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パメルさん
平均点: 6.14点 書評数: 571件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.15 7点 春から夏、やがて冬- 歌野晶午 2024/04/10 19:27
第146回直木賞候補作。スーパーで保安員をしている平田誠は、万引き犯の末永ますみ捕まえるも、警察に突き出すことはしなかった。そのことに恩義を感じたますみは、彼に近寄っていき交流が始まる。平田には、ますみと同い年の娘・春夏がいたのだが、轢き逃げ事故で亡くしていた。平田は、ますみを失った娘・春夏の姿を重ね、彼女を見捨てず手を差し伸べる。
平田は、辛い過去を背負い自らを責め、生きることすら諦めている。自責の念に苛まれる平田を救うために、ますみはある行動を起こす。この行動が哀切に満ちた結末を導くことになる。ますみの行動に賛否両論あると思うが、不器用ながら一生懸命考えたのだろうと伝わってくる。お互い相手を思って実行した結果が、あの結末と考えると胸が痛くなる。解き明かしてはいけない真実、ささやかな絆で結ばれた二人が、それぞれに向けた思いは償いのためか、救済のためか。誰が救われ、誰が心の安寧を得たのか。それでもアンハッピーとは言い切れない揺らぎが静かな余韻を残す。
謎を解き、真相を暴くミステリとは明らかに異なる、人の心がいかに深い階層を持っているかを突き付けられる優しくも残酷な物語。

No.14 7点 安達ヶ原の鬼密室- 歌野晶午 2023/10/05 06:47
「こうへいくんとナノレンジャーきゅうしゅつだいさくせん」いきなり可愛らしいイラスト付きの子供向けと思われる物語が始まる。(全てひらがなとカタカナで)二人の子供は井戸に大事なオモチャを落としてしまう。
「The Ripper with Edouard -メキシコ湾岸の切り裂き魔」メキシコに留学中のナオミが、歓迎パーティで酒を飲み記憶を飛ばした最中、死体の発見者になる。この事件に深入りしていくが。
「安達ケ原の鬼密室」8月15日の敗戦を先に控えた8月のある日、疎開先から少年が脱走し、何日か歩いた末に疲れ果て倒れたところを屋敷で保護され看護を受ける。そして次々と起こる惨劇に巻き込まれる。途中で現代に移り、そこでも事件が起きる。
表題作の後に他の二つの解決編が収録されているという変わった構成。
以上の四つの事件が絡んでくるが、トリックは共通していて、ある力を利用しているところにある。その力のトリックに既視感はあるが、あるものを使い時限装置に仕立て上げ、工夫している点は評価していいのではないか。また、屋敷の構造を鮮やかに説明するトリックや、叙述トリックも見事にはまったりもしている。メイントリックの●●の痕跡は絶対に残るはずなので、多少腑に落ちなく気になったところだが、屋敷を作った理由自体は納得できるものだった。

No.13 6点 間宵の母- 歌野晶午 2022/12/28 08:01
間宵紗江子の養父である夢之丞は、端正なルックスとやわらかな物腰、さらにお菓子作りやクレーンゲームが得意で、子供たちだけでなく母親や教師たちにも大人気。また、紗江子のクラスメイトを前に彼が披露する物語は現実のものとなり少女たちを楽しませる魔法使いだ。しかし彼は、紗江子の親友である詩穂の母親と時期を同じくして失踪してしまう。それを機に紗江子の母は精神の均衡を失ったような行動を繰り返し、詩穂の父は我が子を虐待するようになる。ここまでが四部構成の第一部に当たる部分。紗江子と詩穂は成長し、それぞれの人生を歩んでいくが、幼き頃の事件が常に影を落とすのである。
不倫、駆け落ちの定型を激しく歪める要素が散りばめられているのが大きな特徴で、話の序盤で読み手の気を引く養父の操る魔法はその最たるもので、その後も得体の知れない現象の数々が物語を怪しく彩っていく。ホラー展開で幻想めいた事象のなかに巧妙に伏線が埋め込まれた本格ミステリとしての謎解きの魅力もあるが、解明の先に見える世界は決して明るくない。一筋縄ではいかない、作者独特の後味の悪い世界観が強烈に刻印された、狂気が渦巻く物語を堪能できる。イヤミスが苦手な人にはお薦めできないが。

No.12 4点 密室殺人ゲーム・マニアックス- 歌野晶午 2022/03/09 08:15
頭狂人・044APD・axe・ザンギャ君・伴道全教授。奇妙なハンドルネームを持つ五人が、ネット上で仕掛ける推理バトル。出題者は実際に密室殺人を行い、トリックを解いてみろとチャットで挑発を繰り返す。謎解きゲームに勝つため、それだけのために人を殺す非情な連中の命運は、いつ尽きる?
「Q1六人目の探偵士」東京で被害者が撲殺された時、犯人のaxeは名古屋で警察官に交通違反の切符を切られていた。密室トリックとアリバイ崩しがテーマ。トリックに思わず唖然。
「Q2本当に見えない男」犯人の頭狂人は、いかにして目撃されることなく犯行を成し得たか。使い古された小道具トリックで脱力系。
「Q3そして誰もいなかった」Q2の頭狂人に対抗した「見えない人」をテーマにしている。オチはしてやられたと思うか、本を投げつけたくなるか賛否両論でしょう。個人的には後者。
第三弾となるこのシリーズも、さすがにネタ切れなのかという感じ。個々の事件に面白味が無いし、真相のインパクトの点でもかなり弱くなっている。

No.11 6点 ハッピーエンドにさよならを- 歌野晶午 2021/06/26 08:37
タイトル通りハッピーエンドには終わらない、ショートショートと短編を合わせて11編が収録されている。その中から6編を選んで感想を。
「おねえちゃん」親は私にだけ厳しい。お姉ちゃんにはすごく甘いのに。高校生の理奈が叔母である美保子に相談を持ち掛ける話。最後にどんでん返しがある救いのない話。
「サクラチル」真向いの家の常盤さんの奥さんは、いろんな仕事を掛け持ちをしていて大変そうだ。それもご主人が働かないためらしい。よくあるパターンだが上手く出来ている。
「防疫」水内真知子は、世間一般に言う教育ママだった。いつしかそれは教育ではなく、躾のレベルも大きく超えていた。このように受験に取りつかれている人は結構いるのではないか。
「玉川上死」玉川上水を人間の死体が流れていると通報があり、警官が駆けつけるが。いろいろなことが一気にひっくり返る。どんでん返しのお手本のような話。
「殺人休暇」合コンで知り合った男と関係を持ってしまった私。しかし、それは大きな間違いだった。世に言うストーカーとは少し違うのだが怖い。狂気に取りつかれた男の描写がいい。
「尊厳、死」ムラノは、いわゆるホームレスだった。仕事が無いというのではなかったが、働く気が無かった。よくあるパターンだが、良く出来ている。最後に一瞬でどんでん返しが決まる。
全体的に悪くはないが、少しあっさりした印象。

No.10 7点 家守- 歌野晶午 2021/03/22 08:38
家を守ると言えば「ヤモリ」が思い浮かぶが、人が家を守るとはどういう事か。家にまつわる捻りの効いた本格ミステリ5編を収録した短編集。
「人形の家で」過去の嫌な記憶や事件の真相が幻想的な趣向を含めて暴かれていく展開が楽しめる。
「家守」完全犯罪の崩壊と「家」の封印からの解放の重奏を奇抜な殺人トリックが彩る。
「埴生の宿」認知症の話し相手をするだけという好条件のアルバイトが奇矯な死を招く。
「鄙」官能小説家の兄弟が遭遇した田舎医者の事件カルテ。時代背景、人里離れた集落だからこそ起こりうる真相にゾッとする。
「転居先不明」都会に引っ越してきた夫婦が、晒される好奇な目の正体とは。安すぎる物件の罠が巡る真相。ブラックなオチが痛快。
「家」といいうテーマの縛りもあるが、何より各話が二重構造になっているという凝りように感心させられる。いずれもミステリとしての企みに満ちながら、執着と葛藤がせめぎ合う。抒情と郷愁、因習と因果、皮肉と諧謔といったツボを押さえ、予想外の方向へ導いてくれる。

No.9 6点 Dの殺人事件、まことに恐ろしきは- 歌野晶午 2020/08/29 09:23
江戸川乱歩作品のトリビュートに挑んだ7編からなる短編集。
スマホやSNSをはじめ、最新のテクノロジーが重要な役割を果たしており、人間の狂気や狡猾さもバージョンアップした、懐古趣味に留まらない刺激的なリニューアルが施されている。どう現代的なアレンジを加えていったのかを確認するごとに、作者の感性と技巧に唸らされるばかり。
どの作品も、まともな人間が一人も登場することなく、シュールでブラックさが際立ち、情け容赦のない結末で後味悪い読後感を残す。救いのなさが増幅されている感じ。イヤミス好きな方はぜひ。
本作を読み、江戸川乱歩という作家及びその作品群は、それ以後のミステリ作家に計り知れないほどの影響を与えているのだと改めて思いました。

No.8 6点 密室殺人ゲーム2.0- 歌野晶午 2020/02/24 09:59
前作の続編ということもあり、当然ながら構成もほぼ同じで、推理マニアたちが実際に殺人を犯し、それをネット上で問題を出し合い、解き明かすという推理合戦のような設定。
六編からなる連作短編集。その中で面白かったと思った2作品の感想を。

「切り裂きジャック三十分の孤独」・・・とても気持ちの悪いトリックだが、独創的でこの発想には正直驚いた。バカトリックに近いが、現実的にも可能に感じ好印象。また、単なる猟奇的な演出に思わせておいて、トリックと密接に結び付いているところも良く出来ている。
「相当な悪魔」・・・人間関係が引き起こすドラマさえもトリックに転用してしまう邪悪なトリックが見事。

No.7 7点 生存者、一名- 歌野晶午 2018/12/13 14:50
ミステリの本を読み始めて、初めて一気読みを経験した作品。文庫本で161ページとコンパクトだったという事もあるが、それ以上にシチュエーションに魅力があり、ページを捲る手が止まらなかった。
無人島で生き延びるためのサバイバル生活、食料をめぐり仲間同士が疑心暗鬼になっていく中、次から次へと殺人事件が起き、緊迫感もたっぷり。
無人島で連続殺人事件が起こるというクローズドサークルの定番といえるが、一筋縄ではいかないし、ラストにはどんでん返しが待っている。
タイトルの「生存者、一名」とは誰なのか?真相は衝撃度が高い。このページ数だからこその切れ味といえる。

No.6 5点 ディレクターズ・カット- 歌野晶午 2018/01/06 01:20
殺人鬼をテレビのやらせディレクターが追跡する物語。
物語に大きな仕掛けがあり、終盤で驚くことになるのだが、それ以上に面白いのはテレビとネットの関係でしょう。すでに終了しているコンテンツとしてテレビを見ているネット信奉者に対し、巨大なテレビがあるからこそネットが光っているのであり、テレビがなかったらネットの影響など大したことがないことを訴える。
犯人との対話や駆け引きをリアルタイムで中継しようとするテレビマンの独善的苦闘の一部始終が、単にトリッキーな小説としてではなく、社会派ミステリとしての広がりをもつ。テレビに対する大衆の肥大化した欲望と、それにこたえるべくいたずらに刺激を追求するテレビマンの姿が強烈な印象を残す。

No.5 6点 さらわれたい女- 歌野晶午 2017/10/26 01:33
便利屋の主人公は、夫の愛を確かめるためだと狂言誘拐を依頼され、思わぬ方向に巻き込まれていくストーリー。犯人と便利屋の駆け引きには、惹きつけらるし二転三転する展開で飽きさせない。またリーダビリティーが高くスラスラ読める。伝言ダイヤル・ダイヤルQ2・転送サービス・自動車電話など当時としては最新の通信手段の小物の使い方も上手い。
ただ、犯人の計画のある部分があまりにも杜撰な点と、結末が予測出来てしまう点が残念。

No.4 5点 死体を買う男- 歌野晶午 2017/09/04 01:15
松の木で首を吊って自殺している人物を発見するが自殺に疑問を抱いていた江戸川乱歩と萩原朔太郎が真相を追及していくという探偵小説「白骨鬼」の内容が現実の世界の事件に繋がっていくという構成
乱歩風の文体で描かれ江戸川乱歩・萩原朔太郎の推理合戦は楽しませてくれたがミステリとしての驚きは残念ながら小さい

No.3 5点 放浪探偵と七つの殺人- 歌野晶午 2016/12/14 01:09
七編からなる短編集で問題編と解決編に分かれており読者への挑戦形式で推理する楽しさが味わえる
倒叙・叙述に犯人当てとバラエティに富んだ作品が楽しめる
また正統派パズラーでフェアに徹している点は好感が持てる
ただ探偵役の飄々としているというか斜に構えているという感じがどうも好きになれないし佳作と駄作の差が激しい印象

No.2 6点 密室殺人ゲーム王手飛車取り- 歌野晶午 2016/06/05 11:09
ネット上で殺人推理ゲームを出題し合っている
出題者は殺人事件を実際に行った上で問題を出している
この設定自体は面白いと思う
解答者は新聞で情報を得たり実際に現場に行ってみたりして
答えを導き出していく
仮想空間でのやり取りと現実社会が入り乱れた作品
トリック自体は楽しめるが誰一人として警察に疑われることなく
殺人が繰り返される不自然さが難点
出来れば誰か一人ぐらい警察に追われる展開になれば面白みが増したと思う

No.1 5点 葉桜の季節に君を想うということ- 歌野晶午 2016/01/13 01:34
どんでん返しミステリで有名な作品で読んでみました
確かに騙された感はありました
しかし物語自体に面白味は感じませんでした

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パメルさん
ひとこと
7点以上をつけた作品は、ほとんど差はありません。再読すればガラリと順位が変わるかもしれません。
好きな作家
岡嶋二人 東野圭吾 
採点傾向
平均点: 6.14点   採点数: 571件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(30)
岡嶋二人(20)
有栖川有栖(19)
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米澤穂信(16)
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