皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
青い車さん |
|
---|---|
平均点: 6.93点 | 書評数: 483件 |
No.323 | 5点 | 点と線- 松本清張 | 2017/01/08 21:53 |
---|---|---|---|
遠回しのネタバレのようなコメントになりますが、この数年後に鮎川哲也が本作と重なるポイントの多い長篇を書いています。事件背景にある汚職、心中偽装、犯人の設定など偶然とは思えないほど似通っています。
それでいて気になるのは、僕から見てすべてにおいて後続の方が優れていることです。『点と線』はメインのアリバイトリックが案外と大雑把であったり、刑事たちがちょっと考えれば思いつきそうなことに気付かないなど、粗探しするといくつも弱点が浮かび上がってきます。 有名な「空白の4分間」の謎も、ヴィジュアル的には魅力があるものの、実効性に関しては大いに疑問があります。歴史的価値で評価が高く修正されているきらいがあるのではないでしょうか? |
No.322 | 8点 | 龍は眠る- 宮部みゆき | 2017/01/08 21:29 |
---|---|---|---|
超能力少年なんて言葉にすると安直すぎるような題材も、宮部さんにかかればここまでユニークな作品に仕上がるんですね。能力を説明するディテールの作り込みもさることながら、プロットへの絡ませ方がとにかく上手く、さすがの一言です。
語り手・高坂や脇を固めるキャラクターの人間臭さも魅力で、軽い文体とも相まってその長さとしては驚異的ともいえるスピード感を生み出しています。佳作・傑作の多い作者の中でも高ランクに位置する出来です。 |
No.321 | 8点 | オルゴーリェンヌ- 北山猛邦 | 2017/01/06 22:14 |
---|---|---|---|
シリーズ2作目にして世界観が決定的に完成されている感がありますね。今回はオルゴールをモチーフにしたファンタジー風味が効いています。
ミステリー的にもなかなかの出来です。特に、三つの殺人それぞれに工夫を凝らした物理トリックを用意しているあたりに、作者がデビュー時から貫いてきた拘りが読み取れます。三番目の殺人の成功率にはやや疑問もありますが、そこも許容範囲内です(作品世界から言って多少のラフさもマッチしているのかもしれません)。 意外な犯人と切なさの残る幕引きまで印象的で、北山猛邦の新たな代表作と言えると思います。 |
No.320 | 6点 | 少年検閲官- 北山猛邦 | 2017/01/06 21:44 |
---|---|---|---|
あらゆる書物が取り締まられる、架空のイギリスで繰り広げられるファンタジー・チックなミステリー。
正直なところ、それまで北山猛邦という作家を失礼ながらナメている節があったのですが、『アリスミラー城』の頃より確実に文章が上手くなっているように感じ、認識を改めました。 肝心の内容の方も充実しています。特殊設定をしっかりと絡めた事件とその解決の手際が見事でした。トリックそのものはバカミスにも分類できそうであるものの、そこも本がない世界ならではのものです。 しかし唯一、犯人の人格及び動機がやっていることと釣り合っていないところだけが若干のマイナス要素です。動機の甘さは昔から変わってないように思えます。 |
No.319 | 9点 | ドグラ・マグラ- 夢野久作 | 2017/01/06 20:01 |
---|---|---|---|
所謂「三大奇書」のひとつとして名高い『ドグラ・マグラ』は、その名に恥じない特異なパワーを秘めています。
後半の方は殆ど休みを入れることなく読ませる勢いがあり、読了した直後、頭にクラクラが襲ってきました。 とにかく筋立ての破天荒さが凄まじく、通常の物差しでは測れない大作にして怪作です。優劣はわかりませんが、こんな小説は他に知りませんし、歴史に名を刻むのも納得なので、そこを汲んでの9点です。 でも、人に堂々とおすすめできるような作品ではけしてなく、読んでて楽しいというより読み終わっての達成感の方が強く、相当な覚悟のいる本でもあります。 |
No.318 | 8点 | ジェリーフィッシュは凍らない- 市川憂人 | 2017/01/02 21:36 |
---|---|---|---|
SF要素ありの本格推理小説と聞いていましたが、難解な説明は殆どなく、難しいワードを飛ばして読んでも差し支えないためけして敷居は高くありません。
上空のジェリーフィッシュ内でのサスペンスと、地上での捜査を交互に見せることで、事件の背景が徐々に明かされると同時に謎が増幅するプロットが上手いです。「発見された六人が全員他殺であった」謎は物語を十分魅力的に引っ張ってくれ、最後の最後の解明に至るまでテンションを保って読むことができました。 トリック的には『十角館の殺人』に近いものですが、題材をうまく応用した良作で、ちょっと異質な幕引きも印象的でした。 |
No.317 | 7点 | 殉教カテリナ車輪- 飛鳥部勝則 | 2017/01/02 21:13 |
---|---|---|---|
とにかく絵画を題材に持ち込んだ挑戦的な作風がユニークです。偶然成立したタイプのトリックは本来あまり歓迎しないのですが、その答を自然に導き出す推理と、気の利いた叙述のテクニックも相まって高い完成度を誇っています。抑制のある文章も処女作とは思えないほど洗練されており、受賞作にふさわしい出来と言えます。 |
No.316 | 5点 | あいにくの雨で- 麻耶雄嵩 | 2017/01/01 18:15 |
---|---|---|---|
もっと前に読んだなら満足できたのでしょうが、麻耶雄嵩作品に慣れた今の基準でいうと決定的なインパクトに欠けて、物足りなさが残りました。エキセントリックな学園と生徒が出てくる事を除けばごく普通の密室もので、連続殺人の動機も想定内。麻耶さんにはもっと複雑怪奇でひねくれたプロットをどうしても求めてしまいます。 |
No.315 | 6点 | ニッポン硬貨の謎- 北村薫 | 2017/01/01 18:06 |
---|---|---|---|
ロジックにあまりに飛躍が大きく、ストレートに本格推理小説として見るならば、正直あまり出来は良くありません。しかし、真の見どころはエラリー・クイーンへの愛と敬意に溢れた文体模写、そして評論のパートです。
『シャム双子の謎』は、国名シリーズの中でもお気に入りなのにあまり芳しくない評価もあって寂しく思っていたのですが、北村さんのシャム双子論にはこういう読み方ができるのか!と驚嘆させられました。書評家というのは面白い読み方をするもんです。クイーンを読みこんだ人ほど楽しめる一冊です。逆に言えば、全然知らない人からしたら面白くもなんともないのも事実なので非常に読者を選びそうです。 |
No.314 | 7点 | 模像殺人事件- 佐々木俊介 | 2017/01/01 17:50 |
---|---|---|---|
本格ミステリ・ベスト10ランクイン作品を網羅していこうと思い立ち、近所の図書館で借りました。
なり替わりネタは手法としては既に古く、『犬神家の一族』のような名作の先例があるので今さら面白くは料理できないように思えますが、大胆なツイストを利かせた使い方は完全に盲点でした。そして、その大胆なトリックが意外にも隅々まで考え尽くされているなかなかの佳作です。古めかしさを漂わせた筆致も好みでした。 |
No.313 | 10点 | 匣の中の失楽- 竹本健治 | 2016/12/31 22:47 |
---|---|---|---|
本日、今年最後の本として読み切りました。
仲間内の小説の通りに殺人事件が起きる展開は、割とベタで、そしてだからこそ強く惹かれる導入です。しかし、前の章で殺されたはずの人間が普通に登場してきたあたりから、その異様な構成と展開に読者は翻弄されることになります。作中作という、ミステリーではお馴染みのガジェットの究極のかたちとでも言うべき仕掛けです。しかし、そこは第四の奇書と言われるだけあって、「ああ、あの章は作中作だったのか」と理解しても、掴みどころのなさは変わりません。現実と虚構の境目がわからない、ミステリーの型を壊している書き方は、ただ叙述トリックに使う目的で作中作を使う他の小説とは一線を画しています。 また、当時22歳の作者の熱が詰め込まれたように過剰な、密室の数々と濃密なディスカッションも大きな特徴です。「付き合ってられん」と投げ出す人も多そうですが、僕は大喜びで読めました。人物の書き分け不足云々といった紋切り型の批判をものともしない勢いがあります。トリックはどれもさほど新しくない、もしくは小粒ですが、構成の妙で圧倒するタイプの傑作です。評価が分かれるのは当然でしょうが、100人いて100人が支持する作品などあり得ませんし、これだけ尖がっていなければ今なお読まれ続けることはなかったでしょう。 |
No.312 | 8点 | 王とサーカス- 米澤穂信 | 2016/12/31 22:11 |
---|---|---|---|
『さよなら妖精』の太刀洗万智が主人公として再登場したことでファンを驚かせ、その年のランキングを総なめにしたヒット作です。舞台ネパールの生活描写が充実しており、程よい情緒を感じます。
事件の内容と推理の方はまずまず。つまるところ犯人は誰が唯一機会を有していたかがカギで、アクロバティックな論理展開は特にありません。目玉と言えるのはむしろその先にある反転で、さりげなく張られたそれを示唆する伏線も作者の安定した実力を見せつけています。同時にその反転が重く苦い問題提起に連結しているのも完成度を高めている要素です。 でも、これが作者の中で突出した出来かというと、そうとは言い切れないとも思います。まとまりの良さは評価に値するものの、突き抜けたパワーはないですし。本作で作者が一皮剥けたというより、ようやく正当に認められるようになってきた証拠がこの高評価というのが正しいのではないでしょうか。 |
No.311 | 8点 | 仮面幻双曲- 大山誠一郎 | 2016/12/20 21:51 |
---|---|---|---|
こちらの思い込みを逆手にとったキレのある双子トリックに痺れました。プロローグから罠を仕掛ける抜け目のなさも憎いです。難点は、相変わらず人物描写が弱いこと、犯人の行動に不合理があり、すべて面白いトリックを使いたいがために書かれたかのような印象を受けることです。ただ、それでも短めな長篇にこれだけ多様なネタを詰め込んだ贅沢さは評価されていいはずです。 |
No.310 | 6点 | テニスコートの謎- ジョン・ディクスン・カー | 2016/12/13 19:49 |
---|---|---|---|
このサイトでは散々な評価が目立ちますね……。僕はバカバカしくもカーらしさ満点なのがお気に入りで、一定の水準はクリアしていると思います。被害者の操りの口実が書かれた年代を考えると無理がある気もしますが、犯行の瞬間をヴィジュアルで想像するとなかなか派手です。ただし、前半のテンポの良さと比べて後半に失速を感じますし、第二の殺人に至っては明らかに水増しで、説明がおざなりになっているのが大きくマイナスです。まあ、とはいってもそんな粗さもカーらしいといえばカーらしいのですが。 |
No.309 | 7点 | 魔女の隠れ家- ジョン・ディクスン・カー | 2016/12/13 19:41 |
---|---|---|---|
アリバイ工作プラス罪のなすり付けという一石二鳥の犯行方法はさほど斬新ではないものの、よく考え込まれていて全体的にかっちりした出来となっています。怪奇趣味も程よくムードを盛り上げるのに成功しており、フェル博士最初の事件としては言うことなしの佳作です。初めてカーを読む人に強くおすすめできます。 |
No.308 | 6点 | 最上階の殺人- アントニイ・バークリー | 2016/12/01 19:16 |
---|---|---|---|
バークリーの隠れた佳品という書評をいたる所で見ましたが、僕はあまりしっくりこなかったのでちょっと意外でした。作者のクセの強さが顕著に表れたオチですが、似たような逆転を同じ作家にこれだけ多用されると食傷気味になってしまいます。ドラマチックな推理に比較して真相の方が面白くないというのはミステリーに対するシニカルな問題提起とも取れますが、素直に面白かったとは言い難いです。ただ、クライマックスのインパクト大な描き方は見事でした。 |
No.307 | 7点 | 四つの署名- アーサー・コナン・ドイル | 2016/12/01 18:58 |
---|---|---|---|
NHKで、巧みなオマージュを随所に散りばめた人形劇「シャーロック・ホームズ」を手掛けた三谷幸喜氏が言ったように、ホームズシリーズは推理小説というより、名探偵のキャラを楽しむクラシカルな冒険活劇ではないでしょうか。そういう意味では、本作もまたすばらしい輝きを放っています。クライマックスの船での追跡には痺れました。さらにはワトスンとメアリー・モースタンとのロマンスまで取り入れて、実に贅沢な仕上がりです。 |
No.306 | 7点 | 緋色の研究- アーサー・コナン・ドイル | 2016/12/01 18:51 |
---|---|---|---|
意外と本サイトでは辛めの採点が多いですね。僕はホームズ、ワトスンふたりの出逢いとその最初の活躍が読めた感慨もあり、クオリティはともかくかなりのお気に入りです。事件の内容は血文字にしろ、足跡にしろ本当に取るに足らないものです。しかし、ホームズが独自の思考をこれでもかと披露するワトスンとのやりとりにむしろ魅力を感じたし、そこが真の読みどころだと主張したいです。 |
No.305 | 7点 | 水魑の如き沈むもの- 三津田信三 | 2016/11/27 23:02 |
---|---|---|---|
作者の癖(?)である説明パートの重さは正直ちょっと苦手だったのですが、今回は割りと気になりませんでした。シリーズお決まりである、くどいほどの多重解決も読み応え満点です。全体としてリーダビリティが格段に向上しており、730頁の厚さをこれだけの勢いで読ませてくれるのは作者の確かな実力でしょう。ただし、他の方もおっしゃるように、最終的な解決がやや強引に落ち着いてしまったのだけが若干のマイナスポイントでした。最初の水魑様の増儀での殺害トリックはやや説得力を欠いているのが否めません。 |
No.304 | 8点 | マリアビートル- 伊坂幸太郎 | 2016/11/27 22:42 |
---|---|---|---|
最初から最後まで物語が新幹線の中でのみ進行していく、異色のエンタメ小説。トーマス好きと文学好きの殺し屋コンビ、とことん運のない気弱な殺し屋、世の中を達観したようなサイコ中学生と、相変わらず人物の書き分けは楽しませてくれます。個人的には前作グラスホッパーの人物の再登場や、意外な脇役の痛快な活躍がツボでした。ストーリー・テリングはさすがの一言で、そこそこの長さながら、飽きずに読ませる展開の妙がすばらしい快作です。 |