皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
風桜青紫さん |
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平均点: 5.62点 | 書評数: 290件 |
No.16 | 6点 | まほろ市の殺人 秋- 麻耶雄嵩 | 2016/07/17 14:53 |
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推理小説としては平凡だが、クイズとしては一流の完成度だった。『容疑者X』や『満願』がベストセラーになる世の中なので「犯行の論理性」なんてもんは最初から気にしていない(そもそもそれじゃ麻耶が一冊も読めなん)。要するにラストシーンのギャグを笑えるか否かだろう。 |
No.15 | 6点 | さよなら神様- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 12:48 |
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神様鈴木の言葉は不可謬だから、「犯行を行ったこと」を立証するのではなく、「犯行を行えたこと」を立証する。という形式はいいんだが、それゆえ強引な推理が目立って首をかしげることも多かった。『少年探偵団と神様』はなんかは神様の存在がなきゃとても成立しない阿呆な話ではあるが、それでカタルシスが生まれるかといえばそうでもない。最初の三作品はそのような面もあってあまり楽しめなかった。
まあ、しかし、本領は『バレンタイン昔語り』だろう。『こうもり』からさらにメタを進めた結果は、「作中の人物が作中世界におけるメタ視点を持つ」というもの。語り手の他に神様という絶対的な存在があるということは、「神の視点>一人称」ではなく、「一人称>神様の視点」という世にも不気味な構造を生み出しているといえる。それをうまく利用したトリックはかなりの切れ味。 それにしても、この作品は「後味が良い」って意見がけっこう多くて驚かされる。いや、確かに主人公は神様を克服したのだろうけど、それは一種の諦めによるものだからねえ……。まあ、神様は絶対的なんだから、自分の意識を変えるしか解決策はないんだろうけど。だって、(はぁと)じゃないですか。 |
No.14 | 6点 | 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 12:05 |
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麻耶雄嵩のこれまでの水準からいえばやや弱いのは確かなんだが、犯人当てパズラーものとしてはどれも悪くない出来です。愛香のダミー推理も毎度そこそこいい感じなので、それがどう崩されるか、というところも楽しませてもらいました。といっても一番面白く感じたのは『弊もとりあえず』だから、麻耶雄嵩の本領はやはりこっち系かなという感じ。しかし今回は御前もイキイキ動いていてそこまで鼻につかないし、愛香も健気で可愛らしいし、依子さんみたい脇役もなんかいい味出してるので、まあ、読む分には前作より面白かったです。しかし『なほあまりある』はしっかり締めてくれて、妙にホッとしました。「貴族なんていなければよかったのに。私はすべてを忘れたかった」みたいな展開にならなくて。 |
No.13 | 7点 | メルカトルかく語りき- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 11:29 |
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『翼ある闇』、『夏と冬の奏鳴曲』、『隻眼の少女』の行き着く先は「推理できないことを推理する」になるわけです。この趣向は『死人を起こす』や『九州旅行』でもおぼろ気にその影が見えてくるんだが、『答えのない絵本』に至って逃げようなく突きつけられます。カタルシスがとりあげられることによってカタルシスが生まれ、不思議な痛快さがある一方、拒否感も生じる、なんとも不気味な読後感。メルカトルすら無意識のうちに「推理できないことを推理する」ことになる『収束』、推理を導くため登場人物がそれぞれの推理の核であるはずの「視点」を排除してしまわなくてはいけなくなる『密室荘』。ほぼ仕掛けだけで話が成立してしまっていると言っていい、とんでもない短編集。 |
No.12 | 7点 | 貴族探偵- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 10:49 |
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もともと麻耶雄嵩のパズラーものは嫌いではないし、どの作品も本格ミステリとして一定水準以上なので楽しめた。しかし、なんといっても『こうもり』のインパクトが圧倒的。この仕組みは不親切だという意見も多いが、叙述トリックにメタな要素を重ねていけば、これは間違えなく行き着く先のひとつだろう。さて、ここまでやってしまった次にはどんな仕掛けに行き着くんだろうか……。 |
No.11 | 6点 | 隻眼の少女- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 09:56 |
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なんで麻耶ワールドの女の子はすぐに妊娠してしまうんだろう(笑)。しかしまあ、この作品の気味が悪いところは、萌えキャラのセックスでも、語り手のあっさりした自殺志願でもなく、いつまでたっても真相に辿り着けないところ。ミステリの面白味ってのは基本的に謎解きのカタルシスを求めるものだろうに、この作品の場合、次から次へと間違った推理が飛び出してはそれが打ち消されていき、ときには悲惨な結果にも繋がるので、読んでいて安心できることがほとんどない。新しい推理が出るたびに、「本当にそれであってるの?」と新たな不安が生まれてくるという奇妙な構図が生まれてくる。『神様ゲーム』に描かれたのが絶対的なものが存在する恐怖だとすれば、『隻眼の少女』に描かれたのは絶対的なものが存在しない不安だろう。そういうわけなので、ラストシーンも果たしてハッピーエンドかどうかは大いに疑問で、最後までどこか不安が残るバッドテイストとなった。まあ、こんな作品を成立させてしまう技術は「さすが麻耶雄嵩」というところだけど、インパクトという点ではそこまででもなかったかな。みかげの種馬への罵倒は笑えたけど。 |
No.10 | 6点 | 神様ゲーム- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 09:24 |
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家族、友だち、ラビレンジャー→不確定な存在。正しいとは限らない。
神様鈴木→絶対的な存在。全て真実。 この対比がよくなされ、神様の存在感を圧倒的なものにしています。主人公の静かな絶望ぶりは、なんというか、カッサンドラ。絶対的な存在である神様はどうあがいても越えるのが不可能な壁で、その前にはただひれ伏すことしかできない。言ってしまえば、挫折だとか絶望みたいなものぎ形になったような存在。主人公の子どもらしい夢だとか可能性のようなものが摘み取られていくあり様はまさしく絶望のひとこと。どんよりとして、「神様なんて存在しなければ良かったのに」と思うことしかできないわけです。謎解きの道具として作られた存在だろうに、その謎解き部分を圧倒してしまうような存在感とキャラクター性。鈴木くん、どえらい神様だ。 |
No.9 | 6点 | 名探偵 木更津悠也- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 07:18 |
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クレイジーな作品が印象を残す麻耶雄嵩だけども、正統派の本格ミステリもなかなか面白い。幽霊の存在を絶妙に推理のフィールドに持ち込む『禁区』や、共犯の構図の妙が光る『交換殺人』。本格ミステリとしてどの短編も充実しているんだが、注目すべきはワトソン役の香月くんのノリノリぶり。木更津大好きぶりがなんともよく伝わってきます。殺人事件のどんよりとした空気のなか、香月くんがキリッとした顔のまま、「キャー! 木更津かっこいい!」なんて頭の中ではしゃいでいると思うと、なんとも笑えてきます。『時間外返却』のラストといい、こいつら人間の命をポテトチップスか何かと思ってるな……。 |
No.8 | 8点 | 螢- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 06:58 |
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設定だけ見ればなんとも地味な作品なんだが、トリックの試みについては実に強烈。一発目のメタトリックについては驚いたものの完全に初見というわけでもないのでそこまでの衝撃はなかった。しかしそれを利用した二発目のメタトリックにはさすがに「ここまでやるか!」と悲鳴をあげたくなるようなショックがやってくる。仕掛けだけで長編を支えられてしまうあたり、さすが麻耶雄嵩といったところ。実際のところ、二つ目のトリックはうまく作中に絡んでいるかは微妙なんだが、この切れ味はそれを差し引いても価値があるだろう。というわけで8点。 |
No.7 | 8点 | 鴉- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 06:39 |
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作中でメルカトルを「冥府の使者」と表現するシーンがある。いつもはこういう大袈裟な表現を「アホかい」と嫌う風桜なんだが、これについては、該当のシーンの異様ぶりも相まって妙に納得してしまった。一作目の『翼ある闇』で無惨に死んでいったはずのメルカトル。この作品ではそんな予兆を見せることもなく元気に動き回ってるんだが、彼が帯びてるのは、死を予告された人間の間抜けや切なさ以上に、なんだか、どこかが矛盾しているような気味の悪さなのだ。頑張って作ったジェンガのタワーを空手チョップで粉々にされるようなラストシーンだが、それを実行しても納得できるのは、悪意をもった個人ではなく、超常現象的な「冥府の使者」という存在なのかもしれない。麻耶雄嵩の長編ではこれがベスト。 |
No.6 | 6点 | 木製の王子- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 06:21 |
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相変わらずハチャメチャな設定なんだが、そこからさらにハチャメチャな事件の様相が浮かび上がるときた。やはり麻耶雄嵩、破天荒なアイデアに関しては同時代の作家でもずば抜けている。烏有さんは『痾』で絶望のどん底に突き落とされたかと思いきや、なんか地味に幸せそうにも見える。よくよく考えればかわいい妻やさわやかな編集長がそばにいるんだから案ずることはないのかもしれない。探偵と猫が消え去ったところで確かに烏有さんには大して関係のないことだ。まあ、彼には幸せになってほしい。 |
No.5 | 8点 | メルカトルと美袋のための殺人- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 06:02 |
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一作目の『遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる』がとんでもない破壊力。だってこのトリック、いろいろとタブーじゃないの。それらしい伏線はかなり露骨にあるんだが、それを無理矢理に納得させてしまうメルカトルの推理と、そこからくる世界観の崩壊がどえらい。メルカトルと美袋くんのゲスいキャラクターを確立したという点でも、ぶっちゃけ麻耶雄嵩の全作品中でこの短編がベストじゃないかと思う。メタ視点を子憎たらしく利用した『ノスタルジア』や、探偵役のキャラクター性を存分に使った『小人閑居為不善』もなかなか。作者の遊び心がなんとも面白いわけです。 |
No.4 | 3点 | あいにくの雨で- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 05:46 |
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テイストはたしかに麻耶雄嵩なんだが、若者が書きそうなせこい学園モノに収まってしまったという印象。烏兎が獅子○を蹴り殺すぐらいのインパクトが欲しかった。 |
No.3 | 6点 | 痾- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 05:40 |
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ストーリーの骨格だけ抜き出せば微妙なんだが、バナナの皮から、烏有さんキック、調子こく木更津、桐璃と寝る、わぴ子連呼、推理クイズ本とネタ全開で笑わしてもらいました。一方でダークサイドに落ちたりライトサイドに戻ったり忙しい烏有さんや、人形遊びに飽きた子どもが世界を破滅させるかのごときやっつけな後味な悪さがたまらん。この手作り感と隣り合わせの残虐さ、一番麻耶雄嵩のテイストが出ている作品じゃないかと思う。 |
No.2 | 8点 | 夏と冬の奏鳴曲- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 05:27 |
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長ったらしい作品なんだが、メルカトル上陸を待ちわびながら読み進める。烏有さんも桐璃もなんかずれてる気がするんけども作風だと思って流す。若いオタク男子はきっとこういうのが好きなんだろう。和音ランドは「いかにも」なうさんくささだが作風だと思って流す。若いオタク男子はきっとこういうのが好きなんだろう。神父の蘊蓄は長ったらしいが別に嫌いな話じゃないので目を通す。若いオタク男子はやっぱりこういうのが好きなんだなあ。ヌルと和音が登場。気楽に読んでたので一気に凍りつく。いったい何なのだ……。いったい何なのだ……。いったい何なのだ……。いったい何なのだ……。いったい何なのだ……。いったい何なのだ……。いったい何なのだ……。いったい何なのだ……。いったい何なのだ? |
No.1 | 8点 | 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件- 麻耶雄嵩 | 2015/12/29 05:15 |
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文章は読みづらいし、蘊蓄はうそっぱちだし、登場人物はツッコミどころ満載だし、なんかもう色々とひどいんだが、内容はさらにクレイジーです。メルカトル登場から、木更津との推理合戦、メタすぎる見立て、例のとんでもすぎる推理、最後の大げさなオチまで、もう、なんか加速しすぎ。正直いって笑いが止まりません。大爆笑。大学生がふざけて書いたみたいな手作り感満載な作品……が、ここまでインフレしてしまえばもはや名作。読み返せば色々と粗が多すぎるんだが、それでも初読のとてつもないインパクトは色褪せない。まあ8点です。 |