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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 唇からナイフ 淑女スパイ モデスティ・ブレイズ |
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ピーター・オドンネル | 出版月: 1966年01月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
講談社 1966年01月 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | 2023/12/21 18:03 |
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(ネタバレなし)
1960年代の半ば。英国政府は中東の小国で産油国「アラウラク救主国」と取引し、石油発掘権を獲得。だが救主国の支配者であるアブ・クーヒル救主の希望で、支払いは一千万ポンドの価値のダイヤ現物の譲渡で行なわれることとなった。しかしその情報を聞きつけた、国際的な裏世界の大物ガブリエルの一味が暗躍。本件の機密ミッションを推進する英国情報部の部員を前線で暗殺し、ダイヤの奪取をはかる。英国情報部の要人タラント卿は、弱冠26歳ながら何年も前から地中海周辺の暗黒街を束ねる「犯罪結社のプリンセス」と異名をとる美女モデスティ・ブレイズに接触。タラントはモデスティに、彼女の元相棒で今は南米の刑務所に収監中の男ウィリアム(ウィリー)・ガーヴィンの情報を与えて貸しを作り、その見返りにガブリエル一味からのダイヤの警護を依頼しようとするが。 1965年の英国作品。 「淑女スパイ」モデスティ・ブレイズシリーズの第一弾。 1960年代のイタリア映画界で国際派女優だったモニカ・ヴィッティ(ビッティ)の主演で映画化もされ(映画の邦題は小説と同じ)、日本語DVDも出ているが評者は未見。 ただしなんかカッコイイタイトルは大昔から気になっており、さらに、実はこのシリーズの邦訳二冊目『クウェート大作戦』を先に入手していたので、どうせならこのシリーズ一作目から先に読もうと、何年か前から、手頃なお値段の古書を探していた(古書価の相場はけっこう高い作品である)。 それで今年の秋になってようやくそこそこのお値段の古書をネットで買えたので、一読。 まあ気になる作品は、なにはともあれ読んでみよう。 内容に関しては大枠で言うなら、007ブーム時代の欧米ミステリ界に登場したスパイ版ハニー・ウェスト、程度の認識でまあいいのだが、実作を読んでみると、モデスティを本筋のミッションに引き込むための段取りとして、英国情報部がお膳立てしたガーヴィン救出作戦をちゃんと序盤の見せ場とするとか、けっこう丁寧にストーリーは綴られている。 読み進むうちに過去の情報が徐々に浮かび上がってきて、モデスティやガーヴィンのキャラクターが見えて来る筆致も悪くはない。肝心の、なんでモデスティがそこまでスーパーレディなのかの説明も、ちゃんと必要十分に語られているし。 あとホメるところして、銃器や刃物類の武器の考証がそれっぽく綴られ(武器マニアが仔細に検証した際に合格点をもらえるかは知らないが)、デティルにリアリティがあること。神は細部に宿るというなら、その辺でもそれなりに得点している作品ではある。 問題なのは、中盤からのお話(全体のプロット)が一本調子で、ゴールラインに向かう直線的な流れをほぼ辿っていくだけという作劇なこと(……)。 それとモデスティのいわゆる「007的スパイ道具」が活用されるのは、そういう趣旨の作品だからそれ自体はいいのだが、敵の手に落ちてもそのまま、密な身体検査も全部の衣服の強制的な着替えも強いられず、そのまま全身に隠してあった武器やアイテムを反撃の手段として使いまくるというのは、う~……となった。いくらほぼ60年前の旧作とはいえ、これはちょっと主人公側に甘すぎる。 (その辺のユルさもあって、後半~山場はうっすら眠くなった・汗。) いやまあ、モデスティ視点で相棒ガーヴィンとは別個に、彼氏格の青年画家ポール・ハガンがいて、なかなか微妙なキャラ関係になるあたり、さらにその関係の行く先は、なかなか(中略)でいいんだけどね。 (ちなみにその辺の三人の相関は三角関係的な生々しいものではなく、最後まで当事者たちはサバサバした間柄で通し、その辺もよい。) モデスティの気風の良さ、ヒロイン主人公としての男前ぶりはそこそこ。悪くはない。ガーヴィンもハガンもそれにタラント卿もバイプレーヤーとしてまあ合格。 とにかくお話の曲のなさ、悪い意味での直球ぶりで、う~む……な作品である。 最後までしつこく丁寧な小説の叙述は、けっこうイケるんだけれど。 シリーズ二冊目は良い意味で期待値を下げて、手にとってみたいと思います。 |