終わった今でもモヤモヤ感が残ってる)。

 一方で本編の中身は、連作短編をつなげていくのに近しい構造の長編で、話者が交代しながらひとつひとつの挿話がほどかれていく。一方で縦筋も感じさせる話の流れは、中盤で大きなヤマ場を迎え、相応のショックを与えた。ここら辺は正に、僕らの(いや、オレの)知っている白河作品が帰って来た、という感じ。感涙しそうになる。
 
 とはいえ後半もそういった基調は続くのだが、一方で、残りの紙幅で何を語るのか? いや、確かに(中略)の件は残っているが……とか、雑多な想念を引き寄せられる感じになる。

 ちなみにAmazonのレビューで、白河作品にかなり思い入れのあるらしいファンが非常にパッショネートな評を長々と書いているが、これがまあ、ああ、100%共感はできないが、その思いはよくわかるよ、という感じ。
 ちなみに私は、本作におけるタージの運用は嫌いではない。むしろ先行の連作短編(時系列ではそっちの方があとの物語)と並べて心のなかで咀嚼して、新たに鳥観図が築かれた思いもある(といいながら、かの連作短編集の印象も、さすがに記憶が薄れてもいるが・汗)。

 いろんな思いに揺さぶられながら読み終え、最後に澱のようなものがどっしりと受け手の中に残る。うん、白河作品はこれでいい。

No.1868 7点 そしてあなたも騙される- 志駕晃 2023/09/04 06:38
(ネタバレなし)
「私」こと沼尻貴代は、ギャンブル狂いでDV男の夫から逃げ、小二の娘・彩奈とアパートに暮らしていた。だが勤め先の電話での苦情対応業務で精神を病んで失業し、数ヶ月分の家賃を月内に払わないと母子ともども追い出される窮状だった。そんな貴代は、金策に苦労したあげく限界を感じ、街のソフト闇金に手を出すが……。

 生活苦と借金からアリ地獄に滑り落ちていく主人公のイヤンな話……とまあ、スナオに読み進むのが吉な? 一冊ですな。あとはあんまり、言わない方がいい。

 個人的には、取材で集めたのであろう借金や金融関連のネタの羅列もふくめて、なかなか楽しめた。
 佳作の上~秀作の下くらいか。

No.1867 6点 事件当夜は雨- ヒラリー・ウォー 2023/09/03 18:41
(ネタバレなし)
 コネチカット州はストックフォードの町。1960年5月12日の雨の夜に、ひとりの男が、果樹園を経営する42歳のヴィクター(ヴィック)・ロベンズを訪ねた。男は玄関先で、夜間の訪問者に応じたヴィクターをダムダム弾で射殺し、そのまま立ち去った。殺人犯は変装していたらしい? ストックフォード署の警察署長フレッド・C・フェローズ以下の捜査陣は、からみあう人間関係の網を丹念に調べてまわるが。

 1961年のアメリカ作品。HM文庫版で読了。
 
 フェローズ署長ものの長編としては、デビュー編の『ながい眠り』、未訳の「Road Block」(翻訳出してよ)に続く第三長編。
 ごひいきのシリーズで、なんとなく大事に長年とってあった一本なのでそれなりに期待して読み始めたが、う~む、期待値が高すぎたためか正直、イマイチ……(汗・涙)。

 途中の絨毯爆撃風の捜査の右往左往をしっかり描くのは、こういう方向性の警察捜査小説において、とても大事なことだと思うのだが、エンターテインメントとしては起伏が少なくて、意外にも、けっこう退屈であった(……)。
 フェローズものじゃないけど、『失踪当時の服装は』での大学での騒ぎとか、あの中盤のビジュアル的にも鮮烈な山場とか、ああいうメリハリがもうひとつふたつ欲しかった。リアル志向の作劇と、ケレン味との兼ね合い・バランスの上で、あくまでサジ加減の問題。
(しかし、こういう作りのせいか、名前の出るキャラクターが紙幅の割にべらぼうに多い。ほとんどモブキャラまで含めて、メモをとっていたら、名前を与えられた登場人物だけで100人以上に及んだ……。)

 ある意味で、今回は作者は、極力、地味目に、地に足がついた感じでなるべくやってみようと、その種の欲を出したんだろうね。

 さすがに終盤、作者が最後に何をしたいかが見えてからはグンと盛り上がるが、一方で作品の構造上、そこまでの淡々とした積み重ねの部分とクライマックスとの分断感もかなり大きかった(個人の感想です)。
 良くも悪くも結局は、犯人像の強烈さだけで、のちのち印象に残りそうな一冊という気もする。トータルとしては、失敗作とまでは決して言わないが、個人的にはお気に入りのシリーズのなかでは下の方。

 それでも本シリーズの未訳のものは、もっともっと読みたい。
 今度出るらしい論創の新刊は、非フェローズものみたいだし(それはそれで大歓迎だが)、ストックフォードの町にもっと光を!

No.1866 8点 暁の死線- ウィリアム・アイリッシュ 2023/09/01 17:56
(ネタバレなし~少なくとも事件の真実や犯人などに関しては)
 1939年のニューヨーク。都会に来て5年目。日々の生活で青春をすり減らす22歳の赤毛のダンサー「ブリッキー(煉瓦色の髪の毛からの綽名)」ことルース・コールマンは、ある夜、偶然かつ劇的に、同じアイオワ州はグレンフィールズの町出身の青年クィン・ウィリアムズに出会った。懐旧の念を交換する二人は故郷への思いが募るが、クィンにはある秘密があった。クィンの良心を信じ、相手の事情を知ったブリッキーは、すぐその夜のうちに彼のために尽力しようとするが、二人を待っていたのは思わぬ事態だった。

 1944年のアメリカ作品。
 こんなものもまだ読んでいませんでした、マイ・シリーズの第ウン弾目。

 もともと、はるか大昔の少年時代に、小学校の図書館かなんかでリライトジュブナイル版を手に取ったものの、主人公コンビが死体を見つける場面で、何らかの事情で中断。そのまま最後までは読まなかったような、そんな、うっすらとした記憶がある。


(以下、もうちょっと展開に関してネタバレ~未読の人でも、ほとんどみんな知っていることだとは思うが。)


 それでも結局、完訳版を読まずに心のどこかで敬遠していた理由は、ウワサに聞く(そして現物を今回読んで実際にそうだと再確認した)
「主人公たちがあえて自らの意志で、朝のバス発車時間までに事件を解決する」
 という<縛り>を設けたことに共感できるか否か、それへの不安が大きくあったからで。
 今でも冷静に? 考えるなら、最大級の逆境のなかで、わざわざ自分のたちの行動に敷居の高い制約を設ける思考そのものにリアリティがあるのか、と単純に問われたら、若干だけ迷いながらも、結論はノーだと思う。

 実際、評者は本作を原作にした山口百恵主演のテレビスペシャル『赤い死線』放映後に新聞かなんかに載った視聴者のテレビ評で「その夜のうちにアマチュア探偵の主人公たちが事件を解決するなど、話に無理がありすぎる!」という主旨のレビューを読んだ記憶もあり(実は『赤い死線』そのものはいまだ観ていないのだが)、話を聞く限り、その感想はまったくごもっともだと考えてもいた。

 そんなこんなもあって、実際にこのアイリッシュの『暁の死線』の現物(創元文庫の稲葉訳・29版)を前に、この数年あらためてアレコレ考えていたのは

「どうせ、アイリッシュの<あの>力強い筆力で、読んでいる間は、主人公たちの行動を説得されちゃうんだろうな。しかしもしかしたら、結局は最後に残るのは、スナオに作品を楽しめばいいものの、やはり最後にはその趣向に共感できなかった、頭の固い自分なのではないだろうか……」という怖さであった(汗)。

 というわけで、昨夜の真夜中、本当に刹那、心に生じた「とにもかくにもそろそろ読んでみるか……」という、実にか細いリビドーを必死に掴んで離さずページをめくり始め、そのまま朝の6時代に読み終えた(おお! 笑)本作『暁の死線』なのだが、結論から言うと主人公コンビの決意(覚悟)にも実働にも、そんなに違和感も摩擦感も生じなかった。
 
 これはもちろんひとえに、主人公たち、特にヒロインのブリッキーの内面をしっかり描き込み<来訪者に希望と挫折、その双方を与える大都会>への、彼女たちなりの強い愛憎の念、そしてそこから卒業したいという希求の念が真摯に語られていたからだ。

 <なにがなんでも朝6時のバスに乗る>という行為に、良くも悪くも人生の儀式的なものを感じ、本当に若干のうさん臭さを抱かないでもないのだが(なにしろ、夜中に人を叩き起こして回るかもしれない無理ゲーよりは、せめて数日~相応の時間をかけて、アマチュア探偵なりの調査をした方がいいんじゃないの? という、頭の冷えた観測がどうしても出て来る)、その辺は、あのキングの『デッド・ゾーン』における山場のジョン・スミスの葛藤「いつか?~明日だ!」までを想起し、そこで心を落着させることが叶った。

 いろいろめんどくさいが、以上は評者が本作に十年単位で抱いてきた感慨の軌跡であり、決着である。これくらい書かせていただこう。

 むしろ本作の問題の方は、主人公コンビの行動の覚悟のほどを了解し、共感がかなったとして、いくら大都会とはいえ、市民のほぼ大半が熟睡している深夜の時間帯に、関係者に次々と接触できるお話作りの、ある種の都合の良さであろう。
 たぶん先に紹介した『赤い死線』の視聴者も同様の感慨を覚えたのだろうと観測する。
 ……が、そんな一方で、主人公コンビと読者の前に続々とイベントを起こし、事件の関係者らしきキャラクターを投げ出し続けるアイリッシュの話術は、あまりにも見事であった。
 そういう事態の流れもあるのかなあ、作中のリアリティというか蓋然性として、この世界ではありえたんだろうなあ……と読み手のこちらを納得させてしまう。
(この作品で、こんなにホイホイ、深夜に関係者に接触できるのはオカシイ、と文句をつけるのは、いきなり見知らぬ招待者からインディアン島に来るよう連絡を受けた十人の十人が全員集まるのはおかしい! と糞リアリズムでケチをつけるような、フィクションを楽しむ立場のものにあるまじき愚考だと、確かに思う。)

 さらに、真相を追う上で結果、ダミーの空回りになるエピソードなども面白く、点を稼ぐ。そこらは短編的な挿話の積み重ねで長編を築くアイリッシュ(ウールリッチ)の作法が、実を結んでいる。
 同時にそんな<空振りの連鎖>という作中の現実は、好き好んで無理ゲーをやっている主人公コンビへのペナルティというニュアンスでもあり、物語全体に平衡感を授与。作品全体が改めて、そういう意味でも引き締まっていく。
 ようやく評者などもこの辺りで、本作が確かに名作だと理解、共感、納得できたのだった。

 最後、ブリッキーとクィン、どちらの追う相手の方が本命かのサスペンスも申し分ないが、結果、空振りに終わった方のキャラクターの役回りも実に味のあるもので、作者アイリッシュ、いつも残酷でひねくれもので意地悪なあなただけど、やっぱり人間が好きだったんですね、と万感の思いにひたる。
 
 長い間、読まずに放っておいた作品が、最終的にこちらの不安を払拭する秀作だったことを認めるのにもはややぶさかではないが、ブリッキーの言う「都会は千の目を持つ」という名セリフに対照されるように、本作品の陰のメインキャラクターとしてパラマウント塔の大時計の文字盤があることも忘れてはならない。
(千の「目」に対し、ひとつの「文字盤」、同じ円形のイメージのビジュアルだが、後者のみが唯一の都会でのブリッキーの友人だったという文芸も泣かせる。)

 未読の名作を読むのは楽しいな。当たりでもハズレでもそれは結果論だし、TPOの産物でもあるが、前者の方ならもちろん良い。
 
※創元文庫版の129ページに『Yの悲劇』の書名がいきなり出て来るのに驚いた。そーいや、大昔にクイーンファンダムに関わりあっていたころ、そんな話、どっかで聞いたような気もする。
 ちなみにこの箇所、ポケミスの砧訳では『Xの悲劇』になってるそうで?
(伸一兄さんがQちゃんと正ちゃんの前に、発売されたぞ、と持ってきたのは「少年サンデー」か「COM」か?)
 原書ではどうなってるんだろう。どなたか調べてください(笑)。

【2023年9月2日追記】
 本日の掲示板での弾十六さんからの御教示で、原書(電子書籍 Wildside Press 2020 版)では「X」だった旨の情報を戴きました。弾さん、ありがとうございました。

No.1865 7点 秘密パーティ- 佐野洋 2023/08/30 22:05
(ネタバレなし)
 昭和30年代の東京。バー「ソルボンヌ」の女給・夕子とその仲間3人の女性は、ママの小町芙美子に頼まれて、料亭「弥生」で夜半に開催される秘密の宴に参加する。そこには名前も素性も明かさない中年男5人と、別の女性たちが集っており、いかがわしい雰囲気が蔓延だ。だがその中のひとりがいきなり吐血して倒れ、中年男のなかのひとり、瀬川医師は、毒を呑むか呑まされるかで死んだ、と一同に告げた。その場に緊張が走り、一同、特に社会的な地位のあるらしい中年男たちは、瀬川に強引に、その死を自然死と診断するように願うが……。

 ヤフオクでまとめ買いした国産ミステリの文庫本の中古セット(ある一冊が欲しかった~相対的に相当、安く買えた)の中に入っていた、集英社文庫版で読了。

 初期の作者の代表作のひとつ、くらいの認識はあったので、どんなかな、と思いながら読んでみる。

 ……なるほど、nukkamさんのおっしゃる種類の不満は、まったくもって同感で苦笑。

 でもその一方で最後まで読んで「ああああ……こういう種類の作品だったのか!」という方向のサプライズは満喫できた。
 もちろんあんまり書けないけれど、これが原体験のひとつになったらしい斎藤警部さんのミステリライフは、ちょっとうらやましいほどで(笑)。
 佐野洋が旧クライムクラブを好きだったとかいう話は、なるほどよくわかる。

 中盤、ちょ~っとだけ、かったるかたったし、後半の切り返しが良くも悪くも唐突すぎる(キーパーソンをもっと早く前面に……とも考えたが、まあそれだと、いろいろ読み手に勘付かれてしまってよくないんだろうな・汗)などの弱点もないではないが、この真相のインパクトは確かに絶大であった。
 まあ現実世界だったら、nukkamさんのご指摘のように「そんなの最後までうまくいかないでしょ」でしょうけどね(笑)。

 佳作の上~秀作。

No.1864 8点 ガラスの橋 ロバート・アーサー自選傑作集- ロバート・アーサー 2023/08/30 05:08
(ネタバレなし)
 いまどき、こんな一冊が出るなんて! 扶桑社の発掘路線、ステキー! 小林さん、エライ!! というところで、各編の寸評。

①マニング氏の金の木
……良い意味で、フツーの「ヒッチコック劇場」の一編という感じ。

②極悪と老嬢
……これも「ヒッチコック劇場」っぽいが、こっちは「ちょっと変わった話だった、面白いけど」と視聴後に、視聴者から言われそうな内容。

③真夜中の訪問者
……実質、ショートショートというか……。オチに気を使い過ぎて、最後は、ああ、そう、という感慨を抱いて終わる。

④天からの一撃
……お子様向けの推理クイズだな。こんなのムリでしょ!? そう思って読むなら、それはそれで楽しいか。

⑤ガラスの橋
……久々に再読したが、やはり名作。犯行時のとんでもないビジュアルイメージが、(中略)ながら、どこか美しい。

⑥住所変更
……著名な、海外短編ミステリアンソロジーの、あの話を思い出した。これも「ヒッチコック劇場」系。

⑦消えた乗客
……主人公3人のキャラは良いが、不可能犯罪の短編ミステリとしては、いささかこなれの悪い出来。

⑧非情な男
……これも長めのショートショートというか、アメリカのミステリ落語かも。

⑨一つの足跡の冒険
……多重的かつ多様な仕掛けで、なかなか面白かった。真犯人の犯行時のイメージは、想像するとかなり凄まじいものがある。

⑩三匹の盲(めしい)ネズミの謎
……唯一のジュブナイル編だそうだが、サービス精神は最後まで旺盛で結構、楽しめる。レア切手マニアの富豪とのやりとりが楽しい。

 実質7点。ただし翻訳紹介企画の素晴らしさに感動して1点オマケ。次はC・B・ギルフォード辺りの短編集とか出ないかな。

No.1863 6点 空軍輸送部隊の殺人- N・R・ドーズ 2023/08/28 15:57
(ネタバレなし)
 ナチスの侵攻が、欧州各地に広がりつつある1940年。そんななか、英国ケント州の農村スコットニーの空軍基地に、民間人の女性パイロットだけの後方支援部隊「補助航空部隊」が創設された。ロンドンで犯罪心理学者として博士号を得たエリザベス(リジー)・ヘイズも三等航空士としてその仲間となるが、基地に赴任した彼女を待っていたのは訓練教習所からの仲間のひとりが、正式な顔あわせの前に何者かに惨殺されたという知らせだった。ドイツ軍の空襲時の混乱の隙をつき、切り裂きジャックのような凶行を行なう謎の殺人鬼。リジーは自分の犯罪学の見識を犯人逮捕に役立てようと、スコットランドヤードからケント州警察に出向している中年刑事ジョナサン・ケンバー警部補に協力を申し出るが。

 2021年の英国作品。
 1959年生まれの作者の処女長編で、当人は30年間の公務員生活を終えたのち、2019年から新人賞に応募して入賞、本格的な作家活動に入ったそうである。

 第二次大戦序盤の英国の田舎の世相、女性の立場が弱かった時代色、軍隊周辺の群像劇……などなどの要素をしっかり組み合わせて小説を築きながら、お話は文庫本で560ページほどの大冊。
 いやとにもかくにも一晩で読めたのだからそれなり以上には面白いし、リーダビリティも高いが、かたや何はともあれ長い。
 
 犯人の隠し方は良かったと思う所がソコソコ、これはよくないだろ、だって……と感じる箇所がそれなりに。
 冷静に見て、探偵役たちの捜査や疑念への踏み込みが、悪い意味で、作者の都合で緩和されているのでは? と思ったりした。あんまり詳しく書くと、犯人の正体を暗示しちゃいそうなので、その辺への文句はホドホドにしておくが。
(ただまあ、真犯人が判明すると、それまでいわくありげだった(それなりの存在感のあった)登場人物の数々が、いっきょに色褪せちゃう、あのパターンの作品ではある。)

 ちなみに評者は「こういう小説の作り方なら、サプライズを呼ぶ王道の流れゆえ、このヒトが犯人だな」と勘ぐって、今回はまんまと外れた。悔しい(笑)が、一方で作者の方が、先の不満も踏まえて、悪い意味で定石を外した部分も見やり、ちょっとフーダニットのミステリとしては不満でもある。

 さすがに売りの要素の大設定「戦時下の女性パイロット部隊の周辺での殺人&謎解きミステリ」という趣向そのものは、なかなか面白いとは思うし、実際に本国でも好評だったようだが、あっという間にシリーズ化されてすでに続編がさらに2冊も刊行されているというのには軽く驚いた。

 数十年後の現実で本格的な捜査科学の一分野となるプロファイリング思考をすでに先取りしていたという設定のアマチュア女性探偵レジーと、妻を寝取られた、双子の子供(もう18歳)もいる中年刑事ケンバーとの関係は、お約束の年の差ロマンスに発展。
 戦時下、大戦の戦禍がさらに拡大していくこの数年のなか、主人公コンビを次はどのような事件が待つのか、チョット気にならなくもない。
 続編の翻訳はすぐに出そうだし、また読むかもしれない。

No.1862 6点 まるで名探偵のような 雑居ビルの事件ノート- 久青玩具堂 2023/08/27 08:12
(ネタバレなし)
「俺」こと男子高校生の小南通(こみなみ とおる)はある日、雨宿りのため、雑居ビルの喫茶店「るそう園」に足を踏み入れた。そこで通は、ひとりの男性客が語る奇妙な謎に心を惹かれ、不躾とは思いながら一つの解釈を提示。当の客たちの心を動かす。だがその場には、もう一人の「名探偵」がいた。

 一部で話題のラノベ・ミステリ「探偵くんと鋭い山田さん 俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる」シリーズの作者・玩具堂が、もう一つの在来のペンネーム「久青玩具堂」で著した新作の連作短編ミステリシリーズ。
 全5本が収録されるが、最初の一本のみが「紙魚の手帖」に掲載。続く4編はみな、書き下ろしである。

 中味は、青春ミステリの大枠で、実質は日常の謎もの、しかし不可能犯罪の密室殺人にも針が振れるという、なかなかバラエティ感に富んだ内容。
 その辺はたぶん、作者が読者を飽きさせないようにサービスしているのと同時に、本人があれこれやりたいことをやっている感じで読んでいて心地よかった。
(実際、全5編、中味の多様さを楽しみながら、あっという間に読み終わっていた。)
 個人的には、その魅力的な「連続密室殺人の謎」を提供した第三話がベスト。(真相はいささか(中略)だが、まあそれはそれで、この作品の場合はアリ……か?・笑)
 それと2話のロジックというか着想は、うん、そーだよね、と、かなり共感できるという意味合いで、おもしろかった。
 ちなみに事件はみな、雑居ビルの周辺の人物から持ち込まれる形式になっている。

 あと、連作短編ミステリとしては、各話の幕引きにちょっとした仕上げの工夫がしてあり、そこら辺は人によってはなんということもないものかもしれないけれど、自分などは悪くはない作りだと思う。 

 シリーズというか、この主人公たちの物語は、まだ本当に始まったばかり、という感じで(何しろ、二人の主人公の片方の文芸設定ばかりに筆致が費やされ、もう一方に関してはほとんど掘り下げられずに終わった。まさかこれで終わりってことはないよね?)、その意味でもなかなかヒキの強い一冊。
 適度に早く続きを書いてください、ということで。

No.1861 7点 空襲の樹- 三咲光郎 2023/08/26 07:31
(ネタバレなし)
 昭和二十年八月十五日。「ワニガメ」の異名を持つ淀橋署のベテラン刑事・渡良瀬政義は、玉音放送で日本の敗北と戦争の終焉を知る。それから二週間、GHQによる警察組織改組の噂で緊張が続くなか、淀橋署の管轄の一角で、一人の身元不明の外国人が射殺された。マッカーサー元帥の正式来日が近づくなか、GHQのMPは淀橋署に圧力をかけ、さまざまな制約を課す一方で事件の早期解決を迫る。署長・上尾の指示を受けた政義は、横浜の回天特攻部隊から復員したばかりの若手刑事・須藤秀夫を相棒に、不透明な事件を追うが、彼らの前にはいくつもの壁が立ちはだかっていた。

 「第一回論創ミステリ大賞」受賞作。

 先に評者がレビューした小早川真彦『真相崩壊』と最終候補を競って勝った長編で、特異な時代ロケーションを大設定とした警察小説。

 評者はこの作者の著作は初めて読むが、すでに旧世紀から小説を著しているベテランのようで(1959年生まれ)、第二次大戦前夜や終戦直後の時代設定の長編も何冊か書いているようである。

 そんな作者の長編(くだんの大戦前後もの)に関して、Amazonのレビューのひとつで「当時の時代の情報はしっかり書かれている一方、登場人物の性格や思考がまったく21世紀の現代のもの」という主旨のものが、たまたま、目についた。
 で、正直、評者が本作『空襲の樹』を読んで抱いた感慨が、実にソレに近い。
 そしてそのこと自体は決して悪いことばかりではない(たしかに劇中人物の思惟や言動は、そういう感触の分、とても呑み込みやすくはある)のだが、たしかに何か、妙な味わいはあった。
(あまりに感度の高いフィルムで、薄暗い焼け跡の街並みを撮影しすぎて生じた、現実感を欠く違和感……とかに、近いのかも。)

 ミステリとしてはかなり入り組んだ事件の構造で、この作品も登場人物のメモを作りながら読んだ方がいい。読みやすい文章・文体で、登場人物の総数も名前があるだけで30人ちょっとと決して多くはないのだが、もしかしたら、情報の多さで後半は読み手がオーバーフローしかねない(汗)。
 とはいえ、真相の大きなものの一つは、伏線が丁寧すぎて早々に大分かりしてしまうし、さらにそんな一方で、キャラクターの配置がいささか図式的に過ぎるのでは? という面もなきにしもあらず。

 ただし、不満はあれこれ覚えるものの、結構、泣かせ込みの小説としては読ませる面白さもあった。登場人物が一部パターンと苦言を吐いた一方、実は意外に面白い運用をされているサブキャラクターもいたりする。
 
 まとめるなら、得点と減点が相応に相殺しあって、いくぶんだけ好印象の方が勝ち残るそんな昭和時代ものの警察小説の変種。少なくとも十分に佳作ではある。
 出版社の方で大騒ぎするほどのこともないとも思うけれど、クロージングの情感も良い。
 評点は0.5点くらいオマケ。

 たぶんもう渡良瀬政義に出会うことはないだろうけど、可能ならあと一冊二冊くらい、この時代設定に続く事件簿を読ませてもらいたい、と思ったりもする。

 最後に、誤植が多いのだけは問答無用に減点。
 その辺は、いかにも悪い時の論創の刊行ミステリである。

No.1860 9点 大氷原の嵐- ハモンド・イネス 2023/08/25 20:26
(ネタバレなし)
「私」ことダンカン・クレイグは、第二次大戦中に英国海軍の軽巡洋艦の艦長だったが、戦後は失職。仕事の伝手を求めて、知人のいるケープタウンを訪れた。だが当てにしていた仕事は空振りで意気消沈していたところ、現地までの飛行機で面識があった南極捕鯨船団会社の代表ブランド大佐に声を掛けられる。ブランドの用向きは、クジラを解体する大型工船と5隻の捕鯨船(キャッチャーボート)で船団を組み、南極で四カ月の捕鯨を行なうが、計画の間際になって捕鯨船の船長のひとりが負傷。代行を頼みたいというものだった。一方、南極では先行した捕鯨船団の一員で、工船支配人のバーント・ノーダルが変死。ブランド大佐は、その詳しい事情を確認するためにも出航を急いでいた。さらに航海には、ノーダルの娘で、ブランドの息子エリックの妻ジェシカも参加するらしい。クレイグは申し出に応じ、捕鯨の専門知識もないまま捕鯨船団の船長たちの末席につく。だが南極でそのクレイグと仲間たちを待っていたのは、タイタニック以来の史上最大級の海難となる未曽有の惨事であった。

 1949年の英国作品。イネスの第13番目の長編。
 1972年の元版のハヤカワ・ノヴェルズ版(現状でAmazonにデータ登録なし)で読了。
 
 冒頭プロローグの客観的かつ冷徹な、三人称視点のニュース描写が南極の極海で起きた前代未聞の海難事故の概要を描写。

 続く本筋の第一章から叙述は主人公ダンカン・クレイグの一人称視点に切り替わり、彼が巻き込まれた(ある意味で)極海での窮地とそこからの脱出行を語る。

 キーパーソンとなる人物が、ブランド大佐の息子で、本作のヒロイン・ジェシカの今は心の離れた夫であるエリックの存在。大自然の脅威に主人公クレイグとその仲間たちが晒されるなか、彼が、さらなる負のファクターとしての役回りを務める。
(ブランド父子の距離感は、ちょっと、のちのフランシスの諸作とかに出て来る、多様な親子関係の文芸性を想起させたりもする。)

 ジェシカの実父で先行した船団の中心的な人物であったノーダル、その死の真相の謎。それがそれなりのミステリ成分を提供するが、もちろん物語の主軸はそちらにはない。
 絶対危機の海難(遭難)劇のなか、あるものは斃れ、あるものは生き抜く、その群像劇と極海の脅威を活写した自然派の堂々たる重厚な冒険小説である。

 これまでこの手の酷寒もの冒険小説の最高傑作は、マクリーンの『北極戦線』とオットー・マイスナーの『アラスカ戦線』が不動のツートップだと確信していたが、これは僅差でそれらを上回る内容。
 
 移動する氷山、氷原の突然の亀裂などの臨場感、サバイバルのための知恵や工夫、移動の際にいかに体力を温存するかのリアリティ……中盤以降の絶対クライシスの状況のなかで想定される多くのことが、容赦のない、執拗なまでのデティルの積み重ねで語られる。(細かい事は言わないし言えないが、読んでいて、とことんまでに体力を奪われる……。)
 書き手はどこまで底なしに胆力がある作家だったんだという感じで、改めてハモンド・イネスという巨匠のスゴさを実感した。
 まあイネスは自作の執筆の前に、次作の舞台となる場のロケーションをみっちり仔細に、自分の足で赴いて取材し、リアリティを築くのだから、本作の場合も最初に取材や調査で得たものが大きく多く、それが作品の出来に反映されたことになる。

 間違いなく、現状まで読んだマイ・イネスのオールタイムベスト3に入る出来。『メリー・ディア』のクライマックスや『キャンベル渓谷』のしみじみしたクロージングにも惹かれるが、本作の余韻もなんともいえない。

 ネットで知ったが、アラン・ラッド主演で映画化されてるのだな、これ。そのうち、機会を見つけて観てみたいと思う。

キーワードから探す
人並由真さん
ひとこと
以前は別のミステリ書評サイト「ミステリタウン」さんに参加させていただいておりました。(旧ペンネームは古畑弘三です。)改めまして本サイトでは、どうぞよろしくお願いいたします。基本的にはリアルタイムで読んだ...
好きな作家
新旧いっぱいいます
採点傾向
平均点: 6.34点   採点数: 2199件
採点の多い作家(TOP10)
笹沢左保(31)
カーター・ブラウン(23)
フレドリック・ブラウン(18)
アガサ・クリスティー(17)
評論・エッセイ(16)
生島治郎(16)
高木彬光(14)
草野唯雄(14)
ジョルジュ・シムノン(13)
佐野洋(12)